剰さえ(読み)あまっさえ

精選版 日本国語大辞典 「剰さえ」の意味・読み・例文・類語

あまっ‐さえ ‥さへ【剰さえ】

〘副〙 (「あまりさえ」の変化した語。古くは「に」を伴うこともある。現代では「あまつさえ」)
物事や状況がそれだけでおさまらないで、さらによけいに加わる意を表わす。そればかりか余分に。その上。おまけに。あまりさえ。あまさえ。
太平記(14C後)四「越王を楼より出し奉るのみにあらず、剰(アマッサヘ)越の国を返し与へて」
仮名草子伊曾保物語(1639頃)下「つゐに飽き足る事なふて、あまっさへに宝をおとして其身をもほろぼすもの也」
② (事態の異状なことなどに直面して) 驚いたことに。あろうことか。あまさえ。
※土井本周易抄(1477)一「剰(アマッ)さへ負る耳(のみ)ならず、尸(し)をのせてかへらうぞ」
※幼学読本(1887)〈西邨貞〉二「しかるに彼れ等は少しも我れにしたしまずして、かへって我れを嫌ひ、あまつさへ、ややもすれば我れをころさんとす」
[語誌]「剰」は唐の時代に行なわれた助字で、わが国では「あまりさへ」と訓読された。中世まで一般に「あまさへ」と表記されるが、これは「あまっさへ」の促音無表記。「落窪」には落窪の君の父の言葉に「あまさへ」の語が見えるところから、「あまっさへ」は平安時代にはすでに男子の日常語になっていたと考えられる。近世には「あまっさへ」と表記されるようになり、近代以降は文字に引かれて「あまつさへ」となった。

あま‐さえ ‥さへ【剰さえ】

〘副〙 (「あまっさえ」の促音の無表記)
※蘇悉地羯羅経延喜九年点(909)「余(アマサヘ)諸の苦を忍びむ」
※仮名草子・尤双紙(1632)上「古来不双の美男公家あり。あまさへ笛の上手たり」
平家(13C前)一一「件の文の事をの給ひいだしたりければ、判官あまさへ封をもとかず、いそぎ時忠卿のもとへおくられけり」

あまり‐さえ ‥さへ【剰さえ】

[1] 〘連語〙 (名詞「あまり(余)」に助詞「さえ」の付いたもの) 数量がある基準を超えることを強めた言葉。
※大唐西域記長寛元年点(1163)五「精舎に宝の函アリ。中に仏身有り。長さ余(アマリ)サヘ寸半」
[2] 〘副〙 ((一)が一語化した語) 物事がそれだけでおさまらずに、さらによけいに加わる意を表わす。そればかりか余分に。そのうえ。おまけに。あまっさえ。あまつさえ。あまさえ。
方丈記(1212)「明くる年は立ち直るべきかと思ふほどに、あまりさへ疫癘(えきれい)うちそひて」

あまつ‐さえ ‥さへ【剰さえ】

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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