作家,ジャーナリスト,学者らの知的労働生産物である著作物に対して,使用者である出版者が支払う報酬。著作権使用料の一種。著作は通常,原稿用紙に執筆されるので,原稿料と呼ばれ,多くの場合,400字詰原稿用紙1枚当りの報酬を単価とする。原稿料は新聞・雑誌などの著作物1回の使用料で,書籍の場合は大多数が印税方式をとる。欧米では,印税は日本とほぼ同じであるが,原稿料の単位は語数による。日本で原稿料制度が普及したのは,出版が企業化された1910年代以降である。江戸時代の山東京伝や曲亭馬琴らが稿料をもらった記録はあるが,1編いくらで原稿料とはいえなかった。文明開化の時代に福沢諭吉は非合理な印税のため出版屋を嫌い,みずから出版者となり《学問のすゝめ》などを出版,その利益と印税で慶応大学を創立した。1900年代になると森鷗外や夏目漱石らの実力ある作家は,出版者と交渉して,原稿料・印税の慣行をつくった。第1次大戦以後,新聞・出版はマスコミ化し,菊池寛や芥川竜之介らは作家として生活を確立した。26年ころから不況にあえぐ出版界で円本合戦が起こり,作家の成金時代という現象が起こった。日本の出版社は大手になるほど商業主義の傾向が強く,出版企業が発展するとともに,少数執筆者の原稿料は高額となり,最高と最低との差が大きくなる。高額原稿料の作家を時代順にみると菊池寛,吉川英治,松本清張らが代表的である。
→印税
執筆者:松浦 総三
近世で原稿執筆に潤筆料として本屋が謝礼金を支払った例で,資料上少し明瞭に判明するのは幕末の曲亭馬琴である。読本では《南総里見八犬伝》が1冊につき金4両であった。これは流行作家の例で,一般には1冊1両程度,5冊物で5両,原稿枚数で400字詰め200枚余りである。合巻では6冊物1編の稿料は馬琴で5両から10両,一般には5両程度であった。柳亭種彦はベストセラーの《偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)》でかなりの稿料を得たようである。近世前期では西鶴が浮世草子《好色浮世躍》6冊の執筆に前借銀300匁を得たと《元禄大平記》に見える。これが実説によるもので,かつ稿料とすれば,浮世草子5,6冊物で稿料おおよそ5両ということになる。
執筆者:宗政 五十緒
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
書籍、雑誌、新聞、放送などに掲載もしくは使用された原稿に対して支払われる著作権使用料としての報酬。一定額を1回限りで全額支払う点で印税と異なる。通常400字詰め原稿用紙1枚を単位として価格を定めるが、コラム、詩など著作物の全編を単位とすることもある。欧米では語数計算される場合が多い。支払いは、原稿受渡し時から発行後1~2か月以内が普通。価格の基準は、発行元の事情、発表媒体の性格、著作者の地位・有名度などにより異なり、一定しない。日本で最初に原稿料らしきものをもらったのは、江戸時代の洒落本(しゃれぼん)作家山東京伝(さんとうきょうでん)であるといわれる。現今の原稿料方式が定着したのは、著作権の職業的自覚と、新聞社、出版社の近代的経営が成立した大正時代に入ってからである。所得税法によって、原稿料から源泉所得税が徴収されることになっており、企業が、著作者に支払う額から差し引いて税務署に納める。
著作以外に、翻訳料、作曲料、談話掲載料なども原稿料の亜種である。
[鈴木 均・田村紀雄]
『松浦総三編著『原稿料の研究――作家・ジャーナリストの経済学』(1978・日本ジャーナリスト専門学院出版部)』
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