屈折率の異なる二つの媒質の境界面に光、電波、音波などの波動が入射して第2媒質に進むとき、進行方向が変わる現象。 に示すように、境界面の法線HOH′と入射波の進行方向AOとのなす角θ1を入射角、また屈折波の進行方向OA′とのなす角θ2を屈折角とよび、θ1とθ2との間にはスネルの法則(屈折の法則)sinθ1/sinθ2=n2/n1(n2、n1はそれぞれ第2、第1媒質の屈折率)が成立する。
ニュートンは光を粒子と考えるモデルで屈折現象の説明を行った。すなわちn2>n1のとき、|v2|>|v1|(|v2|、|v1|はそれぞれ第2、第1媒質中の光の伝播(でんぱ)速度の大きさ)で、速度ベクトルv1、v2の境界面内の分速度の大きさが等しくなる、すなわちsinθ1/sinθ2=|v2|/|v1|の関係が成立するとした。この取扱いは、のちに、屈折率の高い媒質を伝わる光ほどその伝播速度が小さいことが実験的に確かめられ、誤りが明白になった。ホイヘンスは光を波動と考え、二次波の概念を使って光の反射、屈折を明確に説明した。なお現在では、光、音波などの波動のほかに電子のような粒子の屈折に対してもスネルの法則が成立することが知られており、この場合、先に述べた速度ベクトルv1、v2のかわりに速度に逆比例、したがって屈折率に比例する波数ベクトルとよばれる量k1、k2を用いsinθ1/sinθ2=|k2|/|k1|の形で共通的に表示される。
境界面が平面でない場合も、波動が入射する各点でスネルの法則が成立するとすれば、レンズなどの球面による屈折を取り扱うことができる。物質の屈折率は普通、波長の増大とともに減少するので、プリズムに白色光を入射すると、境界面二つを屈折してプリズム外へ出る光は波長の短い成分ほど大きく向きを変え、白色光は分散されてスペクトルに分かれる。 で波動の進行方向を逆にとり、屈折率の高い媒質から低い媒質へ伝播する場合を考えると、スネルの法則によって屈折角(この場合θ1)のほうが入射角(θ2)より大きくなる。
ここで入射角をしだいに大きくしていくと屈折角は90度になり、さらにこれ以上の入射角では屈折波が存在せず、入射波は境界面で100%反射されるようになる。この現象は全反射とよばれ、屈折角が90度のときの入射角を全反射の臨界角という。電波、光、X線などの電磁波は、音波と異なり波の振動方向が伝播方向に垂直な横波である。そのため、 の紙面内で振動する波と紙面に垂直方向に振動する波とではようすが異なり、屈折波の振幅の大きさに相違が生じる。自然光を入射した場合、屈折波は部分的に偏光する。これまでは均質な媒質二つの境界面での屈折を考えたが、屈折率が連続的に変化するような媒質中を波動が伝播する場合は、波動の進行方向も連続的に変化することになる。
また屈折率に異方性をもつ結晶のような媒質に光が入射する場合は、一般に屈折光は進行方向が異なる二つの成分に分かれ、複屈折とよばれる現象を示す。吸収を伴う媒質に光が入射する場合は、屈折率として、吸収も考慮に入れた複素数で表される複素屈折率とよばれる量を用いれば、形式的にはスネルの法則がそのまま満足される。しかしこの場合は、θ2も複素数になり、もはや屈折角の意味はもたない。
[田中俊一]
二つの媒質の境界面が波長に比べて滑らかな場合,一方の媒質からこの境界面へ入射した波は,その一部が反射され,残りが他方の媒質へ透過する。このとき,透過波の進行方向が入射波の進行方向からかたよる現象を屈折という。光,音,あるいは電波などすべての波動について見られる現象である。
図1のように媒質Ⅰから境界面へ波面A A′A″をもった波が入射した場合を考える。境界面上の点BB′B″などは入射波によって振動し,媒質Ⅱへ伝わる波の波源となる。ただし,波面AA′A″によってBB′B″が波源となる時間を考えると,波源B′およびB″は,Bと比べて波面がそれぞれ媒質ⅠのA′B′間およびA″B″間を伝わる時間だけ遅れる。媒質Ⅱでそれぞれの波源から出る球面波は媒質Ⅱ内での波の速さで広がっていく。透過波はこの球面波の重ね合せであり,波の速さが媒質ⅠとⅡとで異なれば,合成波の波面CC′C″は入射波の波面とは異なる傾斜となる。波の進行方向は波面の法線方向であるから,このようにして波が境界面で屈折する。
波は,その波長より十分大きく均質で等方的な媒質内では直進するから,進行方向を示す線で代表することができる。光の場合はこれを光線という。境界では,境界面の法線と入射波の進行方向とが作る平面を入射面とするとき,透過波は入射波とは境界の反対側にあってその進行方向は入射面の中にある。境界面の法線に対する入射波の進行方向のなす角を入射角,透過波の進行方向のなす角を屈折角といい,それぞれをθi,θrとしたとき,これらの角の間には,sinθi/sinθr=nⅠⅡという関係(スネルの法則)が成り立つ(図2)。ここでnⅠⅡを相対屈折率relative index of refractionと呼ぶ。光の場合は,入射側の媒質Ⅰが真空である場合の相対屈折率をとくに絶対屈折率absolute refractive index,あるいは単に屈折率refractive indexと呼び,通常nで表す。これは真空中の光速度cと物質中の光の速さvとの比n=c/vであり,相対屈折率は,入射側の媒質Ⅰの屈折率nIに対する透過側の媒質Ⅱの屈折率nⅡの比となる。すなわち,nⅠⅡ=nⅡ/nIである。屈折率は光の波長の関数(すなわち波長によって異なる)であり,このことを屈折率に分散があるという。方解石など異方性のある物質の中では,偏光方向によって速さの異なる2種の光に分かれる。この場合,それぞれの速さに対する屈折率が違うので,一定の入射角で入射した光はこの物質の中で二つの異なる方向に伝わることになる。この現象を複屈折という。
レンズは光学ガラスの表面での光の屈折を利用したものであり,光を集める目的や,画像の投影などに広く用いられている。またプリズムなど屈折率の分散を利用したものには,光をその波長によって分ける装置,すなわち分光器などがある。雨滴の内面での全反射と,雨滴の表面での光の屈折に分散があることからにじが生ずることもよく知られている。
執筆者:三須 明
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…言語の類型論的分類の一つである,形態論的観点からの分類に基づくタイプの一つ。屈折とは,動詞や名詞などが文中での機能にしたがって異なるすがたを見せる,いわゆる活用や曲用のことである。したがって,この点からすれば,膠着語も屈折を行うわけであり,逆に屈折語においても語構造が語根と接辞からなるという点では膠着語と同じである。…
…ある品詞に属する単語が,意味のちがいを伴って(あるいは,伴わずに)そのあらわれる位置によってその語形の一部を,その品詞に特有の形で交替させることがある。これを〈屈折〉(〈活用〉〈曲用〉などという術語も用いられる)と呼ぶ。屈折には,語形のある部分を1個所,かつ,それを全体として交替させるというものと,ある部分に交替しうる複数の要素が並んでいるもの,2個所以上で交替を示すものなどがある。…
…また,一つの範疇の中にいくつかの下位範疇が認められる場合もよくある。ある範疇に属する単語は,その範疇特有の屈折(つまり,音形の一部がそのあらわれる位置によって交替する現象)を示すことがあるので,各範疇ごとの屈折の状態と性格を解明する必要がある。このように,単語に関係する研究分野は,従来,〈形態論〉と呼ばれてきた。…
…日本語では,修飾部分がいくら長くても,必ず被修飾語に前置され,また英語などのような関係代名詞がないから,聴き取りながら理解するという面からいうとむつかしいといわれる。主語・述語
[述語の活用]
語がその語彙的同一性を保ちつつ,文中での使い方によって規則的に形を変えることを活用(屈折)という。世界の言語の中には,活用という現象のあるものとないものがあるが,日本語はある方に属する。…
…
【品詞の諸性質】
(1)多くの言語においては,ある単語がその現れる個所によって,意味の,ある種の変異を伴いつつ,あるいは,伴わずにその語形(の一部)を交替させることがある。いわゆる屈折(活用,曲用)であるが,二つの屈折を示す単語において,その屈折の性格(屈折によって変異する部分の音形のことではなく,屈折全体の性格)が一致するならば同一品詞に属する(あるいは,少なくとも,近い関係にある二つの品詞に属する)といえるし,その屈折の性格の異なる二つの単語あるいは屈折を示す単語と示さない単語は別の品詞(あるいは,少なくとも異なる下位範疇(後述))に属するといえる。なぜならば,これこれこういうものを表すからといってこういう性格の屈折を有しなければならない理由などなく,したがって,屈折の性格(有無を含む)の共通性や差異は,表すものの性格上の共通性や差異によっては説明しきれるわけのものではないから,その言語の品詞分類と密接な関係を有するといえるのである。…
…オランダのスネルWillebrord Snell van Roijen(1591‐1629)によって確立された光の屈折についての法則。二つの等方性媒質の境界面で,面の大きさが光の波長より十分に広い場合に適用される。…
…これらを含め,一般に波長1mmから1nmくらいまでの電磁波を広い意味で光と呼んでいる。
〔光の科学〕
光は干渉,回折やドップラー効果など,波動として特徴的な現象を示し,また,その波長より広い空間で直進し,異なる媒質との境界で一部が反射され,残りは境界で屈折して透過する。光は,進行方向に垂直な面内で,相互に直交した電場と磁場とが同じ位相で振動する横波である。…
※「屈折」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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