(読み)さいわい

精選版 日本国語大辞典 「幸」の意味・読み・例文・類語

さい‐わい ‥はひ【幸】

(「さきわい」の変化した語)
[1] 〘名〙
① (形動) 神仏など他が与えてくれたと考えられる、自分にとって非常に望ましく、またしあわせに感じられる状態。運のよいこと。吉事にあうこと。幸運であること。また、そのさま。幸福。しあわせ。
※伊勢物語(10C前)一〇七「雨の降りぬべきになん見わづらひ侍る。身さいはひあらば、この雨は降らじ」
源氏(1001‐14頃)玉鬘「この人の、かくねむごろに思ひきこえ給へるこそ、今は御さいはゐなれ」
② (形動) ある事態、状況が、ある人にとってうまく利用できるようであること。また、そのさま。
太平記(14C後)二「番する郎等共も、皆遠侍に臥たりければ、今こそ待処の幸(サイハイ)よと思ひて」
③ 料理で、コイなどの尾ひれの部分の名。
[2] 〘副〙
① 運よく。折よく。さいわいにして。好機として。
(イ) 「に」「にも」を伴う場合。
※竹取(9C末‐10C初)「さいはひに神の助けあらば」
※永日小品(1909)〈夏目漱石火鉢「泣く子は幸(サイハ)ひに寝たらしい」
(ロ) 「と」を伴う場合。
浄瑠璃傾城反魂香(1708頃)中「幸と和国さまへ、つしまの客から参った朝鮮人参
(ハ) 単独で用いる場合。
※虎明本狂言・鍋八撥(室町末‐近世初)「さいわひもちあわせてござる程に」
多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前「幸ひ天気は快(よ)し」
② (「に」を伴って) そうしてくだされば私はしあわせだの意で、人に頼む気持を表わす。どうぞ。何とぞ。さいわいの事。
小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉下「読む人幸(サイハヒ)に論の到らざるを咎めたまふな」
[3] 神奈川県川崎市の行政区の一つ。市東部の住宅・工業地域。多摩川西岸にある。かつては多摩川ナシの産地。昭和四七年(一九七二)成立。

さち【幸】

〘名〙
① 獲物をとるための道具。また、その道具のもつ霊力。
古事記(712)上「火遠理命、其の兄火照命に、各佐知(サチ)を相易へて用ゐむと謂ひて」
② 漁や狩りの獲物の多いこと。また、その獲物。
※書紀(720)神代下(鴨脚本訓)「各、其の利(サチ)を得ず」
③ (形動) 都合のよいこと。さいわいであること。また、そのさま。しあわせ。幸福。
続日本紀‐天応元年(781)四月一五日・宣命「凡人の子の福(さち)を蒙らまく欲りする事は、おやのためにとなも聞しめす」
※名語記(1275)六「人の身に、さち・さいわいといへるさち」
[語誌]元来①や②の意味で用いられ、情態性を表わす「さき(幸)」とは、関係ない語であった。しかし、「さち」を得られることが「さき」という情態につながることと、音声学上、第二音節の無声子音の調音点のわずかな違いをのぞけば、ほぼ同じ発音であることなどから、「さち」に③の意味が与えられるようになったと推定される。上代の文献には、狩りや漁に関係しない、純然たる③の意味の確例は見られない。

さい‐わ・う ‥はふ【幸】

(「さきわう」の変化した語)
[1] 〘自ハ四〙 ゆたかに栄える。幸福に栄える。中世では、女性が男性の愛情を受けて、幸福な結婚をしていることにいう場合が多い。
※大唐西域記巻十二平安中期点(950頃)「神霊の祐(サイハフ)所なり」
※高野本平家(13C前)一「其外御娘八人おはしき。皆とりどりに幸(サイハイ)給へり」
[2] 〘他ハ下二〙 幸運を与える。幸福をもたらす。
※書紀(720)仁徳即位前(前田本訓)「故れ、預(あらかし)め、明徳(よきひと)を選びて、玉(きみ)を立てて弐(まうけきみ)と為(し)たまへり。祚(サイハヘ)たまふに嗣(みつき)を以てし、授けたまふに、民を以てしたまふ」

さき‐く【幸】

〘副〙 さいわいに。無事に。変わりなく。つつがなく。旅立つ人の無事を祈っていう例が多い。
※書紀(720)神代下(兼方本訓)「爾(いまし)皇孫、就(い)てまして治(しら)せしむべし。行矣(サキク)ませ、宝祚之隆(あまのひつきのさかえまさむこと)、当に天(あめ)(つち)と窮り無けむ」
万葉(8C後)五・八九四「大伴御津浜びに 直(ただ)泊てに 御船(みふね)は泊てむ 恙(つつみ)無く 佐伎久(サキク)いまして 早帰りませ」

さき‐わ・う ‥はふ【幸】

[1] 〘自ハ四〙 幸運にあう。豊かに栄える。幸福になる。さちわう。
※万葉(8C後)五・八九四「言霊(ことだま)の 佐吉播布(サキハフ)国と 語り継ぎ 言ひ継がひけり」
[2] 〘他ハ下二〙 幸運を与える。栄えさせる。幸いがあるようにする。さちわう。
※続日本紀‐和銅元年(708)正月一一日・宣命「此の物は天に坐(ま)す神、地(くに)に坐す祇(かみ)の相うづなひ奉(まつ)り、福波倍(さきハヘ)奉る事に依りて」

こう‐・す カウ‥【幸】

[1] 〘自サ変〙 天皇が外出する。行幸する。
※続日本紀‐文武二年(698)二月丙申「車駕幸宇智郡
[2] 〘他サ変〙 寵愛する。かわいがる。対象は女性の場合が多い。
※続日本紀‐天平宝字二年(758)一二月丙午「毀従四位下矢代女王位記、以先帝而改上レ志也」

こう カウ【幸】

〘名〙
① さいわい。しあわせ。幸福。
※随筆・胆大小心録(1808)一七「遇不遇、幸不幸は人より甚しきか」 〔論語‐述而〕
② 天皇、法皇、上皇の外出。みゆき。御幸(ごこう)。行幸。
※御伽草子・熊野の本地(室町時代物語集所収)(室町末)「大わうかうありて、あはれげに、御すいでんよにましまし」 〔司馬相如‐封禅文〕

さき‐わい ‥はひ【幸】

〘名〙 幸運にあうこと。さいわい。幸福。さちわい。
※仏足石歌(753頃)「佐伎波比(サキハヒ)の厚き輩(ともがら)参到(まゐた)りて正目(まさめ)に見けむ」
※万葉(8C後)七・一四一一「福(さきはひ)のいかなる人か黒髪の白くなるまで妹が声を聞く」

さけく【幸】

〘副〙 「さきく(幸)」の上代東国方言。
※万葉(8C後)二〇・四三六八「久慈川は佐気久(サケク)あり待て潮船に真梶(まかぢ)(しじ)抜き我(わ)は帰りこむ」

さく【幸】

〘副〙 「さきく(幸)」の上代東国方言。
※万葉(8C後)二〇・四三四六「父母が頭(かしら)かき撫で佐久(サク)あれていひし言葉(けとば)ぜ忘れかねつる」

さき【幸】

〘名〙 さいわい。幸福。さち。
※万葉(8C後)一八・四〇九五「大夫(ますらを)の心思ほゆ大君の御言(みこと)の佐吉(サキ)を聞けば貴み」

さち‐わ・う ‥はふ【幸】

[1] 〘自ハ四〙 =さきわう(幸)(一)
[2] 〘他ハ下二〙 =さきわう(幸)(二)

さき‐は・う ‥はふ【幸】

[1] 〘自ハ四〙 ⇒さきわう(幸)
[2] 〘他ハ下二〙 ⇒さきわう(幸)

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デジタル大辞泉 「幸」の意味・読み・例文・類語

さち【幸】

海や山でとれる食物。獲物。収穫。「海の、山の
しあわせ。幸福。さいわい。「あれと祈る」
獲物をとる道具。また、それがもつ霊力。
おのおの―を相易あひかへて用ゐむ」〈・上〉
[類語](2幸福幸せさいわ果報冥利みょうり多幸多祥たしょう万福ばんぷく至福浄福清福福福大福ハッピー

こう【幸】[漢字項目]

[音]コウ(カウ)(漢) [訓]さいわい さち しあわせ みゆき
学習漢字]3年
運がよい。さいわい。「幸運幸甚幸福多幸薄幸不幸
(「」の代用字)思いがけない幸い。「射幸心
かわいがる。気に入られる。「幸臣/寵幸ちょうこう
天子・天皇の外出。みゆき。「行幸御幸巡幸臨幸
[名のり]さい・さき・たか・たつ・とみ・とも・ひで・むら・ゆき・よし
[難読]幸先さいさき御幸みゆき

さいわい〔さいはひ〕【幸】

神奈川県川崎市の区名。区内の幸町さいわいちょう(もと御幸村みゆきむら)より命名。

さき【幸】

さいわい。幸福。さち。
「ますらをの心思ほゆ大君のみことの―を聞けば貴み」〈・四〇九五〉

こう〔カウ〕【幸】

さいわい。幸福。「か不幸か誰もいない」

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デジタル大辞泉プラス 「幸」の解説

幸(ゆき)

徳島県徳島市で保護された雑種のメス犬。2006年11月、「崖っぷち犬」として話題となったメス犬(のちのリンリン)と同時期に保護。姿形が似ていることから同犬の姉妹と言われた。

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