生憎(読み)アイニク

デジタル大辞泉 「生憎」の意味・読み・例文・類語

あい‐にく【生憎】

《「あやにく」の音変化》
[形動][文][ナリ]期待目的にそぐわないさま。都合の悪いさま。「生憎空模様」「生憎ですが、もう売り切れました」
[副]折あしく。ぐあい悪く。「彼を訪ねたが、生憎留守だった」
[類語]はしなくもゆくりなく折あしく折もあろうにはしなく思わず思わず知らずうっかり知らず知らず無意識ひょっと覚えず我知らず何気無しついついつい我にもなくうかうかうかと不覚不用意不意ふとひょっと思いがけず図らずも図らず

あや‐にく【生憎】

感動詞「あや」+形容詞「にくし」の語幹から》
[副]意に反して不都合なことが起こるさま。あいにく。
「―眼が冴えて昨夕よりは却って寝苦しかった」〈漱石それから
[形動ナリ]目の前の事柄が、予想や期待に反していて好ましくないさま。
意地が悪い。
「惜しめばや花の散るらむ―にものも言はでぞ見るべかりける」〈躬恒集
不都合だ。が悪い。
「―に睦びきこえ給へば、え忍び敢え給はず」〈栄花・衣の珠〉
予想以上に厳しい。過酷だ。
「さらに知らぬ由を申ししに、―に強ひ給ひしこと」〈・八四〉
[類語]あいにく折あしく折もあろうにはしなくはしなくもゆくりなく図らずも

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「生憎」の意味・読み・例文・類語

あや‐にく【生憎】

  1. [ 1 ] 〘 形容動詞ナリ活用 〙 気持や予想に反して、困ったこと、好ましくないことが起こるさま。また、思うようにならず、残念に思うさま。「の」を伴っても用いられる。
    1. 予期に反してまが悪いさま。おりあしく不都合だ。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
      1. [初出の実例]「出でんとするに、時雨(しぐれ)といふばかりにもあらず、あやにくにあるに、なほいでんとす」(出典蜻蛉日記(974頃)上)
    2. 予期に反して思うにまかせないさま。思いどおりにならないで困る。
      1. [初出の実例]「さらに見ではえあるまじくおぼえ給ふも、かへすがへすあやにくなる心なりや」(出典:源氏物語(1001‐14頃)宿木)
      2. 「むかしよりただあやにくの恋の道〈肖柏〉 わすられがたき世さへうらめし〈宗長〉」(出典:長享二年正月二十二日水無瀬三吟百韻(1488))
    3. 予期に反して程度のはなはだしいさま、はげしいさま。
      1. [初出の実例]「さらに知らぬよしを申ししに、あやにくにしひ給ひし」(出典:枕草子(10C終)八四)
    4. 状態ややり方が思いのほかであるさま。意地悪いさま。
      1. [初出の実例]「『さらば人にけしき見せで、この御文奉るわざし給へ』といへば『いで』とて、取りて、あやにくに、かの部屋にいきて『これあけん、これあけん、いかでいかで』といへば」(出典:落窪物語(10C後)一)
  2. [ 2 ] 〘 副詞 〙 ( 「と」を伴っても用いる ) 具合の悪いことに。おりあしく。あいにく。〔日葡辞書(1603‐04)〕
    1. [初出の実例]「あやにく、しょぼしょぼ雨がふり出したはなさけない」(出典:滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)三)

生憎の語誌

( 1 )感動詞「あや」と形容詞「にくし」の語幹から成るとするのが通説であるが、副詞「あやに」との関係を考えるべきだとする説もある。
( 2 )「新撰字鏡」に「憎也」とあるように、「にく」が「にくし(憎し)」に通ずるという理解は平安時代にあるが、「生憎」の表記は「盧照鄰‐長安古意詩」に見られるから漢籍にもとづくものか。
( 3 )「観智院本名義抄」では「咄」(意外な事態に驚いて発する声)の字が当てられているところから、一語の感動詞のように用いられ、やがて形容動詞に進んだとも見られる。
( 4 )近世末から明治にかけ「あいにく」が併用されるようになり、大正以後は「あいにく」が一般化する。


あい‐にく【生憎】

  1. ( 「あやにく」の変化した語 )
  2. [ 1 ] 〘 形容動詞ナリ活用 〙 予想と違ったり、目的と合わなかったりして、都合の悪いさま。
    1. [初出の実例]「驕子はあいにくの子のやうにせらるるぞ」(出典:漢書列伝竺桃抄(1458‐60)張馮汲鄭第二〇)
    2. 「生憎(アイニク)な天気なので」(出典:彼岸過迄(1912)〈夏目漱石〉須永の話)
  3. [ 2 ] 〘 副詞 〙 ( 「と」を伴っても用いる ) 具合の悪いことに。おりあしく。あやにく。
    1. [初出の実例]「ひとつうたがわしくおもひなんすと、あいにくいふ程する程の事がうたがわしくおもひひすは」(出典:洒落本・二筋道後篇廓の癖(1799)一)
    2. 「生憎(アイニク)故障も無かったと見えて」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二)

生憎の語誌

( 1 )「あやにく」の音変化した語であろうが、副詞「あやに」が語の根幹であるとする説もある。近代には副詞の用法が多い。
( 2 )[ 一 ]に挙げたように、古く抄物にも使われており、ヘボンの「和英語林集成(初版)」には口語の旨の注記があり、話しことばで多用している例の多いことなどから、口頭語として伝えられてきたと考えられる。→「あやにく(生憎)」の語誌

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普及版 字通 「生憎」の読み・字形・画数・意味

【生憎】せいそう

ひとえに恨む。唐・盧照鄰〔長安古意〕詩 生す、帳額の鸞(こらん)を(しう)するを 好取す、門の雙燕(さうえん)を帖(でふ)するを

字通「生」の項目を見る

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