[1] 〘語素〙 まだ十分でないさま、熟していないさまを表わす。「なましい」「なまなか」「なまなま」「なまめく」などの形で用いる。
[2] 〘接頭〙
① 動詞、
形容詞、
形容動詞などの
用言の上に付いて、すこしばかり、
中途はんぱに、の意を添える。「なま隠す」「なまあくがる」「なま心苦し」「なまやさしい」「なまわろし」「なま
若い」「なまあた
たか」など。
※宇津保(970‐999頃)内侍督「御ぐしのなましめりたる、いそぎほし給ふ」
② 人を表わす
名詞の上に付けて、その人物が形の上ではその名詞の表わす
地位とか
身分を備えていても、
実体はそれに及ばない未熟な状態であることを示す。
後世には、他人を軽蔑するような意味の名詞に付けて、その
気持を強めるような用い方もする。「なま女房」「なま受領」「なま学生」など。
③ 動詞の
連用形の変化した名詞の上に付けて、その名詞の表わす動作が中途はんぱである意を表わす。「なま煮え」「なま焼き」「なま聞き」「なまかじり」など。
※玉塵抄(1563)三二「ありさうながなま見にしたか」
④ ふつうの名詞の上に付けて、その現象や状態が、中途はんぱでいい加減なものであることを表わす。「なま兵法」「なま意見」など。
※
今昔(1120頃か)二八「生夕暮方に房に返て、人にも不見せずして、皆鍋に切入れつ」
[3] 〘副〙 未熟で中途はんぱである意を表わす。中途はんぱに。なまじっか。すこしばかり。
※
源氏(1001‐14頃)蓬生「御調度どもをいと古体になれたるが、昔様にてうるは
しきを、なま、物のゆゑ知らんと思へる人、さる物要
(えう)じて」
[4] 〘名〙
① (形動) 植物や
動物が生きて
生活していた時と同じであること。それらの加工していない状態をいう。また、そのもの。成熟していない状態にもいう。
※古活字本荘子抄(1620頃)五「なまなる物熟したる物が
目前にあまるほどあり」
※
滑稽本・八笑人(1820‐49)二「
真木(まき)が生
(ナマ)で、一と処さへいぶって計ゐて、やうやう焚
(たい)たものを」
② (形動) 手を加えない自然のままの状態、
もとのままの状態などを比喩的にいう。名詞の上に付いて、接頭語的にも用いる。「なま放送」「なま
原稿」
※
歌舞伎・水天宮利生深川(筆売幸兵衛)(1885)
序幕「『今大恩寺前へ行く土手ぷちで、丁度いい野郎が来たから
刃物でおどして引っぱいだのよ』『そいつをお生で着て居るとは、ひどい肚胸
(どきょう)になったなあ』」
※竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生の家「生まな身を以てした己れの純粋体験から」
③ (形動) 技術や経験・物事の程度などが不十分でいい加減であるさまをいう。
※咄本・軽口もらいゑくぼ(1716‐36頃)四「此男もなまなる口上を云ふて」
※草枕(1906)〈夏目漱石〉五「石鹸(しゃぼん)なんぞを、つけて、剃るなあ、腕が生なんだが」
※浄瑠璃・心中二枚絵草紙(1706頃)下「お嶋は酒に酔くづおれ、ひょろりひょろりとなまになり」
※歌舞伎・与話情浮名横櫛(切られ与三)(1853)二幕「やい与三、生(ナマ)言ふなえ」
※黒雨集(1923)〈田中貢太郎〉蛾「『野菜サラダが出来るかね』『出来ますわ』『ぢゃ、それと、ナマを貰はうか』」
※放浪時代(1928)〈龍胆寺雄〉二「生麦酒(ナマ)を三つ註文した」
⑦ (「現なま」の意) 現金。現金を「生(しょう)」といい、それを訓読したものともいう。
※浄瑠璃・祇園女御九重錦(1760)一「何(なん)ぢゃ、旅人の足を口合に、お足とはなまの事か」
⑧ 生身の男女の性器。張形(はりがた)や吾妻形(あづまがた)に対して実物をいう。また、避妊具を付けない状態での性交をいう。
※雑俳・柳多留‐三五(1806)「長局いはんや生(なマ)においておや」
⑨ (形動) 身体などが弱ってくるさまをいう。
※落語・西京土産(1892)〈三代目三遊亭円遊〉「身躰が柔弱(ナマ)ん成ってるから」
⑩ 録画・録音でないこと。直接その場で見たり聞いたりすること。
※苦笑風呂(1948)〈古川緑波〉映画それからそれ「映画のロッパの方が優勢で、芝居のナマの方は、喰はれてしまったのであった」