(読み)うで

精選版 日本国語大辞典 「腕」の意味・読み・例文・類語

うで【腕】

〘名〙
① 人間の肩から手首までの部分。肘(ひじ)から上を上腕、下を前腕という。広義には脊椎動物前足、及び物をつかむ働きをするヒドラ触手などを含めていうこともある。ただむき。かいな。〔十巻本和名抄(934頃)〕
② ことをなす能力。うでまえ。技量
※中華若木詩抄(1520頃)上「そこが作者のうで也」
腕力。転じて、武力をいう。
※車屋本謡曲・景清(1466頃)「さるにても汝恐ろしや、腕の強きと言ひければ」
④ (椅子や機械、建物などで) 力を支えるために横に突き出た部分。腕木。アーム
※蟹工船(1929)〈小林多喜二〉七「ウインチの腕が短いので、下りてくる川崎船をデッキの外側に押してやって」
⑤ 物理で、ある点のまわりの力のモーメントを考えるとき、その点から力の作用線におろした垂線
[語誌](1)上代、手首から肘までの間をタダムキ、手首をタブサと呼び、ウデは漠然と手首あたりを指す語であった。
(2)中古の「十巻本和名抄」によれば、ウデはタダムキと同義の俗語とされている。
(3)中世では、ウデが現在の意に近くなり、タダムキよりも多く使用されるようになった。

かいな かひな【腕】

[1] 〘名〙
① 肩からひじまでの間。二のうで。また、肩から手首までの間をいうこともある。うで。
古事記(712)中・歌謡「弱細(ひわぼそ) 撓や賀比那(カヒナ)を 枕(ま)かむとは 吾(あれ)はすれど」
源氏(1001‐14頃)紅葉賀「太刀抜きたるかひなをとらへて」
② 能力。技量。うで。
青年(1910‐11)〈森鴎外〉一三「少壮政治家の鉄のやうな腕(カヒナ)が意識ある意志によって揮はれた」
[2] 〘接尾〙
① うでを出して舞うところから、舞の手を数えるのに用いる語。
源平盛衰記(14C前)三「二かひな、三かひな舞翔(まひかけっ)て」
② 円柱状の物の太さを、両手にかかえて測る時などに用いる語。かかえ。
※仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)一「左に銀杏の木、ふとさ五かいなばかり也」

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デジタル大辞泉 「腕」の意味・読み・例文・類語

うで【腕】

人や猿の、肩から手首までの部分。また、手の部分も含めていう。「が長い」「を組む」
物事をする能力。技量。うでまえ。「の見せ所」
腕の力。腕力。転じて、武力にもいう。「にものを言わせる」
道具などで、横に突き出た部分。腕木うでぎ。「クレーンの
動物の前足や、タコ・ヒトデなどの物をつかむ働きをする器官。
[補説]古くは肩からひじまでを「かいな」、ひじから手首までを「うで」と区別した。「かいな」は相撲用語として現代でも用いる。肩からひじまでは「二の腕」ともいう。
[下接語]片腕利き腕五十腕四十腕すご二の腕細腕右腕せ腕両腕
[類語](1かいな細腕やせ腕右腕片腕利き腕二の腕/(2腕前手並み手腕手の内妙手手際手練凄腕技術

わん【腕】[漢字項目]

常用漢字] [音]ワン(呉)(漢) [訓]うで かいな
〈ワン〉
うで。「腕章腕力右腕前腕鉄腕扼腕やくわん
うでまえ。「才腕手腕敏腕辣腕らつわん
〈うで〉「腕前腕輪片腕細腕右腕

かいな〔かひな〕【腕/×肱】

[名]うで」の古い言い方。肩からひじまでの部分。二の腕。また、肩から手首までの部分もいう。うで。
[接尾]助数詞。手を動かして舞うところから、舞の手を数えるのに用いる。
「二―三―舞ひかけって」〈盛衰記・三〉
[類語]細腕やせ腕右腕片腕利き腕二の腕

ただむき【腕/×臂】

うで。肩からひじまでを「かいな」というのに対して、ひじから手首までの部分。
「白―かずけばこそ」〈・下・歌謡〉

た‐ぶさ【腕/手房】

て。てくび。また、うで。
「折りつれば―にけがる立てながら三世の仏に花奉る」〈後撰・春下〉

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「腕」の意味・わかりやすい解説


うで

「腕がなる」「腕によりをかける」「腕っぷしが強い」というような表現で用いられる腕は、漠然とその人の腕に表徴される能力をいい表すわけであるが、それだけ、人間の日常生活における腕の果たす役割は大きいといえる。人間の上肢の働きは、その運動範囲からみても、繊細な機能からみても、他の生物のそれをはるかに超えたものであり、人間が万物の霊長たるゆえんを物語るものといってもよい。

 解剖学的にいう腕は、肩と手首との間の部分をいい、肘(ひじ)から上半分を上腕、下半分を前腕という。上腕の長軸をなすのは1本の上腕骨であるが、前腕は前腕骨、すなわち橈骨(とうこつ)および尺骨(しゃっこつ)がほぼ平行に並び、それらで軸を形成している。解剖学的な上肢の基準位というのは、上肢を自然に垂らして手掌(手のひら)を前方に向けた状態をいうが、その場合、橈骨は外側になり、尺骨は内側となる。肘を十分に伸ばした場合、上腕骨の長軸と尺骨の長軸のつくる角度は約170度であり、まっすぐにはならない。

 上腕は筋肉の発達がよく、上腕骨はほとんど完全に筋肉に包まれている。上腕の主要な筋肉は、力こぶをつくる上腕二頭筋と、後面にある上腕三頭筋で、前者は肘を屈曲し、後者は肘を伸展する働きをする。上腕の運動は肩関節とその周囲の筋肉で行われるが、肩関節は球関節に属し、人体中ではもっとも運動範囲が広い。上腕の運動に関与する筋肉は数多くあるが、強大な筋肉としては大胸筋、三角筋、大円筋、小円筋、肩甲下筋などがある。

 前腕は肘関節で上腕とつながる。上腕骨は尺骨と蝶番(ちょうつがい)関節により、尺骨と橈骨とは相互に上下両端で車軸関節をつくり、このため前腕のねじれが可能である。肘関節でもっとも目につく著しい部分は肘頭(ちゅうとう)で、肘関節の後面ですぐ確認できる尺骨の頭端になる。前腕の筋肉は屈伸筋、回旋筋が複雑に重なり合い、手根部ないしは手指の細かい運動を可能にしている。前腕筋の多くは長い腱(けん)が付着し、多くの筋の付着腱は手根関節の位置で腱鞘(けんしょう)内を滑走している。これらは皮下でも認められる。

 腕に分布する動脈は、腋窩(えきか)(わきの下)内を通る腋窩動脈から移行した上腕動脈として上腕二頭筋の内側縁に沿って走るため、上腕内側の皮下で、その拍動に触れることができる。したがってこの部位は、上肢の大出血の場合、圧迫止血の適応部位となる。前腕の動脈は、上腕動脈が肘関節前面で橈骨動脈と尺骨動脈に分岐し、さらにそこから細かい枝が出て筋肉に栄養を送る。血圧を計るのは上腕動脈である。脈を調べるのは手根部に近く橈骨上を走る橈骨動脈である。上肢では静脈系は動脈系に伴行するほかに、とくに皮下を単独で走る皮下静脈があり、前腕の皮下静脈は肘前面の正中皮静脈に集まり、さらに尺側皮静脈、橈側皮静脈に分かれて、上腕の内側、外側を通り腋窩静脈に入る。静脈注射や採血には、おもに正中皮静脈が利用される。腕を支配する神経には、腋窩部で分岐した橈骨神経、尺骨神経および正中神経が関与するが、その支配関係がはっきりしているため、上肢に運動障害、感覚障害が生じた場合には、その症状によって神経の故障部位を推定できる。

[嶋井和世]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「腕」の意味・わかりやすい解説


うで
arm

哺乳類の前肢のうち,特に,歩行よりは物をつかむことに特殊化したサル人類の前肢をいう。物をつかむ指を備えた手が先端にある。自由にすべての方向に可動な球関節である肩関節から一平面内だけに可動な肘関節を経て手首の関節にいたる。広い意味では脊椎動物の前肢(脚)を含む。無脊椎動物でも,物をつかむ構造には腕の語が適用され,刺胞動物ヒドラ類の捕腕,鉢虫類エフィラ幼生の口腕,軟体動物頭足類(イカ,タコなど)の 8本あるいは 10本の腕,腕足類(シャミセンガイなど)の触手を支持する部分,棘皮動物ヒトデ類の放射部分,染色体の腕などがある。

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世界大百科事典 第2版 「腕」の意味・わかりやすい解説

うで【腕 brachium】

両生類以上の脊椎動物つまり四足動物は,高等硬骨魚類の胸びれ・腹びれからそれぞれ発展した前肢・後肢を1対ずつ備えている。これらは本来は陸上での歩行器官として発達したものだが,陸生動物の適応に伴ってさまざまに分化した。比較的大型で高等なサル類やヒトにみられるように,前肢(または手)が後肢と著しく異なって物をつかんだり器用に取り扱ったりする働きをもっている場合,その前肢を腕と呼ぶ。比較的原始的なサル類やネズミ,リス,クマなどの前肢もある程度このような働きをもっているが,これらは普通は腕とは呼ばず,その他の大半の四足動物と同じく俗に前足という(鳥類とコウモリ類の前肢は前足ではなく翼であり,クジラ類のそれは俗に胸びれまたはひれあしと呼ばれる)。

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世界大百科事典内のの言及

【手】より

…手首から先が手である。
[腕arm]
 ひじで折れ曲がるので,これを2部に分け,上半を上腕upper arm,下半を前腕forearmといい,上腕は俗に〈二の腕〉といわれる。腕は脚に相当する部分であるが,人間では脚より小さく,運動の自由度は大きい。…

【手】より

…この上肢帯より末梢の,体幹から伸び出した部分を自由上肢という。自由上肢は腕と手(狭義)からなる。手首から先が手である。…

※「腕」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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