被・冠(読み)かぶり

精選版 日本国語大辞典 「被・冠」の意味・読み・例文・類語

かぶり【被・冠】

〘名〙 (動詞「かぶる(被)」の連用形の名詞化)
落窪(10C後)二「なめげにいひたてりしを、にくさにかふりをなんうち落して」
官位
書紀(720)舒明一一年一一月(図書寮本訓)「因て冠位(カフリ)一級(ひとしな)を給ふ」
③ (━する) (冠をつけるところから) 元服すること。加冠
蜻蛉(974頃)中「かふりゆへに、人もまたあいなしと思ふ思ふ、わざもならへとて」
⑤ 負担としてしょいこむこと。損失や責任になること。
※洒落本・北華通情(1794)「川立は川とやらいふて、とふでしまひはこっちのかぶりになるせりふじゃぜ」
⑥ 人に対して面目ないことをしでかすこと。しくじること。
※歌舞伎・千代始音頭瀬渡(1785)三立「今ではおれも少しかぶりの筋ぢで屋敷へは帰られず」
和歌俳句の初めの文字。折句(おりく)の際に用いられる。
※春のみやまぢ(1280)八月二日「哥のはじめおはりに、いろはのもじを置かる。かぶりは、らりるれろ、くつはいうあ」
雑俳、とくに地口点取りの禁忌の一つ。本文冒頭のと同じかなや言葉を、そのまま付句のはじめに置くこと。地口尻取りでは、前句末の言葉を、付句のはじめに使用することをいう。上方口合では「仮名かずき」といった。
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉七「アア、悪い悪い。おめへのは、みんなかぶりといふので笑魯や竺万点じゃア無口(はきくち)だぜ」
⑨ (⑧から) 江戸では地口の出だしの文句が重なり合うこと。たとえば「お馬が通るたけのこたけのこ(筍)」(お馬が通るそこ退けそこ退け)などをいう。
滑稽本浮世風呂(1809‐13)四「地口といふものも、発語(ほつご)の文字が同字なれば、冠(カブリ)と申て忌(いむ)げにござる」
芝居演芸などが終わること。終演。〔最新百科社会語辞典(1932)〕
⑪ 芝居があたって、客が大勢くること。大入り。〔最新百科社会語辞典(1932)〕
⑫ 写真で、フィルムの欠陥露出過度などによって、画面にくもりができてぼやけること。
※フィルム写真術(1920)〈高桑勝雄〉現像の仕度・巻フィルムの仕上「現像の進行を緩くする力を持って居るので、カブリを生ずる傾向の見えるとき」

かがふ・る【被・冠】

〘他ラ四〙 (「こうむる(被)」の古形)
① かぶる。かける。
万葉(8C後)五・八九二「あさぶすま 引き可賀布利(カガフリ)
新訳華厳経音義私記(794)「被甲 上、皮義反、可何布流(カカフル)下、可夫度」
② 受ける。こうむる。
※新訳華厳経音義私記(794)「蒙惑 上、音牟、訓加何布流」
③ 特に、上の人の命令などを受ける。お受けする。承る。
※万葉(8C後)二〇・四三二一「かしこきや命(みこと)加我布理(カガフリ)明日ゆりや草(かえ)が共(むた)寝む妹(いむ)なしにして」

かむ・る【被・冠】

〘他ラ五(四)〙
① =かぶる(被)(一)①
※文明開化(1873‐74)〈加藤祐一〉初「各国の人が、夫々帽子を冠(カム)って居るが」
② =かぶる(被)(一)②
※写生紀行(1922)〈寺田寅彦〉「川沿の草木はみんな泥水をかむったままに干上って」
③ =かぶる(被)(一)③
※東京年中行事(1911)〈若月紫蘭〉六月暦「中橋天王、小舟町天王、大伝馬町天王〈略〉何れも皆其冠(カム)れる町名の処に仮屋を有し」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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