フェミニズム

精選版 日本国語大辞典 「フェミニズム」の意味・読み・例文・類語

フェミニズム

〘名〙 (feminism)
① 女性の社会・政治・法律上の権利を拡張し、女性の地位を高めようという主義。
※妾宅(1912)〈永井荷風〉七「何も新しい女権主義(フェミニズム)を根本から否定してゐる為めではない」
② 転じて日本語では、女性を大切にしようとする主義。
蓼喰ふ虫(1928‐29)〈谷崎潤一郎〉九「要の中にあるフェミニズムの萌芽だったであらう」

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デジタル大辞泉 「フェミニズム」の意味・読み・例文・類語

フェミニズム(feminism)

女性の社会的、政治的、経済的権利を男性と同等にし、女性の能力や役割の発展を目ざす主張および運動。女権拡張論。女性解放論。
女性尊重主義。

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百科事典マイペディア 「フェミニズム」の意味・わかりやすい解説

フェミニズム

ラテン語のフェミナfemina(女性)から派生した言葉で,20世紀に入ってから広く使われ,女性運動や女性論全般を意味するようになった。そこから過去の時代にも遡って用いられるようになり,フェミニズムを女性の手になる女性解放の思想・運動と定義した場合,それは20世紀だけにとどまらない,長い歴史をもつものであることが明らかになっている(女性史)。すでに中世にビンゲンヒルデガルトのような先駆的なフェミニズム思想家が存在したが,18世紀フランスの人権思想と,19世紀の先進工業国における産業革命の進展により,新しい労働環境の中での女性の権利獲得がより緊迫した問題となって,フェミニズムは社会運動としての広がりをもった。その後,フェミニズム運動は19世紀後半から20世紀前半の〈第1波フェミニズム〉と,1960年代後半から1970年代の〈第2波フェミニズム〉という2回の高潮期を迎えた。〈第1波〉には,女性(婦人参政権)運動や女権運動に代表されるように,法における男女平等の実現に運動の力点があった。日本では青鞜社,婦人矯風会新婦人協会赤瀾会などの団体がつくられ,婦選運動,廃娼運動女子労働の改善,母性保護の要求(母性保護論争),女子教育の推進などの運動が展開された。しかしその後に起きた二つの世界大戦はフェミニズム運動にもさまざまな影響を及ぼした。サフラジェットに見られるような女性の権利獲得運動と戦争協力の問題や従軍慰安婦問題は,戦争期のフェミニズム運動についての再考を迫っており,また今後の重要な課題ともなっている。戦後の沈滞期を経て,やがて世界中に広がった〈第2波〉は,ウーマン・リブと呼ばれる新しい運動形態をもった。ここでは,〈第1波〉における法的要求のほかに,目に見えにくい日常的な性差別の撤廃もまた,女性解放の実現に向けて必要不可欠であると考えられるようになった。この認識を受け,現在ジェンダーなどの視点からさまざまな分野における家父長制的・男性中心的な前提の問い直しと女性原理の新たな構築が行われている(女性学)。また,フェミニズムはこれまで近代の枠組みのなかで展開され,もっぱら先進工業国の女性の問題に焦点を合わせてきたが,それでは地球上のすべての女性の多種多様な現実を理解することはできないとの反省から,差異を認めるゆるやかな連合の形態に向けて,現在も模索が続けられている。
→関連項目アステルアンソニーイデオロギーイリガライウォーホルウルストンクラフトウルフ家庭内暴力クリステバクルーガーケイ国際婦人年ゴドウィンゴールドマン自分だけの部屋性役割セックス第二の性高群逸枝男女別学富岡多恵子日本母親大会女人芸術平塚らいてう福田英子フラーブロンテ本質主義・構成主義ミレット両性具有レズビアン連続体

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェミニズム」の意味・わかりやすい解説

フェミニズム
ふぇみにずむ
feminism

ラテン語のfemina(女性)から発生したことばであり、一般に女権拡張主義、女性尊重主義と訳される。フェミニズムは、フランス革命の理念となった人権思想の影響を色濃く受け、フランス、イギリス、アメリカなどの諸国において発達した。フェミニズムを主張する最初のまとまった著作としては、イギリスの思想家M・ウルストンクラフトの『女性の権利の擁護』(1792)があげられる。J・J・ルソーの女性観に疑問を投げかけつつ、中産階級の女性の精神的自立と経済的自立を主張したその展開には、教育・職業の機会均等、参政権獲得要求など、以後のフェミニズムが掲げた主張の萌芽(ほうが)が集約されている。

 フェミニズムには単一の理論体系があるわけでなく、基本的には、それぞれの国の歴史的特徴、情勢の影響を受け、系譜も多様に分かれる。たとえば、女性尊重主義という訳語よりも、母性尊重、母性擁護という訳語が妥当な系譜がある。それは、スウェーデンの思想家E・ケイに代表される女性解放思想である。ケイは、進化論の立場から母性の擁護を訴え、母性を破壊する資本主義社会を鋭く批判、教育、経済、政治における機会均等の実現を強く主張し、スカンジナビア諸国やドイツのフェミニズムに強い影響を及ぼした。日本でも平塚らいてうに代表される第二次世界大戦前のフェミニズムの展開にその影響がみられる。一方、19世紀中葉から20世紀初頭のアメリカやイギリスを中心とするフェミニズムは、参政権獲得に代表される法的平等を中心に展開された。一般に第一次フェミニズム(または旧フェミニズム)とよばれる。

 これに対し、第二次世界大戦後、とくに1960年代後半以降の第二次フェミニズム(または新フェミニズム)は、アメリカを中心とするウーマン・リブの影響を色濃く受けており、マルクス主義の立場にたつ「婦人論」への批判、あるいはフェミニズムとマルクス主義の統一という発想を底流に、「女性による人間解放主義」と規定され、性差に起因する政治的、経済的、社会的、文化的、心理的など、あらゆる形態の差別や不平等に反対し、その撤廃を目ざす。とりわけ、意識やライフ・スタイルに深く組み込まれた性抑圧、性差別の告発という点に特徴をもつ。

 しかし、第二次フェミニズムは、なにが女性にとってもっとも根源的な抑圧であるかという論点をめぐって、いくつかの潮流に分かれている。代表的な流れとしては、男性による女性の支配を家父長制ととらえ、これを経済体制の違いを超えて存在すると押さえるラディカル・フェミニズム、無償の家事労働を不可欠の前提として成立する資本主義的生産様式に焦点をあてるマルクス主義フェミニズム、女性の従属を多数の小さな剥奪(はくだつ)deprivationの総和とみるリベラル・フェミニズム(自由主義フェミニズム)、ラディカル・フェミニズムとマルクス主義フェミニズムの結合を目ざし、家父長制と資本主義のいずれかに焦点をあてるのではなく、家父長制は管理や法・秩序などのシステムを用意し、資本主義は経済・利潤追求のシステムを用意するとみることにより、両者の存在が今日の両性(ジェンダー)関係の形成に重要な意味をもつと押さえる社会主義フェミニズム(統合理論)などがある。フェミニズムということばは、思想と運動の双方が含まれて用いられる場合が多い。

[布施晶子]

『メアリ・ウルストンクラーフト著、白井尭子訳『女性の権利の擁護』(1980・未来社)』『エレン・ケイ著、原田実訳『婦人運動』(1924・聚英閣)』『エレン・ケイ著、小野寺信・小野寺百合子訳『恋愛と結婚』(岩波文庫)』『平塚雷鳥著『元始、女性は太陽であった――平塚らいてう自伝』全4冊(1971~72・大月書店)』『一番ケ瀬康子編『入門女性解放論』(1975・亜紀書房)』『ケート・ミレット著、藤枝澪子訳『性の政治学』(1985・ドメス出版)』『Juliet Mitchell, Ann OakleyWhat is Feminism?(1986, Pantheon Books)』『ナタリー・J・ソコロフ著、江原由美子他訳『お金と愛情の間――マルクス主義フェミニズムの展開』(1987・勁草書房)』『落合恵美子著『近代家族とフェミニズム』(1989・勁草書房)』『Sylvia WalbyTheorizing Patriarchy(1990, Blackwell Pub.)』『スーザン・バスネット著、進藤久美子訳『世紀末のフェミニズム――四つの国の女たち』(1993・田畑書店)』『井上輝子他編『日本のフェミニズム』全7巻・別冊(1994~95・岩波書店)』『江原由美子・金井淑子編『フェミニズム』(1997・新曜社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「フェミニズム」の意味・わかりやすい解説

フェミニズム
feminism

1830年代のフランスで生まれて欧米に広がった,男女同権主義に基づく女性の権利拡張の思想と運動を意味する言葉。またフェミニストは,女性および女性の権利を尊重する人の呼び名とされてきた。しかし1960年代末以来の女性解放運動のなかで,それは,性差別の克服という広い意味をもつものとされ,〈女性による人間解放主義〉という定義があたえられ,それを主張する人をフェミニストと呼ぶようになった。さらに,女性解放のそれぞれの立場を主張して,男性支配からの解放を第一義的とするラディカル・フェミニズム,マルクス主義にラディカル・フェミニズムを取り込んだマルクス主義フェミニズム,環境を重視したエコロジカル・フェミニズム,性差に注目したポストモダン・フェミニズム,黒人女性の立場から解放を求めるブラック・フェミニズムなどの呼名が登場した。
女性解放
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山川 世界史小辞典 改訂新版 「フェミニズム」の解説

フェミニズム
feminism

女が女であることを根拠に強いられてきた差別や従属,拘束を問題にし,そこから離脱するために構築された思想とその思想にもとづく社会運動の総称。男女間の権利や機会の不均等,地位の格差や女を劣ったものとみなす思想は古くから存在したが,それらが改善されるべきものだと認識され始めるのは「法の前での万人の平等」を説く人権思想が生まれ,にもかかわらず近代の「市民」には成人男性しか含まれていなかったという矛盾が明瞭になってからのことである。大きなうねりとしては,まずはO.ド・グージュ(『女の権利宣言』1791年)やM.ウルストンクラフト(『女性の権利の擁護』92年)らの女の市民権確立要求があり,その延長上で19世紀中葉から20世紀初頭に盛んになった女性参政権運動(第1波フェミニズム)がある。第二次世界大戦後は多くの国で選挙権や被選挙権が認められるようになるが,制度的な平等が得られても性別役割分担や「女のあるべき姿」による拘束はなくならず,結婚や家族・子育てという日常性の内部に組み込まれてきた不平等が問題にされ,性と生殖の自己決定の必要性が求められた(第2波フェミニズム)。フェミニズムという言葉が日本で定着したのは1980年代以降のことである。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フェミニズム」の意味・わかりやすい解説

フェミニズム
feminism

女性解放思想,またその思想に基づく社会運動。19世紀末から 20世紀初頭にかけての第1期フェミニズムと,1960年代以降の第2期フェミニズムの二つに大別できる。第1期フェミニズムは,近代の平等の理念に基づいた人権概念を男性だけではなく女性にも拡張することを要求し,主として女性参政権の獲得を目標として推進された。第2期フェミニズムは,性差別の根源を制度ではなく性(男性と女性の性関係を核としたあらゆる関係性)に求めたラディカル・フェミニズムの出現によって特徴づけられ,思想や学問など社会構造のすみずみにまで浸透している男性中心主義を徹底的に告発し,女性の社会的・経済的・性的な自己決定権の獲得を目標として展開された。フェミニズムは「20世紀最大の思想的事件」といわれるほどまでに成長し,大きな影響力をもつにいたっている。(→ウーマン・リブ

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世界大百科事典(旧版)内のフェミニズムの言及

【ポリティカル・コレクトネス】より

…政治的に正確な表現を要求する,アメリカ合衆国における運動で,PCと略して使われることが多い。その主張は広い範囲に及んでおり,性差別に関してはフェミニズムの立場に立ち,民族問題に関しては黒人や先住民など少数派の権利を擁護して文化的多元主義を主張しているほか,環境保護を優先させ,第三世界への軍事介入に反対している。かつてラディカリズムと呼ばれていた政治的立場に近い。…

※「フェミニズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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