後見(法律)(読み)こうけん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「後見(法律)」の意味・わかりやすい解説

後見(法律)
こうけん

未成年者や、精神上の障害により判断能力(事理を弁識する能力)がない者または不十分な者を支援する制度。民法に規定されている後見制度(法定後見)は、未成年者に対する未成年後見制度と成人に対する成年後見制度に大別される。そして、成年後見制度については、1999年(平成11)12月8日の民法改正により、成年後見・保佐・補助の三つの類型が整備されるとともに、契約によって行われる任意後見制度が創設された。すなわち、同日に、「民法の一部を改正する法律」(平成11年法律第149号)、「任意後見契約に関する法律(通称、任意後見契約法)」(平成11年法律第150号)、「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律第151号)、および、「後見登記等に関する法律(通称、後見登記法)」(平成11年法律第152号)が公布され、2000年(平成12)4月1日に施行された。

 以下では、未成年後見制度と成年後見(法定後見・任意後見)制度を概観する。

[野澤正充 2022年4月19日]

未成年後見制度

〔1〕未成年後見の開始
未成年者の保護は、親権制度を通して、未成年者の父母によって行われるのが原則である(民法818条以下)。それゆえ、未成年後見は、未成年者に対して親権を行う者がないとき、または親権を行う者が管理権を有しないときに開始する(同法838条1号)。

 なお、2018年の民法改正(平成30年法律第59号)により、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ、2022年(令和4)4月1日から、18歳未満の者が未成年者となった。

〔2〕未成年後見人の選任
未成年者に対して最後に親権を行った者が遺言で後見人を指定した場合には、指定された者が未成年後見人になる(民法839条1項)。遺言による指定がない場合には、未成年被後見人(本人)またはその親族その他の利害関係人の請求によって、家庭裁判所が未成年後見人を選任する(同法840条1項)。

 2011年以前は、未成年後見人は自然人であり、かつ、1人でなければならなかった。しかし、同年の民法改正(平成23年法律第61号)により、法人や複数名の未成年後見人を選任することができるようになった(同法840条2項・3項)。

〔3〕未成年後見人の事務
未成年後見人の事務は、身上監護財産管理である。すなわち、未成年後見人は、親権者と同様に、監護・教育の権利義務があり(同法857条)、かつ、その財産を管理し、未成年被後見人代理人となって法律行為をする権限を有する(同法859条)。しかし、財産管理については、親権者の場合より厳しい監督のもとに置かれる。すなわち、未成年後見人は就職の際に未成年被後見人の財産目録を作成しなければならず(同法853条)、いつでも家庭裁判所から後見事務の報告を求められる(同法863条)。また、未成年後見監督人が置かれている場合には、未成年被後見人のための重要な行為については、その同意を得なければならない(同法864条)。

〔4〕未成年後見監督人
後見人の仕事を監督することを主たる任務とする。未成年後見監督人は、遺言で指定される場合(同法848条)と、未成年被後見人、その親族または未成年後見人の請求により、家庭裁判所が選任する場合(同法849条)とがある。さらに、家庭裁判所は、その職権によって未成年後見監督人を選任することもできる。

[野澤正充 2022年4月19日]

成年後見制度

成年後見制度には、家庭裁判所が成年後見人等を選任する法定後見制度と、本人と将来後見人になる者との間の契約(任意後見契約)に基づく任意後見制度がある。

[野澤正充 2022年4月19日]

法定後見制度

法定後見制度には、保護を必要とする者(本人)の判断能力(「事理を弁識する能力」)の程度に応じて、(1)成年後見、(2)保佐、および、(3)補助の三つの類型がある。

(1)成年後見類型
1999年の改正前民法の禁治産に相当する。精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者を対象に、家庭裁判所が後見開始の審判を行う(民法7条)。そして、後見開始の審判を受けた者は成年被後見人とされ、これに成年後見人が付される(同法8条)。成年後見が開始されると、成年被後見人は、日用品の購入その他の日常生活に必要な範囲の契約以外は、単独で行うことができなくなる。すなわち、成年後見人は、成年被後見人のした法律行為を取り消すことができる(同法9条)。また、成年後見人には、成年被後見人の財産に関する法律行為についての代理権が付与される(同法859条1項)。

(2)保佐類型
1999年の改正前民法の準禁治産に相当する。精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者が対象となる(同法11条)。ただし、改正後の民法では、浪費者(前後の見境なく財産を浪費してしまう癖のある者)は対象とならない。保佐開始の審判を受けた者は、被保佐人とされ、保佐人が付される(同法12条)。保佐が開始されても、被保佐人は行為能力を失わないため、法律行為を行うことができる。しかし、元本の領収、借財、保証、不動産または重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為、訴訟行為等、一定の重要な財産行為については保佐人の同意を得なければならず(同法13条1項)、その同意を得ないでしたものは、被保佐人または保佐人が取り消すことができる(同法13条4項)。このように、保佐人には、一定の法律行為についての同意権と取消権が認められる。そのほか、民法は、家庭裁判所が、特定の法律行為について、保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができるものとした(同法876条の4)。

(3)補助類型
1999年の民法改正によって新設された類型であり、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者を対象とする(同法15条)。すなわち、軽度の精神上の障害などにより判断能力が不十分な者のうち、保佐よりも判断能力が高い者が対象となる。補助開始の審判を受けた者は、被補助人とされ、補助人が付される(同法16条)。補助が開始されても、被補助人(本人)は行為能力を失わない点では、保佐と同様である。しかし、保佐のように、補助人の同意を要する行為が列挙されず、家庭裁判所が、特定の法律行為(たとえば、土地の売買契約など)について、審判により、補助人に代理権(同法876条の9)または同意権・取消権(同法17条)の一方または双方を付与する。なお、補助の開始決定にあたっては、本人が請求した場合を除いて、本人の同意を得なければならず(同法17条2項)、本人の意思を尊重する制度になっている。

 成年後見制度の利用者数は増加傾向にあるものの、認知症高齢者の総数と比較すると、その利用率は低い。2016年4月8日、「成年後見制度の利用の促進に関する法律(通称、成年後見利用促進法)」(平成28年法律第29号)が成立した。この法律は、(1)成年後見制度の理念(ノーマライゼーション・自己決定権の尊重、身上の保護の重視)の尊重、(2)地域の需要に対応した成年後見制度の利用の促進、および、(3)成年後見制度の利用に関する体制の整備をその基本理念としている(同法3条)。

[野澤正充 2022年4月19日]

任意後見制度

本人(委任者)が十分な判断能力を有するときに、あらかじめ、任意後見人となる者(任意後見受任者)や将来その者に委任する事務(本人の生活、療養看護および財産管理の事務)の内容を定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人がこれらの事務を本人にかわって行う制度である。法定後見制度においては、家庭裁判所が成年後見人等を選任するのに対して、任意後見制度は、本人と任意後見受任者との委任契約(任意後見契約)を締結することによって、任意後見人を選任する制度である。成年後見制度の理念である自己決定権の尊重を具現化した制度であり、2000年に任意後見契約法によって導入された。

 任意後見契約は、本人の意思と任意後見人の権限や義務を明確にするため、法務省令で定める様式の公正証書によって行わなければならない(同法3条)。そして、任意後見契約が締結され、その登記をした後(後見登記法5条)に、本人の判断能力が不十分になったときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族または任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する(任意後見契約法4条)。任意後見人は、委任に基づく事務を行う際、本人の意思を尊重し、その心身の状態および生活の状況に配慮しなければならない(同法6条)。任意後見監督人は、任意後見人の事務を監督し、家庭裁判所に定期的に報告をしなければならない。また急迫の事情がある場合や利益相反行為に関しては、任意後見監督人が代理権を行使することができる(同法7条)。

[野澤正充 2022年4月19日]

『本山敦「第1編親族法 第4章後見・保佐・補助」(前田陽一・本山敦・浦野由紀子著『民法Ⅵ 親族・相続』第5版所収・2019・有斐閣)』『冷水登紀代「第4編親族 第5章後見」(松岡久和・中田邦博編『新・コンメンタール民法(家族法)』所収・2021・日本評論社)』

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百科事典マイペディア 「後見(法律)」の意味・わかりやすい解説

後見(法律)【こうけん】

未成年者を監護教育し,または〈後見開始の審判〉があった者(1999年改正以前の呼称は禁治産者)の身上監護を行うとともに,これらの被後見人の財産を後見人が管理する制度(民法838条以下)。未成年者については,親権を行う者がない場合,または親権者が財産管理権をもたない場合に,初めて後見が開始する。後見の機関としては,後見人のほか,後見人を監督する後見監督人または家庭裁判所がある。→成年後見制度
→関連項目親権補助

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