後見(法律)(読み)こうけん

百科事典マイペディアの解説

後見(法律)【こうけん】

未成年者を監護教育し,または〈後見開始の審判〉があった者(1999年改正以前の呼称は禁治産者)の身上監護を行うとともに,これらの被後見人の財産を後見人が管理する制度(民法838条以下)。未成年者については,親権を行う者がない場合,または親権者が財産管理権をもたない場合に,初めて後見が開始する。後見の機関としては,後見人のほか,後見人を監督する後見監督人または家庭裁判所がある。→成年後見制度
→関連項目親権補助

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

後見(法律)
こうけん

後見には、未成年者や判断能力が低下した成年者を保護するために、契約などの法律行為をする能力に一定の制限を加える民法上の制度を意味する広義の後見と、後述の成年後見の3類型の一つである狭義の後見がある。[高橋康之・野澤正充]

広義の後見

これまで、親権を行使する親のいない未成年の子と禁治産の宣告を受けた者の法律行為を助けるためのものとして、後見という制度が存在したが、1999年(平成11)12月に、成年者に対する後見制度を中心に民法の大幅な改正が行われた(平成11年法律第149号)。その結果、それまでの禁治産・準禁治産制度にかわって、新たに「成年後見制度」が実施されることになった。以下に未成年者のための後見(未成年後見)と成年者のための後見(成年後見)とを分けて説明する。[高橋康之・野澤正充]
未成年後見
未成年者に対して親権を行う者がないとき、または親権を行う者が管理権を有しないときには、未成年者を保護するために未成年後見人が置かれる。未成年者に対して最後に親権を行った者が遺言で後見人を指定した場合には、指定された者が未成年後見人になる(民法839条1項)。遺言による指定がない場合には、未成年被後見人(未成年者本人)またはその親族その他の利害関係人の請求によって家庭裁判所が未成年後見人を選任する(同法840条)。未成年後見人は1人でなければならない(同法842条)。[高橋康之・野澤正充]
未成年後見人の仕事
未成年後見人は、親権者とまったく同じように、監護・教育の権利義務があり(民法857条)、また、その財産を管理し、未成年被後見人の代理人となって法律行為をする権限を有する(同法859条)。しかし、財産の管理については親権者の場合より厳しい監督のもとに置かれる。すなわち、未成年後見人は就職の際に未成年被後見人の財産目録を作成しなければならず(同法853条)、いつでも家庭裁判所から後見事務の報告を求められる(同法863条)。未成年後見監督人が置かれている場合には、未成年被後見人のための重要な行為についてはその同意を得なければならない(同法864条)。[高橋康之・野澤正充]
未成年後見監督人
後見人の仕事を監督することを主たる任務とする者で、遺言で指定される場合(民法848条)と未成年被後見人、その親族または未成年後見人の請求で家庭裁判所が選任する場合(民法849条の2)とがある。かならず設けなければならない機関ではないが、家庭裁判所が職権で選任することもできる。[高橋康之・野澤正充]
成年後見

制度改正の必要性
判断能力の不十分な成年者を保護する民法上の制度としては、禁治産・準禁治産の制度が設けられていた。禁治産は「心神喪失の常況に在る者」に対し、準禁治産は「心神耗弱者(しんしんこうじゃくしゃ)及び浪費者」に対して、それぞれ利害関係人の請求により家庭裁判所が宣告し、禁治産者には「後見人」、準禁治産者には「保佐人」という保護機関が付けられるというものであった。しかし、これらの制度は以下に述べるような利用しにくい面があるため、かねてから改善が望まれていた。その後社会の高齢化が進むにつれて、高齢者の福祉の問題とも関連して、制度の改革を望む声はいっそう強まった。問題の第一は、この制度は保護を目的とするものであるにもかかわらず、その宣告を受けた者が公的資格の欠格者扱いされることなどのため、社会的に一段と劣った人間であるというイメージがつくられ、それが利用の障害になっていたことである。第二には、これまでの禁治産・準禁治産の二分法では、高齢化社会において実際に生じる多様な状況・需要に対応しきれないうらみがあり、また、その観点からみると、後見人・保佐人の権限も画一的にすぎることである。そして最後に、考え方の転換がある。すなわち、従来のように判断能力の低下した者をどちらかというと隔離するといった考えではなく、可能なかぎり社会に受け入れ(ノーマライゼーション)その人の残存能力を活用し、自己決定の原則(自己決定権)を尊重すべきだと考えられ始めたことである。20世紀後半、この理念に沿って、世界の多くの国で、成年者の能力制限に関する新しい法制がつくられた。日本でも前記のような問題点を解決するために新しい成年後見制度が導入されたのである。[高橋康之・野澤正充]
新成年後見制度のポイント

(1)従来の禁治産・準禁治産の制度を廃止して、「後見」「保佐」「補助」の三つの類型を創設した(なお、未成年者を含めて、従来使われていた「無能力者」という用語は「制限能力者」に変更され、さらに2004年には「制限行為能力者」に改められた)。「後見」は、「精神上の障害に因り事理を弁識する能力を欠く常況に在る者」について、「保佐」は、「精神上の障害に因り事理を弁識する能力が著しく不十分なる者」について、そして「補助」は、「精神上の障害に因り事理を弁識する能力が不十分なる者」について、いずれも本人または一定の範囲の者からの請求によって、家庭裁判所が宣告する(民法7条・11条・15条)。「後見」と「保佐」はそれぞれ元の禁治産と準禁治産に相当するが、「補助」は、軽度の認知症・知的障害・精神障害の状態にある者を対象とするまったく新しい類型である。このように、新しい成年後見制度は、制度の窓口を広げるのと同時に、各類型のなかにおいても多様な選択肢を認めることによって、各人のさまざまな判断能力や保護の必要性の程度に応じた柔軟かつ弾力的な措置をとることを可能にしている。なお「後見」の内容については、後述の「狭義の後見」を参照されたい。
(2)新しい成年後見制度を定めた民法改正と同時に、「任意後見契約に関する法律(任意後見法)」(平成11年法律第150号)が制定された。任意後見契約とは、本人があらかじめ判断能力が不十分になった場合に備えて結んでおく委任契約であり、「自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部」を受任者に委託し、その仕事のための代理権を与えるというものである(任意後見法2条1号)。軽度の認知症あるいは判断能力の衰えを自覚した高齢者が健常であるうちに財産管理などを任せる人を自分で決めておきたい場合などに利用することが予想される。この任意後見に対して前記(1)の「後見」「保佐」「補助」は法定後見とよばれる。任意後見契約は、公正証書で締結しなければならない(同法3条)。任意後見人に指定された人は、すぐ後見人になるわけではなく、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから、任意後見人としての仕事につく(それまでは任意後見受任者という)。任意後見監督人の選任は、任意後見契約が登記された後、本人が判断能力が不十分になったと考えたときに、本人・配偶者・4親等内の親族または任意後見受任者の請求によってなされる(同法4条)。任意後見人は、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態および生活の状況に注意しなければならない(同法6条)。任意後見人は、任意後見監督人と家庭裁判所の二重の監督を受ける。任意後見契約がある場合に、法定後見の請求があった場合には、家庭裁判所がとくにその必要があると認めない限り、法定後見は開始しない(同法10条1項)。その点では任意後見が法定後見に優先する。
(3)行為能力の制限は、取引の相手方に重大な影響を与えるので、なんらかの公示が必要となる。従来の禁治産・準禁治産は、戸籍に記載されることによって、その要求を満たしていた。しかし、戸籍へのそのような記載を嫌う人が多いことが制度の利用を妨げる一因となっていた。そこで、新しい成年後見制度においては、成年後見に関する戸籍への記載は廃止し、登記制度を採用した(後見登記等に関する法律、平成11年法律第152号)。法定後見だけでなく、任意後見も登記の対象となる。登記事項は、磁気ディスク等で作成した「後見登記等ファイル」に記録される(後見登記法4条)。登記事項証明書(記載がないときはその旨の証明書)の請求は、原則として、本人・配偶者・4親等内の親族・成年後見人・保佐人・補助人・それぞれの監督人に限られる(同法10条)。取引の相手方は、請求できないから、本人側から後見の登記の記載がない旨の証明書をとってもらうことになる。[高橋康之・野澤正充]

狭義の後見

狭義の「後見」とは、成年後見制度における法定後見(後見・保佐・補助)の一つをさし、これら3類型のなかでは、もっとも精神上の障害の程度が重い者を対象に保護を図る制度である。家庭裁判所は「精神上の障害に因り事理を弁識する能力を欠く者」について、本人・配偶者・4親等内の親族など一定範囲の者の請求によって、後見開始の審判を行う(民法7条)。後見開始の審判を受けた者は、従来の「禁治産者」に相当し、成年被後見人とよばれる。後見開始の審判の際に、家庭裁判所は職権で成年後見人を選任する。成年後見人は、未成年後見人と違って1人でなくてもよく、また法人でも可能である。民法改正前には、夫婦の一方が禁治産の宣告を受けた場合には、他方が当然に後見人になるとされていたが、この原則は廃止された。成年被後見人の行為は、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」を除いて、つねに取り消すことができる(同法9条)。成年後見人は、成年被後見人の財産を管理し、また、法定代理人として、成年被後見人にかわって法律行為をする(同法859条)。成年後見人が成年被後見人を療養看護し、あるいはその財産を管理するにあたっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態と生活の状況に配慮しなければならない(同法858条)。家庭裁判所は、必要な場合には、成年後見監督人を選任することができる(民法849条の2)。その職務の内容などは、未成年後見監督人の場合と同じである。[高橋康之・野澤正充]

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