後見(能、歌舞伎、舞踊)(読み)こうけん

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

後見(能、歌舞伎、舞踊)
こうけん

能、歌舞伎(かぶき)、舞踊などで、舞台にいて演技者の演技進行を助ける役の者。

増田正造

能舞台では、主後見と副後見(1~2人)が左奥の鏡板(かがみいた)の前の後見座(こうけんざ)に正面を向いて正座する。歌舞伎の黒衣(くろご)と違い、本来は舞台監督的な職能であり、シテが舞台で倒れるなどの事故が生じた場合は、ただちにかわってその能を舞い継ぐ責務を負っている。そのためシテと同じ扇を懐中にして出る。シテの装束を舞台上で直したり、着けたり、作り物や小道具の扱いも後見の役である。単に作り物の出し入れだけを担当する助手的後見は「働(はたらき)」とよばれるが、『道成寺(どうじょうじ)』の鐘を落とすために別に出る鐘後見などはシテと同格の重さをもつ。ワキ方、囃子方(はやしかた)も必要に応じて後見を出すが、シテ方のように常時着座してはいない。

[増田正造]

歌舞伎・舞踊

演技中、舞台の後方に控えていて、演者の衣装を直したり、着替えを手伝ったり、引抜(ひきぬ)きを行ったりする。必要に応じて小道具を手渡し、不要になった小道具をかたづける仕事もする。蝶(ちょう)や鳥の差し金(さしがね)を使うこともある。紋服・袴(はかま)を着けたり、裃(かみしも)にかつらをつけて登場し、あくまで目につく存在であってはいけないが、黒衣と違って「登場する役者」の1人として認められる。歌舞伎舞踊の『鷺娘(さぎむすめ)』『道成寺』などの引抜やぶっ返りなどの演出には、格別に主演者と息のあった後見の技術が必要である。なお、「定後見(じょうごうけん)」といって、舞台下手の幕溜(まくだま)りに控えている役がある。これは、演者の不測の事故に備え、かつ演技をおのずと修得するための修業過程の意味がある。

服部幸雄

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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