環形動物(読み)カンケイドウブツ

デジタル大辞泉 「環形動物」の意味・読み・例文・類語

かんけい‐どうぶつ〔クワンケイ‐〕【環形動物】

動物界の一門。体形はひも状で多数の環節に分かれる。貧毛類ミミズ)・多毛類ゴカイ)・ヒル類などに分けられる。環節動物。環虫。
[類語]無脊椎動物原生動物原虫中生動物海綿動物腔腸動物刺胞動物有櫛ゆうしつ動物扁形動物紐形動物曲形動物袋形動物軟体動物有爪ゆうそう動物舌形動物節足動物星口動物触手動物毛顎動物有鬚ゆうしゅ動物半索動物棘皮動物

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精選版 日本国語大辞典 「環形動物」の意味・読み・例文・類語

かんけい‐どうぶつ クヮンケイ‥【環形動物】

〘名〙 動物分類の門の一つ。同様な体節の連続からなる同規的な体節構造をもち、左右相称、真体腔を有するなどの特徴をもつ。ミミズ、ヒル、ゴカイなどを含む。体は細長い円筒状で、蠕動(ぜんどう)運動をする。呼吸は体表や腸で行ない、雌雄異体のものと雌雄同体のものとがある。血管系は閉鎖血管系で、神経系としてはしご状神経系を有する。海、淡水または陸上にすむ。貧毛類、多毛類、ヒル類に分けられる。環節動物。体節動物。環虫類。

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改訂新版 世界大百科事典 「環形動物」の意味・わかりやすい解説

環形動物 (かんけいどうぶつ)

動物分類学上,環形動物門Annelidaに属する無脊椎動物の総称。ミミズ,ゴカイ,ヒルなどが含まれる。体は一般に円筒状で細長く,頭部と尾部のほかはほぼ同じような構造の体節が並んでいて,体内も節ごとに隔膜で仕切られている。環形動物にはそれぞれ外形が非常に異なる六つの綱が含まれており,とくに多毛綱では外形がよく分化しているためにさまざまな形のものが見られる。

 環形動物と軟体動物との幼生の形がよく似ているので両者は近縁なものと考えられてきたが,軟体動物で体に多少体節的構造が見られるネオピリナNeopilinaが発見され,環形動物と軟体動物とはネオピリナのような祖先から体節制が失われて貝殻が発達して軟体動物になり,他方では体節が発達して殻を失い環形動物になったと考えられるようになった。

 環形動物は多毛綱,貧毛綱,ヒル綱,吸口虫綱の4綱に分けられるが,これらの綱の間の類似点は比較的少ない。環形動物の系統については多毛類が進化の主流であって,最初にユムシ類(ユムシ動物門)が別な方向に進化し,多毛類の一部のものが退化,または分化が止まって原始環虫類(多毛綱ムカシゴカイ目)となり,そして一部は淡水へ,さらに一部のものが陸上に生活の場を広げていって貧毛類になり,その一部がヒル類に進化したものと考えられる。吸口虫類は多毛類のあるものが棘皮(きよくひ)動物に寄生または共生して変形したものと考えられる。この4綱のうちでは海産である多毛綱の種類がもっとも多い。環形動物は世界で1万4000種以上,日本にはそのうちの約1200種が知られている。

体は一般に多くの体節で構成されていて,各節とも形や大きさがほとんど同一のもの,体が2~3部分に分かれ,各部で体節の形態が異なるものがあり,また一つの体節がいくつかの環溝でくぎられているものもある。1個体の体節は多いものでは数百体節になるが,少ないものでは5体節のみというものもある。体節の数は大部分は個体の大きさによって変わるが,多毛類のカサネシリスは16節と定まっており,またヒル類では個体の大小,種類に関係なく34体節と決まっている。各体節の両側に多毛類ではいぼ足があり,それより多くの剛毛が生えているが,貧毛類ではいぼ足がなく,体壁から直接少数の剛毛が生えている。ヒル類ではこれらの剛毛もなくなり,吸盤が体の前後の腹面にある。

 体壁は外側の環状筋と内側の縦走筋からなるが,発達の程度は種類によって異なっている。この両者の中間に斜行筋が発達しているものもある。環状筋は表皮のすぐ内側にあって,体を太くしたり,細くするのに役だち,縦走筋は前後に走っていて体を伸縮するのに役だっている。この2種類の筋肉の伸縮といぼ足や体腔液などが組み合わさって運動が行われる。

感覚器官は一般に多毛類でよく発達している。

 前口葉には,感触手,副感触手や眼が見られる。また,いぼ足の上に触糸,乳頭突起,背鱗,触毛などがあって,体節上に繊毛帯をもつものもある。終生浮遊生活するウキゴカイ科の個体では眼がよく発達していて,レンズや網膜も備えている。しかし,貧毛類ではこのように外部に分化した感覚器はいっさいもっておらず,表皮中に埋没している受光細胞によって明暗を感じとっているにすぎない。

循環系は,基本的には消化管の背側を縦に走る1本の背行血管と腹側を縦に走る1本の腹行血管,この両者を横に結ぶ血管環,血管網などからなっている。背行血管または腹行血管の前方の一部が膨らんでいて,血液を送りだす役割をしている。

 貧毛類では体前方の消化管をとり巻く3対の側血管が太くなっていて一種の心臓の働きをしている。血液は一般にヘモグロビン呼吸色素をもっているので赤いが,なかにはクロロクルオリンを含んで緑色をしていることもある。閉鎖血管系をもたない多毛類やユムシ類の一部の種類では,体腔中の体腔液に血液が混在していて,ガス交換が行われる。呼吸作用は体表全体で行われるが,えらと呼ばれる特別な器官をもっているものもある。

大部分の多毛類や貧毛類の排出器官は腎管であって,細長い屈曲した管で体腔と外界とを結んでいる。体腔に開く口が腎口で,体外に開く口が外腎門である。腎口は漏斗状で繊毛が密生している。腎管は後方にのびて隔膜を突き抜け,次節の体腔内に入ってさらに複雑に屈曲し,体壁の外腎門に開いている。腎管は原則として多くの体節に規則的に存在するが,なかには数が減って前方の数節のみとか,あるいは完全に失われている場合もある。腎管は体腔内の老廃物を排出するばかりでなく,生殖細胞を体外に出すための生殖輸管の役目もしている。小型の種類とか原始的な種類では腎管よりも簡単な構造の原腎管をもっている。

神経系の主体は,体前端近くの背側にある脳とそれより後方にのびる腹神経索からなる。腹神経索は各体節ごとに神経節になっていて,体の側方へ向けて側神経がのびている。大型のミミズや多毛類のケヤリなどではそのほかに刺激の伝達や筋肉を急速に反応させることができる巨大神経繊維が見られる。

多毛類は一般に雌雄異体,貧毛類とヒル類は同一個体に雌雄両方の生殖器官をもった雌雄同体である。生殖には有性生殖と無性生殖があり,同一個体が両方の生殖を行う場合もある。雌雄同体のものも一般に他家受精を行う。雌雄異体の個体で雌雄の差がはっきりしないものと,明りょうなものとがある。貧毛類やヒル類では成熟期になると体前方の数節が融合して環帯ができ,ここから粘液を分泌して卵を包み,卵包をつくる。卵包内で発生がすすみ,子虫になって孵化(ふか)する。

環形動物は次の4綱に分けられる。(1)多毛綱 オニイソメのように体長1.5mになるものから,シリス科の体長5mmほどのものまで,大きさや外形は多種多様である。各体節のいぼ足には各種の剛毛を備えている。大部分のものは砂泥中にすむが,一部のものは棲管をつくって他物に付着したり,浮遊生活をする種類もある。大部分は海産。ウロコムシウミケムシシリスゴカイチロリイソメツバサゴカイケヤリなどを含む。原始環虫類は体の構造が原始的な群で,小型のものが多い。大部分が海岸の砂の中など有機物の多い場所にすむが,泉や地下水などからも知られている。(2)貧毛綱 体側にはいぼ足がなく,体壁より直接少数の剛毛が生ずる。触手や眼点などはない。雌雄同体。淡水,陸産のものが大部分で,オーストラリアには体長3mになるものがある。ミミズの仲間。(3)ヒル綱 体の大小や種類に関係なく,すべて34節からなっている。いぼ足や剛毛はなく,体の前後にそれぞれ吸盤がある。雌雄同体。海,淡水中,陸上にと生活範囲が広く,吸血するものや肉食のものがある。ヒル類。(4)吸口虫綱 体は円盤状で,棘皮動物の体上で寄生生活する。海産のみ。スイクチムシ類。
執筆者:

環形動物で産出化石のもっとも多いものは多毛類で,化石として保存されるのは,大部分が体の硬質部のあご,歯,外側の管および生痕化石である。これらの化石は分類上の位置が不明りょうなため,古生物学では環虫類wormsという術語を使う場合がある。アメリカや南オーストラリアの原生代末期と推定される地層からは,環形動物によると思われるはい跡や巣穴が発見されており,また各地のカンブリア系からはある種の環形動物の体と管が,またオルドビス系からはあごや環虫歯scolecodontが発見されている。環虫歯は,顕微鏡的であるが,地層の1ft3(約0.028m3)から約1000個の変化に富むものが知られている例もある。オルドビス系やそれ以降の海成層からは多くの種類の環形動物化石が発見されているが,ときには淡水層からも報告されている。B.F.ハウエル(1962)によると,環虫類の4属がカンブリア系から,65属がオルドビス系から,54属がデボン系から,29属が石炭系から,18属が二畳系から,22属が三畳系から,23属がジュラ系から,35属が白亜系から,43属が新生界から報告されている。日本から知られている環形動物の化石は,主として生痕化石のはい跡,巣穴,排出物であるが,そのほか管および体化石も知られている。近年,多数の生痕化石が報告(甲藤次郎,1960-80)されている四国の四万十帯(白亜系~第三系)のフリッシュ相産の一例を示すと,この生痕化石は,多毛類(ゴカイ科)によるクイアルキアトのネレイテス・トサエンシスNereites tosaensisであって,地層下面に突出した細長くのびた形をしており,大きい場合は幅約17mm,高さ約6mm,長さ1.8mを超すものもあるが,いずれも中央を縦に走る溝と両側方に多数のリボン状でやや丸みのある方形の出っ張りをもっている。それらの化石中にはNereitesの体部そのものが埋没し,腐敗していった過程を示す堆積構造の見られる場合もある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「環形動物」の意味・わかりやすい解説

環形動物
かんけいどうぶつ

動物分類学上の1門Annelidaを構成するゴカイやミミズを含む動物群。一般に細長い円筒状の動物群で、門の名はラテン語のannulus(環という意味)に由来する。海産が主であるが、淡水や陸上にも広く分布していて世界で約7700種が知られている。

[今島 実]

形態

体は左右相称で、ほぼ同じ大きさの体節に分かれ、体内も節ごとに薄い膜の隔膜で仕切られていて、体腔(たいこう)をもった一つの室になっている。しかし、なかには体内に隔膜がなく、一つの広い室になっているものもあるが、これは発生の過程で退化したものである。環形動物のうち、外形がもっともよく分化したのは多毛類であって、頭部に触手、目、感触器などが発達し、体側には種類によってそれぞれ特有な形のいぼ足がある。しかし、貧毛類やヒル類では触手やいぼ足もなく、貧毛類では体壁から直接剛毛が生じ、ヒル類では剛毛もなくなり、かわりに体の両端に吸盤をもっている。

 体表はキチン質の薄い膜で覆われ、腺(せん)細胞がよく発達している。体壁は二重の筋肉層になっていて、外側には環状筋が取り巻き、内側に縦走筋が縦に走っている。体内の中央には口から肛門(こうもん)に続く消化管が直走しているが、これにはいろいろな器官が付属し、とくにヒル類では吸った血を一時蓄える盲嚢(もうのう)が数対ついている。多毛類では咽頭(いんとう)にキチン質のあごや歯があって、食物を挟んで食道内に送り込む働きをし、ヒルのうちあごをもつものは相手の皮膚に傷をつける。咽頭に続いて貧毛類では嗉嚢(そのう)や砂嚢があり、ここでよく食物を擦り砕いている。

 血管系は閉鎖血管系で、消化管の背側に背行血管、腹側に腹行血管が走って、両血管の間を体節ごとに体壁や内臓に側枝を送っている。血液は背行血管から体壁やいぼ足を通り、腹行血管に移って体の後方へいき、腹行血管から腸壁を通って背行血管へ移り、体前方へ向かって流れる。貧毛類では体前方の3対の環状管が太くなっていて、拍動して血液を送り出している。血液はヘモグロビンを溶解しているために赤いが、種類によっては緑色や無色の血液もある。呼吸は一般に皮膚呼吸のものが多いが、エラミミズウミエラビルなどのほか多くの多毛類ではそれぞれ独特な形のえらをもっている。

 神経系は頭部にある1対の脳神経節から1対の腹側神経索(腹髄)が伸びて腹側正中線を走り、各体節ごとに神経節があって、いわゆる梯子状神経系(はしごじょうしんけいけい)を形づくっている。

 体腔内にたまった老廃物は細長い管状の腎管(じんかん)によって体外に排出している。腎管は原則として各節に左右1対あるが、実際にはその数が減って特定の体節にしかない場合が多い。腎管の口は前の体節内にあって老廃物を集め、隔膜を突き抜けて次の体節の腹面から体外に排出している。感覚器官は多毛類でとくに発達しているが、貧毛類では種々の感覚細胞が表皮中に散布していて、特別な感覚器をつくらない。

[今島 実]

生殖法

雌雄異体または雌雄同体で、一般に原始環虫類、多毛類、ユムシ類は雌雄異体で、貧毛類とヒル類は雌雄同体である。貧毛類とヒル類では生殖時期になると体前方の数節が融合して太くなり、環帯をつくる。卵は等黄卵か端黄卵で通常螺旋(らせん)分割を行う。原始環虫類、多毛類、ユムシ類は受精卵からトロコフォラ幼生(担輪子(たんりんし)幼生)となって一時海中を浮遊したのち、変態して底生生活に移り成体になる。一方、貧毛類とヒル類では受精卵から変態せずに直接成体になる直接発生を行う。また、体の一部から多くの芽を出して成長し、やがて親から離れてゆくという無性生殖も行う。

[今島 実]

分類

環形動物は分類学上、次の六つの綱に分けられる。

(1)原始環虫類 小形の種類が多く、原始的な体制をしている。大部分の種が海岸の砂の中にすむが、湖や地下水にすむものもある。世界に約90種が知られている。

(2)多毛類 環形動物のうちもっとも種類が多く、ほとんどが海産。体長5ミリメートルから1.5メートルになるものがあり、大部分は泥や砂の中にすむが、他物に付着したり、一生の間浮遊生活するものもある。世界に約4000種が知られている。

(3)貧毛類 いわゆるミミズ類で、大形のものは陸上に、小形のものは淡水にすみ、ほかの動物に寄生するものもある。ほとんどの種類は触手やいぼ足がなく、少数の剛毛をもつのみである。世界に約3100種が知られている。

(4)ヒル類 体は大小や種類に関係なく、環節が34節と決まっていて、前部と後部に吸盤がある。陸上、淡水、海に広く分布している。世界に約300種が知られている。

(5)ユムシ類 体の前方には体内に引き込まない吻(ふん)があり、これを海底の上をはわして餌(えさ)をとる。体の外部にも内部にも体節がないが、発生の途中では体節構造がみられる。すべて海産。世界に約70種が知られている。

(6)吸口虫類 体は円盤状で、表面は平滑、腹側には5対のいぼ足が縦に並んで、その間に4対の吸盤状の側器官がある。棘皮(きょくひ)動物のウミユリ類の体表や体内に共生または寄生生活する。世界に約130種が知られている。

[今島 実]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「環形動物」の意味・わかりやすい解説

環形動物
かんけいどうぶつ
Annelida

環形動物門に属する動物の総称で,ゴカイ,ミミズ,ヒル類などを含む。体は細長く,多くの環状になった体節から成る。頭部 (口前葉) に続いて体腔をもった体節が続き,最後は肛門が開いている。体表は腺細胞がよく発達し,通常クチクラでおおわれる。消化管は口から肛門に直通し,その背腹側を通る2本の血管を中心とした閉鎖血管系がある。神経系は腹側を走り,各体節に神経節をもつ,いわゆる梯子形神経系をもつものが多い。環状筋,縦走筋,背腹筋などがよく発達する。海産のものはトロコフォラをもつが,陸生,淡水産のものは直接発生を行う。原始環虫類,多毛類貧毛類ヒル類,ユムシ類に大別され,世界に約 7000種が知られている。

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百科事典マイペディア 「環形動物」の意味・わかりやすい解説

環形動物【かんけいどうぶつ】

無脊椎動物の一門。体は左右相称で細長く,多くの体節からなる。表皮の上はクチクラ層でおおわれる。体節ごとに体腔があり,はしご形神経系,閉鎖血管系をもつ。多毛類(ゴカイ),貧毛類(ミミズ),ヒル類,ユムシ類などに分けられ,ミミズ,ヒル類は雌雄同体,他は異体である。

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