[1] 〘名〙
① よろい。転じて、兜(かぶと)。〔新訳華厳経音義私記(794)〕〔孟子‐梁恵王・上〕
② 表面の堅い部分。
(イ) 亀(かめ)、蟹(かに)などの体の外部をおおっている堅い殻。こうら。〔十巻本和名抄(934頃)〕
※古今六帖(976‐987頃)三「古川の底のこひぢにありと聞く亀のこふとも知らせてしかな」 〔大戴礼記‐易本命〕
※洒落本・青楼昼之世界錦之裏(1791)「此笄(かんざし)はこんだ挽(ひか)せやしたが、とんだ甲(コウ)がいいから、取てをきなされませんか」
(ハ) 手足の爪。また、爪の形をしたもの。〔二十巻本和名抄(934頃)〕〔管子‐四時〕
(ニ) 手足の外表面。手の甲。足の甲。
※龍光院本妙法蓮華経平安後期点(1050頃)四「若し大地を以て足の甲(コフ)の上に置きて、梵天に昇らむも」
(ホ) 頭の骨。頭蓋骨。〔説文解字‐巻一四下・甲部〕
(ヘ) 木の節。
※観智院本三宝絵(984)下「僧供は鉢、〈略〉きのこふにうけ帯袋にいる」
※平家(13C前)七「こうは紫藤のこう、〈略〉有明の月の出づるを撥面(ばちめん)にかかれたりけるゆゑにこそ」
④ 冠の磯(いそ)の上の広く平らな部分。
※武家装束抄(1761)三(古事類苑・服飾二一)「一冠の前巾子と甲との間に横に引わたせるをあげ緒といふ」
⑤ 下駄の台。
※随筆・
守貞漫稿(1837‐53)二七「下駄の台或は甲と云桐製を専とし」
⑥ 十干(じっかん)の第一番目。転じて物事の等級などを表わすのに用いる。
(イ) 十干の第一番目。きのえ。
※史記抄(1477)三「剛日は甲丙戊庚壬也」 〔易経‐蠱卦〕
(ロ) 物事の等級の第一位。最もすぐれていること。
※
明衡往来(11C中か)中本「嵯峨野亭。其地勝絶。甲
二於城外之山庄
一」
※滑稽本・八笑人(1820‐49)初「上下(うへした)ひっくるめて甲乙なしのドロビイ」 〔戦国策‐魏策〕
(ハ) 二つ以上の事物をさす時、その一つの名に代えて用いる記号。
※令義解(833)軍防「甲斬レ首五級。乙三級。丙四級」 〔史記‐万石君伝〕
(ニ) 邦楽で高音をいう。かん。
※
太平記(14C後)二一「真都
(しんいち)三重の甲
(カウ)を上ぐれば、覚一
(かくいち)初重の乙に収めて」
⑦ (形動) 強く勇猛なこと。また、そのさま。剛勇。
※
吾妻鏡‐文治元年(1185)四月一五日「度々合戦に心は甲にて有は」
※平家(13C前)八「きこゆる甲の者、大ぢから也ければ」
[補注]字音は「カフ」であるが、(一)②の亀の甲、爪の甲などの場合は、「和名抄」に見えるように古くから「コフ」といったようである。「観智院本名義抄」「色葉字類抄」にも「コフ」とある。