長崎県の五島列島(ごとうれっとう)、平戸島(ひらどしま)、北松浦半島(きたまつうらはんとう)の西部海岸および九十九島(くじゅうくしま)を含む大小400余の島々からなる国立公園で、海洋美を誇る。1955年(昭和30)指定。総面積246.46平方キロメートル。
西海の島々は古くから大陸との交流が行われ、庇羅(ひら)島(平戸島)、相子田(あいこのた)(南松浦郡新上五島(しんかみごとう)町青方(あおかた)港)、橘(たちばな)浦(新上五島町三日ノ浦(みかのうら))、川原(かわら)浦(五島市白石湾)、美弥良久(みみらく)(五島市柏(かしわ)港)などは遣唐使の寄港地であり、西の高野(こうや)とよばれる大宝(だいほう)寺(五島市)は空海(弘法(こうぼう)大師)の、芦浦(あしのうら)(平戸市)は栄西(えいさい)の上陸地点として知られる。日蘭貿易(にちらんぼうえき)の史跡には、オランダ商館跡、オランダ埠頭(ふとう)、オランダ塀、オランダ井戸、幸(さいわい)橋、常灯(じょうとう)ノ鼻などが、松浦(まつら)氏の城下町平戸にあって平戸(亀岡(かめおか))城とともに平戸観光の中心をなしている。中世に広まったキリシタンは、西海の島々に潜伏し、現在は天主堂をもつカトリック集落が散在し、異国情緒が色濃く残っている。西海を拠点として東シナ海一帯を荒らした倭寇(わこう)に関連する史跡も多く、六角井戸(五島市)、勘次(かんじ)ヶ城(五島市)や鄭成功(ていせいこう)誕生地(平戸市千里ヶ浜)などが分布する。チャンココ(五島市)、オーモンデー(嵯峨(さが)ノ島)、ジャンガラ(平戸市)などの念仏踊が、国や県の無形民俗文化財に指定されている。
西海の自然景観の特性は、リアス海岸の海洋美に集約されるが、若松瀬戸や九十九島ではとくに著しい溺(おぼ)れ谷(だに)で、その多島海の景観は日本随一であり、波静かな入り江には、真珠やハマチ、タイなどの養殖の筏(いかだ)が優れた自然美に点景を添えている。これらの展望所としては、竜観(りゅうかん)山、三王(さんのう)山(雄岳(おすだけ))、弓張(ゆみはり)岳、石岳、冷水(ひやみず)岳などがあげられる。ついで、東シナ海の波濤(はとう)がまともに打ち寄せる岩石海岸の勇壮な景観があげられる。高さ130メートルに及ぶ嵯峨ノ島の断崖(だんがい)や、100メートルの断崖が延々20キロメートルにわたって連なる大瀬崎(福江(ふくえ)島)の海食崖がそれである。火山地形にも特異なものがあり、京ノ岳はアスピーテの完全な形態を示す点では、日本唯一のもので、鬼岳(おんだけ)、箕(み)岳や上五島の曽根(そね)火山は典型的なホマーテ火山であり、小値賀(おぢか)島は、小さな火山砕屑丘(さいせつきゅう)が十数個集合してできた火山島である。対馬(つしま)暖流に洗われる島々は照葉樹林が多く、亜熱帯植物の群生もみられ、阿値賀(あじか)島(平戸市)は島全体の原始性によって国の天然記念物(天然保護区域)に指定され、ほかにも黒子(くろこ)島原始林(平戸市)、奈留島権現山樹叢(なるしまごんげんやまじゅそう)(五島市)、奈良尾(ならお)のアコウ(新上五島町)などが国の天然記念物である。
西海の特色ある産業景観としては、原初的耕作を示すものといわれる円畑(まるばた)(丸い畑)が五島市に広範囲に分布し、また島々には牧牛景観がみられ、島牛(五島ウシ、小値賀ウシ、宇久ウシ、平戸ウシ)の名がある。
交通路は福岡空港、長崎空港から福江空港への空路のほか、長崎港、佐世保(させぼ)港、博多港から各地への航路がある。九十九島へは、鹿子前(かしまえ)(佐世保市)、西海橋および平戸港から観光船が出航、平戸島と本土との間には平戸大橋が架けられている。
[石井泰義]
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