盂蘭盆会(うらぼんえ)にあたり8月13日のころに精霊(先祖)を迎えるためにたく火のこと。盂蘭盆会が夜の行事であったところから起こった風習である。兵庫県西宮市では11日に稲架の足に麦わらを固く結び,それに火をつけて〈ソンジョサンのお迎え〉といって墓まで行ったという。このような墓へ迎えに行く例は東京の北多摩などにもある。長野県では13日の晩に墓地と家の門前でカバの木の皮または麦稈豆がらをたいている。この火を仏壇の灯明にするのは伊勢(三重県)である。滋賀県大津市の旧志賀町北小松では寺の火を迎えてこれをお盆の期間中お守りをする。火にのって祖先が帰ってくると考えるのである。徳島県板野郡では水棚の前で〈ご先祖さん〉〈神さん〉〈がき仏さん〉のために肥松(こえまつ)をそれぞれに燃やす。
なお,フクマルヨビといって,大晦日の真夜中に四つ辻まで出かけて行き,そこで火をたきフクマルコッコと呼んで黄金のくそをするフクマル犬を迎える行事が奈良県の山中から伊賀(三重県)にかけて分布している。これも迎え火である。
執筆者:田中 久夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
客人や神霊を迎えるために焚(た)く火。神迎え、婚礼、葬式などの機会に広く用いられるが、盆の精霊(しょうろ)迎えに焚く火をいう場合が多い。盆の迎え火は、新盆の家では7月1日や7日から焚き始めるが、13日か14日に焚くのが一般である。家の門口や辻(つじ)で麻幹(おがら)や麦藁(むぎわら)を焚いたり、墓から家までの道に樺(かば)皮を割竹につけて立てておき、順に火をつけてきたりする。この明かりを目標にして家に帰ってきてくださいという意味の唱え言をいい、先祖様を家に迎えるための道案内にしている。秋田の竿灯(かんとう)、京都その他の大文字焼や鳥居火、各地の揚(あ)げ松明(たいまつ)や柱松(はしらまつ)の行事なども、盆の迎え火が華麗に発展し、送り火に転換したものである。
[井之口章次]
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