野火(読み)ノビ

デジタル大辞泉 「野火」の意味・読み・例文・類語

の‐び【野火】

春の初めに野原などの枯れ草を焼く火。野焼きの火。 春》
野山の不審火。また、野の火事。
「―ほのほ盛りにして」〈太平記・二五〉
[補説]書名別項。→野火
[類語]ほのおほむら火炎かえん光炎こうえん紅炎こうえん火柱ひばしら火先ほさき火の気火気種火火種口火発火点火着火火付き火加減火持ち残り火おき燠火おきび埋み火炭火火の粉火花火玉花火焚き火迎え火送り火

のび【野火】[書名]

大岡昇平長編小説。昭和27年(1952)刊行太平洋戦争末期のレイテ島を舞台に、病兵として部隊を追われた主人公の、極限状態の狂気を描く。第3回読売文学賞小説賞受賞。昭和34年(1959)市川崑監督により映画化

や‐か〔‐クワ〕【野火】

野を焼く火。のび。〈日葡
野を飛ぶ火。鬼火。
「月ともなく星ともなく、一団の―あらはれ出で」〈浄・栬狩剣本地

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精選版 日本国語大辞典 「野火」の意味・読み・例文・類語

の‐び【野火】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 春の初めに、野山の枯草を焼く火。《 季語・春 》
      1. [初出の実例]「立ち向ふ 高円山に 春野焼く 野火(のび)と見るまで もゆる火を」(出典:万葉集(8C後)二・二三〇)
    2. 野山の不審火。また、野の火事。
      1. [初出の実例]「燎原(ノビ)(ほのほ)盛りにして、遁るべき方も無」(出典:太平記(14C後)二五)
    3. 中部地方以西で盆の精霊の送迎に燃やす火。
  2. [ 2 ] 長編小説。大岡昇平著。昭和二六年(一九五一)発表、同二七年刊。第二次世界大戦のフィリピン戦線における敗兵の体験を、復員兵の手記の形で描く。戦火に荒廃する精神の限界を追求し、人間における神の問題をテーマとする。

や‐か‥クヮ【野火】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 野を焼く火。のび。また、野で燃やす火。
    1. [初出の実例]「雉の子をうみてあたたむる時、野火(ヤクヮ)にあひぬれば」(出典:発心集(1216頃か)五)
    2. [その他の文献]〔戦国策‐楚策・宣王〕
  3. 野を飛ぶ怪火。野で火のように燃える怪しい光。鬼火。
    1. [初出の実例]「月共なく星共なく、一団の野火(ヤクハ)顕れ出」(出典:浄瑠璃・栬狩剣本地(1714)四)
    2. [その他の文献]〔列子‐天瑞〕

ぬ‐び【野火】

  1. 〘 名詞 〙 ( →ぬ(野) ) ⇒のび(野火)[ 一 ]

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普及版 字通 「野火」の読み・字形・画数・意味

【野火】やか(くわ)

のび。白居易〔賦し得たり、吉原の草。別〕詩 離離たる原上の 一に一たび枯榮す 野火、燒けども盡きず 春風、吹いて生ず

字通「野」の項目を見る

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「野火」の意味・わかりやすい解説

野火
のび

大岡昇平の戦争文学前半の部分がまず『文体』の1948年(昭和23)12月号と49年7月号に発表され、それに手を加えて『展望』の51年1~8月号に連載。52年創元社刊。作者がレイテ島の捕虜生活中に捕虜仲間から聞いた体験談に基づいて状況を設定し、そのなかに『捉(つか)まるまで』の主人公と同じような自意識の強い病兵を投じ、日本軍から追放された孤独な極限状況のなかで人肉食や神の問題に直面させてみた実験小説。虚無の眼(め)を根底とする想像力によって、死の予感を抱きつつ熱帯の自然に陶酔する姿や、その自然の背後に潜む敵意におびえながら、執拗(しつよう)に自己点検を繰り返す意識の緊張を描きだした、緊迫感の高い戦後文学史上の秀作。

亀井秀雄

『『野火』(旺文社文庫・角川文庫・講談社文庫・集英社文庫・新潮文庫)』

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デジタル大辞泉プラス 「野火」の解説

野火

①大岡昇平の小説。第二次世界大戦末期のフィリピン、レイテ島を舞台に、敗走する日本軍兵士の彷徨と極限状態における人間の狂気を描く。1952年刊行。第3回読売文学賞(小説賞)受賞。
②1959年公開の日本映画。①を原作とする。監督:市川崑、脚色:和田夏十、撮影:小林節雄。出演:船越英二ミッキー・カーチス、月田昌也、杉田康、浜口喜博、滝沢修、山茶花究ほか。第10回ブルーリボン賞監督賞、撮影賞受賞。第14回毎日映画コンクール男優主演賞(船越英二)受賞。
③2015年の日本映画。①を原作とする。監督:塚本晋也、出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也ほか。第70回毎日映画コンクールで監督賞、男優主演賞(いずれも塚本晋也)受賞。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「野火」の意味・わかりやすい解説

野火
のび

大岡昇平の小説。 1951年発表。狂った復員兵の手記の形をとり,第2次世界大戦末期のレイテ島を舞台に,敗走する兵士の彷徨を描き,飢えの極限における人肉食いを主題とする。精神と肉体,神と狂気の問題を見すえた戦争文学の代表作。

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世界大百科事典(旧版)内の野火の言及

【火事】より

…火事とは,建造物,山林・原野,輸送用機器等が放火を含め意図せざる原因によって燃え,自力で拡大していく状態にあるものをいうが,人間にとって有用なものが被災するという点からは,火災と呼ぶ。《消防白書》(消防庁編)は,火災を燃焼対象物により,建物火災,林野火災,車両火災,船舶火災,航空機火災およびその他火災(空地・土手などの枯草,看板などの火災)に分類する。このうち近年の出火件数では建物火災が毎年60%以上を占めている。…

【大岡昇平】より

…1944年一兵士として応召出征,45年1月フィリピン戦線でアメリカ軍の捕虜となった。48年この経験を書いた短編《俘虜記(ふりよき)》(合本《俘虜記》では《捉(つか)まるまで》と改題)で文壇に登場,次いで禁欲的な恋愛小説《武蔵野夫人》(1950),敗軍下の戦場での神と人肉食の問題を取りあげた《野火》(1951)を発表,戦後文学を代表する作家の一人となった。その後は評伝《朝の歌――中原中也伝》(1958),《富永太郎の手紙》(1958‐60)で自己の青春に強い影響を及ぼした詩人たちの生涯を確かめ,また《花影》(1958‐59)で無垢な女性の死を描くなど,孤独な人間の生を追求していたが,60年代に入って敗軍の将を主人公とした歴史小説《天誅組》(1963‐64),《将門記》(1965)を発表,続いて大作《レイテ戦記》(1971)を完成した。…

※「野火」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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