退(読み)タイ

デジタル大辞泉の解説

たい【退】[漢字項目]

[音]タイ(呉)(漢) [訓]しりぞく しりぞける すさる しさる のく ひく
学習漢字]6年
後ろに下がる。しりぞく。しりぞける。「退却退陣退避撃退後退辞退撤退敗退
身を置いていた場所や地位から去る。「退位退院退学退官退席退庁引退早退脱退勇退
勢いが弱まり衰える。「退化退屈減退衰退
(「」の代用字)くずれる。「退勢退廃
(「褪」の代用字)色があせる。「退色
[名のり]のき

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精選版 日本国語大辞典の解説

し‐さ・る【退】

〘自ラ四〙 (後世「しざる」とも) 前を向いたままでうしろにさがる。あとずさりする。すさる。
※歌仙本兼輔集(933頃)「陸奥の白河越て相逢ひつしさるしさるもゆけど遙けき」
※平家(13C前)一二「ぬりごめの内へしざりいらむとし給へば」
※星座(1922)〈有島武郎〉「少し座をしざった」

し‐ぞ・く【退】

[1] 〘自カ四〙 後方にひきさがる。うしろにさがる。しりぞく。
※地蔵十輪経元慶七年点(883)八「諸の阿素洛驚き怖き退(しソキ)(あか)れぬといふがごとし」
※枕(10C終)二七八「まづ、しりなるこそは、などいふほどに、それもおなじ心にや、しぞかせ給へ。かたじけなしなどいふ」
[2] 〘他カ四〙 遠ざける。追いはらう。しりぞける。
※彌勒上生経賛平安初期点(850頃)「仏を去(シソキ)て時遙かに、病重く行(か)けたれば」

しり‐ぞ・く【退】

(後方の意の「しり」に、離れるの意の「そく」が付いたものという)
[1] 〘自カ五(四)〙
① あとへひく。ひきさがる。後ろへのく。しぞく。
※書紀(720)孝徳即位前(北野本訓)「是に於いて、古人の大兄、座(しきゐ)を避りて逡巡(シリソキ)て手を拱(つくり)て辞(いな)び曰く」
※源氏(1001‐14頃)葵「人々はしりぞきつつさふらへばより給て、などかくいぶせき御もてなしぞ」
② その場を離れて出て行く。かえる。退出する。特に、貴人・目上の人などの前から退出するのをいう。「二回戦で退く」
※立本寺本法華経寛治元年点(1087)一「坐より起ちて、仏を礼して退(シリソキ)ぬ」
③ 隠退する。今までの官職や職業をやめたり、地位や社会から身をひいたりする。
※徒然草(1331頃)一三四「つたなきをしらばなんぞやがてしりぞかざる」
④ へりくだる。けんそんする。ひかえめにする。
※源氏(1001‐14頃)明石「しりぞきて咎なしとこそ昔賢しき人も言ひ置きけれ」
⑤ ものごとの勢いが弱まったりなくなったりする。
※濹東綺譚(1937)〈永井荷風〉九「九月も半ちかくなったが残暑はすこしも退(シリゾ)かぬ」
⑥ (他動詞的に用いて) しりぞける。遠ざける。
※こんてむつすむん地(1610)一「又みもなきよろこびをしりぞき、はつとのしたに六こんをよくおさめまもるべし」
[2] 〘他カ下二〙 ⇒しりぞける(退)

すさ・る【退】

〘自ラ五(四)〙 (「すざる」とも) ひきしりぞく。後ろにさがる。しさる。〔名語記(1275)〕
※高野聖(1900)〈泉鏡花〉一〇「私(わし)は一足退(スサ)ったが」
※大塩平八郎(1914)〈森鴎外〉八「一手のものが悉く跡へ跡へとすざるので」

そき【退】

〘名〙 (動詞「そく(退)」の連用形の名詞化) 遠く離れること。また、遠くへだたった所。
※万葉(8C後)六・九七一「筑紫に至り 山の曾伎(ソキ) 野の衣寸(そき)見よと 伴の部を 班(あか)ち遣し」

そ・く【退】

[1] 〘自カ四〙 遠く離れる。遠ざかる。しりぞく。のく。
※古事記(712)下・歌謡「大和へに 西風(にし)吹き上げて 雲離れ 曾岐(ソキ)居りとも 我忘れめや」
[2] 〘他カ下二〙 離す。遠ざける。しりぞかせる。取り去る。
※万葉(8C後)一四・三四七九「安可見山草根刈り曾気(ソケ)逢はすがへ争ふ妹しあやに愛(かな)しも」

たい‐・す【退】

〘自他サ変〙 しりぞかせる。のかせる。また、しりぞく。のく。あとにさがる。
※今昔(1120頃か)五「終に此の苦行を以て无上菩提心を不退(たい)せじ」
※妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)五「顛倒せず、動ぜず、退(タイ)せず、転ぜず」

どか・す【退】

〘他サ五(四)〙 ある物を他の方に移す。邪魔なものを取り去る。のかす。
※落語・汲立て(1897)〈四代目橘家円蔵〉「三味線となれば師匠が本箱を避(ドカ)して仕舞って」

ど・く【退】

[1] 〘自カ五(四)〙 その場を離れる。そこから他の場所に移る。しりぞく。のく。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「湯水を遣ふのだものを、かかるが悪くば遠くへ退居(ドイて)るがいい」
[2] 〘他カ下二〙 ⇒どける(退)

ど・ける【退】

〘他カ下一〙 ど・く 〘他カ下二〙 その場から離れさせる。他の場所に移す。のける。
※滑稽本・続膝栗毛(1810‐22)一一「正月のかざり藁アどけておいて釣瓶縄にするし」

のか・す【退】

[1] 〘他サ五(四)〙 ある場所から動かして、他に移す。のける。
※虎明本狂言・牛馬(室町末‐近世初)「『それがしをのけうよりも、そちがのけ』『いでのかしてみせう』」
[2] 〘自サ五(四)〙 …し終わる。…し果てる。多く、動詞の連用形に「て」の付いた語に接続して、補助動詞のように用いる。
※浮世草子・風流曲三味線(1706)一「内方へ立帰りの約束忘れて、つひ寝て退(ノ)かし」

の・く【退】

[1] 〘自カ五(四)〙
[一] その位置・立場から離れ去る。また、位置をへだてる。
① 今までいた場所から離れ去る。どく。たちのく。
※源氏(1001‐14頃)手習「つつみもあへず、物ぐるはしきまでけはひもきこえぬべければ、のきぬ」
② 距離をおく。場所が離れる。
※狭衣物語(1069‐77頃か)四「居給べき所と見ゆるは、寺よりは少しのきてぞありける」
③ 逃げる。退却する。
※平家(13C前)一一「渚(なぎさ)に百騎ばかりありける物ども、しばしもこらへず、二町ばかりざっと引いてぞのきにける」
④ 地位を離れる。
※大鏡(12C前)二「一条院くらゐにつかせ給しかば、よそ人にて、関白のかせたまひにき」
⑤ 関係がなくなる。縁が切れる。離縁する。また、「のいた」の形で、関係がない、無縁だの意で用いる。→のいた仲
※源氏(1001‐14頃)浮舟「この宮の御具にては、いと良きあはひなりと、思も譲りつべく、のく心ちし給へど」
⑥ ついていたものが離れる。取れる。
※虎寛本狂言・呂蓮(室町末‐近世初)「エイ。申(まうし)申、何と御草臥はのきましてござるか」
⑦ 売れてかたづく。売りさばかれる。
※天理本狂言・伯母が酒(室町末‐近世初)「して『此間は、なにかとして、みまいまらせぬと云て、さけは、のきまらするかと云』女『ようのくと云』」
[二] 補助動詞。動詞の連用形に「て」の付いた形に付いて、「…てしまう」の意を表わす。
※中華若木詩抄(1520頃)下「春は三春とて、九十日を、三にわけた也。三分の春が、二春は塵となりてのくる也」
[2] 〘他カ四〙
① (除) 除く。他と区別する。「いとのきて」の形で、慣用句的に用いられる。→いと(最)のきて
② (遺) 残す。
※仏足石歌(753頃)「いかなるや人に坐(いま)せか 石の上を 土と踏みなし足跡(あと)乃祁(ノケ)るらむ 貴くもあるか」
[3] 〘他カ下二〙 ⇒のける(退)

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