〘他サ五(四)〙
① 日時、年月が移って行くのに任せる。時を経過させる。すぐす。
※竹取(9C末‐10C初)「さきざきも申さんとおもひしかども、必ず心まどはし給はん物ぞと思ひて、今まですごし侍りつる也」
※堤中納言(11C中‐13C頃)はいずみ「ここなる人のわづらひければ折あしかるべし。〈略〉このほどをすごして迎へ奉らむ」
② この世に生きて暮らす。また、生計を立てる。すぐす。
※源氏(1001‐14頃)若紫「夕暮となれば、いみじくくし給へば、かくてはいかですごし給はむと泣く」
※日葡辞書(1603‐04)「イノチヲ sugosu(スゴス)〈訳〉生活をする」
③ 生活のめんどうをみる。養う。すぐす。
※御伽草子・蛤の草紙(室町末)「よろづの営みをして母をすごさんために」
※浮世草子・日本永代蔵(1688)六「壱人のはたらきにて大勢をすごすは、町人にても大かたならぬ出世」
④ そばを通過させる。通り過ぎるのを待つ。やりすごす。すぐす。
※宇治拾遺(1221頃)一一「さきに出たれば、すこしたてて、太刀をぬきて打ければ」
⑤ そのままにしておく。うちすてておく。すぐす。
※万葉(8C後)一四・三五六四「小菅ろの浦吹く風の何(あ)ど為為(すす)か愛(かな)しけ児ろを思ひ須吾左(スゴサ)む」
※夜の寝覚(1045‐68頃)一「ふりはなれてながめ侍つる月影のすごしがたさを、折うれしう」
⑥ 盛りの時期を過ぎさせる。また、人が年をとる。すぐす。
※増鏡(1368‐76頃)一三「久我の少将通宣、いたくすごしたる程にて、ひげがちにねび給へるかたちして」
⑦ 物事の終わるのを待つ。また、物事をすませる。すぐす。
※蜻蛉(974頃)中「えさらず思ふべき産屋のこともあるを、これすごすべしと思ひて」
⑧ 適当な度合を超えさせる。動詞の連用形に付けて用いることが多い。すぐす。
※夜の寝覚(1045‐68頃)二「日たくるまで御殿籠りすこしたれば、人目もいとやすし」
※少年行(1907)〈中村星湖〉一六「勉強を過して体を壊すなとか」
⑨ 特に、酒を過度に飲む。また、単に酒を飲む。
※仮名草子・身の鏡(1659)中「上戸の曲として、かならずすごすと見えたり」
⑩ 過失を犯す。すぐす。
※
極楽寺殿御消息(13C中)第九三条「すこしたる事にてもあれ、又ふりょの事にてもあれ、なげかしき事のいできたらんをも」
※幸若・景清(寛永版)(室町末‐近世初)「それがしがすごしたるとがはなけれども」
[語誌](1)上代では「すぐす」が普通で、「すごす」は⑤の挙例「
万葉集」の東歌に見られる「思ひすごす」の例だけである。平安時代頃から次第に「すごす」が併用されるようになり、室町時代以降は「すごす」の方が普通の形となった。
(2)意味は両者共通している点が多いが、「すごす」には⑨のような新しい意味が現われている。