審判(宗教)(読み)しんぱん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「審判(宗教)」の意味・わかりやすい解説

審判(宗教)
しんぱん

宗教観念、宗教思想としての審判は、神が人間および社会の罪悪を審(さば)くということで、永生観念と結び付いた死後の審判、現世における罪と罰という応報思想、終末論と結び付いたこの世界の「最後の審判」の思想などがある。

 人間の宗教的堕落、倫理的荒廃に対する神の審判を徹底して告知したのは、古代イスラエルの預言者たちである。しかし彼らは同時に、神ヤーウェへの背信反逆を悔い改める者への救いをも語った。この場合、審判はあくまで此岸(しがん)的なものである。一方、死後の審判という思想は、すでに古くエジプトの「死者の書」などにみられるが、『新約聖書』にも、おそらくゾロアスター教の影響を受けたユダヤ教を介して、死後の審判の思想が語られている。たとえばパウロは、「(死後)私たちは皆、キリストの審きの座の前で善であれ悪であれ、自分の行いに応じてそれぞれ報いを受けねばならない」(「コリント人への第二の手紙」5章10節)と記す。ところが「ヨハネ伝福音(ふくいん)書」は、「彼(イエス)を信じる者は審かれない。信じない者はすでに審かれている」(3章18節)と、審判の現在性を語る。現在のキリスト教においても、前者の死後の審判とそこでの救いを強調する諸宗派と、むしろ後者によって審判思想の実存的解釈をする神学とがある。なお、現世における罪の応報思想はキリスト教には希薄である。

[月本昭男]

『O・クルマン著、前田護郎訳『キリストと時』(1954・岩波書店)』『R・ブルトマン著、中川秀恭訳『歴史と終末論』(1959・岩波書店)』『大木英夫著『終末論』(1979・紀伊國屋書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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