市場(しじょう)(読み)しじょう(英語表記)market 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「市場(しじょう)」の意味・わかりやすい解説

市場(しじょう)
しじょう
market 英語
marché フランス語
Markt ドイツ語

財・サービスが取引されて価格が決定される場あるいは機構をいう。市場という概念は多様に用いられ、その種類も多い。特定の具体的な場所にある中央卸売市場、証券取引所、商品取引所などは具体的市場とよばれる。俗にマーケットとよばれる小売市場公設市場も含まれるが、この場合は普通、市場(いちば)とよばれる。また経済の未発達な時代に交換あるいは売買の行われた場所をとくに市(いち)という。

 しかし、経済が高度化し、通信技術の進歩や信用取引の発達した現代では、むしろ特定の場所に制約されない抽象的市場が多い。国内市場、国際市場、世界市場という場合がその例である。また、取引対象による生産要素市場と生産物市場、グループ別の金融市場労働市場などもこの範疇(はんちゅう)に属する。現代では、具体的市場は、国内市場や世界市場などの抽象的市場を背景とし、その影響のもとに具体的な取引を進めているのである。

 経済学では、市場の本質的な機能は、財・サービスの供給者と需要者との間の需給関係を反映して価格が形成され、その結果、財・サービスの適正な配分が実現される点にあると考える。

 完全競争が行われている生産物市場を考えてみよう。財・サービスに対する需要量がその供給量を上回る(超過需要が存在する)状態のときには、そのような市場の状態を反映して価格は上昇する。逆に供給量が需要量を上回る(超過供給が存在する)ときには、価格は下落する。そして需給が一致するまで現実には取引はなされず、価格は変動する。需給が一致した状態(市場均衡の状態)において、初めて価格は決まり、財・サービスが取引される。このように完全競争においては、価格は財・サービスの需給調整機能を完全に果たしている。

[内島敏之]

市場の失敗market failure

市場においてこのような需給調整機構がうまく働かない場合を市場の失敗とよぶ。この市場の失敗には、企業の支配力によるケースとそれ以外のケースとがある。第一のケースをみてみよう。現実の市場に目を向けると、自動車鉄鋼ビールなどの産業では、少数の企業が市場を支配しており、これらの企業の行動は、市場の価格形成に影響力をもっている。企業が支配力をもっている市場は、その程度に応じて独占、寡占、不完全競争市場とよばれるが、このような市場では、企業の支配力のために、完全競争の場合のように最適な資源配分は達成されず、生産が過少になってしまう。

 第二のケースとしては、公共財や外部効果の例があげられる。通常の財である私的財は、消費者がその所有権を手に入れないと消費できない。その所有権を手に入れる場所が市場である。しかし、道路、公園、消防・警察サービスなどの公共財は、その所有権を手に入れなくても消費が可能である。したがって公共財の場合には市場そのものが存在しない。また、外部効果とは、ある消費者や企業が、他の消費者や企業の行動によって、市場での取引を通さないで影響を受けることをいう。この外部効果が存在する場合には、私的便益(費用)が社会的便益(費用)と乖離(かいり)し、効率的な資源配分を達成できない。

 このような市場の失敗が生ずる場合には、市場の働きを補整し、社会的に適正な資源配分を実現するために、政府の経済政策による介入が必要となる。

[内島敏之]

『奥野正寛著『ミクロ経済学入門』(日経文庫)』『今井賢一他著『価格理論』全三巻(1971・岩波書店)』

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