(読み)サイ(英語表記)zhāi

デジタル大辞泉 「斎」の意味・読み・例文・類語

さい【斎〔齋〕】[漢字項目]

常用漢字] [音]サイ(呉)(漢) [訓]いみ いもい いつき いわい とき
神仏を祭るとき、心身を清める。ものいみ。「斎戒潔斎
祭事を行う。「斎主・斎場
ものいみや読書などをする部屋。「山斎書斎
精進料理。僧の食事。とき。「斎食さいじき
[名のり]いつ・きよ・ただ・ひとし・よし
[難読]斎王いつきのみこ斎宮いつきのみや

さい【斎】

[名]仏語。
身心をつつしみ清浄を保つこと。斎戒。
僧が正午にとる食事。とき。斎食。
仏事法要のときの食事。とき。
[接尾]居室の名や文人などの雅号に付けて用いる。「自然(=宗祇そうぎ)」「臨江(=里村紹巴じょうは)」

いつき【斎】

心身を清めて神に仕えること。また、その人。特に斎院さいいん斎宮さいぐう斎皇女いつきのみこ
「賀茂の―には孫王の居給ふ例多くもあらざりけれど」〈・賢木〉
神を祭る所。斎場さいじょう
「―が上の鷦鷯さざき捕らさね」〈仁徳紀・歌謡〉

ゆ【斎】

きよめること。神聖なこと。助詞「つ」を伴って、また直接に名詞の上に付けて用いられる。「だね」「つき」「にわ」→斎(ゆ)つ

とき【斎】

《食すべき時の食事の意》寺などで、食事のこと。インド以来の戒律により午前中に食べるのを正時とし、午後は食すべき時ではない時刻の食の意で非時ひじという。斎食さいじき
寺で出す食事や精進料理

いもい〔いもひ〕【斎/忌】

精進潔斎。物忌み。
御正日おしゃうにちには、上下の人々、皆―して」〈・幻〉
精進料理。
「―の御鉢まゐるべきを」〈・若菜下〉

い【斎】

[接頭]名詞に付いて、清浄な、神聖な、忌み清めた、の意を表す。「ぐし」「垣」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「斎」の意味・読み・例文・類語

さい【斎】

[1] 仏語。
① 身心を慎むこと。信者の場合は六斎日などの斎戒(八斎戒)をいう。僧の場合は、布薩(ふさつ)、すなわち説戒をいい、毎月一五日、三〇日の二度、その間の行為を反省、懺悔する僧たちの集まりもいう。
※正法眼蔵(1231‐53)安居「四月十四日斎後に念誦牌を僧堂前にかく」
② 仏家で、正午を過ぎては食事をしないこと。正午を過ぎた食事は非時食としてこれを禁ずる。〔釈氏要覧‐上〕
③ 仏事のとき、僧に供養する食事。また、寺で信者にふるまう食事。斎食。とき。
[2] 〘接尾〙
① 居室の名にそえて用いる。〔書言字考節用集(1717)〕 〔晉書‐劉毅伝〕
② 文人などの雅号に添えて用いる。
実隆公記‐永正八年(1511)九月一二日「陶三郎所望斎名〈黙斎〉、表徳号〈真逸〉、等書之」

ゆ【斎】

〘名〙 神聖であること。清浄であること。助詞「つ」を伴って、または、直接に接頭語的に名詞の上に付いて用いられ、その物が神事に関する物であることを表わす。「ゆ庭」「ゆ鍬(くわ)」など、神、または、神をまつるための物を表わす名詞に付く場合と、「ゆ笹」「ゆ槻」など、植物の名を表わす名詞に付く場合とがある。い。→斎(ゆ)つ

いも・う いもふ【斎】

〘自ハ四〙 神を祭るために、心身を清める。斎む。いもおる。
江家次第(1111頃)一二「斎内親王依恒例三ケ年間令伊毛比斎清
河海抄(1362頃)一七「神垣にひほろぎ立てていもへども人の心は守りあへぬものを」

ゆまわ・る ゆまはる【斎】

〘自ラ四〙 心身のけがれを去るために身を清め、飲食・動作を慎む。物忌みする。斎戒(さいかい)する。ゆままう。ゆまう。
延喜式(927)祝詞「忌部の弱肩に太多須支取掛けて持ち由麻波利(ユマハリ)仕へ奉れる幣帛を」

ゆま・う ゆまふ【斎】

〘自ハ下二〙 =ゆまわる(斎)
本朝月令(10C中か)六月・朔日内膳司供忌火御飯事「高橋氏文云〈略〉此を忌火と為て伊波比(いはひ)、由麻閇(ユマヘ)て供御食」

い【斎】

〘接頭〙 神事に関する名詞の上に付き、不浄を忌み清める意を表わす。清浄な。神聖な。
古事記(712)下・歌謡「上つ瀬に伊(イ)(くひ)を打ち」

いもお・る いもほる【斎】

〘自ラ四〙 =いもう(斎)
神皇正統記(1339‐43)上「皇后いきどほりまして、七日あって別殿を作り、いもほりこもらせ給」

いもゆ【斎】

〘名〙 =いもい(斎)
蜻蛉(974頃)中「けふは十五日、いもゆなどしてあり」

いまわ・る いまはる【斎】

〘自ラ四〙 ものいみする。斎戒する。ゆまわる。

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改訂新版 世界大百科事典 「斎」の意味・わかりやすい解説

斎 (さい)
zhāi

中国で祭りを行う関係者が,当日はもちろん,その前から飲食や行動を慎んで心身を清浄にする散斎,最終的には精神集中によって神と交感できる状態を保つ致斎のこと。禁忌が多いので斎戒ともいう。《礼記(らいき)》祭統篇に〈散斎七日,……致斎三日,……然る後,以て神明に交わるべし〉とあるように,中国では古くから斎が祭りに不可欠とされていたことがわかる。やがて祭りの大小によって斎の時期の長短が決められ,《続漢書》礼儀志上によれば,〈天地の祭りには7日,宗廟山川の祭りには5日,その他の小さな祭りには3日〉とし,《唐六典(とうりくてん)》巻四にはさらに詳しい記述があって,散斎と致斎の間に行うべきことや,行ってはならない禁忌が規定されている。

 斎は道教にも採用され,道士が修行したり,祭りを行うときはもちろん,道士でない一般信者も祭りに加わるときには斎を行う。しかし,道教では斎の意味と用法が二つの方向に大きく幅を広げる。一つは精神的な修行の最高の段階で,精神集中と瞑想の極限において無為自然の道に一体化した状態を指す。これは《荘子》に見える〈心斎〉という言葉にもとづき,また〈坐忘〉とも呼ばれて,道士が到達しうる最高の精神状況とされる。もう一つは信者を救うための祭りそのものを指す。道教では,野外の祭壇で集団的な悔い改めの儀式を行ったが,そこでは顔に炭を塗った信者たちが,祭儀の重々しい雰囲気の中で朗読される懺悔文によって,罪に対する怖れと悔い改めの気持をかきたてられ,興奮のあまり地面にのたうちまわって顔に泥を塗り,罪のゆるしを神に請うて再び罪を犯すことはないと神に誓ったので,この祭りは〈塗炭斎〉と呼ばれた。おそらく道教で最も早く行われた祭りの一つであろう。やがて,1月15日の上元,7月15日の中元,10月15日の下元の日に,それぞれ天官,地官,水官という神々に罪を懺悔する〈三元斎〉や,地獄に落ちて苦しめられている祖先の魂を救うための〈黄籙斎(こうろくさい)〉や,さらに災害を除き,帝王の長寿と天下の安泰を祈る朝廷中心の〈金籙斎(きんろくさい)〉など,斎と称するさまざまな祭りが行われた。また厄よけを目的とする〈醮(しよう)〉という祭りもあり,これは夜間に供物を並べて神々を祭り,願いごとを上奏するやり方で,道教の祭りは両者を合して〈斎醮〉と呼ばれることもある。

 斎は清浄の意味をもつから,仏教でもウポサタuposathaまたはポシャダpoṣadha(音訳は布薩(ふさつ))の訳語として戒律を守り,身を清める意味に用いられ,六斎日(ろくさいにち),すなわち毎月8,14,15,23,29,30の6日には,在家の信者は〈八斎戒〉を守らねばならぬとされた。それは,殺さず,盗まず,婬せずなどの8種の禁忌をいうが,なかでも〈非時食(ひじしき)〉,すなわち午後の断食が中心とされ,仏教では主として午前中の食事を意味することになった。
斎会(さいえ)
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「斎」の意味・わかりやすい解説


さい
upoṣadha

原義は「清浄」。 (1) 身体と言葉と心の悪行を慎むこと。 (2) 正午を過ぎて食事をしないという戒律を守ること。 (3) 仏事のときの食事。 (4) 仏教の戒律の規定に従って月の 15日と 30日に同一地域の僧が集って自己反省をする集会などを意味する。


とき

仏教用語。斎食 (さいじき) ともいう。戒律で認められている午前中の食事。戒律によると原則として午後には食事をしてはならないことになっている。のちに転じて肉食しないこと,あるいは法会の食事をいうようになった。

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