痛む(読み)イタム

デジタル大辞泉 「痛む」の意味・読み・例文・類語

いた・む【痛む/傷む】

[動マ五(四)]
病気や傷などのために、からだに痛みを覚える。痛くなる。「下腹が―・む」「のどがひりひり―・む」
心に痛いほどの悲しみや苦しみを感じる。せつなく悩む。「遺族の気持ちを思うと胸が―・む」
(傷む)器物・建物などが、傷ついたり損なわれたりする。「靴が―・む」「本が―・む」「屋根が―・んで雨漏りする」
(傷む)食物が傷ついたり腐ったりして悪くなる。「生物なまものが―・む」「―・んだ牛乳
金銭に関して痛手をこうむる。損をする。「懐が―・む」
迷惑に思う。苦痛に感じる。
「いたう―・む人の、強ひられて少し飲みたる」〈徒然・一七五〉
[動マ下二]いた(痛)める」の文語形
[用法]いたむ・うずく――「歯が痛む(うずく)」「傷口がいたむ(うずく)」の場合は相通じて用いるが、「下痢をして腹が痛む」のような場合にはあまり「うずく」は用いない。「古傷がうずいてならない」のように、ずきずきと脈打つような痛みを感じる場合には「うずく」を用いる。◇「心がいたむ(うずく)」のように、比喩的な使い方でも両語とも用いうるが、「後悔の念がうずく」のように、過ぎた事を悔んだり後ろめたく思ったりする心の苦しみには、「うずく」を用いることが多い。
[類語](1うずくずきずきするしくしくするちくちくするひりひりするひりつくしみる差し込む痛める痛いきりきりずきんずきんがんがんぴりぴりちくり/(3傷つく損ずる損傷する毀損きそんする汚損する損耗する磨損する/(4腐るえるあざれる腐敗する酸敗する腐乱する発酵する・御座る

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精選版 日本国語大辞典 「痛む」の意味・読み・例文・類語

いた・む【痛・傷・悼】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 マ行五(四) 〙
    1. 傷や病気などのために、からだに苦しみを感じる。助詞「を」によって痛む箇所を示す用法もある。
      1. [初出の実例]「五瀬の命の矢瘡(いたやくしのきず)(イタミますこと)(はなはだ)し」(出典:日本書紀(720)神武即位前戊午年五月(北野本訓))
      2. 「途中にして腹を痛むで産せり」(出典:今昔物語集(1120頃か)二)
    2. 心に強い悲しみを感じる。心痛する。→いたましむ
      1. [初出の実例]「脱免(まぬかるる)に由無し。故以(このゆゑに)哀傷(イタムと申)」(出典:日本書紀(720)神代上(水戸本訓))
    3. いやだ、不快だと強く感じる。苦痛に思う。
      1. [初出の実例]「いたみ存ずる子細おほく侍り」(出典:保元物語(1220頃か)上)
      2. 「いたういたむ人の、しひられて少し飲みたるもいとよし」(出典:徒然草(1331頃)一七五)
    4. 物質的な損害をこうむる。損をする。
      1. [初出の実例]「百姓等不痛やうに価を遣すべき旨」(出典:太閤記(1625)一)
      2. 「正金で七両二分といたんだは」(出典:滑稽本・浮世床(1813‐23)初)
    5. (器物、建造物、衣類、書籍、植物などに)きずがつく。そこなわれる。破損する。また、機能や材質などが悪くなる。
      1. [初出の実例]「其根必ずいたむとみえて候」(出典:平家物語(13C前)二)
    6. (果物、魚、酒など)飲食物が悪くなる。腐る。
      1. [初出の実例]「コノ サケガ itǒda(イタウダ)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    7. 病気をする。煩う。
      1. [初出の実例]「病む 江戸にて煩ふと云を いたむ、やみ臥て居るをいたんで居ゆと云」(出典:筑紫方言(1830頃))
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 マ行五(四) 〙
    1. ある事を、苦痛だと強く思う。
      1. [初出の実例]「海底に沈まん事をいたまずして」(出典:平家物語(13C前)一一)
      2. 「一事を必ずなさんと思はば、他の事の破るるをもいたむべからず」(出典:徒然草(1331頃)一八八)
    2. からだに苦痛を感じさせる。傷つける。
      1. [初出の実例]「いかなることのはんべるとも身のいたみたまふなといさめおきて」(出典:御伽草子・天稚彦物語(室町時代物語集所収)(室町末))
    3. ( 悼 ) 人の死を嘆き悲しむ。
      1. [初出の実例]「いたむ時は胸中が震動するやうなぞ」(出典:古活字本毛詩抄(17C前)七)
      2. 「李下が妻のみまかりしをいたみて ねられずやかたへひえゆく北おろし〈去来〉」(出典:俳諧・曠野(1689)七)
  3. [ 3 ] 〘 他動詞 マ行下二段活用 〙いためる(痛)

痛むの語誌

上代に確例はないが、「西大寺本金光明最勝王経平安初期点」や「書紀」の古訓に複数例存するところから、成立は上代にさかのぼる可能性もある。

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