(読み)フ

デジタル大辞泉 「符」の意味・読み・例文・類語

ふ【符】[漢字項目]

常用漢字] [音](漢)
両片を合わせて証明をする札。割り符。「符節配符
割り符を合わせたように一致する。「符合
天からの知らせ。めでたいしるし。「符瑞ふずい/祥符」
神仏のお守りの札。「護符呪符じゅふ神符霊符免罪符
一定の事柄を表すように取り決めた記号。「符号符牒ふちょう音符感嘆符

ふ【符】

護符。守りふだ。
割符わりふ
律令制で、上級官庁から直属の下級官庁へ出した公文書。差し出す官庁によって太政官符・省符・国符などとよばれた。→
めぐりあわせ。運。
「唐糸が、―のわるさ」〈伽・唐糸さうし〉

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精選版 日本国語大辞典 「符」の意味・読み・例文・類語

ふ【符】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 竹や木などに印となる文字を書き、二分して、一方を与えて後日の証としたもの。割り符。符節。〔史記‐高祖本紀〕
  3. 命令文書。特に、令制公式令で規定された、上級官司から所管の下級官司に出す命令文書。差出所により、太政官符、省符、大宰府符、国符などと呼ばれる。公式様(くしきよう)文書の一つ。平安時代以降は、寺社の政所などもこれを出した。〔令義解(718)〕 〔唐六典‐巻一・尚書省・左右司郎中員外郎〕
  4. 神仏の守護札。また、修験者、陰陽師などの加持の札。まもりふだ。おふだ。護符。
    1. [初出の実例]「心に龍の声とどむる符を作りて、これを封じてけり」(出典:十訓抄(1252)一〇)
    2. [その他の文献]〔抱朴子‐登渉〕
  5. 証拠となる印。また、記号。
    1. [初出の実例]「出離の一大事を思ひ入たる符(フ)には、自然と念仏が申し度て」(出典:妻鏡(1300頃か))
    2. 「此線を三個の同じ部分に分ち、[一][二]の符を徴す」(出典:小学読本(1873)〈田中義廉〉四)
  6. めぐり合わせ。まわり合わせ。運。運命。
    1. [初出の実例]「唐糸が、ふのわるさ、君の御果報申すに及ばず」(出典:御伽草子・唐糸草子(室町末))

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普及版 字通 「符」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 11画

[字音]
[字訓] わりふ・しるし・ふだ

[説文解字]
[金文]

[字形] 形声
声符は付(ふ)。〔説文〕五上に「信なり。の制は竹を以てし、長さ六寸、ちて相ひ合せしむ」とあり、竹節をいう。〔周礼、秋官、小行人〕に、道路には旌節、行閭に符節、都鄙に管節を用い、みな竹で作るという。漢の文帝三年、初めて銅虎符・竹使符を用いた。近年出土の列国期の〔鄂君啓節(がくくんけいせつ)〕は銅節であるが、竹節の形式をとり、そのような符節は古くから行われていたのである。符讖(ふしん)の類は漢代に盛行し、讖緯(しんい)とよばれた。のち護符の意に用い、〔抱朴子〕に多くの記述がある。

[訓義]
1. わりふ、符節。
2. しるし、おしで、印章。
3. きざし、神のしらせ、あかし。
4. ふだ、おふだ、お守り。
5. 付と通じ、わたす、あう。
6. 木のはだ。

[古辞書の訓]
〔名義抄〕符 シルス・シルシ・アラハス・チギル・カナフ・マコトナリ 〔字鏡集〕符 シルシ・ノタマフ・カナフ・オホセゴト

[熟語]
符緯・符印・符運・符応・符劾・符・符契・符檄・符験・符券・符虎・符甲・符効・符采・符彩・符策・符師・符璽・符守・符呪・符祝・符術・符書・符祥・符禳・符讖・符信・符水・符瑞・符籍・符節・符摂・符竹符牒・符徴符篆・符伝・符同・符・符表・符命・符約・符厭・符
[下接語]
印符・陰符・応符・音符・嘉符・符・亀符・義符・魚符・御符・玉符・契符・虎符・護符・合符・刻符・左符・爾符・朱符・呪符・授符・祥符・信符・神符・声符・節符・地符・天符・桃符・同符・佩符・表符・焚符・分符・兵符・宝符・奉符・剖符・明符・黙符・霊符

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改訂新版 世界大百科事典 「符」の意味・わかりやすい解説

符 (ふ)

古文書様式の一つ。公式様(くしきよう)文書の一つで,上級官司から管隷下の下級官司へ下す文書。上申文書である(げ)に対応する下達文書である。太政官(だいじようかん)から八省や諸国へ下す太政官符,省から管轄下の寮や司へ下す省符,国から郡へ下す国符などがある。様式は第1行に差出所と充所があり,本文の書止(かきどめ)文言はすべて〈符到奉行〉(符到らば奉行せよ)である。本文の次に文書発給責任者の位署があり,日付は最末であることが特徴である。太政官符は官符と称され,詔勅の内容をはじめ,国政に関する重大事を下達するもので,律令政府の発する文書の中ではもっとも権威のあるものであった。詔書に添える官符を詔書頌下符,地方に詔書を伝えるため,その内容を盛りこんだものを謄詔符という。八省のうち民部省はその職掌上,地方諸国にも符を発することができ,荘園制が盛んなときは,不輸不入を認める官符とともに民部省符を発した。官符,民部省符を得た荘園は官省符荘(かんしようふしよう)といって権威づけられた。西海道(九州)は大宰府がおかれていたので,この地方へ下す官符はまず大宰府にあてられ,ついで大宰府の符が西海道諸国へ下された。大宰府符は宰符と称された。

 官符,省符のうち,諸国へ下すものにはともに内印(ないいん)(天皇御璽)が,京官に下すものには外印(げいん)(太政官印)が捺され,宰符,国符はそれぞれ大宰府印,国印が捺された。律令体制の弛緩,新政治体制の出現とともに,符の発せられることは減少し,中世以降は太政官符を除き,ほとんど消滅した。官符は形式的には律令を奉ずる朝廷=公家政権の最高権威をもつ文書として使われ,その効力は別として明治維新までときどき発せられた。最後のものは律令太政官制が停止される直前の1869年(明治2)3月のものである。
執筆者:


符 (ふ)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「符」の意味・わかりやすい解説


公式様文書(くしきようもんじょ)の一形式。律令(りつりょう)制で、上級官司からそれに直属する下級官司に下す文書。これに対して下級官司から上級官司に差し出す文書を解(げ)という。太政官(だいじょうかん)から八省・諸国・大宰府(だざいふ)に下す符が太政官符(官符と略す)で、律令時代のもっとも重要な政治文書である。また八省から諸寮司(りょうじ)および職(しき)に下すのが各省符(単に省符という場合は民部省符のことをいう)、各国司から郡司に下す符が各国符で、さらに郡司が下級機関に下す郡符などがあり、いずれも官符に準じた書式をとった。普通の文書は本文のあとに日付を入れ、責任者の位署を書き署名するが、符は責任者の位署・署名のあとに年月日を書く。すなわち日付が最後に書かれるのが特徴である。また符にはそれぞれの役所の官印をかならず捺(お)す。初めは字面全部に官印が捺されたが、鎌倉時代ごろになると、官符の場合、最初と最後の三か所に捺されるようになる。官符で諸国に下すものにはだいたい内印(ないいん)(「天皇御璽(ぎょじ)」)を捺し、在京の諸司に下すものには外印(げいん)(「太政官印」)を捺した。平安中・末期ごろから宣旨(せんじ)・官宣旨が、さらに鎌倉中・末期ごろからは院宣(いんぜん)・綸旨(りんじ)が官符にかわる重要な国政文書となり、それに伴って官符は儀礼的なものとなっていった。また、各省符・国符・郡符も律令体制の変質のなかで、平安中・末期には消滅した。

[上島 有]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「符」の意味・わかりやすい解説


律令時代に,中国の書式に従って採用された公文書の一形式。上級官庁 (所管) から直属の下級官庁 (→被官 ) に下すときに用い,太政官をはじめ8省や大宰府,諸国など,中央,地方の官庁で用いられた。太政官符 (官符と略称) が代表的。諸国の国司が出すものは「…国符 (国符と略称) 」といった。初見は天平勝宝2 (750) 年,平安時代末期から次第に下文 (くだしぶみ) に代ってくるが江戸時代まで存続し,武家には採用されなかった。 (→〈げ〉)

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「符」の解説


公式令(くしきりょう)に定める文書様式。所管・被管の統属関係にある上級官司から下級官司へ命令を伝達する文書の形式。「某符某」の書出文言,「符到奉行」の書止文言,文書作成責任者である主典(さかん)と長官(かみ)の位署,年月日の順で記された。また直接の所管・被管関係にはない場合でも,太政官・八省・弾正台と諸国のような因事管隷関係の場合には符が発給された。平安時代には寺社の政所符(まんどころふ)のように,所管・被管関係にない一般的な命令下達文書として用いられたが,これはしだいに下文(くだしぶみ)形式のものにかわった。その後も形骸化した符の例は江戸時代まで続いた。

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百科事典マイペディア 「符」の意味・わかりやすい解説

符【ふ】

古文書の一つ。律令制下の公文書で,直属関係にある上級官庁が下級官庁に下す文書。(げ)に相対する文書形式。太政(だいじょう)官が下すものを太政官符,八省が下すものを省符,国が下すものを国符という。文書作成責任者の署名が日付の前にあるのが特色。
→関連項目古文書

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旺文社日本史事典 三訂版 「符」の解説


令制に定められた,上位の官庁が下位の官庁に出す公文書
太政官符が有名で,単に官符ともいわれた。中世以後は形式化した。明治維新の王政復古以降復活し,太政官布告と呼ばれるようになった。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【護符】より

…各種の災厄をよけ,幸運をもたらすと信じられている物体のことで,呪符ともいう。現代の日本でみられる例には,自動車や身につける交通安全や学業成就などの〈御守(おまもり)〉や家の柱・門などにはり付ける〈御札(おふだ)〉,客商売の家や店に置く〈招き猫〉などがある。…

【木簡】より

…漢簡では,漢の1尺に当たる約23cm,幅1cmのものが標準で,2尺のものを檄(げき),3尺のものを槧(ざん)といい,2行書く幅のものを両行,書く面を3面以上作ったものを觚(こ)と呼ぶ。また簡面をカバーし,その表面に宛名を書くものを検,同じものを二分して別に保持し,必要なときにつき合わせて証拠に使うものを符,品物につける鉄道荷札のようなものを楬(けつ),旅行者の身分証明書を棨(けい)というなど,使用目的による名称もある。中国木簡の出土は1901年にA.スタインがタクラマカン砂漠中のニヤ遺跡で晋簡を発掘したのに始まるが,彼はそれ以前にカローシュティー木簡を発見している(カローシュティー文書)。…

【下文】より

…11~13世紀に荘園領主や官司が荘園公領在地や地下(じげ)を支配するため盛んに使用した下達文書。8世紀から10世紀までの律令政治において,所管の官司から被管の官司へ下達する文書としては符が用いられていたが,符の発給にあたっては,官司印の請印や授受の儀式など厳格な手続を必要とし,緊急を要する事項あるいは軽易な事項については,ふつごうで煩わしいものであった。そこで文書作成担当者から直接下達する文書として開発されたのが下文である。…

【古文書】より

…ともに天皇の命を伝える文書であるが,詔書は臨時の大事に,勅旨は尋常の小事に用いられた。(c)(ふ)は所管(上級の役所)から被管(下級の役所)に下す公文書であり,(d)(げ)は被管から所管への上申文書である。(e)(い)は対等の役所間に交わされる文書で,(f)(ちよう)は本来は主典以上の役人が役所へ申達する文書であるが,後には役所から役所に準ずる所に出される文書として用いられた。…

※「符」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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