聞える(読み)キコエル

デジタル大辞泉 「聞える」の意味・読み・例文・類語

きこ・える【聞(こ)える】

[動ア下一][文]きこ・ゆ[ヤ下二]動詞「き(聞)く」の未然形上代自発助動詞「ゆ」が付いた「きかゆ」の音変化》
音・声などが耳で感じられる。自然に耳に入る。「汽笛が―・える」
聞いて、そのように受け取られる。そのように理解・解釈される。とれる。「彼が言うと本当らしく―・える」「皮肉に―・える」
相手の言うことを、納得して認めることができる。物事のわけが理解できる。わかる。「そりゃ、―・えません」

㋐話がある所にまで伝わる。知れる。「君のうわさ重役にまで―・えているぞ」
㋑広く知られる。評判になる。「世に―・えた秀才
言う」の謙譲語で、その対象を敬う。
㋐お耳に入れる。申し上げる。
「―・ゆれば恥づかし、―・えねば苦し」〈伊勢・一三〉
㋑便りで申し上げる。手紙を差し上げる。
「十二年の山ごもりしてなむ久しう―・えざりつると」〈後撰・恋二・詞書〉
㋒世間で名前・官職名を、…と申し上げる。…とお呼びする。
「昔、太政大臣おほきおほいまうちぎみと―・ゆるおはしけり」〈伊勢・九八〉
5誤用から。「きこえたまふ」全体で》「言う」の尊敬語。言われる。おっしゃる。
「力なきことは、な―・え給ひそ」〈読・雨月菊花の約〉
補助動詞)動詞連用形に付いて、謙譲の意を表す。…申し上げる。
「上の御ありさまなど思ひ出で―・ゆれば」〈桐壺
[類語](1響く鳴る鳴り響く鳴り渡る通る伝わるとどろ高鳴るどよむどよめくうな響き渡る聞き取れる耳に入る耳に付く耳朶じだに触れる耳にする耳に挟む小耳に挟む耳に入れる耳に留まる

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「聞える」の意味・読み・例文・類語

きこ・える【聞】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 ア行下一(ヤ下一) 〙
    [ 文語形 ]きこ・ゆ 〘 自動詞 ヤ行下二段活用 〙 ( 動詞「きく(聞)」に、受身・自発の古い助動詞「ゆ」の付いた「聞かゆ」から。また、「聞く」の自発形とも )
    1. 音声が耳に入る。聴覚に感じる。
      1. [初出の実例]「天(あま)飛ぶ 鳥も使そ 鶴(たづ)がねの 岐許延(キコエ)むときは 我が名問はさね」(出典:古事記(712)下・歌謡)
      2. 「わごりょはみみがきこゆるといふても、目が見えぬ」(出典:虎明本狂言・不聞座頭(室町末‐近世初))
    2. 聞いて、これこれだと受けとられる。聞いて知られる。
      1. [初出の実例]「いと若うをかしげなる声の、なべての人とはきこえぬ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)花宴)
      2. 「口にまかせて言ひ散らすは、やがて浮きたることときこゆ」(出典:徒然草(1331頃)七三)
    3. 意味がわかる。理解できる。納得できる。
      1. [初出の実例]「御歌もこれよりのはことわりきこえてしたたかにこそあれ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)末摘花)
      2. 「土と石との読みかへやうは聞えたれども、山の無き所に、山といふ名をつけたる故は聞えず」(出典:仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)五)
      3. 「ハハアなるほどなるほど。きこへました」(出典:滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)五)
    4. 世に広く伝わる。評判される。
      1. [初出の実例]「ちかき世に、その名きこえたる人は」(出典:古今和歌集(905‐914)仮名序)
      2. 「私の父は佐一と申しました。多少は聞えた琵琶法師でした」(出典:しん女語りぐさ(1965)〈唐木順三〉一)
    5. 嗅覚に感じる。におう。
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 ヤ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]きこ・ゆ 〘 他動詞 ヤ行下二段活用 〙
    1. [ 一 ] 他に対して言うのを、自然にその人の耳にはいるという自発表現で表わしたもの。人に言う。告げる。また、噂する。
      1. [初出の実例]「道の後(しり) 古波陀嬢子を 神の如 岐許延(キコエ)かども 相枕まく」(出典:古事記(712)下・歌謡)
    2. [ 二 ] [ 一 ]から、言う対象を敬う謙譲語となったもの。一説に自己の「言う」動作を、相手に聞かれるという受身表現から転じたともいう。「お耳に入れる」気持の、間接表現から成立した敬語
      1. 直接「言う」場合の、「言う」対象を敬う謙譲語。申しあげる。
        1. [初出の実例]「長歌詞曰〈略〉狭牡鹿(さをしか)の 膝折反し 候(さもらひて)(きこえ)ぞ言(まを)す 何(いか)に以聞(きこエ)む」(出典:続日本後紀‐嘉祥二年(849)三月庚辰)
      2. 人を介して、また、消息などで間接に「言う」場合の、「言う」対象を敬う謙譲語。伝言で申しあげる。お便り申しあげる。また、手紙などをさしあげる。
        1. [初出の実例]「男の〈略〉山ごもりしてなん久しうきこえざりつると言ひ入れたりければ」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)恋二・六九三・詞書)
      3. 自己の思いや願望などを知らせる、また、言いよるなどの意の謙譲語。望みなどを耳にお入れ申しあげる。お願い申しあげる。お望み申しあげる。
        1. [初出の実例]「暇(いとま)きこゆれども、をさをさ許し給はずなどあれば」(出典:宇津保物語(970‐999頃)嵯峨院)
        2. 「前斎院をもねんごろにきこえ給ふやうなりしかど」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜上)
      4. その人の名、また、地位、状態などを、世間の人が…と申しあげるの意で、呼ばれる人を敬う。
        1. (イ) 名前や地位などを…と申しあげる場合。
          1. [初出の実例]「昔、おほきおほいまうちぎみときこゆるおはしけり」(出典:伊勢物語(10C前)九八)
          2. 「にほはしさは、たとへん方なくうつくしげなるを、世の人光る君ときこゆ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
        2. (ロ) その人が…と呼ばれるある地位、状態にあるの意で、…と申しあげる場合。
          1. [初出の実例]「二条の后の、東宮の御息所ときこえける時」(出典:古今和歌集(905‐914)春上・八・詞書)
      5. ( 近世文語文で用法が変化し、相手の自己に対する動作に用いて ) 聞かせる。聞かせてくれる。
        1. [初出の実例]「金沢の北枝といふもの〈略〉所々の風景過さず思ひつづけて、折節あはれなる作意など聞ゆ」(出典:俳諧・奥の細道(1693‐94頃)汐越の松)
    3. [ 三 ] 補助動詞として用いる。他の動詞に付いて、その動詞の動作の対象を敬う謙譲語。…申しあげる。
      1. [初出の実例]「長歌詞曰〈略〉行(おこな)へる 此(これ)の所為(しわざ)の態を何(いか)にして 陳(の)べ聞(きこエ)むと」(出典:続日本後紀‐嘉祥二年(849)三月庚辰)
      2. 「竹の中より見つけ聞えたりしかど、〈略〉わがたけ立ち並ぶまで養ひ奉りたるわが子を、なに人か迎へきこえん」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))

聞えるの語誌

( 1 )相手の耳に聞こえるように言う婉曲的な表現であるところから、受け手に敬意を払う謙譲語となったが、院政時代になると急速に衰え、動詞は「申す」に、補助動詞は「参らす」「申す」などに取って代わられ擬古文に残るだけとなる。
( 2 )[ 一 ]の例としては、従来「今昔‐三〇」の「丁子の香極(いみじ)く早う聞ゆ」が引用されるが、この「聞ゆ」は、現在では「かがゆ」とよむべきものと考えられている。→かがゆ

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