言う(読み)イウ

デジタル大辞泉 「言う」の意味・読み・例文・類語

い・う〔いふ〕【言う/×云う/×謂う】

[動ワ五(ハ四)]
言葉を口に出す。心に思っていること、考え・判断などを相手に伝達するために、言葉に出したり、文章に表したりする。
口を通して言葉として出す。「やっと片言を―・うようになった」
言葉にして表す。思うことを言葉で表現する。「文句を―・う」「だれもが彼のことをよく―・わない」「これ以上―・うことはない」「出席できない旨を手紙で―・ってきた」
名づける。称する。…と呼ぶ。「一一月三日を文化の日と―・う」
世間の人がそのように称する。一般にそう呼ばれている。「縁起がいいと―・われる大安の日」「彼は無類の好人物と―・われている」

何らかの声や言葉を発する。「わあと―・って泣き出した」
動物などが声を出す。物が音を発する。音を立てる。「犬がわんわん―・う」「鉄瓶がちんちん―・う」「床がみしみし―・う」
実質的な意味が弱まったり、なくなったりして、常に他の語に付いて用いられる。
(「…という」の形で体言に続けて)
㋐同格であることを示す。「ハイジと―・う少女」「世界の中のアメリカと―・う国」「人事部と―・う部署」
㋑「と」の前の事柄を特に取り立てて示して、意味を強める。「人と―・うものはわからないものだ」「おまえと―・うやつは何とひどい人間なのだ」
㋒数量を表す語に付いて、その意味を強める。…に相当する。「何十万と―・うイナゴの大群」
㋓同じ名詞を前後に置いて、それに属するものはすべて、または、その語を強める意を表す。「入り口と―・う入り口は閉鎖された」「店と―・う店はどこも休んでいた」「今日と―・う今日はがまんできない」「特に用事と―・う用事でもないが」
(「…というと」「…といえば」「…といい…といい」などの形で)話題として取り上げて示す。「今いちばんおもしろい映画と―・えば何でしょう」「大きさと―・い、値段と―・い、ちょうど手ごろだ」
副詞「こう」「そう」「ああ」「どう」に「いう」「いった」が付いた形で体言に続けて、…のような、…の類の、の意を表す。「ああ―・う場所には近づくな」
代名詞「これ」「どこ」「なに」に「という」「といった」などが付いた形で、あとに打消しの語句を伴って、特に取り立てて言うほどの…がない意を表す。「これと―・う欠点もない」「これと―・った趣味がない」「どこと―・ってからだに悪いところはない」
(「…という」「…ということだ」などの形で)話の内容が直接でなく他からの情報にもとづくことを表す。「気象庁長期予報によると、今年の冬は寒いと―・う」「病状は峠を越したと―・うことなので安心した」
(「…といっても」「…とはいえ」「…とはいうものの」などの形で)事実は…であると認められるが、しかし…である(でない)意を表す。…であっても。「春と―・っても風はまだ冷たい」「失敗したとは―・え、悲観はしていない」
接続助詞「から」に「といって」が付いた形で、あとに打消しの語句を伴って、そのような条件・理由であっても必ずしも…でない、の意を表す。「対戦相手が弱いからと―・ってあなどってはいけない」
(「…といったらない」の形で)程度が、これ以上に…なことはない、極めて…だ、の意を表す。「病弱な上に、年はとるし、心細いと―・ったらない」
(「そうかといって」「かといって」「といって」などの形で)本心としては拒みたいが、拒むのもまずいという意を表す。「ごちそうしてもらう筋合いではないが、そうかと―・って割り勘というのも不都合だ」

詩吟を吟ずる。
漢詩からうた、声あげて―・ひけり」〈土佐
求愛する。言い寄る。
「いとねむごろに―・ひける人に、こよひあはむと契りたりけるに」〈伊勢・二四〉
[補説]3の、「こういう」「そういう」「ああいう」「どういう」はまとまった一語として連体詞と考える。
[可能]いえる
[用法]いう・はなす――「言う」は「独り言を言う」「言うに言われない」のように、相手の有無にかかわらず言葉を口にする意で用いるほかに、「日本という国」「こういうようにやればうまく行くというわけだ」など引用的表現にまで及ぶ。◇「話す」は「しゃべる」とともに、「喫茶店で友達と話す」「電話で近況を話す」のように、相手がいる場での言葉の伝達である。「話し方教室」とはいうが、「言い方教室」とはいわない。◇類似の語に「述べる」「語る」があるが、ともにまとまった内容を筋道を立てて発言する意の語であり、「意見を述べる」「紙上で述べる」のように用いたり、「物語」「義太夫語り」のような熟語を生んだりする。
[類語](話すしゃべる語る述べる発言する口を利く口に出す口にする吐く漏らす口走る抜かすほざくうそぶく言い出すしゃべくる物言う伝える告げる物語る打ち明ける明かす説明する述懐する告白する口外こうがいする他言たごんする言い掛ける言い始める言い話し込む話しかける口に上る口の端に掛かる口を開く口を切る申し述べる(尊敬)おっしゃる仰せられるのたま謙譲申し上げる申す言上ごんじょうする

ゆ・う〔ゆふ〕【言う/×云う/×謂う】

[動ワ五(ハ四)]「い(言)う」の終止・連体形を「ユー」と発音するところから、「ゆ」が語幹と意識されてできた語形。終止・連体形以外で「ゆわない」「ゆった」などと言うこともあるが、本来の言い方ではない。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「言う」の意味・読み・例文・類語

い・ういふ【言・謂】

  1. [ 1 ] 〘 他動詞 ワ行五(ハ四) 〙
    1. 言葉として表現する。述べる。しゃべる。
      1. (イ) (…と)口に出す。口をきく。
        1. [初出の実例]「泣かじとは 汝(な)は伊布(イフ)とも」(出典古事記(712)上・歌謡)
        2. 「帰りける人来れりと伊比(イヒ)しかばほとほと死にき君かと思ひて」(出典:万葉集(8C後)一五・三七七二)
      2. (ロ) ( 目的語をとって ) 思うこと、見聞したことなどを言葉に表わす。
        1. [初出の実例]「防人(さきむり)に発(た)たむ騒きに家の妹(いむ)がなるべきことを伊波(イハ)ず来ぬかも」(出典:万葉集(8C後)二〇・四三六四)
        2. 「残りをいはせむとて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)帚木)
      3. (ハ) ( 「物を言う」の形で ) 力のあることを表わす。発揮する。効力を示す。→もの(物)を言うもの(物)を言わす
    2. (ある人、物、事柄などを、…と)呼ぶ。名づける。称する。
      1. [初出の実例]「わが背子をあどかも伊波(イハ)武蔵野のうけらが花の時無きものを」(出典:万葉集(8C後)一四・三三七九)
      2. 「たけとりの翁といふもの有けり」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    3. 世間の人が口にする。伝聞する。
      1. [初出の実例]「重き馬荷に 表荷(うはに)打つと 伊布(イフ)ことの如(ごと)」(出典:万葉集(8C後)五・八九七)
    4. 詩や歌を詠む。また、声を出してうたう。
      1. [初出の実例]「歌をいひてぞ、なぐさめける」(出典:古今和歌集(905‐914)仮名序)
    5. (手紙、歌などで)愛情を告げる。求婚する。言い寄る。
      1. [初出の実例]「其中に猶(なほ)いひけるは色好といはるる限五人」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
  2. [ 2 ] 〘 自動詞 ワ行五(ハ四) 〙
    1. 鳥や獣などが鳴く。
      1. [初出の実例]「あやしき声するを、こはなにぞととひたれば、鹿のいふなりといふ」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
    2. ( 擬声語に付いて ) そういう音を立てる。
      1. [初出の実例]「いまだに心(むね)がドッキドッキと云(イフ)て」(出典:滑稽本浮世風呂(1809‐13)四)
    3. ( 擬態語に付いて ) そういう刺激性の状態が現われる。
      1. [初出の実例]「まだ抜刀(ひっこぬき)は仕(しま)ひと思(おもっ)たに、閃々(ぴかぴか)といったから、ホラ抜たと」(出典:怪談牡丹燈籠(1884)〈三遊亭円朝〉一)
    4. ( 様態を表わす語と熟して ) そのさまであることを示す。「こういう」「そういう」「ああいう」「どういう」など。
    5. ( 助詞「と」に付いて ) 「と」の受ける事柄を取りたてて、それに関して下に述べる場合に用いる。具体的な意味の薄れた補助的用法。
      1. [初出の実例]「秋と伊閇(イヘ)ば心そ痛きうたて異(け)に花になそへて見まく欲(ほ)りかも」(出典:万葉集(8C後)二〇・四三〇七)

言うの語誌

( 1 )現代仮名づかいで「いう」と表記するが、発音はユウ。謡曲では「いふ(言)」と「ゆふ(夕)」との掛詞が行なわれ、さかのぼって、「斯道文庫蔵帝範応安元年点」に、「云(ユふ)こと」とあるなど、南北朝期には、イをユとした例を認めることができる。
( 2 )音声によって相手にある内容を聞かせる「かたる」、音声を出している行為そのものを描写する「しゃべる」、音声による相互のコミュニケーションを示す「はなす」などは、それぞれ「いう」より具体的で、かつ音声を中心とした意味を持つ。それに対し、「いう」は「太郎という人」のように形式化した用法を古くから持つように、より抽象的な動作である。また、「目は口ほどに物を言い」という言い方があるように、必ずしも音声による必要はない。


ゆ・うゆふ【言・云・謂】

  1. 〘 他動詞 ハ行四段活用 〙 ( 「いう(言)」が「ゆー」と発音されるようになり、「ゆ」を語幹として活用させてできた語 ) =いう(言)[ 一 ]
    1. [初出の実例]「其の要言を聚て近き誡め為すと云(ユふ)こと爾」(出典:斯道文庫蔵帝範応安元年点(1368))
    2. 「さて又吉となぜにゆわぬぞ」(出典:土井本周易抄(1477)二)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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