輸血(読み)ユケツ(英語表記)blood transfusion

デジタル大辞泉 「輸血」の意味・読み・例文・類語

ゆ‐けつ【輸血】

[名](スル)血管内に、他の健康な人の血液あるいは血液成分を注入し、その不足を補うこと。外傷や手術で出血量の多い場合や、白血病貧血などの血液疾患などの際に行われる。

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精選版 日本国語大辞典 「輸血」の意味・読み・例文・類語

ゆ‐けつ【輸血】

  1. 〘 名詞 〙 健康な人の血液、あるいは血液成分を患者の血管内に注入すること。出血・ショックなどで血圧維持が必要なときや、白血病・貧血の治療として行なわれる。
    1. [初出の実例]「若い兵士を呼び寄せて〈略〉輸血の支度をしたが」(出典:イタリアの歌(1936)〈川端康成〉)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「輸血」の意味・わかりやすい解説

輸血
ゆけつ
blood transfusion

血液あるいは血液の成分を体内に注入する治療法。ヒトの血液は赤血球、白血球、血小板などの細胞成分と、アルブミン免疫グロブリン血液凝固因子などのタンパク質を含む血漿(けっしょう)成分に分かれる。これらが不足したり機能が低下したりすると、生命を脅かす種々の症状が現れる。輸血はこれらの細胞成分や血漿成分を補う治療法である。

[比留間潔 2021年2月17日]

輸血の種類

一般には輸血というとヒトの赤い血液をほぼそのまま用いる全血輸血が知られているが、今日では効率のよい輸血を行うために、必要な成分だけを輸血する成分輸血が推奨されている。すなわち、赤血球が不足する場合は、全血whole blood(WB)を用いないで赤血球部分を濃縮した赤血球液red blood cells(RBC)が用いられ、血小板が低下した場合は血小板濃厚液platelet concentrate(PC)が用いられる。血漿中には多種類の血液凝固因子が存在し、おもに止血のために重要な働きをしているが、これらが不足した場合は血漿plasmaを用いる。血漿は凍結して保存されるため新鮮凍結血漿fresh frozen plasma(FFP)として広く治療に用いられている。全血、赤血球液、血小板濃厚液、新鮮凍結血漿は現在、臨床現場でもっともよく用いられている輸血の治療材料であり、これらは輸血用血液とよばれ、保存液が添加されたヒトの生の血液あるいはその成分そのものである。

 また、血漿はさらにそのなかの各成分を化学的に精製して治療に用いられている。血漿から精製分離したアルブミンはアルブミンが不足する病態に用いられる。血液凝固第Ⅷ因子製剤はこれらが先天的に不足する血友病Aに対して用いられ、血液凝固第Ⅸ因子製剤は血友病Bに対して用いられる。このほかに、血液凝固第Ⅶ因子製剤、血液凝固第ⅩⅢ因子製剤、フィブリノゲン製剤アンチトロンビンⅢ製剤などがある。免疫グロブリンは病原微生物に対する抗体の本体であるが、これらを補う免疫グロブリン製剤も血漿から精製分離され、製剤になっている。これらは、血漿成分の精製物であり血漿分画製剤とよばれる。前述の輸血用血液と血漿分画製剤をあわせ、血液製剤と総称する。

 これらの製剤は健康な供血者の血液を材料に調整され製造されるが、このように他人の血液を用いる場合を、同種血輸血allogeneic blood transfusionという。一方、自分の血液を輸血に用いる技術も確立しており、これらは自己血輸血autologous blood transfusionという。

[比留間潔 2021年2月17日]

輸血の歴史

血液は古くから生命や健康に深く関わると考えられていた。そして、悪い血液を除去する治療法として瀉血(しゃけつ)療法が広まった。病人から血管を切り血液を排出させる方法である。古代エジプトではすでに紀元前2500年に瀉血がなされていたとされる。西洋医学の父ヒポクラテスも紀元前5~4世紀に疾患は体液の平衡状態の失調によるものとし、急性疾患は体液の平衡状態を保つために瀉血をすべきであると主張していた。この瀉血療法は20世紀までもっとも一般的な医療行為として行われていた。瀉血療法のほとんどが科学的に根拠のない治療法であったが、血液が生命の営みに深く関与すると広く信じられていたものと思われる。

 古代エジプト、古代ローマ時代には生命を活性化するためにヒトの血液が飲まれていた。ローマの円形闘技場コロセウムでは闘士が倒れると、ほかの闘士たちはその血を飲んだといわれる。また、15世紀、ローマ教皇インノケンティウス8世Innocentius Ⅷ(1432―1492)は瀕死(ひんし)の状態となったとき、生命が復活することを期待し3人の若者の血を飲まされたという。

 1616年、イギリスのハーベーによって血液が血管内を循環するという事実が明らかになり、出血は循環する血液量の減少により循環が維持できなくなることと理解されるようになった。この画期的な発見により、動物やヒトを対象に血管内への血液の注入という本来の輸血療法が行われるようになった。1667年フランスのドニJean Baptiste Denys(1640?―1704)によって、4人に仔羊(こひつじ)の血液が輸血され、このとき、血管痛、呼吸困難、血尿などの副作用があったという記録が残っており、これは、現在では血液型不適合輸血の典型的な症状であったと考えられている。輸血による死亡例も出たため、フランス議会は輸血の禁止を決め、教皇も輸血禁止を命じた。

 その後、輸血に関する記録は乏しくなるが、1828年イギリスのブランデルJames Blundell(1790―1878)は分娩(ぶんべん)時の出血に対し妊婦10人にヒトの輸血を行い半数が救命され、輸血療法が注目されるようになった。ただし、このときは、ABO血液型はまだ発見されておらず、当然、多くは異型輸血であったと思われる。

 ABO血液型が発見されたのは1900年、オーストリアランドシュタイナーによってである。ランドシュタイナーは2人のヒトの血液を混ぜると凝集したりしなかったりする組合せがあることに注目し、今日のA型、B型、O型にあたる血液型を発見した。1902年には彼の弟子によってAB型も発見された。ランドシュタイナーはこの血液型発見の業績で1930年にノーベル医学生理学賞を受賞している。

 血液は放置すると凝固するため、そのままでは臨床応用しがたい。1914年から1915年にかけて、ベルギーのユスタンAlbert Hustin(1882―1967)、アルゼンチンのアゴーテLuis Agote(1868―1954)、アメリカのルーイソンRichard Lewisohn(1875―1961)とワイルRichard Weil(1876―1917)らによってクエン酸ナトリウムが血液の凝固を止める薬剤として応用できることがみいだされた。さらに、クエン酸ナトリウムにブドウ糖を加えることで血液の機能がよく保たれることが判明した。このような技術を応用し、1937年ファンタスBernard Fantus(1874―1940)がアメリカ、シカゴのクック・カウンティ・ホスピタルに世界で初めての血液銀行blood bankを設立した。

 日本の輸血は、1919年(大正8)、九州帝国大学の後藤七郎(1881―1962)および東京帝国大学の塩田広重(ひろしげ)(1873―1965)によって初めて行われたとされる。また、日本にABO血液型検査を普及させたのは長野赤十字病院の原来復(はらきまた)(1882―1922)と考えられている。原はドイツのハイデルベルク大学留学中に血液型の研究を行い、帰国後の1916年に血液型の種類と遺伝に関する論文を医事新聞に発表している。

 当初、輸血療法は危険の伴う特別な治療法と思われていたが、1930年(昭和5)、当時の内閣総理大臣、浜口雄幸(おさち)が右翼の青年に拳銃(けんじゅう)で腹部を撃たれたときに、子息と秘書の血液550ミリリットルが輸血されて救命された。この事件の報道は、輸血が世間に広く知れわたり、有効な治療法として社会に認められるきっかけになった。また、1964年(昭和39)には駐日アメリカ大使ライシャワーがアメリカ大使館前で暴漢に右大腿(だいたい)部を刃物で刺され大量出血したが、日本人供血者の血液を輸血され救命された。しかし、ライシャワーはその後、輸血による肝炎を発症した。当時は輸血用の血液は売血によってまかなわれ、安全性確保には大きな問題があり、輸血後の肝炎が多発していたが、この事件によって輸血の安全性を求める声が強くなった。同年には売血を廃止し献血を推進する閣議決定がなされた。引き続き、「献血推進対策要綱」が厚生省(現、厚生労働省)より通達され、日本赤十字社による献血が推進された。1973年以降、日本で使われる輸血用血液はすべて献血によるものとなり今日に至っている。

 輸血の安全性確保の歴史は、感染症克服の歴史であったといってよい。日本では献血者の血液検査として、1972年にB型肝炎ウイルスのためのHBs抗原検査、1986年にヒト免疫不全ウイルス(HIV)のための抗HIV抗体検査、1989年(平成1)にC型肝炎ウイルスのための抗HCV抗体検査が導入された。さらに、1999年にはこれらのウイルスの核酸を増幅して検査する高感度の核酸増幅検査nucleic acid amplification test(NAT)が導入され、大幅に安全性が向上したといってよい。このほか、梅毒トリポネーマ、ヒトT細胞指向性ウイルスⅠ型、パルボウイルスB19などの検査が行われている。

 しかし、この間1980年代の血液凝固因子製剤によるHIV感染が重大な社会問題になった。日本では1994年時点で約4200人の血友病患者のうち、約1800人がHIVに感染していることが判明し、これは1985年から1986年までのHIVに汚染された輸入血液凝固因子製剤が原因であると考えられている。この問題を契機に血液製剤の安全性を確保する血液事業の整備、関連する法律の整備が世界各国で取り組まれた。日本では2002年(平成14)「採血及び供血あつせん業取締法(血液法)」および「薬事法」が改正された。新しい血液法(改正により法律名を「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」と改称)には血液事業に関する国、地方自治体、採血業者、販売業者、医療機関の責務が明示され、血液製剤の適正使用、国内自給自足の達成、献血者の保護、売血の禁止などが掲げられている。改正薬事法では、血液製剤などヒトの血液や組織で製造した製剤を「特定生物由来製品」と定め、特段の安全性確保に関する規制がかけられた。医療機関で血液製剤を患者に使用する場合、その有効性と危険性を説明すること、さらに血液製剤を使用した場合、製品名と製造番号および患者の氏名・住所と投与日を記録し20年間保管することも義務づけられた。これは、血液製剤による副作用が発生した場合、被害を把握し被害の拡大を速やかに阻止するための対策である。薬事法は2014年に、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」に改正されたが、「特定生物由来製品」に関する規制は継続されている。

[比留間潔 2021年2月17日]

輸血用血液の適応と効果

血液製剤は、献血者の善意によって得られる製剤である点、感染などの危険性が不可避的である点など、ほかの治療薬剤にはない特徴がある。そのため、とりわけ適正な使用が求められてきた。また、とくに日本では、血液凝固第Ⅷ因子製剤を輸入に依存した結果、多くの患者にHIV感染を引きおこした事実があり、現在では血液凝固第Ⅷ因子製剤は国外由来の血漿を原料としなくなった。しかし、アルブミン製剤は36.1%(2018)をいまだに輸入に頼っている。この原因として、適応を十分に吟味した、必要最少限の使用方法が浸透していない可能性が指摘されている。このため、厚生労働省は2019年に「血液製剤の使用指針」(改訂版)を通達している。以下、この指針にしたがい、各種血液製剤の特徴と適応について説明する。

 赤血球液は献血者から採血した血液に抗凝固剤を添加し、遠心後、上清(上澄み)を分離し下方に沈んだ赤血球部分に保存液を加えて作成する。日本赤十字社では血液200ミリリットルから作成したものを1単位とし、400ミリリットル由来を2単位として病院に供給している。赤血球液は急性または慢性の出血に対する治療および貧血の急速な補正と、身体各組織への酸素の供給と身体を巡る血液量の維持を目的に使われる。赤血球は酸素と結合して各組織に酸素を運搬する重要な働きがあるので、赤血球が不足すると重篤な生命の危険性が生じる。赤血球中のヘモグロビン(Hb)が酸素を運搬する働きをもち、ヘモグロビンは健常人の血液中には通常12~16g/dl存在する。慢性的な貧血症ではヘモグロビンが6~7g/dl未満になると各臓器へ酸素が行き渡らなくなり、心臓への負担が高まるため、赤血球液の適応になる。外科の一般的な手術では、ヘモグロビンが7~8g/dlより低くなれば赤血球液の輸血が推奨され、心肺機能や脳循環不全がある場合には、ヘモグロビンを10g/dl程度に維持することが勧められる。

 血小板はおもに血液成分分離装置を用いて献血者から採取する。血小板濃厚液1単位には100億個以上の血小板が含まれ、成人には1回の輸血に10~20単位が用いられる。血小板は健常人の血液中に15万~25万個/μl存在し、出血部位に付着、凝集し止血する作用がある。一般的に血小板が1万~2万個/μl未満になると重篤な出血がおこる可能性があるので、血小板輸血が必要になる。おもに白血病やがんの治療で血小板が低下した場合に用いられることが多い。このほか、実際に出血がある場合や手術の場合は血小板5万個/μlを保つように血小板濃厚液を輸血する。

 新鮮凍結血漿は献血者の全血を遠心した後、上清の血漿部分を分離して6時間以内に凍結して作成する。使用するときは温水で解凍して静脈内に注入する。血液中の種々の凝固因子の不足を補うことが主たる目的である。一般的に肝障害がある場合、あるいは感染症やがんが原因で播種(はしゅ)性血管内凝固症候群を発症した場合などで血液凝固因子活性が低下したときに適応となる。このほか、循環血液量と同等の大量出血を生じたときは凝固因子が欠乏するので適応になる場合がある。

 アルブミン製剤は複数の献血者から採血した血漿をまとめて貯留し、化学的な工程を経て、96%以上に精製されたヒトアルブミンである。加熱処理や界面活性剤による処理など病原体の混入を除去する種々の技術が施されている。アルブミン製剤の使用目的は循環血液量の維持と、膠質(こうしつ)浸透圧の維持である。すなわち、出血などで血液量が不足し血圧が低いショック状態の場合や、血液中のアルブミンが低くなり、むくみや胸水、腹水がある場合などである。健康人の血液中にはアルブミンが3.5~4.5g/dl程度存在するが、2.5g/dl未満でむくみや胸水、腹水などの症状がある場合や、3.0g/dl未満で循環血液量が低下している場合に適応になる。

[比留間潔 2021年2月17日]

輸血副作用

献血者から得られる血液製剤には一定の副作用の危険性が存在し、安全技術が向上しても皆無にはならない。これらの副作用はおもに感染性副作用と非感染性副作用に分類される。感染性副作用は細菌、ウイルス、原虫などの病原微生物によってもたらされる。1960年代以前は数十%の頻度で輸血後肝炎が発生していたが、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、HIVをチェックする高感度の検査が導入されてから、その頻度は著しく低下した。

 2014年に、献血者個別を対象にしたHBV、HCV、HIVの核酸増幅検査(NAT)が導入されて以降、2018年までで、輸血用血液によるHBV感染は3例、HCV感染は0例、HIV感染は0例である。

 非感染性輸血副作用の主体をなすのは免疫性副作用である。他人の細胞や体液に対する免疫反応がおこり、種々の副作用がもたらされる。とくに血液型が異なった輸血が行われ、もし、患者にその血液型に対する抗体がある場合、悪寒戦慄(おかんせんりつ)、発熱、ショックなどの全身症状とともに輸血した赤血球が体内で破壊され溶血をおこす場合がある。これは急性溶血性反応とよばれ、ABO血液型の不適合輸血でもっとも重篤になりやすく、ときに致命的になる。

 ABO血液型はA型、B型、O型、AB型とその亜型が知られている。A型のヒトはB型抗原に対する抗体(抗B抗体)、B型のヒトはA型抗原に対する抗体(抗A抗体)、O型のヒトは抗A抗体と抗B抗体をもっており、AB型のヒトには抗A抗体も抗B抗体もない。したがって、たとえばO型の患者にA型の赤血球が輸血されると、患者のもつ抗A抗体が輸血された血液に反応し、重篤な急性溶血性反応をおこす可能性がある。このような血液型不適合輸血による急性溶血性反応がおこる頻度は、2004年に日本輸血・細胞治療学会が実施した調査によると20万分の1程度である。一方、AB型のヒトにA型の赤血球が輸血されても、抗A抗体がないので、重篤な副作用は生じない。このように、血液型が異なった輸血でも場合によってその副作用の重篤さは大きく異なる。

 また、血液型はABO以外にもRh式をはじめ25種類以上に分類され、それぞれの分類につき数種類から数十種類の血液型が発見されている。これらの血液型に関しても異なった型の輸血がなされ、患者にそれに対する抗体があれば輸血副作用が生じる可能性がある。ただし、ABO以外の血液型に対する抗体を自然に有することはまれであり、また、あった場合でも免疫反応が強くおこらない場合が多い。

 このほかの重要な輸血副作用として、発熱反応、輸血関連急性肺障害、輸血関連循環過負荷があげられる。発熱反応は重症になることはまれであるが、頻度が高く、輸血症例の0.5~1%で起こるので対策が必要である。輸血関連急性肺障害は、輸血による免疫反応などで呼吸障害が起こる副作用である。致命的になることがあり、早期発見、早期治療などの対策が求められる。また、輸血関連循環過負荷は、輸血による心臓への負荷のため、心不全が生じる重篤な輸血副作用である。輸血速度や輸血量を減少させるなどの予防策を講じ、症状が出たらただちに心不全に対する治療が必要になる。

[比留間潔 2021年2月17日]

自己血輸血

献血者から得られる他人の血液には感染性副作用や免疫性副作用の危険性があるので、おもにこれを避ける目的で自分の血液を輸血に用いる方法が自己血輸血である。自己血輸血は、術前採取法preoperative collectionと周術期採取法perioperative collectionに分けられる。術前採取法は術前貯血式自己血輸血ともよばれ、手術の前に患者から血液を採取して手術のときまで保存する方法でもっとも盛んに行われている。成人の場合、一般的には手術の数週間前から1週間ごとに採血し、合計800~2000ミリリットル程度を冷蔵保存あるいは凍結保存する。患者は鉄剤を服用し、場合によってはエリスロポエチンという造血因子を注射して、採血によって生じた貧血を回復する。そして、手術のときに保存しておいた自分の血液を輸血する。

 周術期採取法には、手術が始まるとき手術室で輸液などを行ったあとに採血して輸血に用いる術前希釈式、出血した血液を集めて輸血に用いる術中回収式、術後に出血した血液を集めて輸血に用いる術後回収式の3種類の方法がある。

[比留間潔 2021年2月17日]

今後の輸血療法

輸血療法は赤血球や血小板などの生きた細胞を患者に輸注して、その血液細胞の機能を生体内で発揮させる治療ともいえる。また、1980年代以降、ヒトの血液中には成熟した血液細胞だけではなく、血液をつくる造血幹細胞やほかの臓器を再生させる組織幹細胞が存在することが判明してきた。このようにヒトの血液にはさまざまな機能を有する細胞が存在することが明らかになり、血液を用いた輸血療法は広く「細胞治療」の概念を含むようになってきた。

 実際に血液中の造血幹細胞を集めて造血幹細胞移植に応用することができる。ヒトに顆粒(かりゅう)球コロニー刺激因子granulocyte colony stimulating factor(G‐CSF)を注射すると血液中に多くの造血幹細胞が出現するので、これを用いて移植する。これは末梢(まっしょう)血幹細胞移植とよばれ、骨髄移植にかわる治療法として注目され、おもに白血病など重篤な血液疾患に対して広く行われるようになった。別の観点からいうと白血病によりさまたげられた造血を新たに再生させる意味から、再生医療という概念も含まれている。

 また、血漿分画製剤は、血液凝固因子製剤、アルブミン製剤などで遺伝子組換え製剤が開発されており、これらはヒトの血液を材料にしていないので、一種の人工血液製剤である。赤血球、血小板に関してはまだ、実用可能な人工血液は開発されていないが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を試験管内で赤血球や、血小板に分化させることが可能なので、大量生産ができれば、ヒトの血液を原料としない輸血用血液が作成される可能性がある。今後、献血者の血液に依存しない製剤の開発も夢ではなくなりつつある。

[比留間潔 2021年2月17日]

『松田薫著『「血液型と性格」の社会史』改訂第2版(1994・河出書房新社)』『ダグラス・スター著、山下篤子訳『血液の物語』(1999・河出書房新社)』『遠山博編著『輸血学』改訂第3版(2004・中外医学社)』『浅井隆善・比留間潔・星順隆著『一目でわかる輸血』第2版(2005・メディカル・サイエンス・インターナショナル)』『日本輸血・細胞治療学会編・刊『安全な輸血療法ガイド』(2012)』『厚生労働省編『血液製剤の使用指針』(2019) https://www.mhlw.go.jp/content/11127000/000493546.pdf』『厚生労働省編『令和元年度版血液事業報告』(2020) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197659_00001.html』

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改訂新版 世界大百科事典 「輸血」の意味・わかりやすい解説

輸血 (ゆけつ)
blood transfusion

健康な人間から採取した血液またはその成分を患者の血管の中へ注入する治療法。外傷や手術で大量の血液が失われたり,内科系の疾患で貧血が高度となった場合に,生体の正常な機能維持をするために行われる。かつては採血されたそのままの,いわゆる全血輸血が行われたが,現在では,血球や血漿などの血液成分を輸血する成分輸血が行われるようになった。また,新生児などに対し,循環血液のほぼ全量を健康な血液で置き換える交換輸血や,あらかじめ自分の血液を採取しておいて,手術などに際して用いる自己血輸血などもある。

動物から動物への輸血は1665年にイギリスのローワーRichard Lower(1631-91)がイヌで行ったのが初めであり,67年にローワーは同僚のキングKingとともにヒツジの血液をヒトに注射し,また同年フランスのドニJ.Denisは貧血治療のために動物の血液をヒトに輸血した。しかし,現在考えられるような異種移植についての知識がなかったために,しばしば重篤な副作用を起こし,失敗に終わった。その後,1818年にブランデルによるヒトからヒトへの輸血で成功した後,1901年K.ラントシュタイナーABO式血液型を発見して,ようやく血液型不適合による事故は激減するようになった。さらに第1次大戦を契機に,抗血液凝固剤の開発などによって,輸血法は急速に進み,外科的治療の進歩に大きく貢献した。また,36年には,アメリカのファンタスBernard Fantus(1874-1940)がシカゴに輸血用血液交換所を創設したことがきっかけとなり,世界各国で血液供給システムが確立されるようになった。日本に科学的輸血法が入ったのは1919年で,30年代以後広く行われるようになった。さらに52年には日本赤十字社に〈血液銀行〉事業所が設置され,64年〈血液センター〉に改組され,供給体制が整備された。
血液センター

前述のように,かつては輸血といえば全血輸血が行われてきた。しかし血液は赤血球,白血球,血小板などの血球成分と血漿成分からなっており,それぞれの働きや,免疫における抗原性も異なっている。したがって輸血が必要だといっても,必要とされる成分は目的によって異なる場合が多い。

 輸血の目的には大別して,(1)循環血液量の維持,つまり,ショックなどのように大量の出血で循環血液の減少があるとき,(2)貧血の場合のように組織への酸素の補給が必要なとき,(3)凝固因子の欠乏または血小板減少によって出血傾向があり,血液凝固因子の補給が必要なとき,(4)急性の血漿喪失による末梢循環不全や高度の低タンパク血症時の膠質(こうしつ)浸透圧是正などのように血漿タンパク質の補給が必要なとき,などがある。(1)に対しては全血輸血を行うが,(2)以下についてはその必要性により,(2)では赤血球,(3)では血小板や血液凝固因子,(4)では血漿や血漿タンパク質を補給するために,成分輸血を行うことになる。これらを考慮すれば,急激な大量出血以外は全血輸血を必要とすることはまれといえる。たとえば貧血では赤血球のみが必要なのであって,全血を輸血することは不合理,不経済であるばかりか,不必要な成分を輸注する結果,心臓やその他の臓器に負担をかけるとともに,白血球や血小板による免疫抗体を生じ,発熱の原因,また異種タンパク質などによる副作用も生ずることになる。そこで近年では,血液を各成分に分離し,患者が必要となる成分だけを輸注する成分輸血が輸血療法の中心になってきている。

成分輸血には次のような特徴がある。(1)血液の必要な成分を輸注するので他の成分による副作用を防ぐことができる,(2)必要な成分のみを濃厚(濃縮)な形で輸注するので治療効果が大きい,(3)一単位の血液を数種類の成分に分けるので,一単位を数人の患者に使用でき,血液の有効利用に役立つ,(4)各成分の凍結保存ができるので長期保存が可能である。

 この成分輸血に用いられる血液は,採血直後の全血を遠心分離によって調製する。すなわち抗凝固剤ACD(acid-citrate-dextrose)を用いて,プラスチックバッグに採血した血液を赤血球濃厚液と多血小板血漿platelet rich plasma(PRPと略記)に分離する。多血小板血漿はさらに遠心分離してバフィコート(血小板と白血球の成分)と上清の乏血小板血漿platelet poor plasma(PPPと略記)に分離し,この乏血小板血漿,血小板など血球成分を含まない透明な血漿を-20℃以下で凍結したものが,新鮮凍結血漿である。使用するときは37℃の温水中で解凍して輸注する。この新鮮凍結血漿を4℃でゆっくり解凍すると,血漿中に白色糸状の沈殿物ができる。バッグを遠心分離機にかけてこれを集めたものがいわゆるクリオプレシピテートと呼ばれるもので,血友病に有効な血液凝固第Ⅷ因子を多く含んでいるが,現在製造されていない。

 一方,血球成分は大部分が赤血球で,赤血球濃厚液,現在はさらに血漿成分を除き新しい保存液(MAPマントール,アデニン,フォスフェート液)を加えた赤血球MAPが調製される。これを生理的食塩液で洗浄し液性成分を洗い流した洗浄赤血球,フィルターを用いて白血球を除去した白血球除去赤血球,超低温で凍結した冷凍血液(解凍赤血球)を二次製剤として調製する。このように分離調製された血液を血液製剤という。

 赤血球輸血は慢性貧血,外科手術前後の輸血,妊娠末期の貧血,外科手術による出血などに用いられる。輸血による発熱反応は主として輸血による抗白血球抗体によるが,この場合には白血球除去赤血球を,また蕁麻疹(じんましん)などのアレルギー反応がある場合は洗浄赤血球が適応する。解凍赤血球は凍結による赤血球の溶血を防ぐためグリセリンを加えて,-85℃あるいは-196℃の液体窒素で凍結して保存する。保存血や赤血球濃厚液の有効期間が21日であるのに対し,冷凍血液では10年内の有効期間があるため,まれな血液型,血液の常時保存やあらかじめ自己の血液を血球と血漿成分に分け,それぞれを凍結し手術時に輸血する自己血輸血が行える。輸血を必要とする場合,その80%は赤血球輸血でよいといわれている。

 血小板輸血は血小板が急激に減少した場合や,血小板産生低下による減少症,あるいは血小板機能の異常のため出血傾向がみられるときに輸注される。

 血漿輸注のうち新鮮凍結血漿は多くの血液凝固因子を含み,外傷や外科手術の際の凝固因子の補給やそれらの欠乏による出血傾向のときに補充するために行われる。また不時の出血によるショック症状に対する応急処置にも用いられる。なお,血漿にはいろいろなタンパク質が含まれており,物理化学的操作を用いて精製したものが血漿分画製剤と呼ばれるもので,アルブミンや免疫グロブリンがある。アルブミンは血漿膠質浸透圧の是正など,やけどやショックなどの際に使われ,免疫グロブリンはある種の感染症の予防のためや,免疫性の低下した場合などに使われる。

これら血液を輸血するときには,まず輸血用血液として安全かどうかの確認検査をしなければならない。その検査項目には,血液型検査,不規則抗体スクリーニング,梅毒血清反応,肝炎やエイズウイルス検査,肝機能検査などがある。血液型にはABO式やRh式をはじめ,多くの方式があるが,それらのなかでも,輸血で最もたいせつなのはABO式とRh式の二つである。

 献血者から提供された血液を患者に輸血しようとするときは,互いにABO式とRh式が同型であることとともに,実際に両者の血液を試験管で混ぜ合わせ,凝集反応や溶血反応がないかどうかの交叉(こうさ)適合試験を行って輸血する。もし適合しない血液が輸血されると,患者は発熱や悪寒などの副作用を生じることがあり,重篤な場合には生命に危険なこともある。とくに輸血副作用で重要なのは不適合輸血による溶血反応である。そのほか,アレルギー反応,発熱反応および輸血後肝炎,梅毒,マラリアなどの感染,抗凝固剤であるクエン酸中毒,塞栓症などがある。

 輸血は一種の臓器移植であるので,安易な輸血は慎み,慎重に,しかも必要最小限度にとどめることが重要である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「輸血」の意味・わかりやすい解説

輸血
ゆけつ
blood transfusion

健康人の血液やその成分を,病人や負傷者の血管内に注入すること。大量出血や火傷,外傷のあとで血液の量をもとに戻すための治療的手段であり,貧血でヘモグロビンの値が低いときに,血液が酸素を運搬する能力を高めるため,あるいはショックに対処するためにも用いられる。いまではごく日常的に行われる救命措置であるが,血液型抗原と抗体が発見されるまでは安全なものではなく,あまり行われなかった。
ヨーロッパでは 1492年に教皇インノケンチウス8世が献血を受けたという記録がある。 1628年に W.ハーベイが血液循環説を発表し,治療手段として輸血が注目されるようになった。 67年頃,フランスで J.B.ドニがヒツジの血を人間に輸血することに成功したが,その後不適合反応のためにあまりに多くの患者が死亡したため,17世紀後半にはフランス,イギリス,イタリアで輸血は禁止された。
輸血が普及したのは,1901年にオーストリアのラントシュタイナーによってABO式血液型が初めて特定され,ドナー (供血者) とレシピエント (受血者) の血液型を必ず調べることで安全性が高まってからである。インカ帝国ではおそらくもっと以前から輸血を成功させていたようだ。南アメリカ先住民族の血液型はほとんどがO型 Rh+なので,不適合反応はごくわずかしか起らないからである。日本では 1919年に塩田広重と後藤七郎がヨーロッパを視察し,輸血の技術を取入れた。 30年に総理大臣浜口雄幸が狙撃されて出血多量の重態に陥ったとき,塩田らが輸血を施し一命をとりとめたことで,画期的に普及した。
輸血は使用する血液製剤の種類によって,全血輸血と成分輸血に大別される。全血輸血は血液をそのまま輸血するもので,採血後 72時間以内の新鮮血か,保存血を使用する。手術の場合は普通,出血が 1200ml以上になると全血輸血が行われる。成分輸血は,血液を遠心分離機にかけて赤血球白血球血漿血小板などの成分に分けた血液成分製剤を使用し,必要な成分のみを輸血する。血液成分製剤のうち,血漿からさらにアルブミン免疫グロブリン血液凝固因子を分画したものは血漿分画製剤という。日本では,血漿分画製剤以外は日本赤十字社の血液センターで無償の献血材料から製造されている。
全血輸血と成分輸血は,少くとも 10種類の症状を治療するために用いられる。 (1) 急激な血液の損失に対する全血輸血。 (2) 慢性的な貧血に濃厚赤血球輸血。 (3) 赤血球以外の血液を頻繁に輸血したことによるアレルギーに対する洗浄赤血球輸血。 (4) 血小板欠乏症による出血のための血小板輸血。 (5) 白血球が減少した感染症患者に対する白血球輸血。 (6) 血液損失のないショック状態のための血漿輸血。 (7) 血友病患者の出血に対する新鮮凍結血漿,新鮮液状血漿などの輸血。 (8) ショック状態や慢性アルブミン減少症や栄養失調に対するアルブミンの輸血。 (9) ウイルス性肝炎の予防,麻疹予防あるいは麻疹に曝露したあとの緩和に,免疫グロブリンの輸血。 (10) フィブリノーゲンの不足あるいは欠如による出血に,血液凝血因子の輸血。このほか,患者の血液のすべて,または大部分を取除くと同時に,新しい血液を輸血する交換輸血があり,胎児性赤芽細胞症の治療や,血中毒素の除去,白血病の症状の一時的改善などに適応される。
輸血による副作用は,アレルギーや赤血球不適合などの原因で少なからず発生し,原因不明のものもかなり多い。ドナーとレシピエントの ABO式血液型が適合しないと,血管内で急激な溶血を起し,ショックや腎不全などの重篤な状態に陥るのはよく知られている。赤血球不適合の場合も,発熱や悪寒などの症状をきたす。これらを避けるため,輸血前に厳重な血液確定検査と交差適合試験が行われている。まれではあるが,汚染血液,血中の気泡,過剰な輸血量,ドナーの血漿あるいは血小板への感受性などが原因となることもある。汚染血液の輸血による合併症には,ウイルス性肝炎 (B型・C型) ,成人T細胞白血病エイズ梅毒などが知られるが,現在は抗体検査やウイルス検出の徹底により改善されている。このほかに,輸血した血液中のリンパ球がレシピエントの細胞を攻撃する GVHD (移植片対宿主病) が日本で問題になっている。このため,日本赤十字社血液センターでは 93年から輸血用血液に対して,リンパ球の活性を殺す放射線照射が行われている。

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百科事典マイペディア 「輸血」の意味・わかりやすい解説

輸血【ゆけつ】

健康人の血液を患者の血管内に注入する療法。広義には血漿(けっしょう)や赤血球浮遊液などの注入を含む。目的は大量出血時のショック貧血または出血性疾患,急性中毒などに対する治療,栄養の補給など。輸血には患者と供血者の血液型,特にABO式血液型の一致が重要である。O型は万能供血者と呼ばれ,他のいずれの型の患者にも輸血し得るが,大量輸血では副作用があり,一般には救急でやむを得ない場合に200cc以下を使用する。その他Rh式血液型が問題となることがある。これらの血液型が一致しても副作用を起こすことがあるので,輸血に際しては,さらに交差試験(患者の血清に供血者の血球を加え,供血者の血清に患者の血球を加える)を行い,凝集反応の起こらないことを確かめている。血液型不適合によるもの以外の副作用には,輸血感染(エイズ血清肝炎梅毒マラリアなど)やアレルギー性発熱反応などがある。大量の血液を常時供給するために血液銀行が設けられており,受血者への悪影響を防ぎ,供血者の健康を守るために,法律上の規制がある。
→関連項目移植片対宿主反応病血液型自己血輸血手術成分献血注射

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知恵蔵 「輸血」の解説

輸血(犬・猫の)

犬や猫にも血液型があり、輸血が行われる時は、同型血液を使用する必要がある。犬の場合で9タイプ、猫の場合で3タイプの血液型が確認されている。いずれも人間と同様、不適合な輸血には重い副作用が生じる恐れがある。犬・猫の血液型を調べる判定キットによる検査に併せて、血液を提供する側と輸血を受ける側の両者の血液を合わせ、拒否反応を見る血液交差試験(クロスマッチ)を行っている。

(石田卓夫 日本臨床獣医学フォーラム代表 / 2007年)

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栄養・生化学辞典 「輸血」の解説

輸血

 治療の目的で血液を血管内に直接注入すること.血液全体を注入する全血輸血と成分の一部,例えば血小板などのみを注入する成分輸血がある.

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内科学 第10版 「輸血」の解説

輸血(血液疾患)

【⇨ 3-1-5)】[水澤英洋]

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世界大百科事典(旧版)内の輸血の言及

【血液型】より

…血液型はまた犯罪捜査などの際に個人識別に役立つが,最近ではDNA多型(DNA型)に遺伝標識としての主役の座が取って代わられるようになった。しかし,血液型抗原が輸血や妊娠や臓器移植に際して健康上不利益に振る舞うことがあるところから,臨床医学上では非常に重視されている。
【血液型の歴史】
 1901年にK.ラントシュタイナーがABO血液型を発見したことに始まる。…

【手術】より

…しかし先学の努力により現在日本の外科は世界において指導的立場をとれるほどに成長している。
【過去100年間の外科手術の進歩】
 外科手術は過去100年間で長足の進歩をとげたが,この進歩は外科医の腕が上がっただけではなく,大きな手術でも安全にできる基盤が築き上げられたこと,すなわち無菌法,抗生法,麻酔,輸血・輸液などの進歩によるところが大きい。
[無菌手術の導入]
 パスツールにより有機物の腐敗・発酵は空気中の微生物によりおこることがわかり,これを受けてJ.リスターは石炭酸消毒を,R.vonフォルクマンは昇汞消毒を提唱した。…

【血】より

…ユダヤ教のタブーの一つに,血をすべて抜きとった肉でなければ食べるのを禁じているのも,魂の座である人間の血に獣の血が混ざることを避けるためである。このような見地からは,17世紀にローワーRichard Lower(1631‐91)やドニJean‐Baptiste Denis(?‐1704)らが羊の血を用いて初めて人への輸血を試みたことなど,言語道断の瀆神行為である。試みは失敗したが,医学の発展にはしばしばこの種の悲惨な試行錯誤が伴っている。…

【保存血】より

…輸血用血液は,採取した血液に抗凝固剤であるACD液またはCPD液(いずれもクエン酸,クエン酸ナトリウム,ブドウ糖からなり,後者にはリン酸水素ナトリウムNaH2PO4が加わる)を加え,主として赤血球の代謝を抑えるために4~6℃で保存されるが,保存血には全血と濃厚赤血球が含まれるが,現在濃厚赤血球は全血よりバフィコート(白血球と血小板を含む成分),血漿のほとんどを除き,新しい保存液MAP液(マニトール,アデニン,フォスフェート)を加えた赤血球MAPを指す。したがって採血後21日目までのこれらの輸血用血液の名称である。…

※「輸血」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」