デジタル大辞泉 「汗」の意味・読み・例文・類語
あせ【汗】
2 物の表面に、内部からにじみ出たり、空中の水蒸気が凝結したりしてつく水滴。「グラスが
[下接語]脂汗・大汗・玉の汗・血の汗・寝汗・鼻汗・一汗・冷や汗
[類語]汗水・脂汗・冷汗・寝汗・盗汗
翻訳|sweat
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汗は古くは皮膚にある無数の小孔から体液がしみ出すものと考えられてきたが,1833年にJ.E.プルキンエらによって特殊な分泌腺(汗腺)が皮膚に存在することが明らかとされて以来,科学的研究の対象となったが,その後の研究の進歩は遅々たるものであった。1920年ころになって,久野寧がモンゴル地方に自生するマオウの発汗作用の研究をきっかけとして,系統的に広範な研究を重ねた結果,発汗機能について多くの基本的事実が見いだされ,発汗生理学が初めて学問的に体系づけられるに至った。
汗腺は小さな管状腺で,その分泌部は深層の真皮層内にあり,そこで作られた汗(原汗という)は導管を通って皮膚表面に運ばれ蒸発する。汗腺にはアポクリン腺(大汗腺)とエクリン腺(小汗腺)の2種がある。アポクリン腺の導管は毛根に開孔するが,エクリン腺は毛には無関係に皮膚に開孔する。アポクリン腺は,ヒトでは腋窩(えきか),下腹部,陰部など限られた体部にのみある。分泌物は有機成分に富み,その分解産物に由来する臭いは体臭のもととなり,とくに腋窩のアポクリン腺の分泌物が分解されて臭いを発するようになるのが〈わきが〉である。この分泌機能は,思春期に発達するので,性的な意味をもつものと思われる。エクリン腺は体表全般に密に分布し,そのうち実際に分泌能力をもつもの(能動汗腺という)の総数は日本人では180万~275万(平均230万)程度である。分布の密度(皮膚1cm2当りの汗腺数)は,手掌,足底に最も多く300個以上もあるが,胴などの軀幹部は概して少なく100個以下のところもある。また,体部位による密度の差には個人差が大きい。エクリン腺の分泌のうち,手掌,足底,腋窩での発汗は,精神的・情緒的刺激によって起こるので,精神性発汗mental sweatingと呼ばれる。その本来の目的は,これらの部の皮膚を湿らせてその摩擦を増す(たとえば獲物を握るなどのとき)ためのものと考えられている。精神性発汗部以外の全身(腋窩も含まれる)のエクリン腺は,暑さの刺激によって分泌が行われる。この発汗では皮膚面に排出された汗の水分が蒸発するに際して気化熱を奪い,それによって体熱の放散に役立つので温熱性発汗thermal sweatingと呼ばれる。このほか,ときに強い酸味や辛味などの味覚刺激によって発汗が起こることがあり,味覚性発汗gustatory sweatingと呼ばれる。精神性および温熱性発汗は,いずれも発汗中枢と呼ばれる脳の一定部位の神経活動によって交感神経を介して分泌の調節が行われる。温熱性発汗中枢は間脳の視床下部に,精神性発汗中枢はこれとは別にさらに上位の脳部にあると考えられているが,両者の関係などについての詳細はまだ明らかにされていない。
暑熱の環境下では,熱放射,対流などによる体熱の放散は減少するかあるいは無効となる。このようなときには,汗の蒸発による熱放散のみが残された唯一の生理的体温調節手段となる。水1gが蒸発すると580calの気化熱を奪うので,もし1時間に1lの発汗があり(暑熱下での激しい筋肉運動などでは,ほぼこの程度の発汗がある),かつ,その汗が全部皮膚面で蒸発したとすると,体重60kgのヒトの体温を1時間内に約12℃上昇させるに相当する激しい体熱産生があったとしても,その熱を全部放散して体温を一定に維持できるほどの強力な放熱能力があることになる。ただし,激しい発汗時には皮膚面で蒸発し,実際に体熱の放散に役立つのはその一部分のみで(この汗を有効汗量といい,全発汗量のほぼ40%程度),他の大部分は水滴のまま身体から滴り落ちてしまうので体熱放散には役立たない。
汗には多種類の無機および有機成分が含まれるが,いろいろの条件でその量は大きく変動する。有機成分のうち,おもなものはアンモニア(5mg%),尿素(15mg%),乳酸(35mg%)などがあり,いずれも血漿の濃度より高いが,汗の分泌速度が増すほどその濃度は低くなる。汗の成分として最も多く,かつ重要なのは,無機成分のナトリウム(塩化ナトリウムNaCl)である。皮膚に排出された汗の塩分(NaCl)濃度は,分泌速度が高いほど濃くなり,個人差も大きく(ほぼ0.1~0.6g%の範囲),また,暑さに身体が鍛練された後では塩分は薄くなる。したがって,同一人でも夏の汗は冬の汗よりも塩分は薄い(日本人の平均的汗塩分濃度は,夏は0.27,冬は0.44g%)。汗への塩分の排出は次のように行われる。分泌部で作られた原汗は血漿とほぼ等しい塩分濃度であるが,途中の導管中でナトリウムと水が(とくに前者がより多く)皮膚組織内に再吸収(回収)され,このために皮膚面に排出された汗は血漿より薄い(この点,微視的にみると〈綸言は汗のごとし〉という格言とは反することになる)。導管中のナトリウムの再吸収は,副腎皮質ホルモンのアルドステロンによって促進される。前述のように,大量の発汗時には有効汗量とならずに滴り落ちる汗が増えるが,これは体液および血液量の調節に重要な意義をもつ水分および塩分の単なる損失にすぎない。塩分濃度の高い汗を過量に排出することは,体液の保持,血液循環の調節に不利となる。このため,暑熱鍛練によって汗の塩分が薄くなること,また,熱帯地住民は温暖または寒冷地住民に比べて発汗量がかえって少なく,かつ汗の塩分濃度が低いなどの現象は,身体が暑さに対して有効に対処するための環境適応機能の好例である。
執筆者:大原 孝吉
発汗を抑制する薬。局所適用によってエクリン腺からの発汗を抑える目的で使われるものには,塩化アルミニウム,硫酸アルミニウム,フェノールスルホン酸アルミニウム,塩基性塩化アルミニウム,ホルムアルデヒド,グルタールアルデヒドなどの水溶液やローションがある。アトロピンの内服によっても制汗作用が発現するので,多汗症の治療に用いられる。汗腺を支配して発汗をひき起こす神経は,解剖学的には交感神経系に属するが,薬理学的にはコリン作動性神経で,アセチルコリンを伝達物質として放出し,汗腺のムスカリン様受容体に興奮を伝達している。したがって,その作用を抑えるアトロピンおよび類似作用薬が制汗剤として有効となる。
→自律神経薬
執筆者:粕谷 豊
あか(垢)は外から付着したものと考えられたのに対して,汗は内から外へしみ出るものと考える傾向があった。ルクレティウスは,すべての物体は稠密に詰まっておらず,すき間があるといい,洞窟や岩石が水滴を滴らせ,人の全身から汗が流れるのを例にあげている(《物の本質について》)。大プリニウスは,金鉱石を溶鉱炉に入れた際に流出する銀を汗と呼び(《博物誌》33巻),ミョウバンは銅鉱石の汗が泡状に固まったものとみた(同35巻)。岩石の表面を肌とし,これに凝固付着する水滴を汗とする見方は日本にもある。
汗は労働や苦役を表した。ギリシア語hidrōs,ラテン語sudor,英語sweatのいずれにも,汗をかくような骨のおれる仕事の意味がある。ことわざに〈汗なくしては楽もなしNo sweet without sweat〉というし,怒ったヤハウェがアダムに〈汝は面に汗して食物を食らい終に土に帰らん〉(旧約聖書《創世記》3:19)といったのもこの含意による。
睡眠中は,入眠すると発汗は増加するが,しだいに減少し,レム睡眠では強く抑えられる。しかし,睡眠中を通して手のひらと足底の発汗はない。覚醒すれば軀幹などの発汗はとまり,手のひらと足底に汗が出てくる。アルコールが皮膚血管を拡張していっそう暑さを感じさせるためか,夏季に酒を飲むとはじめのうち汗をかく人が多い。だがアルコールには発汗中枢を抑制する傾向があるから飲み続けていると汗はとまる。精神的緊張がたかまれば〈手に汗を握る〉だけでなく全身から発汗しうる。
関節リウマチや粟粒(ぞくりゆう)結核では発熱中に汗をかき,多くの急性熱病では下熱時に汗をかく。ヒッポクラテスは,つとに汗に注意し,高熱時に冷や汗が出ると死に,微熱と冷や汗があれば病気は長びくといったり,汗をかいている身体部位に病気があるなどといい,病気と発汗との因果関係をみようとした(《箴言集》その他)。暑気に負けて熱射病になると汗が出なくなるが,発汗停止は熱射病の原因ではなく,発汗中枢の麻痺を示す危険な徴候の一つである。またケルススは,乾いた熱砂,熱蒸気,日光浴,運動,入浴による発汗を体内疾患の治療法の一つとして述べている(《医術について》)。1485年から1551年までに5度にわたって,〈sweating sickness(disease)〉または〈English sweat〉と呼ばれた死亡率のきわめて高い疾患がイギリスを襲った。悪寒戦慄(せんりつ)と激しい発汗で発症し,数日で死亡したこの病気が何であったかつまびらかではない。
はなはだしい驚愕や恐怖のときに出る冷や汗についても古くから正確に知られており,ルクレティウスは精神が激しい恐怖に動かされると四肢にみなぎるアニマ(精気)が感覚を分かち合い,発汗と蒼白が全身に起こり,言葉が途切れ云々と述べている(《物の本質について》)。〈冷汗三斗〉などというが,オウィディウス《転身物語》にはさらに著しい冷や汗の話がある。アルテミス(ディアナ)の侍女アレトゥサArethusaがアルペイオス川(ペロポネソスの主河)の水神に追いつめられたとき,冷や汗が空色の水滴となって全身から流れ出し,泉となって彼女自身もその中に溶けてしまったという。
執筆者:池澤 康郎
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汗腺(かんせん)からの分泌物をいう。99%以上が水で、残りの大部分は食塩、ほかに尿素や乳酸などが含まれる。つまり汗は希薄な食塩水ともいえる。また諸分泌液中でもっとも希薄な液体である。食塩濃度は0.3~0.9%で発汗の程度によって著しく異なり、普通は約0.65%であるが、大量に発汗するほど濃くなって0.9%にも達する。これは、分泌時に体液の食塩濃度に近いものが、汗腺の導管内で再吸収されるわけで、汗が大量に流れた場合には再吸収が十分に行われなくなるためである。汗の分泌量は1日600~700ccであるが、盛夏、筋肉労働や激しい運動をすると10リットルにも達する。このようなときは体外に失われる食塩もかなりの量になるので、水とともに食塩の補給も必要である。なお、熱帯地方の永住者では汗の食塩濃度がきわめて低く、また、いつも食塩濃度が高めの人は熱射病にかかりやすい。
汗のおもな機能は、皮脂とともに皮膚の乾燥を防ぎ、その表面を正常に保つほか、とくに重要なものは蒸発熱の放散による体温の調節である。皮膚からの体熱の放散は全体の70~80%にも達する。
汗腺から汗を分泌することを発汗という。発汗はその原因から温熱性発汗と精神性発汗に分けられる。
温熱性発汗は体温調節に関与する汗で、気温の高いときや筋肉運動によって熱産生が高まったときにおこる。この発汗は手のひらや足の裏を除く全身におこる。急に温度や湿度が高くなると発汗しやすく、また同じ温度刺激でも夏季は冬季より発汗しやすい。小児では春、夏ともに似たように発汗するが、成人は夏季になると発汗量が多くなり、小児の発汗量に近づく。小児の体表面積は体重に比して大であり、多量の汗が蒸発して熱を奪うため、成人ではみられないが、体温が発汗中に下がるので、とくに春季には睡眠中に適度の保温が必要となる。
精神性発汗は精神的または感覚的刺激によっておこり、手のひら、足の裏、わきの下だけに現れる。外界の温度には関係なく、手に汗を握るとか、冷や汗をかくといわれるものがこれである。精神性発汗により手のひらや足の裏に湿りを与えて手足の働きを容易にするということは、力仕事などに着手しようとするとき手に唾(つば)するのと同じ意味をもつ。
発汗は皮膚を圧迫すると抑制されるが、とくに半側発汗といい、体の左右どちらか一側に圧迫を加えると、その側の発汗が抑制され、他の半側の発汗が増進する。このことから、夏季就寝時には横向きに寝るのが効果的といえる。また、酸味や辛味などの味覚刺激によっても顔面に発汗がみられることがあり、味覚性発汗とよばれる。なお、温熱性発汗の潜伏期は長いが、精神性発汗のそれは短く、すぐに発汗がおこるので、うそ発見器にも利用される。
一般に、汗が流れ出るほど温熱性発汗が盛んなときでも、精神的刺激が加わると発汗が抑制される。夢中になると暑さを忘れるという現象である。たとえば、大相撲の7月場所で、力士が勝負中はそれほどでなく、立ち上がる前や勝負後に盛んに汗を流すことは、テレビでよく観察される。また、全身に発汗しているとき、体の一部を冷却、たとえば両足をバケツの中の冷水につけたり、首の後ろを冷やすと、全身の発汗が抑制される。
汗腺はその分泌様式からアポクリン腺とエクリン腺に分けられる。いわゆる汗は全身に分布するエクリン腺の分泌物である。汗腺の数は日本人では200万~500万であるが、実際に汗の分泌を行う能動汗腺は180万~275万で、その分布は手のひらと足の裏にもっとも密で、ついで前額に多い。
発汗の程度には個人差があり、ほとんど汗をかかない人から、汗かきといわれる人まである。これは感覚的な面もあるが、主として脳の発汗中枢の興奮性によるものである。発汗中枢は脊髄(せきずい)にあり、上位中枢は間脳底部の視床下部で、ここで他の自律神経機能と連絡し、体温調節が行われている。また発汗中枢は、運動中、睡眠中、解熱後に興奮性が高まる。運動中に発汗量が増すのは、中枢の興奮のほか、血液量の増大によって汗の分泌量が増加することにもよる。また睡眠中に汗をかくのは、幼児では日常的にみられるが、成人でもよく経験する。室温が高ければ全身の温熱性発汗は睡眠によって誘発され、精神性発汗は減退する。これは、温熱性発汗中枢に抑制的な作用を及ぼしている発汗制止中枢と、精神機能によって覚醒(かくせい)中、絶えず刺激されている精神性発汗中枢は、ともに睡眠中にはその緊張が解けるので温熱性発汗中枢のほうは感受性が高まることになるためである。このことから、室温とは関係なく、睡眠中は手のひらの発汗が止まるので、手のひらが乾いていなければ、狸(たぬき)寝入りということになる。また、なんらかの理由で覚醒中は発汗しない程度に発汗中枢の感受性が高められているときは、睡眠によって一段と感受性が高まり、いわゆる寝汗をかくことになる。
温熱性発汗は出生後数日から始まり、精神性発汗は1~3か月から始まる。これは、中枢の発達が低級部分(間脳)から高級部分(大脳皮質)に進むことから理解される。
なお、汗腺の神経支配は交感神経であるが、神経線維は副交感神経と同じコリン作動性であり、アトロピンにより分泌が抑制され、ピロカルピンによって促進される。
[真島英信]
『久野寧著『汗の話』(1963・光生館)』
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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「カガン(可汗)」のページをご覧ください。
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出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…その後,契丹,モンゴルが遊牧国家から出発し中国の一部または全部を征服し,遼・元という中国的王朝を建てたが,そこではステップの遊牧民族に対する支配のありかたが中国化することはほとんどなかった。 遊牧国家の君主は匈奴,鮮卑などは単于(ぜんう)と称し,柔然あたりから可汗,汗と称したが,王位継承法が不備であったこともあって王族間に王位継承争いが頻発し,これが遊牧国家を分裂に導き短命に終わらせることが多かった。匈奴の南北への分裂,突厥の東西への分裂,モンゴル帝国の元朝と4ハーン国への分裂がその例である。…
…皮膚は水をいくらか透過させるから,常時皮膚面から水分が蒸発している。これを不感蒸散というが,不感蒸散は,呼吸気道からの水分蒸発も含めて,発汗のない状態で熱放散の約1/4を占めている。環境温が皮膚温より高くなると対流・放射によって逆に体が加温される。…
…真皮も膠原繊維束がさまざまな方向に交錯して走る厚くてじょうぶな層として発達し,その下には多量の脂肪を含む皮下組織が存在し,神経や血管の通路となっている。また,哺乳類では小汗腺,大汗腺,皮脂腺,乳腺の四つの皮膚腺が出現する。小汗腺は全身に分布し,水分の多い分泌物を出して,毛とともに体温調節に重要な働きをする。…
※「汗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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