相似(読み)そうじ

精選版 日本国語大辞典 「相似」の意味・読み・例文・類語

そう‐じ サウ‥【相似】

〘名〙
① (━する) 形、姿などが、類似していること。
法華義疏(7C前)一「今所謂応同者。非名体即一故応同。唯取其所因義相似故云応同
※自画像(1920)〈寺田寅彦〉「1と2とがそれぞれ自分に似て居るのは、顔の相似を決定すべき主要な本質的の点で似て居るのでなくて」 〔易経‐繋辞上〕
② 似ているがほんとうのものではないこと。にせもの。えせもの。
※日蓮遺文‐法門可被申様之事(1269)「今の王の権法相似の法を尊んで天子本命の道場たる正法の御寺の御帰依うすくして」
③ 二つの図形が、その一方を一様に拡大または縮小して、他方と合同にすることができる状態にあること。〔数学ニ用ヰル辞ノ英和対訳字書(1889)〕
④ 異種の生物の器官で、形態や機能はよく似ているが発生的には起源を異にすること。
⑤ 仏語。天台の六即位の第四。さとりによく似た境地に達する段階。相似位。
顕戒論(820)中「十住十地分真菩薩、相似以還皆仮名」

あい‐・にる あひ‥【相似】

〘自ナ上一〙 (「あい」は接頭語) 互いに似ている。互いに似通っている。
東関紀行(1242頃)帰京「故郷に帰る喜びは、朱買臣に相似たるここちす」

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デジタル大辞泉 「相似」の意味・読み・例文・類語

そう‐じ〔サウ‐〕【相似】

[名](スル)
形や性質が互いによく似ていること。「相似した構造の建物」
一つの図形を拡大または縮小した関係にあること。
異種の生物の器官で、発生的には異なるが、機能が同じであるために形態が似ている現象。→相同
[類語]類似共通酷似近似似たり寄ったり類縁髣髴似る瓜二つそっくり生き写し丸写しそのまま似通う似寄る似寄り似付く類する肖似疑似空似もどき紛い紛らわしい似非カーボンコピー

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改訂新版 世界大百科事典 「相似」の意味・わかりやすい解説

相似 (そうじ)
analogy

生物学用語。類縁関係の遠い異種の生物において,個体発生上まったく別の起源から発生し,したがって系統発生的にも無関係の祖先型から別々に生じたものでありながら,一見類似した形態と機能をもつ器官が見られるとき,この類似を相似という。器官の形態と機能が異なっても,その起源が同じであることを指す〈相同〉と対をなすことばで,生物界における類似性を説明する概念の一つ。類似の生活様式をもつ類縁の近い生物の相同器官は,ふつう類似した形態と機能をもつが,この現象はむしろ自明のことであり,相似とはいわない。

 相似器官の多くは,類縁の遠い異種の生物が,類似した生活様式をもつように進化した場合にみられる。こうした場合には,それぞれの種類の生活を成り立たせるのに直接関与する諸器官が,類似の機能をもたなくてはならず,そのために当の器官の形態も必然的に類似のものとなる。この現象は平行進化または収れんとよばれるもので,機械的機能をもつ器官に多く見られる。第1は運動に関与する器官で,空中を飛ぶことに適した鳥の翼とセミの羽,水中を泳ぐのに適した魚竜や魚類やクジラの背びれ,地中を掘進するのに適したモグラやケラの前あし,つるになって巻きつくアサガオやフジの茎など,動物にも植物にも多くの例がある。また,ある一つの器官だけでなく,中生代の魚竜とサメとイルカの胴や,メクラヘビアシナシイモリミミズの胴のように,全身の体形とその機能が類似する場合も相似の一種とみることができる。

 他方,類似した生活様式のもとで,ある器官の生理的機能と形態が収れんして相似を示すことがある。四足動物の目と昆虫の複眼,デンプンを蓄えたサツマイモのいも(根)とジャガイモのいも(茎)などがその例である。しかし,同様の生活様式をもつ類縁の遠い生物に必ず相似器官が発達するわけではなく,むしろ例外的に起こるものである。以上とは異なって,生活様式が類似していない異種の生物が相似器官をもつこともあり,これらは生物体の機械的な保護に関与する体表の器官にしばしば見られる。その例には,硬骨魚のうろこ骨鱗)とセンザンコウのうろこ(毛の変形),ウニのとげとヤマアラシのとげ(毛),バラのとげ(樹皮)とサボテンのとげ(葉)などがある。こうした相似は生活様式とは関係なく,すべての生物に共通した個体の保存を有利にする傾向によってまったく偶然に一致したものとみるべきであろう。また,いわゆる擬態の例の多くは,形態的には似ていても機能的には別のものであるから相似とはいえないが,アブがハチに似た色彩をもって捕食者をあざむく例などは一種の相似とみることもできる。

 以上のように,相似にはひとまずいくつかの種別を認めることができるが,機能と形態がどの程度に似ていれば相似といえるのかについて,客観的な基準があるわけではない。さらに,例えばウニのとげとクリの実のいが,オタマジャクシの尾と精子の尾のように,機能と形態に共通性をもつが,はなはだしくかけ離れた次元にあるものを相似とみなすかどうかについても,よりどころがない。つまり,ある類似が相似であるか否かの判断は多分に各個人の任意の感じ方に立脚するものである。したがって,相似は相同と並ぶ比較形態学の基礎概念であるとしても,科学的に厳密に体系化することのできない便宜的な概念にすぎず,重要さでは相同に遠く及ばない。ただ相似は適応的な進化を暗示する実例として,進化形態学では古くから注目されてきたのである。
相同
執筆者:

相似 (そうじ)
similar

n次の正方行列ABに対してBP1APとなる正則行列Pが存在するとき,行列ABは相似であるという。相似な行列の固有値は一致する。

平面上または空間内に一つの図形Fと定点Oが与えられたとし,kは正の定数とする。いま,Fの任意の点Pに対し,OからPに向かう半直線を考えて,その上に点P′をOP′/OP=kとなるようにとれば,PがF上を動くときP′は一つの図形F′を描く(図1)。このとき図形FF′は相似の位置にあるといい,Oを相似の中心,kを相似比という。また,k>1ならばF′はFk倍に拡大した図形,k<1ならばF′はFk倍に縮小した図形という。一般に,二つの図形FGに対し,Gと合同な図形F′で,FF′は相似の位置にあるようなものがとれるならば,図形FGは相似であるといい,このことをFGで表す。すべての円,すべての球,すべての正n角形,すべての正n面体はそれぞれ相似である。二つの三角形は次のいずれかの条件が満たされているとき相似である。(1)2組の内角がそれぞれ等しい,(2)3辺の長さの比が等しい,(3)1組の内角が等しく,その角をつくる2組の辺の長さの比が等しい(図2)。二つの図形FGが相似であるための条件は,FGの点の間に1対1対応がついて,対応する角がつねに等しく,対応する長さの比がつねに一定となることである。相似な図形の面積の比は相似比の2乗で,体積の比は相似比の3乗である。
執筆者:


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「相似」の意味・わかりやすい解説

相似
そうじ
similar

数学用語。 (1) 図形について一般に2つの図形 F ,F′ 上の点同士の間に一対一対応がつけられ,その対応点を結ぶすべての直線が定点Oを通り,各2点間の距離がOによって同じ比 k に内分あるいは外分されるとき,F ,F′ は相似の位置にあるといい,このとき,Oを相似の中心,一定の比 k を相似比という。相似の位置にあるか,または適当に移動することによって相似の位置に置くことのできる2つの図形は互いに相似であるといい,相似な図形を相似形という。相似比 kmn で与えられている相似形 F ,F′ においては,対応する角が等しく,対応する部分の長さの比は mn ,面積の比は m2n2 ,体積の比は m3n3 となる。互いに合同な図形は,相似比が1の相似形と考えられる。 (2) 順序集合においては,2つの順序集合があって,それらの元の間に,順序関係を保つ全単射が存在するとき,すなわちこれら2つの集合に定義された順序が順序同型であるとき,これらの順序集合を相似であるということがある。 (3) 行列について,2つの正方行列 AB があって,BC-1AC を満足するような正則行列 C が存在すれば,AB は相似であるという。

相似
そうじ
analogy

生物学用語。発生学上はその由来が異なるにもかかわらず,生物の器官同士の形態が似ており,機能のうえからは互いに同じである場合の関係をいう (→相同 ) 。たとえばトンボの翅とスズメの翼との関係などがそうである。また分子レベルでも,脊椎動物の血液中の酸素運搬蛋白質であるヘモグロビンと,軟体動物などがもち同じ機能をしているヘモシアニンとは,蛋白質としてまったく別種のものなので,相似といえる。

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普及版 字通 「相似」の読み・字形・画数・意味

【相似】そうじ

似る。

字通「相」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の相似の言及

【オーエン】より

…このころG.L.キュビエから強い影響を受ける。しかし一方でドイツ自然哲学で支配的であった原型archetypeの説もとりいれ,ジョフロア・サン・ティレールの影響を受けて相似analogy,相同homologyという比較生物学上重要な概念を確立した。C.ダーウィン,T.H.ハクスリーヘの敵対者として知られる。…

【相同】より

…また例えば,魚類の胸びれ,鳥の翼,クジラのひれあし,コウモリの翼,ヒトの上肢などの関係がそれである。相同は,異種生物にある起源を異にする器官が一見類似の形態と機能をもつことをさす〈相似〉と並んで,生物界における類似性を説明する比較形態学上の基礎概念の一つであるが,相似よりはるかに重要な意義をもっている。 進化論が現れる前には,動物の比較解剖学は一種の類型学として博物学のなかで重きをなしていたが,その時代にも器官の同一性の追究は中心的な問題であった。…

※「相似」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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