デジタル大辞泉
「魂」の意味・読み・例文・類語
たましい〔たましひ〕【魂/×魄】
1 生きものの体の中に宿って、心の働きをつかさどると考えられるもの。古来、肉体を離れても存在し、不滅のものと信じられてきた。霊魂。たま。「―が抜けたようになる」「仏作って―入れず」
2 心の活力。精神。気力。「仕事に―を打ち込む」
3 それなしではそのものがありえないくらい大事なもの。「刀は武士の―、鏡は女の―」
4 (多く「…だましい」の形で)そのもののもつ固有の精神。また、気構え。「大和―」「負けじ―」
5 思慮。分別。
「いみじう―おはすとぞ世人に思はれ給へりし」〈大鏡・道隆〉
6 素質。天分。才気。
「筆とる道と、碁うつこととぞ、あやしう―のほど見ゆるを」〈源・絵合〉
7 《武士の魂とされるところから》刀。
「わが夫のこの―、婿引出に」〈浄・彦山権現〉
[類語](1)霊魂・霊・み霊・英魂・英霊・神霊・祖霊・精霊・魂魄・忠霊・尊霊・亡魂
こん【魂】
1 こころ。精神。
「詩は我―を動せども」〈鴎外訳・即興詩人〉
2 人の肉体に宿る精気。たましい。霊魂。特に陽のたましいをいう。→魄
「―は善所におもむけども、魄は、修羅道に残ってしばし苦しみを受くるなり」〈謡・朝長〉
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たましいたましひ【魂・魄】
- 〘 名詞 〙
- ① 人間、さらにはひろく動物・植物などに宿り、心のはたらきをつかさどり、生命を与えている原理そのものと考えられているもの。身体を離れて存在し、また、身体が滅びた後も存在すると考えられることも多い。霊魂。
- [初出の実例]「多麻之比(タマシヒ)は朝夕(あしたゆふべ)にたまふれど吾(あ)が胸痛し恋の繁きに」(出典:万葉集(8C後)一五・三七六七)
- 「みかど〈略〉玉しゐを止めたる心ちしてなん帰らせ給ひける」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
- ② 人だま。死者の霊魂が、夜など、光りながら飛ぶといわれるもの。また、それをかたどった歌舞伎芝居の小道具。〔名語記(1275)〕
- ③ 心のはたらき。精神。思慮分別。才覚。
- [初出の実例]「一世の源氏の、心たましい人にすぐれ給へりけるを得て」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
- ④ 心の傾向、状態をいう。性質。性格。
- [初出の実例]「其(か)の東夷(あつまひと)は識性(タマシヒ)暴強(あらくこはし)」(出典:日本書紀(720)景行四〇年七月(北野本訓))
- 「三ツ子のたましゐ百までと、すへたのもしくみへけり」(出典:黄表紙・心学早染艸(1790)上)
- ⑤ 心の持ちかた。根性。しょうね。
- [初出の実例]「手は盗みしても魂(タマシヰ)は侍」(出典:浄瑠璃・日高川入相花王(1759)三)
- ⑥ ( 武士のたましいというところから ) 刀の異称。
- [初出の実例]「嗜の魂(タマシイ)見ましょ。扨錆たりな赤鰯」(出典:浄瑠璃・仮名手本忠臣蔵(1748)七)
- ⑦ 葬式に加わる時の女性の結髪の一つ。多く潰(つぶ)し島田。精進髷(しょうじんまげ)。
魂の補助注記
「魄」も「たましい」と読むが、死後「魂」は天上に「魄」は地上にとどまると区別されたこともある。
たま【魂・霊・魄】
- 〘 名詞 〙 ( 「たま(玉)」と同語源 )
- ① 「たましい(魂)①」をいう。多く「みたま(御霊)」「おおみたま(大御霊)」の形で用い、また、「たまじわう(霊━)」「たままつる(霊祭)」などのほか、「にきたま(和魂)」「ことだま(言霊)」「ひとだま(人魂)」などと熟して用いる。
- [初出の実例]「吾(あ)が主のみ多麻(タマ)賜ひて春さらば奈良の都に召上(めさ)げ給はね」(出典:万葉集(8C後)五・八八二)
- ② =たましい(魂)③
- [初出の実例]「吾等双個(ふたり)の愛は精神(タマ)にあり」(出典:楚囚之詩(1889)〈北村透谷〉四)
魂の語誌
( 1 )霊と玉は前者が抽象的な超自然の不思議な力、霊力であり、後者は具体的に象徴するものという意味で、両者は同一語源と考えられる。
( 2 )霊には「アラミタマ」と「ニキミタマ」の区別が祝詞に見られる。前者は強力で勇猛な面をとらえた呼称であり、後者は温和で親しむべき面を表わす呼称であった。
こん【魂】
- 〘 名詞 〙
- ① 人の肉体にやどる精気。たましい。霊魂。特に、陽に属するたましいをいう。陰のたましいである「魄」と対で用いることが多い。
- [初出の実例]「魂は善所におもむけども、魄は修羅道に残って、しばしくるしみをうくる也」(出典:車屋本謡曲・朝長(1432頃))
- [その他の文献]〔春秋左伝‐昭公七年〕
- ② こころ。精神。
- [初出の実例]「形㒵猶在レ目、恋慕幾動レ魂」(出典:本朝麗藻(1010か)下・贈心公古調詩〈具平親王〉)
- 「其の余波(なごり)は今も轟く胸の内に痛(したた)か思回して、又空く神(しん)は傷み、魂(コン)は驚くと雖も我や怒る可き」(出典:金色夜叉(1897‐98)〈尾崎紅葉〉続)
- [その他の文献]〔呂氏春秋‐禁塞〕
たませえ【魂】
- 〘 名詞 〙 「たましい(魂)」の変化した語。
- [初出の実例]「魂(タマセヘ)の哥とはき違(ちげへ)た」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
普及版 字通
「魂」の読み・字形・画数・意味
魂
常用漢字 14画
[字音] コン
[字訓] たましい・たま
[説文解字]
[字形] 会意
云(うん)+鬼(き)。云は雲の初文で、雲気の象。人の魂は雲気となって浮遊すると考えられた。〔説文〕九上に「陽气なり」とあるのは、次条の魄字条に「陰なり」とあるのに対するもので、白とは生色のない頭顱(とうろ)(されこうべ)の形。〔荘子、馬〕に(神)・魂・云・根を韻しており、云・魂は畳韻の語であった。
[訓義]
1. たましい、たま。
2. こころ。
[古辞書の訓]
〔和名抄〕魂 多末之比(たましひ) 〔名義抄〕魂魄 上、ヲタマシヒ・タマシヒ、下、メタマシヒ・タマシヒ/稻魂 ウケノミタマ、俗に云ふ、ウカノミタマ/幸魂 サチミタマ、俗に云ふ、サキタマ 〔字鏡集〕魂 タマシヒ・ハコブ
[語系]
魂khun、云hiunは声が近く、云は雲の初文。魂は雲気のようなものと考えられていたのであろう。渾hunはまろきもの、(運)hiunは動くものをいう。これらも関連のある語であろう。
[熟語]
魂衣▶・魂骸▶・魂幹▶・魂気▶・魂魂▶・魂車▶・魂銷▶・魂情▶・魂神▶・魂精▶・魂爽▶・魂胆▶・魂▶・魂帛▶・魂魄▶・魂夢▶・魂迷▶・魂輿▶・魂楼▶
[下接語]
慰魂・遺魂・英魂・営魂・怨魂・魂・花魂・還魂・帰魂・羈魂・客魂・驚魂・吟魂・傾魂・魂・顕魂・孤魂・香魂・遨魂・残魂・慙魂・士魂・詩魂・招魂・消魂・商魂・傷魂・銷魂・蜀魂・心魂・神魂・人魂・清魂・精魂・爽魂・断魂・忠魂・鎮魂・闘魂・飛魂・氷魂・別魂・片魂・返魂・芳魂・亡魂・埋魂・夢魂・迷魂・夜魂・幽魂・游魂・遊魂・雄魂・余魂・離魂・旅魂・霊魂
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の魂の言及
【鬼】より
…中国において,死者の霊魂を意味する。人間は陽気の霊で精神をつかさどる魂と,陰気の霊で肉体をつかさどる魄(はく)との二つの神霊をもつが,死後,魂は天上に昇って神となり,魄は地上にとどまって鬼となると考えられた。…
【魂魄】より
…人間の精神的肉体的活動をつかさどる神霊,たましいをいう。古代中国では,人間を形成する陰陽二気の陽気の霊を魂といい,陰気の霊を魄という。魂は精神,魄は肉体をつかさどる神霊であるが,一般に精神をつかさどる魂によって人間の神霊を表す。…
【地霊】より
…[地鎮祭]をはじめ聖域や結界にかかわる多くの習俗,風水([風水説])ほかの地相占いなどは,いずれも荒ぶる地霊を慰撫し抑え,その慈悲にすがろうとする人間の欲求から生じていると考えられる。また死者の魂や祖霊を地霊とみなす地方もある。中国では人間の霊力は魂(こん)と魄(はく)の2種に分かれ,魂は陽の気となって天へ,魄は陰の気となって地に還(かえ)ると信じられた。…
【心】より
…〈[精神]〉と同義とされることもあるが,精神がロゴス(理性)を体現する高次の心的能力で,個人を超える意味をになうとすれば,〈心〉はパトス(情念)を体現し,より多く個人的・主観的な意味合いをもつ。もともと心という概念は未開社会で[霊魂]不滅の信仰とむすびついて生まれ,その延長上に,霊魂の本態をめぐるさまざまな宗教的解釈や,霊魂あるいは心が肉体のどこに宿るかといった即物的疑問を呼び起こした。古来の素朴な局在論議を通覧すると,インドや中国をはじめとして,心の座を心臓に求めたものが多いが,これは,人間が生きているかぎり心臓は鼓動を続け,死亡するとその鼓動が停止するという事実をよく理解していたためで,〈心〉という漢字も心臓の形をかたどった象形文字にほかならない。…
※「魂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」