〘
連語〙 (動詞「する」の連用形「し」に接続助詞「て」が付き、助詞のように用いられるもの)
①
体言を受け、また多くは「にして」の形で動作の行なわれる空間、時間などを示す。…で。…において。→語誌(1)(3)。
※
万葉(8C後)一・三五「これやこの
大和に四手
(シて)は我
(あ)が恋ふる紀路にありといふ名に負ふ勢
(せ)の山」
※
方丈記(1212)「三十
(みそぢ)あまりにして、更にわが心と、一の菴をむすぶ」
② 体言または体言と
同格の語、および体言に
副助詞の付いたものを受け、動作の手段、方法などを表わす。
(イ) 動作を行なう
主体を、
主語としてではなく数量的に、また手段的に表現する。
※続日本紀‐天平宝字八年(764)一〇月九日・宣命「又七人のみ之天(シテ)関に入れむとも謀りけり」
※源氏(1001‐14頃)手習「身づからも弟子のなかにも験あるして加持し騒ぐを」
(ロ) ある動作を行なう手段としての使役の対象を示す。訓点資料では「をして」の形をとる。→語誌(2)。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一「諸の有情をして恭敬し供養せ令めむとなり」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「門(かど)あけて惟光の朝臣出で来たるしてたてまつらす」
(ハ) 動作の手段、方法、材料などを示す。
※竹取(9C末‐10C初)「長き爪して眼(まなこ)をつかみつぶさん」
③ 格助詞「より」「から」、副助詞「か」、形容詞連用形、副詞などを受けて、その連用機能を確認する。
※竹取(9C末‐10C初)「今かね少しにこそあなれ。嬉しくしておこせたる哉」
※大鏡(12C前)一「やがてこの殿よりしていまの閑院大臣まで、太政大臣十一人つづき給へり」
[二] 接続助詞的用法。形容詞型活用の語の連用形およびこれらに副助詞の付いたものを受け、また「ずして」「にして」「として」の形で、並列・修飾・順接・逆接など種々の関係にある句と句とを接続する場合に用いられる。上代には形容詞語幹に「み」の付いたものを受ける例もある。→語誌(3)。
※古事記(712)中・歌謡「我が心しぞいや愚(をこ)に斯弖(シテ)今ぞ悔(くや)しき」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「細やかに、たをたをとして物うち言ひたるけはひ」
[語誌](1)(一)①の用法の場合、「し」にはサ変動詞としての意味がいまだ残っていると思われる。
(2)平安初期の漢文訓読では、使役の対象を示す場合、常に「…をして…しむ」の形が用いられるとは限らず、「…を…しむ」「…に…しむ」等も用いられたが、平安中期以降「…をして…しむ」の形が固定する〔春日政治「西大寺本金光明最勝王経古点の国語学的研究」〕。
(3)(一)①の「にして」、(二)の「…くして」「ずして」「にして」「として」の形は、平安時代には主として漢文訓読系の語として用いられ、これらに対して和文脈では「にて」「…くて」「ずて」「で」「とて」の形が用いられた。平安末期以降は両文脈が混淆するため、両者の共存する文献が多くなる。