変態(生物学)(読み)へんたい(英語表記)metamorphosis

翻訳|metamorphosis

日本大百科全書(ニッポニカ) 「変態(生物学)」の意味・わかりやすい解説

変態(生物学)
へんたい
metamorphosis

生物学用語で、動物および植物において用いられる。

動物における変態

動物においては、個体発生中、胚(はい)発生を終了(孵化(ふか))してから成体に達するまでのある時期にみられる、形態や体の構造上の著しい変化を変態という。通常、変態とともに生活様式を著しく変化させるものが多い。胚発生は終えたものの、成体とは異なる形をもち、独立した生活を営むが生殖能力をもたない動物を幼生(昆虫では幼虫若虫)とよぶ。この幼生が成体、あるいは次の段階の幼生へと変化する際に変態がおこる。哺乳(ほにゅう)類、鳥類爬虫(はちゅう)類、魚類など以外の動物にみられる。

[竹内重夫]

海産の無脊椎動物

海産無脊椎動物のなかには、1回以上の変態を示すものもあり、各類の動物の生活史が、特有の形態をもつ幼生により特徴づけられるものがとくに多い。腔腸(こうちょう)動物のミズクラゲ類ではプラヌラポリプストロビラエフィラ→成体、扁形(へんけい)動物ではミュラー幼生→成体、紐形(ひもがた)動物ではピリディウム幼生→成体、輪形動物や環形動物ではトロコフォラ幼生→成体、軟体動物ではトロコフォラ幼生→ベリジャー幼生→成体、といった変態をする。棘皮(きょくひ)動物の幼生は多様で、ウニの類はプルテウスから、クモヒトデの類はオフィオプルテウスから、ヒトデの類はビピンナリアから、ナマコの類はアウリクラリアから、それぞれ成体へと変態する。節足動物のうち、海産の甲殻類ノープリウスゾエア→メガロッパ→成体へと変態するのが基本型となっているが、淡水産の甲殻類はこの過程を卵の中で済ませて孵化するので、変態のみられないものが多い。

[竹内重夫]

陸生の無脊椎動物

昆虫では、成虫原基が体の中に完全に隠されていて、幼虫→蛹(さなぎ)→成虫という過程を経て、いわゆる完全変態をするものと、成虫原基が外に現れて、幼虫の間に徐々に成長し、最後の脱皮で幼虫→成虫と変態する不完全変態をするものとがある。前者チョウ、ガ、ハエなど、昆虫のなかでは進化したものにみられ、後者トンボバッタゴキブリなど原始的な昆虫にみられる。

[竹内重夫]

原索動物

ホヤは、オタマジャクシ型の幼生から固着生活をする成体へと変態する。このホヤの類のネオテニー(幼形成熟、幼態成熟)から脊椎動物が分離してきたとする考え方がある。

[竹内重夫]

脊椎動物

脊椎動物では、もっとも原始的な円口類のアンモセーテス幼生からの変態と、両生類の変態がある。カエルの幼生であるオタマジャクシは、尾を振って泳ぎ、えら呼吸し、魚に似た側線があって完全に水中での生活に適応しているが、四肢の形成と尾の消失、えら呼吸から肺呼吸への転換など、陸上生活に適応するような変態を遂げる。

[竹内重夫]

変態とホルモン

このようないろいろな動物の変態のうちで、昆虫類と両生類の変態については研究が進んでおり、変態にホルモンが大きな役割を果たしていることが知られている。昆虫では前胸腺(せん)から分泌されるエクジソンのみが働くと成虫芽は急速に分化し、成虫の器官へと成熟し、脱皮とともに成虫が出現する。この際細胞内で利用される遺伝情報が、幼虫型から成虫型へと切り換えられることが知られている。両生類では甲状腺ホルモンが主役を演じている。幼生の甲状腺が十分発達してくると、下垂体から甲状腺刺激ホルモンが分泌され、その作用の下で甲状腺が甲状腺ホルモンを分泌する。甲状腺ホルモンは尾の組織を壊し、肢(あし)を発達させるなどして変態を促す。

 なお、以上みてきたような変態を伴う個体発生を間接発生とよぶのに対し、変態を伴わない個体発生は直接発生とよぶ。また、孵化後成体に至るまでの幼生(幼虫)の発生を後胚発生、あるいは後胚期発生という。

[竹内重夫]

植物における変態

植物学では、器官が本来と著しく異なる形となり、そのことが種によって一定しているとき、その現象を変態とよぶ。形態の変化に伴って、機能も本来とは異なったものとなる。このように、植物学でいう変態とは器官学上の用語であるため、主として維管束植物に限って用いられる。変態には、多くの種に共通してみられる普遍的変態と、特定の種にみられる特殊変態とがある。前者の例には、芽を覆う鱗片(りんぺん)葉や、花を構成する花葉(かよう)(どちらも葉の変態)があり、後者の例には、巻きひげ、刺(とげ)、葉状茎、塊根などがある。

[福田泰二]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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