彼方・貴方(読み)あなた

精選版 日本国語大辞典の解説

あ‐な‐た【彼方・貴方】

〘代名〙
[一] 他称。話し手、聞き手両者から離れた方向、時、人などを指し示す(遠称)。かなた。
① あちら。向こうのほう。
※古今(905‐914)冬・三三〇「冬ながらそらより花のちりくるは雲のあなたは春にやあるらむ〈清原深養父〉」
※謡曲・卒都婆小町(1384頃)「あなたの玉章(たまづさ)こなたの文(ふみ)
② 以前。過去。
※枕(10C終)二九二「昨夜(よべ)も、昨日の夜も、そがあなたの夜も」
③ 未来。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「目の前に見えぬあなたの事はおぼつかなくこそ思ひわたりつれ」
④ あのかた。あちらの人。対等または上位者に対して用いた。
※落窪(10C後)一「いなや、この落窪の君のあなたにの給ふことに従はず、あしかんなるはなぞ」
※虎明本狂言・文荷(室町末‐近世初)「なんとしてぞ、此文をあなたへとどけずはなるまいが、どうしてよからふな」
[二] 対称。対等または上位者に用いた。宝暦(一七五一‐六四)頃から用例が見られる。貴男、貴女などとも書く。現在では、対等あるいは下位の者に用い、また、妻が夫に対して用いることもある。
※歌舞伎・傾城天の羽衣(1753)序幕「あられもない所はお免なされ升ふ、殿さま、どふぞあなたのお取なしで」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「『何故貴君(アナタ)、今夜に限ってさう遠慮なさるの』『デモ貴嬢(アナタ)お一人っ切りぢゃア』」
[語誌]上代に遠称として離れた場所・方向・時・人などを表わした「かれ」「かなた」などに替わって中古から用いられた。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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