浮く(読み)ウク

デジタル大辞泉 「浮く」の意味・読み・例文・類語

う・く【浮く】

[動カ五(四)]
物が底や地面などから離れて水面や空中などに存在する。うかぶ。「からだが海面に―・く」⇔沈む
表面に現れ出る。「赤潮のため魚が大量に―・いた」「肌に脂が―・く」
しっかり固定しない状態になる。落ち着かず、ぐらつく。「柱が―・いている」「歯が―・く」「おしろいが―・く」
ある集団の中で仲間との接触が薄くなる。遊離する。「仲間から―・いた存在」
気分が晴れやかになる。うきうきする。「―・かない顔で返事をする」
模様などが下地から離れて上に出ているように見える。「牡丹ぼたんを―・かせた帯」
時間・経費などが予定よりも少なくてすみ、余りが出る。「費用が―・く」
心などがうわついている。
㋐確実さがなく、軽薄である。「―・いた考え」
㋑恋愛や情事に関係する。「―・いたうわさが絶えない」
根拠がない。不確実である。
「何の―・きたる事にか侍らむ」〈・少女〉
[可能]うける
[動カ下二]浮かべる。浮かばせる。
「こもりくの泊瀬はつせの川に船―・けて」〈・七九〉
[用法]うく・うかぶ――「川面かわもに浮く(浮かぶ)白鳥」のように相通じて用いられる。◇「浮く」は、浮力などが働いて底や地面から離れて上へ移動することに表現の重点があり、「浮かぶ」は、物が底や地面から離れて水面や空中に見えることに表現の重点がある。「宙に浮く」と「宙に浮かぶ」の表現しようとするものは同じではない。◇「浮く」は、「家の土台が浮く」「一人、社内で浮いている」のように、基盤・母体から離れる意にも用い、この場合「浮かぶ」を用いることはない。◇「浮かぶ」は、「名案が浮かぶ」「容疑者が浮かぶ」など、奥に潜んで見えなかったものが何かをきっかけとして表面に現れる意にも用い、この場合「浮く」では置き換えられない。
[類語]浮かぶ浮き上がる浮かび上がる浮かべる浮揚する浮上するぽっかりぷかりぷかりぷかぷかどんぶりこどんぶらこ浮き沈み浮遊たゆたう漂う舞う片片へんぺんひらりひらりひらりひらひらふわふわふわりふわっとふんわりゆらゆら

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精選版 日本国語大辞典 「浮く」の意味・読み・例文・類語

う・く【浮】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 カ行五(四) 〙
    1. [ 一 ] 物事が底についていない状態、固着しない状態にある。
      1. 物が液体の表面にある。また、水底、地面などから離れて、水中、空中にある。うかぶ。
        1. [初出の実例]「瑞玉盞(みづたまうき)に 宇岐(ウキ)し脂(あぶら)」(出典:古事記(712)下・歌謡)
        2. 「雲のうきてただよふを御覧じて」(出典:大鏡(12C前)二)
      2. ある物事に動いてさだまらない状態が現われる。助動詞「たり」の連体形を伴う場合が多い。
        1. (イ) 気持が落ち着かない、不安定である状態の場合。→ういた(浮)
          1. [初出の実例]「たぎつ瀬に根ざしとどめぬうき草のうきたる恋も我はするかな〈壬生忠岑〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋二・五九二)
          2. 「おきふし思し煩ふけにや、御心ちもうきたるやうに思されて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)葵)
        2. (ロ) 生活の基盤が弱くなり、経済的に頼りない状態にある場合。
          1. [初出の実例]「むつましかるべき人にもたちおくれ侍りにければ、あやしううきたるやうにて年月をこそ重ね侍れ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若紫)
        3. (ハ) 気持などが、うわついていてかるはずみである、うわきである場合。
          1. [初出の実例]「鴨鳥の遊ぶこの池に木の葉落ちて浮(うき)たる心吾が思はなくに」(出典:万葉集(8C後)四・七一一)
        4. (ニ) 根拠がない、いいかげんで、不確実である場合。
          1. [初出の実例]「あま雲のうきたることと聞きしかど猶ぞ心は空になりにし〈よみ人しらず〉」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)雑二・一一四二)
          2. 「『空の光を念じ申すべきにこそは』など、うきておぼゆ」(出典:更級日記(1059頃))
        5. (ホ) 気持がうきうきして陽気になる場合。
          1. [初出の実例]「ココロノ vyta(ウイタ) ヒト」(出典:日葡辞書(1603‐04))
        6. (ヘ) ( (イ)から転じて ) 寄席などで、客が終わりまでいないで中途で帰る。
      3. 物が基盤、基礎となるものに、しっかり固着しない状態になる。
        1. (イ) 土台、釘、歯などがゆるんでぐらぐらする。
          1. [初出の実例]「ハガ vqu(ウク)〈訳〉歯が揺れる」(出典:日葡辞書(1603‐04))
        2. (ロ) おしろいなどが膚によくつかない。化粧ののりがわるい。
        3. (ハ) ふわついて不安定になる。水泳で疲れてからだがうまく水に乗らなくなったり、競走で疲れて重心があがって、足が地につかないような状態になることもいう。
          1. [初出の実例]「大力も、はねられて、足のたてどのうく所を、すてて足をとりて見よ」(出典:曾我物語(南北朝頃)一)
        4. (ニ) ある集団や社会の中で、定着しないで、遊離する。うきあがる。
          1. [初出の実例]「ハイカラなもの、浮いたものになってしまったのも、それが知識階級専門のものとなったことの結果であらう」(出典:近代日本の思想文化(1953)〈唐木順三〉)
      4. 下地から離れて上にあがっているように見える。また、そう感じる。
        1. (イ) 織物彫刻などで、模様が上に出ているように見える。文字や図柄が際立って見える。
          1. [初出の実例]「紅梅のいと紋うきたるえび染の御こうちぎ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)玉鬘)
        2. (ロ) 血管や骨などが皮膚からうきあがっているように見える。
          1. [初出の実例]「学生は挨拶をして、ロダンの出した腱の一本一本浮いてゐる右の手を握った」(出典:花子(1910)〈森鴎外〉)
    2. [ 二 ] 物事が奥底の方から表面に出てくる。また、ある基準より上の状態にいく。
      1. 水中から水面の方へ出てくる。うきあがる。うきいず。⇔沈む
      2. 物事が表面にあらわれる。見えなかったものが、はっきりみえるようになる。
        1. (イ) 物事が外面に現われる。
          1. [初出の実例]「うぐひすの声などをきくままに、涙のうかぬ時なし」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
        2. (ロ) まわりのものから区別されて、物がよくみえるようになる。
          1. [初出の実例]「暗がりの中にそれだけがほの白く浮いてゐる彼女の寝顔をぢっと見守った」(出典:風立ちぬ(1936‐38)〈堀辰雄〉冬)
      3. 意識に出てくる。思い起こされる。
        1. [初出の実例]「君にひかれて、詩興が我もういてあるぞ」(出典:四河入海(17C前)九)
      4. 金銭や時間、点数などに余りが出る。余裕ができる。金銭、点数などが、ある基準より多くなる。
        1. [初出の実例]「六円では小遣も浮(ウ)かぬ」(出典:二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉下)
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 カ行下二段活用 〙うける(浮)

浮くの語誌

→「うかぶ(浮)」の語誌

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