デジタル大辞泉
「経」の意味・読み・例文・類語
きょう〔キヤウ〕【経】
1 《〈梵〉sūtraの訳。音写は修多羅》仏や聖者の言行や教えを文章にまとめたもの。
㋐十二分経の一。散文形式で示したもの。契経。
㋑三蔵の一の、経蔵。
㋒広く、仏教に関する典籍一般。一切経。
2 仏教以外の、宗教や学芸の根本となる書物。聖典。「五経」
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きょう キャウ【経】
〘名〙
① (梵 sūtra の訳語。修多羅と音訳する)
(イ) 仏の説いた教えを文章にまとめたもの。総括して
十二部経という。
※
法華義疏(7C前)序品「経者。乃是聖教之通名。仏語之美号。然経是漢語。外国云
二修多羅
一」
(ロ)
九部経・十二部経の一つで、仏の教えを散文で示したもの。一部一経に名づける。契経
(かいきょう)。経文。
(ハ) 三蔵(経・律・論)の一つで仏の教えを記録したもの。
※続日本紀‐養老二年(718)十月庚午「又経曰。日乞告穢二雑市里一。情雖レ逐二於和光一。形無レ別二于窮乞一。如レ期之輩慎加二禁喩一」
※
源氏(1001‐14頃)
夕顔「大徳の声尊くてきゃううちよみたるに」
(ニ) 三蔵を含め、さらに広く仏教に関する典籍一般をいう。一切経。大蔵経。
② 儒教、キリスト教など、仏教以外の宗教で、その教えを説いた書。経典。
※ぎやどぺかどる(1599)下「此等の道理〈略〉ぽろぺるぴよと云経にも是を教へ、あぽうすとろも示し給ひ、ゑばんぜりょの経中にも是を記しおき給ふ也」
③ 一般的に、教訓、教化など教えを記した書。また、単に書物の意にも用いられる。
※
バレト写本(1591)「
サンタマリア アラワシタモー ヲンキドクヲ シルシ モーサルル トコロニ ソノ qió
(キョー) ヤガテ ヒトノ イダケホド アリ」
④ (経文を読む意から)
仏事を行なうこと。
経供養をすること。
※
たまきはる(1219)「さがの経はてて京へかへるとて」
けい【経】
〘名〙
① 正しいすじみち。正しい道理。つねの道。のり。つね。
※
曾我物語(南北朝頃)一「所詮、世のけいにまかせ、伊東二郎にたまはるべきか、また祐経にたまはるべきか、相伝の道理について、憲法の上裁をあふがんと欲す」 〔春秋左伝‐昭公二五年〕
② すぐれた聖人が説き著わした書物。聖人のことばを書きとめた書物。経書(けいしょ)。経典(けいてん)。
※読本・昔話稲妻表紙(1806)跋「古人則蓬門圭竇、掛レ角而読、帯レ経而鋤、竟以至レ成レ巧矣」 〔漢書‐児寛伝〕
③ 織物の、たていと。また、物事をなす二つの重要な要素のうちの一つのたとえ。
※和蘭通舶(1805)
凡例「南北を緯と云ひ、
東西を経と云ふ」
は・いる【経】
〘自ア上一〙 (下一段動詞「へる(経)」の「へ」を「はい」の訛りと誤解して、正しくもどしたつもりの語) =
へる(経)※
滑稽本・
浮世風呂(1809‐13)二「山の神の功
(こうら)を経
(ハイ)たのだから」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
経
きょう
仏教で聖典をさすことばであるが、原義は、経糸(たていと)のことである。パーリ語スッタsuttaまたはサンスクリット語スートラsūtraの訳語で、修多羅(しゅたら)と音写する。花を糸で通して花飾りをつくるように、金言が貫き収められているのでこのようにいわれる。元来は、バラモン教で使われていたのを、仏教でも採用したものである。意味に種々ある。
まず第一に、仏所説、如来(にょらい)所説の法を、文学形式や内容から分類した九分教(くぶきょう)や十二分教の一つ。九分教とは、経、重頌(じゅうじゅ)、問答、詩偈(しげ)、感興偈、如是語(にょぜご)、前生話(ぜんしょうわ)、智慧(ちえ)問答、未曽有法(みぞうほう)の九つであり、十二分教とは、以上の九分教に、因縁(いんねん)物語、過去世(かこぜ)物語、章句注解の三つを加えたものである。九分教、十二分教の最初にあるのが経であり、もっとも古く、簡潔な散文の形にまとめたものである。これに、仏陀(ぶっだ)所説の内容をまとめた法と、比丘(びく)僧が順守すべき規則である律(りつ)とがある。
第二は、単独の一聖典を経という。形式、内容、長短さまざまである。仏陀(釈迦(しゃか))の説法や言行録をまとめたもので、「如是我聞(にょぜがもん)」の決まり文句で始まるのを常とする。第一にあげた九分教や十二分教を含んでいることが多く、これらより発達したものである。
第三に、経・律・論のいわゆる三蔵の一つをさす。その意味では経蔵(きょうぞう)と同義で、経典の集大成のことである。元来は阿含(あごん)すなわち伝承の意で、四阿含または五阿含に分類される。それは、長い経典の集成である「長阿含」、中くらいの長さの経典の集成である「中阿含」、短い経典の集成である「雑(ぞう)阿含」、四諦(したい)や八正道(はっしょうどう)など教理の数によって集成した「増一(ぞういつ)阿含」、およびこれら四阿含に漏れた経典を集成した「雑蔵」を第五阿含とする。南アジアに伝承されたパーリ語の三蔵では、全体を五つの部(ニカーヤnikāya)に分類している。すなわち、(1)「長部」には『梵網経(ぼんもうきょう)』『沙門果経(しゃもんかきょう)』『涅槃経(ねはんぎょう)』など34経を収め、(2)「中部」には『根本法門経』に始まる152経、(3)「相応部」は2875経を収めるといわれ、(4)「増支部」は2198経と数えられている。(5)「小部」は『法句経(ほっくきょう)』『本生経(ほんじょうきょう)』など興味深いものを含む15経が収められている。元来インドにおいて経蔵といえば『阿含経』をさすのであり、もとより全部が仏陀の所説とはみなしえないが、これらのうちに仏教の根本があると考えられる。しかし『阿含経』は、大乗仏教を受け入れた中国や日本では正当な評価を受けることなく、明治以後ヨーロッパの学術の輸入とともに再発見されるに至ったが、諸学者の努力にもかかわらず日本の風土にあってはなお十分な注目をかちえるに至っていない。
第四に、仏教聖典を総称して経という。このなかには『般若経(はんにゃきょう)』や『法華経(ほけきょう)』など著名な大乗仏典のほかに、これらに対する注釈類をも含めて経とよんでいる。今日もっともよく用いられる『大正新修大蔵経』には、わが国の各宗の祖師や弟子たちの著作も収集されている。
[高橋 壯]
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経
きょう
sūtra
原語のスートラとは元来糸または糸状のものを意味したが,それが,特定の聖典をさすようになった。たとえば,正統バラモンに属する分野では,簡潔な言葉で要点のみを述べた文献で,一般に,昔の聖人の著わしたものとされる。ベーダを中心とした宗教にあっては,ベーダ文献を補う文献として,バラモンの行う祭式を扱った『天啓経』 Srauta-sūtra,バラモンの家庭において行われるべき祭式を記す『家庭経』 Gṛhya-sūtra,バラモンを中心とした社会の秩序を述べる『律法経』 Dharma-sūtra,祭式の際の祭壇や設備を記す『祭壇経』 Sulva-sūtraなどが作成され,バラモン正統派哲学においても,各学派の創始者に帰せられるスートラをもつ場合が多い。仏教では,釈尊の教えが文章の形で表現されたものを経 (スートラ) と称し,修多羅などと音写する。これらは,釈尊の入滅直後に行われたとされる第1回の経典の編纂事業 (結集〈けつじゅう〉) をはじめ,その後2回ほどの編纂を経て,整理され,発展させられた。大乗仏教の成立以後も,「般若経典」をはじめとする種々の大乗経典が編纂された。大乗経典は,やはり sūtraと呼ばれるが,長文で膨大なものが少くない。狭義には,生活規則としての律,論議を集めた論と区別される。儒教の経典も経と呼ぶ (→経書 ) 。
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世界大百科事典(旧版)内の経の言及
【スートラ】より
…原義は〈糸〉で,花を貫いて花輪とするように,教法を貫く綱要の意となったと考えられる。仏教もこれにならい釈迦の教法を文章にまとめたものを総称してスートラ(パーリ語ではスッタsutta)と呼んだ(ただし,仏教の〈経典〉には文体的にはスートラ体といえないものが多い)。漢訳では修多羅と音写され,経,契経,貫経などと訳される。…
【大蔵経】より
…仏教聖典を総集したもの。〈一切経(いつさいきよう)〉〈[三蔵](さんぞう)〉とも呼ぶ。元来,〈大蔵経〉の呼称は漢訳の〈三蔵〉に若干の中国人の撰述書を加えたものを指したが,現在ではその他の国語によるものも広く総称する。…
【仏教美術】より
… 釈迦の求め得たものは〈法〉であり,法こそは仏教の中核をなすものである。法は釈迦の瞑想により得た思弁的なものであるため,抽象的な文字に託され,統一的なテキストである経を求めて結集(けつじゆう)が繰り返された。経の内容も,教団の拡大と大乗経典の発達にともない,経,律,論に分かれ,〈[大蔵経]〉として集大成された。…
【仏典】より
…仏教徒の用いる聖典。国により宗派により多種多様であるが,基本的には経,律,論の〈三蔵〉にまとめられる。〈経蔵〉は釈迦の教説の集成で,〈法〉とも〈[阿含](あごん)〉(聖なる伝承)ともいわれる。…
【経学】より
…中国古典の〈経書(けいしよ)〉〈四書五経(ししよごきよう)〉など,の解釈をめぐる学術。〈経書〉は,儒家の奉持した基本文献のことで,単に〈経(けい)〉ともいう。…
【経書】より
…ふつうに《易》《書》《詩》《礼(らい)》《春秋》をさす。経は〈織の縦糸〉を意味し,織布に縦糸があるように,聖人の述作した典籍は古今を通じて変わらない天地の大経,不朽の大訓を示すものであるとして,経書と称した。孔子の学園では《詩》《書》が教学に用いられて尊ばれたが,これらを経と呼ぶことはなかった。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」