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光合成 こうごうせい

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

光合成(こうごうせい)
こうごうせい

緑色植物や光合成細菌が太陽光エネルギーを用いて、二酸化炭素から糖類などの有機物を合成すること。炭酸同化(炭酸固定)の一種である。地球上の生物は、生命の維持のためにエネルギーを必要とするが、化学合成細菌を除くすべての生物は、直接あるいは間接に太陽光エネルギーに依存している。緑色植物や光合成細菌は、直接太陽光エネルギーを利用できるが、動物などの従属栄養生物は、植物を食べるか、または草食動物を食べてエネルギーを得ているので、間接的に太陽光エネルギーを利用していることになる。われわれが燃料として使っている石油、石炭、天然ガスも何百万年も前の動植物の分解物であるから、これらの燃料に蓄えられたエネルギーは、太陽光エネルギーの変形したものといえる。このように、地球上の生命にとって光合成による太陽光エネルギーの捕捉(ほそく)は不可欠であり、もし植物がこのような働きをしなかったなら、地球上の生命は、とっくに消滅していたに違いない。毎年地球の表面に降り注ぐ太陽光のうち、光合成に利用できる波長域のものは半分で、しかもその40%は海や砂漠で反射されるので、光合成生物が利用している光のエネルギーはさらに少ない。それでも光合成生物が1年間に光合成によって生産するエネルギー量は、糖に換算して1000億トンに達するといわれる。これは地球上で利用できる太陽光エネルギーの0.2%であり、さらにこのうちの0.5%以下が人類の食糧として消費されているにすぎない。なお、光合成によるエネルギー生産量の40%は海面近くにいる植物プランクトンによって行われている。地球上の人口の増加とともに、食糧エネルギー問題が深刻となっているが、近年、その解決のための光合成の利用が脚光を浴びている。[吉田精一]

環境要因

植物の光合成は、種々の環境要因、とくに光の強さ、温度、二酸化炭素濃度によって左右される。酸素と二酸化炭素の出入りに関しては、光合成と呼吸は逆の関係にある。暗所では植物は呼吸だけを行うので、酸素の吸収だけがみられるが、弱い光を照射してすこしずつ光の強さを増すと、光合成による酸素の放出と呼吸による酸素吸収が等しくなり、見かけ上ガス交換がみられなくなる。このときの光の強さを「光(こう)補償点」という。補償点よりさらに光を強くすると、酸素放出は直線的に増加するが、ある程度の光の強さに達すると光合成速度は頭打ちになる。このとき、二酸化炭素濃度または温度を上げると、光合成速度はまた上昇する。この事実からブラックマンF. F. Blackmannは、光合成の反応は、光に依存した光化学反応(明反応)と、二酸化炭素濃度や温度によって影響される化学反応(暗反応)の二つからなることを示唆した。つまり明反応は、光のエネルギーが化学エネルギーに変えられる過程であり、この過程で酸素が放出される。一方、暗反応は、明反応でつくられた化学エネルギーを用いて二酸化炭素から糖が合成される過程といえる。[吉田精一]

光合成の場

植物細胞から単離した葉緑体には、光のもとで二酸化炭素からの糖の合成、酸素の発生など、光合成のすべての反応を行う能力が備わっている。高等植物の葉緑体は、直径4~10マイクロメートル、厚さ1マイクロメートルの円盤状で、二重膜で包まれ、その内側は層状のラメラ(層板ともいう)、あるいはチラコイド構造(扁平(へんぺい)な袋状)の膜系がある。この膜系が積み重なったものをグラナという。この部分に明反応に関係するすべての色素と反応系が存在する。一方、チラコイドの周りにある無色の部分はストロマとよばれ、ここに二酸化炭素から糖を合成する暗反応の酵素群が含まれる。[吉田精一]

光合成の機構

植物の葉緑体にはクロロフィル類のほか、カロチノイドやフィコビリンなどの色素が存在している。植物にいろいろの波長の光を照射して、その波長での光合成速度を調べた作用スペクトルをみると、クロロフィルaの最大吸収を示す420ナノメートルと660ナノメートルの波長域だけでなく、他の波長のところでも光合成がかなり効率よく行われていることがわかる。このことは、それらの波長域の光を吸収する色素が光合成に関与していることを示している。事実、他のクロロフィル類、カロチノイド、フィコビリンなどの色素がその吸収した光のエネルギーをクロロフィルaに受け渡ししていることが明らかとなり、これらの色素を「補助色素」とよんでいる。エマーソンR. A. Emersonは藻類の光合成作用スペクトルを研究し、波長が680ナノメートル以上になると光合成効率が著しく低下する、いわゆる「赤色低下」現象をみいだした。このとき、短波長側の光を同時に照射すると、それぞれの光を単独に与えたときの光合成量の和より大きくなった。このことから、植物の光合成には二つの光化学反応が関与していることが明らかとなり、それぞれ光化学系、光化学系とよんでいる。
 光化学系は、主としてクロロフィルaを色素系として含み、これに光が当たるとクロロフィルが励起されて電子がはじき出され、この電子がフェレドキシン(電子運搬体の作用をもつ小分子のタンパク質)を還元し、最終的にNADPH(還元型のニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチドリン酸)が生成され、電子を失った状態になる。一方、クロロフィルbやカロチノイドなどの補助色素を多く含む光化学系に光が当たると、同様に電子がはじき出され、この電子はチトクロム類を含む一連の電子伝達系を通って光化学系の電子の「穴」に送られ、この過程でATP(アデノシン三リン酸)が生産される。電子を失った光化学系は、水の光分解によって電子を得ると同時に酸素を放出する。このような二つの光化学系の共役によるATPの生成を「非循環的光リン酸化」という。また、光化学系と光化学系による電子伝達系は、「Z経路」とよばれ、この経路によってATPとNADPHが等量生成される。しかし、暗反応で二酸化炭素から糖を合成するには、1分子のNADPH当り1.5分子のATPが必要であり、この経路だけではATPが足りない。この不足を補うため、光化学系のみを使う循環的光リン酸化反応というのがある。これは、光化学系に光が当たって放出された電子は、別の電子伝達系を通ってふたたび光化学系に戻され、その過程でATPが生産されるという過程である。この過程では酸素の発生はみられない。葉緑体のチラコイドで行われるこれらの明反応によって生成したATPとNADPHは、ストロマ(葉緑体の中でラメラを包んでいる無色の基質)に送られて暗反応に用いられる。
 ストロマには二酸化炭素から糖を合成する経路が存在する。この経路は糖の分解経路である「ペントースリン酸回路」の逆の経路であるので、「還元的ペントースリン酸回路」、あるいは発見者の名をとって「カルビン‐ベンソン回路」とよばれる。この経路では、初めにペントース(五炭糖)のリブロース二リン酸に二酸化炭素が結合して2分子のホスホグリセリン酸が生成し、これからNADPHによる還元とATPによるリン酸化を経て糖が生成し、その経路の回転によってリブロース二リン酸が再生されてくる回路となっている。この回路の回転によって6分子の二酸化炭素から12分子のNADPHと18分子のATPを用いて1分子の糖が合成される。
 最近になって、植物が光合成を盛んに行っているとき、同時に活発に呼吸していることが明らかとなった。このような光のもとでの呼吸は、普通の呼吸とはまったく異なる仕組みで行われることがわかり、「光(こう)呼吸」または「光(ひかり)呼吸」とよばれる。これは、カルビン‐ベンソン回路の炭酸同化を行う酵素が、酸素分圧の高いときにはリブロース二リン酸を分解してホスホグリコール酸を生成するためで、グリコール酸経路とよばれる。この経路による光呼吸の反応は、葉緑体、ペルオキシゾーム、ミトコンドリアの細胞内顆粒(かりゅう)の共同作業で行われる。光呼吸活性が高いと、必然的に光合成効率は低下する。光合成効率の悪い植物では、光呼吸は純光合成の50%に達することもある。光呼吸は、光が強く、大気中の酸素分圧が高く、二酸化炭素分圧が低いほど高くなる。
 サトウキビ、トウモロコシなどの熱帯性草本では光呼吸が非常に低い。これら植物では光合成の際の二酸化炭素固定の初期産物がリンゴ酸、アスパラギン酸などのC4ジカルボン酸であるためであり、このような植物をC4植物とよび、光合成の初期産物が糖であるC3植物とは区別される。C4植物には、はっきりとわかる2種類の葉緑体の型がある。その一つは葉肉細胞に葉緑体が存在する型であり、もう一つは維管束鞘(しょう)細胞に局在する型である。C3植物では、葉緑体はほとんど葉肉細胞にのみ存在する。C4植物には炭酸同化経路としてC4ジカルボン酸回路があり、気孔から入った二酸化炭素は、まず葉肉細胞でホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼによって固定されてオキサロ酢酸となり、これからリンゴ酸やアスパラギン酸のC4ジカルボン酸が生成する。これが維管束鞘細胞に送られて、そこで脱炭酸されて二酸化炭素を再生し、これがこの細胞に局在するカルビン‐ベンソン回路によって固定されて、糖を合成する。C4植物にこのような複合経路が存在する理由は、熱帯のような二酸化炭素濃度の低い環境では、カルビン‐ベンソン回路の炭酸同化酵素よりも二酸化炭素に対する親和性の高いホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼでまず炭酸同化を行うためである。
 密閉した容器内に植物を置いて、十分に光を照射したとき、最終的に一定になった容器内の二酸化炭素濃度を二酸化炭素補償点という。温帯性植物のC3植物ではこの値は50ppm以上であるが、C4植物ではきわめて低いことが特徴で、光呼吸の小さいこととともに太陽光エネルギーの利用効率が高いことがわかる。
 ベンケイソウ、サボテンなどの多肉植物はC4植物と同様の炭酸同化経路をもっている。これらの植物の葉は夜間にリンゴ酸を蓄積するため酸度が高くなり、日中はリンゴ酸が消失して酸度が低くなる。このような昼夜の有機酸の変動をCAM(キャム)(ベンケイソウ型有機酸代謝)といい、これを顕著に行う植物をCAM植物とよんでいる。CAM植物は乾燥地域に生育するため、日中は蒸散を防ぐために気孔がほとんど閉じており、光合成のための二酸化炭素が吸収されない。そのため夜間に気孔が開いて、そのとき吸収した二酸化炭素をリンゴ酸の形で蓄積し、日中にこのリンゴ酸の脱炭酸によって生成した二酸化炭素を光合成に利用しているわけである。[吉田精一]

細菌の光合成

光合成細菌の細胞内にはクロマトホアとよばれる粒子があり、ここで光合成が行われる。細菌の光合成では、酸素の発生がない、水素や硫化水素が電子供与体となる、遠赤外光も光合成に利用できるなど、いくつかの点で植物の光合成と違っている。明反応では光化学系は一つしかないと考えられているが、植物と同様、光リン酸化反応を行い、ATPを生成するとともにNADPHも生成する。暗反応もカルビン‐ベンソン回路によって炭酸同化を行っている。最近、一部の光合成細菌ではクエン酸回路の逆の経路で炭酸同化を行っていることが知られ、この経路を還元的カルボン酸回路とよんでいる。[吉田精一]
『D・O・ホール、K・K・ラオ著、金井龍二訳『光合成』(1980・朝倉書店) ▽藤茂宏著『光合成』(1982・東京大学出版会)』

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について | 情報 凡例

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