生きる(読み)イキル

デジタル大辞泉 「生きる」の意味・読み・例文・類語

い・きる【生きる】

[動カ上一][文]い・く[カ上二]《古くは四段活用であったが、中世ごろから上二段に活用》
人間・動物などが、生命があり活動できる状態にある。生命を保つ。生存する。「百歳まで―・きる」「水だけで―・きる」⇔死ぬ

生計を立てる。生活する。「ペン一本で―・きる」
㋑(「…にいきる」「…をいきる」の形で)そこを生活の本拠として暮らす。また、意識的能動的に毎日を過ごす。「海に―・きる人々」「青春をいかに―・きるか」
㋒(「…にいきる」の形で)そのことに生きがいを見出して日々を送る。「研究一筋に―・きる」「趣味に―・きる」
あたかも命があるような働きをする。生き生きする。また、理念などが失われずに後世まで伝えられる。「その一語で文章が―・きてきた」「創設者の精神は今日なお―・きている」
(「活きる」とも書く)うまく活用することによってそのものの価値が発揮される。効果を現す。「ひとふりの塩で味が―・きてくる」「長年の経験が―・きる」
効力が失われていない。「あのときの約束は―・きている」「ライン内の―・きたボール
野球で、塁に出たランナーアウトにならずにすむ。「エラーで一塁に―・きる」⇔死ぬ
(「活きる」とも書く)囲碁で、目が別々に二つ以上できて自分のとなる。「石が―・きる」⇔死ぬ。→
[補説]書名別項。→生きる
[類語](1生存する生息する存命する在るそんする永らえる存生在世生かす/(2生活する暮らすやってゆく食う口をのりする暮らし世渡り渡世とせい処世しょせい起居寝食しんしょく寝起き衣食住食べる

いきる【生きる】[書名]

乙川優三郎の時代小説。藩主亡き後、追い腹を禁じられながら生きる武士の苦悩を描く。平成14年(2002)刊行。同年、第127回直木賞受賞。
黒沢明監督・脚本による映画の題名。昭和27年(1952)公開。出演、志村喬、小田切みきほか。事なかれ主義だった公務員が余命宣告を機に、使命感をもって仕事を遂行していく姿を描くヒューマンドラマ。志村演じる主人公ブランコをこぐ場面は特に有名。第26回キネマ旬報ベストテンの日本映画ベストワン作品。ベルリン国際映画祭上院特別賞、第7回毎日映画コンクール日本映画大賞など数々の映画賞を受賞。

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改訂新版 世界大百科事典 「生きる」の意味・わかりやすい解説

生きる (いきる)

黒沢明監督の1952年作品。《白痴》(1951)と《七人の侍》(1954)の中間に作られた。黒沢明は,みずから認めているとおり観念的な発想によって作品を作る作家であるが,《白痴》がドストエフスキーの小説,《蜘蛛巣城》(1957)がシェークスピア戯曲(《マクベス》),《どん底》(1957)がゴーリキーの戯曲を下敷きにしたように,ゲーテの詩劇《ファウスト》が構成の下敷きであると指摘されている。《生きる》という題名そのものがすでに一つの観念になっている作品である。アメリカでは《To Live》,イギリスでは《Living》,またフランスでは《Vivre》とも訳されたが,その後,原題の《Ikiru》が定着し,国際的にもクロサワの最高作の1本と評価されている。癌のため余命4ヵ月くらいと死の宣告を受けた市役所の市民課長(志村喬)が,非人間的な官僚主義の末端で無意味に生きた〈勤続30年〉を取り返すために,機械的に処理した古い陳情書を取り出し,下町の低地を埋め立てて小さな児童公園を作ることに挺身して死ぬ。ここまでがいわば導入部で,その後約2/3は主人公の通夜のシーンとなり,市役所の同僚たちを中心とした周辺の人々の回想(それも《羅生門》(1950)のようにきわめて主観的な回想)を重ねることによって,あらためて主人公の生き方が浮かび上がり,甘いセンチメンタルなヒューマニズム映画と思われた前半の部分が,〈生きる〉ことの意味を命がけで追究し証明した1人の人間の気高い物語に変貌していくとともに(雪の降る児童公園で1人ブランコに乗りながら《ゴンドラの唄》を口ずさんで死んでいく主人公のイメージがしだいに画面を圧倒する),周辺の人間たちの卑小さがグロテスクに浮かび上がるという典型的な黒沢的構図と逆転劇に似た映画的構成になっている。なお,複数のライターに同一シーンを競作させるという黒沢作品独自の脚本の集団創作は,この映画(黒沢明,橋本忍,小国英雄共同脚本)から始まった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「生きる」の意味・わかりやすい解説

生きる
いきる

日本映画。1952年(昭和27)作品。黒澤明(くろさわあきら)監督。黒澤監督作品の特色であるリアリズムとヒューマニズムが横溢(おういつ)した代表作。主人公の市役所の老課長(志村喬(しむらたかし)、1905―1982)が胃癌(いがん)を宣告され、事なかれ主義で勤勉に勤めてきた自分を反省し、残りの人生をかけて、圧力にめげず粘り強く公園建設に立ち向かっていく。これが前半で、一転して後半では、彼の通夜に集まった市役所員たちによって公園建設までのいきさつが回想される。主人公と同居する息子夫婦、勤め先の市役所員、公園建設を申請するおかみさんたちなどの人間描写が、生々しく、また批評的に、ユーモラスに描かれた。それまでのヒーロー主体の黒澤作品に多くの人物群像を加え、新たな作品世界を開示した。状況設定や説明も的確で、挿入されるエピソードがめりはりをつけ、ストーリー・テラーとしての持ち味も遺憾なく発揮された作品である。第二次世界大戦後の東京の都市としての一断面図を活写して、1950年代前半のリアリズム全盛期を飾った作品として同時代評価も高かった。

[千葉伸夫]

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デジタル大辞泉プラス 「生きる」の解説

生きる

1952年公開の日本映画。監督・脚本:黒澤明、脚本:橋本忍ほか、撮影:中井朝一、録音:矢野口文雄。出演:志村喬、金子信雄、関京子、小堀誠、浦辺粂子、南美江、小田切みきほか。第26回キネマ旬報ベスト・テンの日本映画ベスト・ワン作品。第7回毎日映画コンクール日本映画大賞、脚本賞、録音賞受賞。

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