翻訳|road
道路は太古から人類とともに進歩し、現代の自動車時代に適応した高速道路にまで近代化され、生産、流通をはじめ経済的、政治的、文化的に重要な機能を果たしている。鉄道など他の交通機関と比較して、道路を利用する場合、時間的、空間的に自由であり、日常生活に欠かせない陸上交通施設である。
[吉川和広・小林潔司]
道路に関係ある法制が数多く定められた今日では、道路の正確な定義を行うことはむずかしい。現在、道路の定義をしている法律としては、道路法、道路運送法、道路運送車両法、道路交通法、道路整備特別措置法、高速自動車国道法、日本道路公団等民営化関係四法、建築基準法などがあるが、いずれも規制の対象が異なるため、これらの法律において定義されている道路の観念はかならずしも一様ではない。すなわち、道路法によれば、道路とは、一般交通の用に供する道(自動車のみの一般交通の用に供する道を含む)で、高速自動車国道、一般国道、都道府県道もしくは市町村道をいうとしている。道路法以外の前掲の諸法律のうち、高速自動車国道法および道路整備特別措置法を除くその他のものはすべて、これよりやや広い定義を下し、道路法上の道路のほかに自動車道および一般交通の用に供するその他の場所をも含めて、これを道路と定義している。広い意味での道路は、これを公道と私道とに分けることができる。公道とは、行政主体が自己の行う行政の内容として、一般交通の用に供するため築造し、または認定した道路をいう。これに対して私道とは、私人が所有している敷地の一部を一般交通の用に供すべく築造し、または事実上一般交通の用に供している道路をいう。
[吉川和広・小林潔司]
道路は他の各種交通機関と異なり、交通を処理する機能のほかに多様な機能をもつ。たとえば、都市において道路はもっとも重要なオープンスペース(空間)である。その空間は都市における景観、防災などと密接不可分な関係にあり、またその道路空間を利用した下水道、上水道、電気などの都市の公益サービス施設の収容や、大都市における地下鉄などの整備もこの道路空間の利用なくしてはありえない。このように道路はその空間そのものが社会経済活動の各面において多様かつ重要な役割を果たしているが、その本来の機能である交通施設として今日の経済社会で果たす役割もまたきわめて大きいものがある。道路交通の役割の増大を支えた基本的な要因はまず、道路が高速自動車国道などの幹線道路網から身の回りの道路まで一貫したネットワークをもち、他の交通機関にはない普遍性とドア・ツー・ドアという特性をもつことによる。この面において、末端において道路交通に依存し、積み換えなどの過程を伴う他の交通機関と決定的な差異がある。さらに、このような道路のネットワークは、自動車のもつ機動性、随時性などの多くの特性と相まって高度な可動性を求める日本の社会経済の要請にこたえている。近時エネルギー制約などの観点から、自動車交通への依存からの脱却、鉄道など他の大量輸送機関への転換を指摘する向きもあるが、交通機関の特性や、こうした経済社会が求める可動性への要請を踏まえた現実的な検討が必要とされよう。
[吉川和広・小林潔司]
原始時代の道路は、人々が果実、草根などの食料を採取する場合、迷わないように木の枝を折り幹に傷をつけたり、石塊を積むなどの目印を設けることから始まり、野生動物の通路(けもの道)を利用するなど、自然に踏みならされた狭い曲がりくねった通路にすぎなかったと思われる。新石器時代に入り、農耕、牧畜が発達し、多量の食料生産が可能となって人類の生活は安定した。各方面での人類の活動が可能となり、文明の段階に入って人工的道路もつくられるようになった。すでに紀元前3000年ごろには、のちに、こはく道路とよばれる交易路があった。これは、こはくの産地であるバルト海沿岸地方と地中海沿岸地方を結ぶものであった。エジプト、メソポタミア、インド、中国など古代文明の発祥地では、神殿や宮殿に通ずる道路が石材で舗装されていたことが遺跡で知られる。最古の長距離道路はペルシア湾からメソポタミア、小アジアを経て地中海に至るロイヤルロードで、前14世紀ごろメソポタミア地方で勢力があったヒッタイト王国によって建設、整備された。またシルク・ロードは、前4世紀ごろから後16世紀になって海洋交通が発達するまでユーラシア大陸を横断し、東西文明の交流に役だった。
ローマ時代に入って道路建設技術は目覚ましい発達を遂げた。ローマ帝国は、イタリア、フランス、スペインからイギリス(ブリタニア島)、小アジアの西部、北アフリカにわたる広大な領土を統治し治安を確保する必要から、いわゆるローマ道を築きあげた。ローマ帝国の最盛時代には幹線道路の延長は9万キロメートル、下級の道路を加えると30万キロメートルにも達し、ローマから放射する幹線は23本にも及んだ。ローマ道のもっとも注目に値する点は、それが全体として統一ある計画のもとに整然とした道路網を形づくっていたところにある。ローマ道はローマ帝国の統治、治安の確保だけでなく、ローマ文化の普及にも役だち、「すべての道はローマに通ず」とまでいわれた。
ローマ帝国が衰退して東西に分裂し、5世紀後半に西ローマ帝国が滅びたのち、おおよそ1000年の間は中世の暗黒時代とよばれ、道路交通は著しく後退し、ローマ時代の高度に発達した道路建設技術は忘れ去られた。長距離の道路交通にはローマ時代の道路が用いられ、道路の建設は狭い範囲を結ぶ局地的なものにすぎなかった。中世紀で特筆すべきことは、南アメリカのペルーのインカ帝国が、ローマ道にも比すべき大規模な道路を建設したことである。この大道路網はアンデス山脈の急峻(きゅうしゅん)な山岳地帯を縫って広がり、その構造や工法も優れたもので、路面は石塊で舗装され、アスファルト材料が盛んに用いられた点はローマ道と比べたときとくに注目される。
ルネサンス以後、都市のギルドと結び付いて道路整備も徐々に進められていったが、その本格的建設は産業革命以後のことである。18世紀の終わりにイギリスで始まった産業革命によって交易の範囲と量は急速に拡大し、交通需要に対応する道路建設の必要が生まれた。1764年フランスではトレサゲPierre Trésaguet(1716―1796)が砕石道工法を確立した。続いてイギリスのテルフォードThomas Telford(1757―1834)とマカダムJohn Loudon McAdam(1756―1836)はそれぞれ1805年、1815年ごろに優れた砕石道を案出した。とくにマカダム工法は安価で、当時の馬車交通にも耐える優れたものであった。アメリカ大陸においては、合衆国政府が郵便逓送(ていそう)と貨客の馬車輸送発達のために道路建設奨励政策をとり、諸州もまた、それぞれの経済力強化のために交通改良政策を進めたので道路整備は著しく促進された。とくに東部地方を中心に発達したターンパイク道路は、線形的にも構造的にも優れた道路を広く普及させるもとになった。しかし、このようにして発達した馬車による道路交通も、イギリスのスティーブンソンによって発明された鉄道が1830年以降急速に発達したため、その発達の速度を一時緩めることになった。
19世紀の終わりになると、ダイムラーらによって内燃機関が実用化され、同じころダンロップによって発明された空気入りタイヤと組み合わされた自動車は、やがて第一次世界大戦でその有効性が認められたこともあって、陸上交通の手段として急速な発展をみた。ほこりをあげるゴムタイヤに対処するため、まずタール類による舗装、続いて重荷重にも耐えるセメントコンクリート舗装が普及した。
本格的な高速道路が実現したのは、近世に至るまで比較的道路整備の遅れていたドイツであった。1926年に通過都市の頭(かしら)文字をとってハフラバHAFRABAとよばれた約800キロメートルの高速道路建設構想が出され、続いて1934年には国土計画上の必要から国策として1万4000キロメートルに及ぶアウトバーンの建設計画がスタートし、第二次世界大戦前までに3859キロメートル(うち旧西ドイツ分2100キロメートル)が完成した。第二次世界大戦後、ドイツは東西に分割されたが、西ドイツでは1950年から道路事業が再開され、1979年には約4500キロメートルに延長された。アウトバーンの存在は戦後における西ドイツの急速な経済復興の大きな原動力となった。1990年東西ドイツはふたたび統合されたが、ヨーロッパ経済圏を一体とした高速道路整備計画に組み入れられ、高速道路建設は続けられた。ヨーロッパでは1980年代末から1990年代に東欧、ソ連の政治的解体やEU(ヨーロッパ連合)の経済統合を経て、より広範囲な地域を含めて高速道路網計画が検討されるとともに、道路計画とその評価過程の共有化や道路構造の標準化を目ざしてさまざまな取組みが模索されている。
アメリカでは、1921年に連邦補助一級道路体系が創設されて幹線の改良舗装が進み、その後の自動車道路整備の政策を方向づけた。第二次世界大戦後、1957年連邦補助道路法によって、連邦政府の補助により州際道路網を建設する計画が定められ、1991年に6万8500キロメートルの州際道路が概成した。またアメリカでは伝統的な有料道路による高速道路の建設が行われており、その料金収入額は世界一である。
さらに、近年では中国で急速に高速自動車網が整備されている。2005~2010年の間に3万3000キロメートルの高速道路が開通し、2010年末には総延長7万4000キロメートルとなりアメリカについで世界第2位となった。
[吉川和広・小林潔司]
日本は周囲を海に囲まれ、しかも地勢が急峻で、山岳や急流に妨げられて道路の発達はかなり遅れ、古く遠距離の交通は海運に頼ることが多かった。とくに貨物の輸送は江戸時代まで海運に依存していた。日本語の「道(みち)」という言葉は、もともと「道路」という意味をもっていたわけではなく、むしろ「ある広がりをもった地域、あるいは方角」を意味していた。大化改新(たいかのかいしん)(645)を経て初めて、中央集権的な支配体制を全国的に拡大する意図をもって道路網の整備が進められた。7世紀から8世紀なかばにかけて畿内(きない)から北海道を除く全国の主要地に通ずる陸路ができたと思われる。しかし、それらは今日われわれがイメージするような道路やローマ帝国で建設された道路とはほど遠い。平城京や平安京の建設には大掛りな都市計画が行われ、整然とした街路網が建設された。その後、平安時代から戦国時代まで道路の改良、発達はほとんど認められない。織田信長が天下統一に着手するに至ってふたたび幹線道路が整備されるようになった。江戸時代に入ると、東海道、中山道(なかせんどう)、日光街道、奥州街道、甲州街道の五街道をはじめ、多数の脇(わき)街道(脇往還)も整備され、一里塚(いちりづか)も備わり道路網が発達した。参勤交代の制度は、ある程度全国の主要道路の改良に役だったが、江戸時代の交通は徒歩、乗馬、駕籠(かご)などが主で、車としては牛車、大八車(だいはちぐるま)などがあった程度で、路面築造の技術はほとんど進歩しなかった。
明治に入って、社会制度の根本的な変革に伴い道路はすべて公道となり、乗用馬車の輸入によって、ようやく道路改良の兆しが現れた。1872年(明治5)東京・銀座通りにはサクラ並木を植え、車道に砂利を敷き、歩道はれんがと板石で舗装する近代的な道路がつくられた。1876年太政官(だじょうかん)布告で国道、県道、里道の3等級を定めた。1885年、東京・浅草の蔵前(くらまえ)通りで近代的な砕石道の築造を試みた。1886年内務省訓令で道路築造標準を制定し、マカダム道路を標準工法とした。1872年新橋―横浜間に鉄道が開通し、その後長く鉄道の普及発達に力が注がれ、近代的道路の建設は大都市内のごく一部に限られた。大正初年ごろから自動車の数が増し、ふたたび道路の建設、整備に注意が向けられ、1919年(大正8)道路法が制定され、国道、府県道、市町村道などの等級が定められた。また同年、国道、府県道の改良30年計画がつくられたが、この計画は関東大震災(1923)で中断された。大震災の復興事業を手始めに舗装道路が全国の都市に普及し、地方道の全面的な改良も幾たびか計画された。しかし、実際の道路改良事業は1930年代の不況期に失業救済、時局匡救(きょうきゅう)などの名目で行われ、引き続き全国的な事業が進められる予定であったが、第二次世界大戦で中断された。このため、戦前の日本の道路は一貫した計画のもとに建設、改良がなされたことがなく、都市主要街路の舗装、架橋、国道、府県道の初歩的改良などが行われたとはいえ、欧米と比べて著しく立ち後れていた。
第二次世界大戦により荒廃しきった日本の道路は、まず維持、修繕を中心にその整備が始まったが、1952年(昭和27)になって道路法が大改定され、道路行政の基本体系がつくられるとともに有料道路制度を定めた。これを受けて道路整備特別措置法(旧法)が公布された。時あたかも復興期にあった日本経済が、その基盤的施設としての道路の緊急整備を必要とした時期で、1953年には道路整備の財源等に関する臨時措置法が成立して、ガソリン税収入が特定財源として道路事業に充当されることになり、これを契機に1954年度を初年度とする道路整備五箇年計画が初めて策定された。やがて1956年日本道路公団が設立された。また同年には道路整備特別措置法も改正され、本格的な有料道路整備事業が日本道路公団の手によって進められることになった。こうして、特定財源制度と有料道路制度という、その後の道路整備の二大支柱ができあがり、1959年度から名神高速道路の建設が始まり、高速道路時代を迎えることになった。全国高速自動車国道網を形成する32路線7600キロメートルの予定路線を定めることとする国土開発幹線自動車道建設法が1957年に制定され、以降、高速自動車国道の整備が全国的に進められ、東名、名神、中央道、東北道、中国道、九州道といった縦貫道の整備が進められた。
[吉川和広・小林潔司]
第二次世界大戦後の半世紀にわたり、くふうを重ねながら道路整備の推進が図られた結果、日本の道路は舗装率を中心にいちおうの進捗(しんちょく)をみた。しかし、経済の拡大と国民生活水準の向上に伴い飛躍的に増大した道路交通需要と対比してみた場合、円滑さや安全性の確保、生活環境の改善など各面において今後の道路整備にまつべき課題は多い。
日本の道路は、歴史的にみると徒歩の時代から短期間に自動車時代へ移行したため、通過交通をさばく幹線道路の多くが市街地を貫通し、またその道路幅員も狭いなどの悪条件を背負っている。加えて都市化の進展、環境制約の高まりなど道路整備を取り巻く環境には厳しいものがある。
このようなことから、国民生活の向上と国民経済の健全な発展を図ることを目的として、1954年(昭和29)より延べ第12次にわたる道路整備五箇年計画が策定され、日常生活の基盤としての市町村道から国土構造の骨格を形成する高規格幹線道路に至る道路網が整備されてきた。五箇年計画は途中年度で改訂されたこともある。1998年(平成10)には2002年度を最終年度とする最後の道路整備五箇年計画が策定された。しかし、事業分野ごとに五箇年計画を策定することに対する批判が高まり、従来の事業分野別の交通社会資本整備の五箇年計画は、2003年(平成15)に社会資本整備重点計画に一本化された。
[吉川和広・小林潔司]
社会資本整備重点計画は、計画策定の重点を従来の「事業量」から「達成される成果」へと変更するなどし、社会資本整備の重点化・効率化を推進することを目的としている。社会資本整備重点計画の下で、2007年に道路整備に関する「道路の中期計画(素案)」が公表された。この中期計画は2008年から2017年度までの10箇年計画となっており、その事業規模は65兆円である。さらに、2008年12月の「道路特定財源の一般財源化について」に関する政府・与党合意に基づいて、改めて2008年を初年度とする5年間を計画期間とする「新たな中期計画」が取りまとめられた。新たな中期計画は、計画内容を「事業量」から「達成される成果」(アウトカム指標)へと転換するとともに、厳格な事業評価、政策課題および投資の重点化など、今後の選択と集中の基本的な方向性を示している。また、ほかの社会資本の整備計画と一体化され、2009年に第2次社会資本整備重点計画が閣議決定された。計画期間中の道路整備・管理は、本計画に基づき実施し、その際には、徹底したコスト縮減を図るとともに、道路関係業務の執行にあたっては、無駄の徹底した排除に取り組むことになった(2011年現在)。
新たな中期計画においては、地域づくり・まちづくりとの連携を図り、地域における道路の位置づけや役割を重視して、地方版の計画を策定することとなった。道路整備にあたっては、最新のデータに基づく交通需要推計結果をもとに、見直した評価手法を用いて事業評価を厳格に実施する。さらに、評価結果に地域からの提案を反映させるなど、救急医療、観光、地域活性化、企業立地、安全・安心の確保など地域にもたらされるさまざまな成果についても、総合的に評価する仕組みを導入している。さらに、今後取り組む重点的な政策課題として「活力」「安全」「暮らし・環境」「既存ストックの効率的活用」という四つの分野で以下に示すような政策課題を示し、投資の重点化の基本的方向を示している。すなわち、(1)地域経済や社会の競争力や活力を維持・強化するために、(a)基幹ネットワークの整備、(b)生活幹線道路ネットワークの形成、(c)慢性的な渋滞への対策、(2)道路交通環境や地域社会の安全性を向上するために、(a)交通安全の向上、(b)防災・減災対策、(3)少子高齢化が進展するなか、安心して暮らせる地域社会を形成するために、(a)生活環境の向上、(b)道路環境対策、(c)地球温暖化対策、(4)既存ストックの効率的な活用を図るために、(a)安全・安心で計画的な道路管理、(b)既存高速道路ネットワークの有効活用・機能強化、という政策課題に対して具体的な道路施策を示している。
[小林潔司]
一般に道路といわれているものは一般公衆の通行の用に供される施設をさしており、道路法に基づく道路のほかに、いわゆる私道、林道、農道、あるいは道路運送法に基づいて運営されている一般自動車道なども含まれている。しかし、日本の基本的な道路網を形成しているものは道路法に基づく道路であり、(1)高速自動車国道、(2)一般国道、(3)都道府県道、(4)市町村道の4種類をさし、トンネル、橋、渡船施設、道路用エレベーターなどの道路と一体となってその効用を果たす施設または工作物、および道路の付属物でその道路に付属して設置されているものを含んでいる。高速自動車国道は、自動車の高速交通の用に供する道路で、全国的な自動車交通網の枢要部分を形成し、かつ政治、経済、文化上とくに重要な地域を連絡するものである。一般国道は、高速自動車国道とあわせて全国的な幹線道路網を構成し、かつ国土を縦断し、横断し、または循環して、都道府県庁所在地(北海道の支庁所在地を含む)その他政治上、経済上、または文化上とくに重要な都市を連絡するものである。市町村道は、市町村の区域内に存する道路で、市町村が認定したものである。都道府県道のうち地方的幹線道路網の枢要部分を構成し、国道あるいは主要な都道府県道を相互に連絡するものを主要地方道という。
道路の構造は直線部と曲線部とで異なり、またトンネル部では特別な構造をもっている。道路構造の基本になる横断形状は、車道、路肩(ろかた)、中央帯(中央分離帯と側帯によって構成されている)からなり、街路ではこのほかに歩道、側溝(そっこう)が幅員中に入る。直線部には、路面排水のために中央部から路肩部に向かい1.5~2.0%の横断勾配(こうばい)がつけてある。曲線部は、自動車が遠心力を受けて横滑りしないように横断形状を片勾配にし、かつ自動車の走行上、直線部より広い車線幅を要するので、車道幅員を曲線半径に応じて拡幅する。直線部から円曲線部に入るには、ハンドル操作を円滑にするため、両者の間に緩和曲線を入れる。緩和曲線にはクロソイド曲線が多く用いられる。平面曲線部および縦断曲線部はともに見通し距離が不十分になりがちなので、走行上の安全を確保するため、線形の修正あるいは障害物の除去を行って、必要な見通し距離が得られるようにする。前記のような種々の幾何構造は、道路の設計速度を大きくするほど、走行安定上すべてゆったりした高級なものにする必要があるので、建設費が高くなる。
道路各部の構造寸法と舗装および付属設備の設計は、道路構造令に基づいて設計速度、設計交通量、その他必要条件を満たすように行う。道路の構造設計は、まず道路中心線の平面形と縦断形の決定、安全見通し距離の確保、横断形状と交差部の細部設計、および舗装の種類と、その断面の施設設計などを行う。そのほかトンネル、橋梁(きょうりょう)、盛土(もりど)、切土(きりど)部の道路本体部、駐車場、ターミナル設備の設計や防護柵(さく)、標識、標示、信号、照明、植樹などの計画、設計が必要である。
[吉川和広・小林潔司]
一般の道路計画においては、(1)計画の目的および目標の設定、(2)計画を構成する諸要素および環境的諸要素の相互関連の把握、(3)いくつかの計画案の作成、(4)計画案の評価、の各過程を経て、必要に応じてフィードバックのうえ検討され、適切な計画案が採択されることになる。
一般に道路の長期計画は、(1)道路整備の目的の明確化、(2)目標年次の設定、(3)計画の前提となる全国的・地域的構成、その他諸条件の設定、(4)道路整備の目標および課題の設定、(5)道路網の検討、(6)個々の道路計画の検討、(7)長期計画の作成と評価、という手順を経て策定される。このような道路計画の策定にあたっては、まず、道路および道路交通の現状を明らかにし、問題点を発見し、その対策を検討することから始めなければならない。道路計画のための調査項目は、施設現況調査と交通調査とに大別される。施設現況調査としては道路現況調査、橋梁・トンネルなどの構造物現況調査および法面(のりめん)現況調査などがあげられる。交通調査は、道路を利用する交通の現況や、道路交通に付随して生じる交通問題の実態を把握するために行うもので、交通量調査、起終点調査(OD調査)、走行速度調査、交通事故調査、交通騒音調査、車両重量調査、自動車経路調査、交通意識調査などが実施されている。このうち組織的に行われている交通量調査としては、全国道路交通センサス、交通量常時観測調査、交差点交通量調査がある。また起終点調査は、自動車の運行(トリップ)ごとの出発地、目的地、運行目的、積載品目などを知ることにより自動車交通の質的内容を把握することを目的としている。
道路整備を秩序あるプログラムのもとに効果的、効率的に遂行するためには、大都市圏、地方圏、あるいはその周辺を一体とした地域などについて、総合的な地域計画の一環として、広域的な観点から道路網全体としての将来の道路交通需要を的確に把握することが必要である。このための基礎資料を収集する目的で、人口・経済および土地利用調査、経済調査、交通現況調査(パーソントリップ調査、物資流動調査、道路交通センサス)などが実施される。次に、これらの諸調査によって得られたデータを用いて将来の交通量を推計する段階になるが、現在ではOD表に基礎を置いた総合的推定法が用いられている。この推計モデルは、OD調査、発生交通量の推定、分布交通量の推定および交通量の配分の4段階からなっている。
道路の路線計画においては、道路の路線位置および構造の設定にあたり、工学的判断のみならず行政的判断も含まれる点に留意する必要がある。それは、道路が一般公共の用に供される施設であると同時に、国土・地域・都市計画などと一体的に計画されなければならない関係にあり、さらに道路の利用が直接間接に社会活動に大きく影響するからである。計画道路の路線選定とは、考えうるいくつかの比較路線を設定し、概略設計のうえ、地形、地質、土地利用との関係などにより優劣判定を行って路線の位置と概略の構造を定めることで、おおむね次のような手順で行われる。
(1)計画の基本条件の設定 現在の交通状況の問題点、計画の策定を必要とする具体的な土地利用などの周辺条件を整理し、計画すべき道路の性格、計画交通量、構造規格などの基本条件を設定する。
(2)比較路線の設定 航空写真または地形図を用いて、考えうるいくつかの路線を描き、平面、縦横断の予備設計を行う。
(3)路線調査 路線に沿った全般的な地質・土質・気象条件、地下水などの調査を行う。
(4)重要構造物等調査 トンネル、長大あるいは特殊基礎の橋梁などの重要構造物が計画路線のなかに予想される場合には、その部分の地形、地質などについての精度をあげた調査を行い、必要に応じて概略の構造を検討する。
(5)関連する計画、事業などとの調整 計画路線の配置と土地利用のバランスを調査し、建設の際に関連してくる他の事業計画との調整などを行う。
(6)比較路線の評価と計画路線の選定 以上の各調査をあわせて、比較代替案ごとに建設費(必要に応じて維持管理費あるいは費用便益を考慮に入れる)と、その各計画路線の配置と利用上の適合性との関係、および投入しうる財源などを含めた総合判定を行う。
[吉川和広・小林潔司]
道路各部の構造寸法と舗装、付属設備の設計は、道路構造令(1970)に準拠して設計車両、設計速度、設計交通量、設計容量の基準値に基づいて行う。一般に設計基準に示されている構造規格は多くの場合に地方部と都市部を分け、地方部においては地形に応じて平地部、丘陵部、山地部に区別して規定を定めている。道路構造令では高速自動車国道および自動車専用道路とその他の道路とに大きく二分し、それぞれ地方部と都市部に応じて、前者を第1種と第2種に、後者を第3種と第4種に区分し、地方部の道路はさらに平地部と山地部に分け、おのおのの計画交通量あるいは沿道地区の状況に応じて第1級から第5級までの構造規格を規定している。道路設計の際の設計速度は同じく道路構造令に規定されている。道路の見通し距離、幅員、曲線部や勾配部の構造などはこの設計速度に基づいて決定される。交通量の多い、あるいは将来交通量の急激な増加が予想される道路および街路においては、設計交通量にあわせるよう道路の設計容量を決定することがきわめて重要となっている。道路の容量は、道路幅、見通し距離、車種および混合度、走行速度などの諸条件によって大きく変化する。交差点における容量はその前後における接続道路の容量に比べて著しく低くなるから、とくに合理的な設計が必要である。
道路の幾何学的寸法を設計するにあたって、自動車の走行を安全かつ快適ならしめるよう道路の中心線形、横断形状を決定し、勾配部や曲線部あるいは交差部の設計を行うことが必要である。まず道路交通の安全を保ち容量を低下させないようにするため、十分安全な距離を前方に見通しうることが必要である。この見通し距離は道路構造令によって規定されている。中心線の形は、地形によく順応し、風景と調和し、なるべく緩やかに変化させ、急な変化を避けるとともに、単調な長い直線区間もまた好ましくないので避けるようにする。道路の横断形状は、車道路面、路肩、排水側溝、切取法面あるいは盛土法面などからなっている。車道路面は普通2車線以上とし、交通量に応じて適当な幅をもち、重い自動車が高速で走ることができるように堅く平らな路面工または舗装が施されていて、降った雨水を排除するため1.5~6.0%の横断勾配をつけておくことが必要である。道路が互いに交差する所では、一般に交通量が少ないときはごく普通の平面交差とし、交通量が多くなると信号をつけて交通制御をする。さらに交通量の多い交差部は立体交差とする。そのほか、橋梁、トンネルなどの付帯施設、駐車場、ターミナル施設、ガードレール、沿道の整備、標識、区画線、信号、照明、植樹などの設計があり、膨大な一連の作業を必要とする。
また、近年自然・環境破壊問題が注目されるなか、自然景観の保護、自然景観との調和、道路景観の造成、交通公害の緩和、道路および休憩施設などの機能の向上、都市美の造成、災害の防止などを図るため、景観設計の重要性が認識されるようになってきている。平面線形の視覚的連続性、法面の形状(ラウンディング、グレーディング)など道路景観設計の際に現れてくる問題は大別して、道路の線形、土工形状、植栽、周辺の地形・地物に関連したこととして分類される。問題は、たとえば土工形状と植栽との間の調和関係という形で現れてくる。このような相互関係にも道路設計の際に留意しなければならない。
[吉川和広・小林潔司]
さらに、近年では道路財源が減少するなかで、道路整備で効果を早くあげ、整備コストの縮減などを図るために、従来の全国統一の規格に加え、道路規格の緩和や地域の実情に応じた適切な構造とするローカルルールの導入が可能となった。たとえば、中山間地では、大型自動車同士のすれ違いが不可能な狭隘(きょうあい)道路が残されているが、ところどころに待避所を設けたり、見通しの悪いカーブの部分だけ(カーブの内側に)道幅を広げて向こう側が見えやすくしたりする道路改良工事を1.5車線化とよび、低予算で施行できるとして地方で注目されている。
[小林潔司]
エコロードeco road(ecological roadの略で、和製英語)とは、生き物の生活とその環境を大切にした道および道づくりのことである。道路が建設されると、そこに生息している生態系はさまざまな影響を受ける。道路建設によって、動植物の生息環境が消失し、移動ルートが分断されることにより、さまざまな問題が発生している。移動分断の影響として、道路上で発生するタヌキやノウサギなどの野生動物の死亡事故(ロードキルroad kill)は、国内の高速道路上で年間3万5000件発生している(2006年現在)。大型動物との接触によりドライバーが死傷する事故も起こっている。絶滅が危惧(きぐ)される稀少(きしょう)動物(たとえば、イリオモテヤマネコ)にとって交通事故は深刻な問題となっている。植物の花粉や種子の移動ルートが道路によって分断されることにより、植物の遺伝情報の伝達が途絶える危険性もある。動物の通婚圏の分断が劣勢遺伝を助長するといった事例も生まれている。
エコロードの歴史はドイツに始まる。道路技師アルウィン・ザイフェルトAlwin Seifert(1890―1972)はアウトバーンの道路植栽を景観保全と環境保護の立場から推進し、その結果は1960年の道路緑化指針としてとりまとめられた。さらに、ドイツでは1970年代末に生き物の生息環境を保全するための設計指針や設計要領がマニュアル化された。日本では、1980年代に入ってエコロードのあり方が意識されるようになった。その最初の試みとして、日光国立公園のなかを通る日光宇都宮道路の建設にあたり、道路の下に動物が横断できるトンネルがつくられた。このトンネルにより「獣道(けものみち)」が確保され、表土保全した法面(のりめん)に植栽して森林が復元された。その後各地でも、道づくりの計画段階から周辺の自然環境の調査を行い、そこに生息している野生動植物との調和を図りながら道路整備を進めていくという方式がとられている。このような方式は保護・保全型のエコロードであり、自然が豊かな地域や里山(さとやま)などの身近な自然が残されている地域に適用される。さらに、道路・法面・環境施設帯・サービス施設等の道路用地を活用して、動植物の生息環境を積極的に創り出す試みも行われている。都市内や都市周辺などの自然が少ない地域において生態環境を復元することを目的とするものは「エコアップeco‐up」ともよばれる。
[小林潔司]
道路工事の計画設計書と図面が作成され、工事に必要な資材、労務、機械、施設の量が積算され、所要の経費が見積もられて、道路工事の発注者と受注者の間で請負契約が結ばれると工事の実施に入る。着工に先だち、支障となる家屋、物件の除去や移転、用地の買収を行う。工事は以下のように進められる。
(1)土工 道路は本来自然の地表面に沿って設けられる細長い構造物で、人や自動車の通行に適する線形と勾配を保つため、地形に応じて地表面を削り取ったり、地表面に盛土を行って構築する。この切土、盛土を土工といい、道路工事の大部分を占めるので、平面線形、縦断線形、施工基面を適切に設計し、できるだけ土工量を少なくする。深い切土や高い盛土は施工を困難にし、将来その維持補修を困難にすることがあるので、できるだけ避けるようにする。土工では各種の大型土工機械が活躍する。その主力はブルドーザー、スクレーパー、パワーショベル、ダンプトラックであるが、盛土を締め固め安定性を高めるためにはタイヤローラー、振動ローラー、ランマーなどを用いる。地盤が軟弱で、盛土荷重のため沈下が大きいと予想される場合は、良質の土砂で置き換えたり、排水で圧密を促進するなどの対策工法をとる。切取り(切土)、盛土の斜面は、張り芝、モルタル吹き付け工、その他の被覆工を行い、崩れ落ちたり洗い流されたりしないように防護する。また舗装の基礎となる路床(ろしょう)、路盤の部分は、良質の砂利を選び、十分締め固め、かつ排水をよくする。一般に道路の破壊は直接間接に水に起因することが多いので、道路各部の排水には十分注意する。
(2)路面工および舗装 道路の路面は走行する車両の車輪荷重を直接受けるもっともたいせつな部分で、いつも平らで滑りにくく、どのような天候のときでも十分な支持力をもち、水はけがよく防水性に富んでいて、路面の下部にある路盤や路床を保護できるものでなければならない。交通量があまり多くない道路では砂利道が用いられる。しかし砂利道は、交通量が多くなると傷みやすく、維持に手間を要するので、簡易舗装にしたほうが経済的である。日本ではアスファルト乳剤を用いた浸透式マカダム工法が広く用いられる。高級舗装にはアスファルト工法とコンクリート工法とがある。いずれも高速の重交通に適する工法で、路盤から表層にわたって厳重な設計施工をすることが要求される。
[吉川和広・小林潔司]
1980年代にアメリカでは、不十分な維持補修が原因となり、道路施設の急速な老朽化と荒廃が問題化した。いわゆる「荒廃するアメリカ」である。道路施設は予防的な維持補修により長寿命化が可能となり、結果としてライフサイクル費用を節約できる。ライフサイクル費用とは、施設が建設され、それが廃棄されるまでに必要となるすべての費用のことを意味しており、直接的な事業費用だけでなく、事業が終了したのちに必要となる維持・補修費用や、施設の更新や破棄に必要な費用も含む。逆に、維持補修を先送りすれば、将来世代が膨大な維持補修費用を負担することになる。そこで、道路施設を国民のアセット(資産)として位置づけ、維持補修を計画的に、かつ着実に実施するためにアセットマネジメントという考え方が生まれた。
日本における道路整備はアメリカより30年遅れているといわれる。高度経済成長期に整備された道路施設がいっせいに耐用年数を迎えようとしており、道路施設の高齢化が懸念されている。2011年(平成23)には建設後50年以上経過した橋梁(きょうりょう)数が2001年時点の約4倍、2021年には約17倍に達するという試算も報告されており、これは荒廃するアメリカを上回るペースである。さらに、少子高齢化社会の到来による税収減少や、社会保障費用の増大により、道路整備の財源基盤がいっそう縮減することが予想される。
道路施設の機能を維持・向上するためには、新規の道路整備のニーズにこたえつつ、既存の道路施設の維持・補修、更新をより効率的に実施していかなければならない。日本においても、2005年ごろから橋梁、舗装をはじめとする道路施設にアセットマネジメントが導入され、ライフサイクル費用を考慮した維持補修が実施されるようになった。同時に、維持・補修方法の開発やライフサイクル費用の削減を目的とした実用的なアセットマネジメント手法が開発された。これらの手法を活用して効率的な道路施設のアセットマネジメントが可能になった。2008年に策定された道路整備の「新たな中期計画」において、既存ストックの効率的な活用が重点政策として取り上げられている。しかし、維持補修に必要な財源を確保するのがむずかしく、ともすれば維持補修が先送りされているのが現状である(2011年現在)。
[小林潔司]
日本は、高度情報化社会に向けて大きな変革期を迎えている。このような高度情報化社会への流れのなか、新たな公共基盤施設として、光ファイバー網の整備が必要とされている。その際、高速道路から生活道路に至るまで、日本中にネットワークをもつ道路が情報搬送を担うことに対する期待はきわめて大きい。日本政府は、光ファイバー網の全国整備を支援するため、道路事業においても民間事業者の光ファイバーの収容空間(情報ボックス、電線共同溝、共同溝)の整備を推進している。
また、自動車交通の増大や情報化の進展に伴う道路交通情報に対する需要の多様化に対応するため、本格的な高度道路交通システムIntelligent Transport Systems(ITS)の開発や実用化への動きが展開されつつある。世界各国においてITSに関する研究が活発化している。日本においても、(1)ナビゲーションの高度化、(2)自動料金収受システム、(3)安全運転の支援、(4)交通管理の最適化、(5)道路管理の効率化、(6)公共交通の支援、(7)商用車の効率化、(8)歩行者の支援、(9)緊急車両の運行支援、という九つの分野について研究開発と実用化が進められている。具体的に進展しているものとして、以下の点があげられる。
(1)運転者の負担を軽減し、安全・円滑かつ快適な道路交通環境を整備するため、最先端の情報通信技術を用いて人と車と道路を一体的なシステムとして構築するようナビゲーションの高度化が図られている。運転者に渋滞状況等の交通情報をリアルタイムで提供する道路交通情報通信システムVehicle Information & Communication System(VICS(ビックス))が、1996年(平成8)春に首都圏、東名・名神高速道路で実用化された。その後、都道府県の主要なエリア(中心都市や事前通行規制区間等)で交通渋滞、交通事故、道路工事などの道路交通情報が提供されている。
(2)1999年より千葉地区を中心とする首都圏の主要料金所で、ノンストップ自動料金収受システムElectronic Toll Collection System(ETC)のサービスが開始された。ETCとは車両に登載された送受信機と料金所のブースに設置された送受信機の間で車両の通行区間や料金に関する情報を無線通信によって交信し、料金収受員の手を介することなく自動的に通行料金の支払いを可能にするシステムである。2011年(平成23)の時点で、高速自動車国道と都市高速道路ではETC整備が完了しており、それ以外の有料道路を除いて、すべての料金所でETC無線通行またはETCカードでの支払いが可能となった。2011年5月の時点でのETC車載器搭載車台数は全国で約3400万台、ETC利用台数は全国平均で通行総台数の約87%となっている。
(3)そのほか、走行支援道路システムAdvanced Cruise‐Assist Highway System(AHS)、商用車の効率的な運行管理の支援に資するシステム、道路管理の情報化に関する研究開発などが行われている。さらに、システム間の互換性の確保や国際標準との整合を図るため、基準類の整備や国際標準化活動が進められている。
[吉川和広・小林潔司]
第二次世界大戦後増加の一途をたどってきた交通事故死者数は、1970年(昭和45)の1万6765人をピークにその後減り続け、1979年に8466人まで減少した。しかし、ふたたび増加に転じ、1990年代に入って年間約1万人前後を推移していたが、1996年(平成8)以降1万人以下に減少した。2010年(平成22)の交通事故死者は4863人で10年間連続して減少が続いている。
しかし、65歳以上の高齢者の交通事故死亡者数は2499人であり、10年前と比較すると約1.2倍に増加している。自動車事故による負傷者数は、2005年の118万人をピークに、その後、減少に転じた。2007年9月ならびに2009年6月に施行された道路交通法の改正で罰則が強化され、飲酒による死亡事故は2000年から10年間で半減している。
[吉川和広・小林潔司]
交通事故による死傷者が増加の一途をたどっていた1960年に、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、および道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする道路交通法が成立した。1966年度に「交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法」(以下、緊急措置法)が成立し、国が一定の交通安全施設の整備について都道府県を計画的に補助する制度がスタートした。以降、2002年まで同法に基づき交通安全施設等整備事業に対する国の補助が行われ、歩道、自転車歩行者道、防護柵、道路標識などの交通安全施設の整備が進められてきた。さらに、1970年には、交通の安全に関して、国および地方公共団体、および交通安全にかかわる主体の責務を明らかにするとともに、交通安全対策の総合的かつ計画的な推進を図り、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的として、交通安全対策基本法が制定された。2002年の社会資本整備重点計画法の成立に伴い、前記緊急措置法も「交通安全施設等整備事業の推進に関する法律」(以下、推進法)に改められ、以降は同法に基づき交通安全施設等に関する国の都道府県に対する補助が行われている。
2003年度から推進法に基づき進められることとなった特定交通安全施設等整備事業は、計画策定の重点がそれまでの事業量(アウトプット)から成果目標(アウトカム)に変更された。2009年3月31日に閣議決定された第2次社会資本整備重点計画では、交通安全施設等整備事業のアウトカムを、「道路交通における死傷事故率を約109件/億台キロ(2007年)→約1割減の100件/億台キロ(2012年)」と設定し、それを実現するために「道路交通環境をより安全・安心なものとするため、道路の特性に応じた交通事故対策をすすめることとして、事故の発生割合の高い区間における重点的な対策、通学路における歩行空間の整備、自転車利用環境の整備等を推進する」としている。
[小林潔司]
近年の急速な自動車交通の需要増大と車両の大型化などにより大気汚染、騒音、振動などによる沿道環境の悪化が問題になっている。1995年(平成7)7月の国道43号訴訟最高裁判決では騒音による生活妨害が認定され、1998年8月の川崎道路公害訴訟の第一審判決では大気汚染による疾病などが認定された。道路環境対策は道路行政にとって大きな課題となっている。また、地球環境問題については、気候変動枠組み条約第3回締約国会議(地球温暖化防止京都会議)において、2010年(平成22)をめどとする二酸化炭素の排出削減目標が設定されたが、道路交通における排出削減目標の達成に向けた取組みが求められている。
道路整備による環境対策としては、既成市街地に集中する自動車交通を分散し、環境改善に資するためのバイパス、環状道路などの整備のほか、環境施設帯の設置など、沿道環境に配慮した道路構造の採用、道路の緑化および良好な路面の保全などがある。また沿道における対策として、用途地域の指定など都市計画による沿道にふさわしい土地利用への誘導のほか、道路整備の一環として、一定の緩衝建築物(騒音が背後へ通り抜けないような鉄筋コンクリート造など)の建築主に対する道路管理者による建築費の一部助成などの制度化が講じられている。また、道路の沿道環境を保全するために先端技術の成果を適用することが期待されている。たとえば、騒音に関しては低騒音タイヤの開発、低騒音(排水性、多孔質弾性)舗装の開発、舗装の品質水準の維持・回復手法の研究、新型遮音壁の開発・普及が進められている。これらの先端技術を利用することにより、沿道の騒音を3~10デシベルほど低減させることが可能といわれる。
さらに、道路沿道に休憩施設と地域振興施設が一体となった道路施設である道の駅が整備されている。道の駅は1993年から整備が始まり、2011年8月の時点で977か所が登録されている。
2008年に制定された「新たな中期計画」においては、「幹線道路の沿道環境の早期改善を図るため、バイパス整備や交差点改良等のボトルネック対策とともに、低騒音舗装の敷設や遮音壁の設置等を推進する。また、騒音や大気質の状況が、環境基準を大幅に上回っている箇所については、関係機関と連携して、重点的な対策を推進する」ことを重点施策と位置づけている。また、京都議定書の温室効果ガス削減目標の達成を図るため、走行速度を向上するなど二酸化炭素排出量を削減する必要があり、京都議定書目標達成計画に基づき、ETCの利用促進などの高度道路交通システムIntelligent Transport Systems(ITS)の推進、高速道路の多様で弾力的な料金施策、自転車利用環境の整備、路上工事の縮減等を推進することとしている。
道路整備のような大型プロジェクトによって引き起こされる環境破壊は、いまや国際的に深刻な社会問題として受け止められている。しかし文化の発展、社会の進歩に伴って、交通網の整備、土地利用の高度化、水資源の開発などに対する要請は今後ますます高まってくるものと考えられる。もちろん、これらの開発計画は地域環境に適合し、周辺住民の合意の得られるものでなければならない。このためには、開発計画に伴う環境アセスメントの考え方を確立するとともに、その手法の発展を図ることが必要である。アメリカでは1969年に国家環境政策法(NEPA)が制定され、人間環境の質に著しい影響を与えるおそれのある連邦政府の開発行為に対しては環境影響報告書の作成が義務づけられた。日本においても1971年(昭和46)に環境庁が設けられ、環境行政が推進されるようになった。なお、環境庁は2001年(平成13)の省庁再編に伴い、格上げされて環境省となった。
現在、いろいろな環境項目のなかで道路計画で問題となっている項目は、地域の人々の生活環境、あるいは自然環境に関するものであり、道路のマイナス影響といわれるものが多い。一方、道路の直接効果あるいは間接効果といわれるものは、地域経済・社会ひいては国民経済・社会全般に関するもので、道路のプラスの影響と考えられるものが多い。1997年に環境影響評価法が制定され、大規模公共事業など環境に大きな影響を及ぼすおそれのある事業について、事業者が環境への影響を予測評価し、その結果に基づいて事業の悪影響を回避し、事業の内容をより環境に配慮したものに修正するための環境アセスメント手続きが定められた。こうした環境アセスメント手法としては、アメリカの環境影響報告書のように記述式による方法のほか、重ね合わせ(オーバーレイ・マッピングoverlay mapping)による方法、マトリックスmatrix(行列)による方法、評価関数を用いる方法、重要度を重みづけして評価する方法などが開発されている。
[吉川和広・小林潔司]
21世紀初頭に日本は人口減少時代に入った。同時に高齢化が急速に進展していくことが予想されており、限られた投資財源をさらに効率的に活用することが求められている。道路需要に的確に対応した、より必要とされる分野に重点投資を図るため、客観性の高い道路事業評価システムを構築することが必要である。このような観点から、1998年度(平成10)より、新規事業の採択にあたっては、費用便益比を含めた評価指標を用いた総合評価を行うとともに、評価結果を公表することを政府は求めている。費用便益比とは、事業がもたらす金銭評価された便益と事業費用の比率を意味している。さらに、再評価制度を導入し、事業採択後一定期間(直轄事業等は3年間、補助事業等は5年間)が経過した時点で未着工の事業、事業採択後長期間(5年間)が経過した時点で継続中の事業等について再評価を行い、必要に応じて見直しを行うほか、事業の継続が適当と認められない場合には事業を中止することとしている。また、2003年度(平成15)より、事業完了後に、事業の効果、環境への影響等の確認を行い、必要に応じて適切な改善措置、同種事業の計画・調査のあり方等を検討する事後評価制度を導入している。
国民の多様化した価値観や幅広い意見を道路事業に反映させるために、モニター制度の試行、社会実験、住民参加(パブリック・インボルブメントpublic involvement。略してPI)の実施など対話型道路行政の重要性が指摘されるようになってきた。とくに、社会的に大きな影響を与える可能性が高い施策の導入にあたっては、関係者・住民参加のもと、場所や期間を限定して試行、評価する社会実験が試みられている。たとえば、先進事例として、新潟県長岡市では交通需要マネジメント施策、静岡県浜松市ではトランジットモール整備を目ざした社会的実験が試みられた。トランジットモールtransit mallとは、路面電車やバスなどの公共交通機関と緊急車両のみが乗り入れ可能な、歩行者優先の空間(街路)のことである。また、行政情報の公開や国民の意見をより多く政策へ反映させるために、大規模な道路事業計画の早期段階においてルートや構造等について情報公開を行い、道路事業過程の透明化を図ることが、一般的な傾向として要請されている。地域に密着した道路事業に対して住民参加を積極的に促進する取組みが行われるようになったといえる。
[小林潔司]
国民生活における文化的価値の追求が積極化し、生活の質的充実を求める傾向が高くなっている現代では、道路の諸機能も多角的に展開されることが要請される。従来の道路機能は、社会的・経済的機能のみが重視されていたが、現在では、さらに環境的・防災的・都市空間的機能や、観光的・文化的機能が付け加わる。道路を社会資本としての機能から分類すれば、生産基盤関係、生活基盤関係および国土(または環境)保全の社会資本として区分される。しかし、現実には、いくつかの機能が混在する道路が多い。なお、道路整備によってもたらされる直接便益(走行費の節約、輸送時間の短縮、交通事故減少など)ならびに間接便益(流通経済の合理化効果、地域開発効果など)という概念は、道路の費用・便益分析の際に利用されてきたが、社会資本としての道路機能からみれば、生産基盤関係の視角に重点を置いたものである。
[高橋 清]
日本では、1960年代後半に入って、国土縦貫型高速道路を骨格とする全国幹線ネットワークの本格的整備が始まる。その後、2回にわたる石油ショックにもかかわらず、モータリゼーションは著しく進展した。しかし、道路交通網体系のなかで高速道路や新幹線という新交通ネットワークの整備が東京指向型で先行したため、地方生活圏は巨大都市圏に直接・間接吸引される形となった。そのため、地域特性を生かした道路整備が困難となり、地域における伝統的な生産や生活の場が失われていった。旧西ドイツの連邦幹線道路のネットワークが、高速道路を含めて、いわば多角分散的に配置されたのとは対照的である。
すなわち、縦貫型高速道路を骨格とする全国幹線ネットワークが整備される過程で、これを補完するものとして、一般国道、主要地方道、一般府県道、さらには幹線市町村道(市町村道延長の2割)がサブ・ネットワークとして再編成された。その結果、高速道路沿線で、中枢管理機能の高い既成の大都市、府県庁所在都市、その他の地方中核都市は、交通渋滞、混雑区間(混雑度1.0以上、つまり交通量が道路交通容量を上回る状態の区間)の増大にあい、一般国道の二次改築、バイパス建設、大都市環状道路の整備が要請されてくる。
道路現況の国際比較によれば、日本は、高速道路の実延長でドイツ、イタリア、フランスよりも劣る。しかし、道路密度(1平方キロメートル当りの道路延長)は主要国のなかで上位に位置している。なお日本の道路延長(実延長)の84.1%(2010)は市町村道である。
[高橋 清]
人間や貨物の移動のために用いられる交通手段は、通路、動力機、運搬具の三つの要素からなる。自動車のように動力と運搬具を一体とするものはあるが、三つのいずれを欠いても移動は実現しえない。道路はこの通路の一種である。しかし、同じ通路であっても道路は、動力機・運搬具の所有・使用者とは別の主体が建設・維持を担うという点で近代の鉄道(鉄道業は文字通りレール貸し事業として誕生した)と、また不特定多数の主体が使用するという点で港湾や空港(通路の起点・終点の部分)と異なる。そうした特性から、道路は代表的な社会資本であるとされる。
道路は、公共経済学上、「非排除の原則」(対価を支払わない者にも利用を拒むことができない)と「非競合性の原則」(無制限に利用させても他者の利用を制約することはなく、それゆえ料金を課す必要もない)という二つの要件を条件付きながら満たすことをもって、「公共財(public goods)」としての性質を有するとみなされ、公共部門によって市場を通じない方式で供給すべきものとされる。条件付きとするのは、道路の種類によっては、料金を支払わない者の利用を排除することが可能であり、また利用に競合が生ずる場合には、料金を徴収することによって利用を調節することが必要な場合もありうるからである。この場合にあっては、道路は「私的財(private goods)」となり、市場を通ずる供給にゆだねることができる。
道路はもともと共同体内の建物や農地など構成員の経済的・社会的・文化的諸活動が営まれる場所を相互に結ぶ共同利用のスペースであった。いわば街路(street)としての道路である。この段階では、道路は共同体が共同体のために共同体の負担で整備することで何ら問題は生じない。その後、共同体が国家などの上位の政治組織に統合される過程で道路に軍事的・政治的意義が認められ、また経済的・社会的・文化的諸活動が広域的に展開されるに伴い、主要中心地間を、また主要中心地とそれに事実上併合される近隣の地域社会との間を結ぶ、いわば街道(highway)としての機能が加わる。さらに馬車などの重量車両の出現、ついでモータリゼーションの進行によって街道や街路の新設・改築の必要が増大するようになれば、事態は決定的に変わってくる。新設・改築の事業規模は、早い段階で共同体の能力を超えるばかりでなく、整備の責任を負う者と利用する者とが分裂して両者間に利害の対立が表面化し、そのうえ利用者間にも受益の度合いに関して格差が生じる。こうして、街道的性格の道路については、国など上位の政治組織が整備に関与するとともに、租税以外にも利用者に負担を求めるなどして別に財源を確保しなければならなくなる。
[伊勢田穆]
日本の現行道路法(昭和27年法律第180号)は、一般交通の用に供する道路を、全国的幹線道路網を構成する一般国道(5万4789キロメートル)と高速自動車国道(7787キロメートル)、地方的幹線道路網たる都道府県道(12万9377キロメートル)、そして市町村区域内の市町村道(101万6058キロメートル)の4種類に区分している(高速自動車国道は2009年度末、他は同年度初時点のデータ)。このほかにも道路運送法(昭和26年法律第185号)上の、営利を目的とする私有財産としての一般自動車道(2010年度初時点で33路線323キロメートル)に加えて、農道や林道にも一般交通の用に供するものがある。
道路法上の区別が直接的に示すのは、道路網に占める役割に対応して、国と都道府県と市町村のいずれが路線の指定(高速自動車国道と一般国道)または認定(都道府県道・市町村道)を行うかであって、かならずしも路線の管理と費用負担の主体を表さない。ここで道路の「管理」とは、道路法上の用語で、新設・改築と維持・修繕その他の管理を総称する。国道といっても国は路線を指定はするが、すべての路線を自らが管理し、その費用を全額負担するわけでない。また路線を認定する者がその管理にあたる都道府県道と市町村道にあっても、都道府県や市町村がその費用を自ら全額負担するわけではない。国が整備を促進すべきものとして「主要地方道」に指定する道路(2009年度初時点で5万7877キロメートル、ほとんどは都道府県道)に対しては、新設・改築の費用の一部を国が負担する。
[伊勢田穆]
道路の整備は、私有財産=私的財たるものを除き、国・地方とも租税収入を財源として実施してきたが、モータリゼーションの急速な進展に伴い、その事業規模が増大する一方で、受益する者と費用を負担する者との分裂も顕著になって、直接的受益者たる自動車利用者に負担が求められることになる。自動車利用者に負担させる方法としては、(1)自動車や燃料に課税する、(2)道路そのものを「私的財」として扱い、利用者から通行料を徴収する、という二つがある。
道路整備の財源としての自動車・燃料課税は、イギリスで1909年、それまで別の目的で課せられていた自動車税に新設の燃料税を組み合わせて、自動車交通に適合した街道=都市間道路系統(highway system)を整備するための財源とすべく、「道路改良基金」(1920年から「道路基金」)に帰属させたのを嚆矢(こうし)とする。その後、自動車や燃料に課税するのは珍しくはないが、いまもそれを道路整備の財源として特定化している国は少ない。この方式の原産国であるイギリスは、まず基金に回されていた税収の3分の1を(1926)、次いで全税収を大蔵省=国庫に帰属させた(1937)。第二次世界大戦後、ドイツやフランスは一時期、一部を道路整備の財源として特定化したものの、しばらくして特定化を解除した。
そうしたなかにあって日本は、第二次世界大戦後、特定財源方式を導入した。まず1954年(昭和29)、国の、代替エネルギーの開発効果を意図して課税していた揮発油税を、臨時的措置として、道路整備のための特定財源とした。地方の、財政補強を目的とした自動車税は一般財源にとどめられたが、揮発油税に地方道路贈与税として地方分を併課し(1955)、さらに地方税として軽油引取税を新設して地方にも特定財源を設けた(1956)。そして1958年、収支を一般会計とは別会計で処理すべく、国に道路整備特別会計を設けて特定財源制度の恒久化を図るとともに、相次ぐ新税の導入(1966年に国と地方とで折半の石油ガス税、1968年に地方に自動車取得税、1971年に国に自動車重量税――重量税は特定財源ではないが大半を道路財源に充当することを予定していた)と税率の引上げ(ほとんどの税に上乗せの暫定税率を適用した)によって財源の充実を敢行した。原産国イギリスが一般財源化に回帰したなか、輸入国日本は特定財源方式を徹底化させたのである。
他方の通行料の徴収は、17世紀馬車時代のイギリスのターンパイク(営利事業としての道路事業)に起源をさかのぼることができる。しかし、ターンパイクが鉄道時代の到来とともに姿を消して以来、自動車時代になっても復活した事例は珍しく、自動車専用の道路であっても営利を目的としない道路につき、新設・改築の財源として通行料を徴収するのは、欧米先進諸国ではフランス、スペイン、イタリアなど少数の国に、その他の諸国では例外的な路線に限られる。アウトバーンのような高規格の道路であっても通行料収入によることなく整備・運営してきたドイツが、アウトバーンを通行する内外の大型トラックに対して、1995年から利用期間(2005年からは走行距離)に応じた通行料を徴収することになるが、これは後述の温暖化対策の一環をなすもの、道路整備財源の確保を目的とするものではない。
日本には第二次世界大戦前にも道路運送法上の一般自動車道事業の前身をなす事業が存在したが、道路法上の道路にも税収以外の政府資金(大蔵省資金運用部資金)を導入すべく(やはり例外的・一時的措置として)指定する路線につき、それら資金の元利償還に充当する目的で通行料を徴収することを認めたうえで(1952)、政府資金に加えて民間資金の導入を可能にすべく、高速自動車国道として分類する道路につき、「管理」を担う事業体として独立法人日本道路公団を設立した(1956)。その後、高速自動車国道以外の自動車専用道路にも同種の特殊法人として首都高速道路公団(1959)、阪神高速道路公団(1962)、本州四国連絡橋公団(1970)が、そしていくつかの都市で地方道路公社が設立された。こうして日本は有料道路制度も恒久的制度としたのである。
第二次世界大戦後の日本の道路整備は、第1次道路整備五箇年計画(1954~1958年度)から最後の新道路整備計画(1998~2002年度)まで、12次に及ぶ五箇年計画の下で進められた。2600億円の予算規模で発足した五箇年計画を倍増に次ぐ倍増、最終的には78兆円の規模に膨張させることができたのは、特定財源と有料道路の制度があってのことである。この両制度のあり方が問われる直前の第11次五箇年計画(1993~1997年度)の実績でみれば、有料道路が総投資額の約25%を占め、一般の道路では国費と地方費の合計額の約50%を、国費分では80%強を特定財源から支出することができたのである。
[伊勢田穆]
道路特定財源と有料道路は、しかし、恒久的な制度となると欠陥を露呈する。まず特定財源制度は、当初は道路整備の必要の産物であったにしても、道路整備が順調に進捗(しんちょく)すれば税収は漸増する一方で、新規に着工すべき事業は漸減するから、いつしか税収を消化する必要が新規の事業を求めるようになる。資源の浪費以外の何物でもない。他方の有料道路も、路線ごとに通行料収入をもって建設のために負う有利子負債を所定の期間内に返済する見通しのたつ路線から着工すれば問題はないのだが、1972年(昭和47)10月、道路公団の管理する高速自動車国道に「全国プール制」を導入して全路線の収支を一体的に管理し、無料開放するのも全体の債務の償還が完了したときに全路線一斉に行うこととして以来、高収益路線からの収入をあてにして、そして新規路線がネットワークに加わると償還期間は先に延びる仕組みになったので、公団ひいては政府は債務の償還を新規路線建設の直接・固有の制約条件として意識することなく、ひたすらネットワークの拡大に励むことになる。無料化の「社会実験」のとき以外は予定した通行量にほど遠い路線はこうして出現するのである。やはり資源の浪費である。二つの制度がもたらす資源の浪費は、2001年(平成13)に誕生した小泉政権の「聖域なき構造改革」の主要なターゲットとされることになる。
まず特定財源制度が「財政改革プログラム」における抜本的見直しの対象に指定された。しかし、その抜本的見直しは道路関係の官界・政界・業界からの執拗(しつよう)な抵抗にあって難航、小泉政権下で実現したのは、道路整備五箇年計画を2002年度をもって廃止して港湾、空港、下水道、公園などの事業を統括する社会資本重点計画に統合、道路整備特別会計を社会資本整備特別会計中の道路整備勘定に移したことのみ。これでは関係諸税の使途に若干の融通性をもたせたにすぎず、制度の抜本的見直しにはほど遠い。しかしそれも2009年度(平成21)から関係諸税のすべてを一般財源とし、また2012年度末をもって社会資本整備特別会計を廃止することで一応の決着をみた。だが、関係者は関係諸税の課税と支出に影響力を行使し続けるので、それが実際に一般財源として機能するか、行方は定かではない。
他方の有料道路制度は、その制度そのものではなくて、その管理を担う道路関係四公団を、「国からの財政支出が大きく、国民の関心の高い」として、改革を要する特殊法人に指定し、道路関係四公団民営化推進委員会に具体案の提言を委嘱した。しかしこの委員会では、四公団を承継する事業体に対する国の関与のあり方という基本的な点をめぐって激しく意見が対立、民営化の理念(国民の負うことになる債務をできるだけ少なくすべく、必要性の乏しい道路はつくらない)を対した意見書を多数決で採択し総理大臣に提出したかと思えば、法案化のための政府・与党協議の場でこの意見書が骨抜きにされるという、異例の展開をみせた。こうした経緯を経て決定された民営化の内容は、日本道路公団のケースでいえば下記のとおりである。
(1)日本道路公団を廃止して、東日本高速道路株式会社・中日本高速道路会社・西日本高速道路株式会社の三つの特殊会社(以下「会社」)と、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構(同じく「機構」)を設立する(いずれも2005年10月に発足)。
(2)会社は機構から道路資産を借り受けて既設道路を管理し、料金を徴収するとともに、自ら調達する資金で新規路線を建設する(完成後、道路資産と債務は機構に帰属する)。
(3)機構は道路資産を保有して会社に貸し付け、貸付料収入で債務を返済することとし、45年以内に返済を完了して解散する(資産は国に帰属、無料化する)
(4)機構が会社に貸し付ける資産の内容とその期間・料金ならびに会社が行う管理のうち路線の新設・改築・修繕については、機構と会社とで協定を締結したうえで決定する。
(5)国は、会社に対して、政府が総株主の議決権の3分の1以上を保有するとともに、代表取締役の選任を国土交通大臣の認可事項とし、会社と機構に対して、両者間の協定ならびに両者の長期借入と起債を国土交通大臣の認可事項とする一方で、会社と機構に対して、当分の間その資金調達に政府保証を与え、また機構に対して、政府による出資(機構はこの資金で会社に無利子で貸し付ける)と災害復旧補助を行うことができる。
それでは、こうしたいささか複雑な仕組みによって所期の目的を達成できるのか、疑問を禁じえない。まず、建設した道路資産とその建設のために負う債務は完成後機構に帰属するとあっては、会社に不必要な道路をつくらないというインセンティブ(誘因)は働かない。それどころか、政府は会社に直接に、あるいは機構を通じて、資金の調達に便宜を図ることになっており、これが会社に積極的な投資を誘導する。機構が会社による安易な投資をチェックするようにしてあればよいのだが、そうはなっていない。機構に真に期待されているのは会社による路線の建設を促進すること、だから建設によって会社に発生する債務の返済は機構で引き受けるのである。こうして機構が返済義務を負う債務は必然的に累積することになるが、全債務の返済期限は機構発足後45年、「独立行政法人」の首脳陣が個別の案件ごとの債務の増大を真剣に意識するとは、とうてい考えられない。総じて、内実からすれば高速道路管理受託株式会社でしかないこの会社にせいぜい期待できるのは、所定の事業のコストを引き下げることだけである。
[伊勢田穆]
道路は自動車のもつ能力を最大限に発揮させる反面、その上を走行する自動車の数量が一定の限度を超えると望ましくない現象を発生させる。沿線の居住者には騒音、振動、大気汚染などの道路公害をもたらし、また利用者相互間では他の利用者の正常な走行を阻害し、さらには国境を超えて地球温暖化に大きく寄与する。このような効果=作用を「外部不経済」、それが社会にもたらす被害・損失を「社会的費用」という。こうした事態が生じると、国や地方自治体が道路の低騒音舗装、遮音壁や環境施設帯などの設置、さらには環状・バイパス道路の整備を、その一般財源を投じて実施してきたのだが、過剰な走行量の原因が利用者による外部不経済や社会的費用に対する不払いにあるとの認識から、自動車の走行そのものに対し外部不経済相当額を課税し、その税収を社会的費用防止対策に充当すべきであるとする主張が生まれる。イギリスが1909年に導入した道路改良基金をもって道路の新設より先に、既存の道路を自動車の走行に適合させるための工事(具体的には自動車が巻き起こす埃(ほこり)を防除するための舗装工事)を実施したとき、そのような主張を先取りしていた。
そのイギリスで、道路改良基金を道路基金と名を改め、その資金を道路の新設・改築全般に充当するとしたとき、外部不経済・社会的費用を内部化するための課税という側面を後退させた。そして、ほどなくして基金の収入は道路整備の必要を恒常的に超過するに至る。このとき、特定財源方式の理念からすれば、関係諸税を減額・撤廃してしかるべきところ、当時の政府は自動車・燃料課税は維持して、他の財政需要に充当するとして一般財源に戻した。道路基金の一部を大蔵省に移管することによって一般財源化の途を開いたとき、時の大蔵大臣ウィンストン・チャーチルは道路交通の発展から鉄道を守る必要によって正当化した。これは鉄道と自動車との命運を分けるものとして両者間における外部不経済の扱いをめぐる不平等にみて、自動車交通に対する課税とそれを財源とする鉄道補助政策の正当性を主張したとみなすことができる。
1990年代に入って、自動車交通の外部不経済として、地球温暖化への関与が浮上してきた。自動車走行は化石燃料を燃焼することによって温室効果ガスとして作用する二酸化炭素(CO2)を大量に、しかもその燃焼に何らの負担を負わないため過大に、排出するという問題であって、環境意識の強い西ヨーロッパ諸国において、それに対する自然な対策=外部不経済の内部化策として燃料課税が活用された。1990年代の初めにフィンランドやスウェーデンほかの北欧諸国とイギリスなど関係諸税を一般財源としていた国が先頭を切り、同年代の終りには道路や公共交通の整備のための財源としていたドイツやフランスなどもそれに続いた。制度の内容は国によって違いはあるが、既存のエネルギー課税を改編して温暖化対策のための課税を分離・新設し、その税率は温室効果ガスの削減目標を考慮してそれぞれの燃料の炭素含有量などに応じて定め、また税率も必要に応じて随時引き上げる余地を設けるという点で共通している。しかし、同じ先進国であってもアメリカと日本には、自動車用燃料に対する課税にこのような環境政策上の観点はなかったが、日本は2012年(平成24)10月から全化石燃料を対象に上乗せ税率を課すことによってその観点の導入に第一歩を踏み出した。
[伊勢田穆]
道路が関係する外部不経済は、地球温暖化を別として、局地的現象である。したがって、外部不経済の防止を目的とする課税のうち、とくに混雑を防止するための課税は、自動車の走行全般に対してではなく、特定の道路の特定の時間帯における走行に対してなされるべきである。こうした認識から、ロード・プライシング(road pricing)または混雑課金(congestion charging)と称される構想が提起された。これは経済理論上の思考の産物であったが、イギリスでは運輸省に設けられた研究班が1964年に提出した報告書(スミード・レポート)、Road Pricing: The Economic and Technical Possibilitiesにおいて、この構想が実際にも適用できるとして、次のような方式を提言した。すなわち、混雑の生じている道路に入ろうとする利用者に、混雑の度合いに応じて変動する料金を車内のメーターまたは車外の信号機などに表示する。そして、それでも通行する利用者には、表示された料金を支払うことに同意したとみなし、料金をメーターに記録して後日まとめて請求するというものである。
このような構想は、料金を混雑度に応じて区域・区間と時間帯で変動させ、それをそのつど利用者に表示し、料金を徴収するには、複雑で高価な機器を車両や道路に装備・設置しなければならないので、本格的なものとしては長らく日の目をみることはなかった。しかし、平日の特定時間帯に所定の区域・区間に流入する車両に一律に課金するといった簡便な方式であれば、新たな機器・設備なしに実施でき、混雑度に応じて料金に格差を設けることはできないものの、全体的な混雑度の引下げを図ることができる。そこで、1975年、都市国家シンガポールが都心部とそれを結ぶ高速道路にこの方式を導入したが、ベルゲン(1986)、オスロ(1990)、トロンヘイム(1991)のノルウェー3都市までで、それに続く都市は現れなかった。しかもノルウェー3都市が目的としたのは、高規格道路を中心とするインフラストラクチャー整備の推進にあって、通行料制度の新たな展開とみなすべきものであるが、そのなかでも混雑対策をも意識していたトロンヘイムは、昼間時間帯には割引料金を適用し、課金を電子化するなどして本格的なロード・プライシング=混雑課金制度への途を開いた。そうした展開を受けて、シンガポールは1998年、従来のマニュアル方式を全面的に電子化し、時間帯別に料金を設定し、車内に搭載する機器に表示・課金する方式に進化させた。
こうしてロード・プライシング構想に対する技術面の障害は除かれるのだが、世界の主要都市でこれを導入するのは、当時の市長ケン・リビングストンKen Livingstone(1945― )の強力なイニシアティブの下でのロンドン(2003年、セントラル・ロンドン22平方キロメートル、ただし料金は対象時間帯一律)と、世界でも唯一住民投票で同意を得たストックホルム(2007年、中心部35平方キロメートル、時間帯別料金を導入)に限られる。イギリスではマンチェスターなどの諸都市が圧倒的多数で、スウェーデンでは他の諸都市は小差で、いずれも住民投票で否決された。ニューヨーク市では2007年の市長提案を州議会が付議せず葬り去った(州議会の議決は連邦政府による補助金交付の条件であった)。さらにロンドンでも2007年、リビングストンは対象区域を西側エリア(17平方キロメートル)に拡大したが、翌年の市長選挙で対抗馬ボリス・ジョンソンBoris Johnson(1964― )がその拡大の撤回を公約の一つに掲げて当選した結果、対象区域は元のセントラル・ロンドンに縮小された。こうした事実は、自動車の利用者が多数を占める大都市においてロード・プライシング=混雑課金構想の実施に住民の支持を得ることのむずかしさを物語るものである。自動車にかわる公共交通の充実と地元中小商工業者を納得させるような対策を用意することが導入のための不可欠の条件となろう。
[伊勢田穆]
『佐々木恒一著『道路の経済効果と投資基準』(1965・技術書院)』▽『高橋清著『道路の経済学』(1967・東洋経済新報社)』▽『松尾新一郎編『道路工学』(1971・山海堂)』▽『米谷栄二・内海達雄著『地域および都市計画』(1972・コロナ社)』▽『土木学会編『土木工学ハンドブック 下巻』(1974・技報堂出版)』▽『吉川和広著『地域計画の手順と手法』(1978・森北出版)』▽『吉川和広著『土木プラニングのすすめ』(1985・技報堂出版)』▽『中西健一・廣岡治哉編著『日本の交通問題』第3版(1980・ミネルヴァ書房)』▽『(社)日本道路協会編・刊『道路環境整備マニュアル』(1989)』▽『D・スターキー著、UTP研究会訳『高速道路とクルマ社会』(1991・学芸出版社)』▽『道路法令研究会編著『道路法解説』(1994・大成出版会)』▽『金本良嗣・山内弘隆編著『講座・公的規制と産業4 交通』(1995・NTT出版)』▽『亀山章編『エコロード――生き物にやさしい道づくり』(1997・ソフトサイエンス社)』▽『建設省道路局・都市局編・刊『新道路整備五箇年計画』(1998)』▽『小林潔司、オーケ・E・アンダーソン著『創造性と大都市の将来』(1999・森北出版)』▽『小林潔司編著『知識社会と都市の発展』(1999・森北出版)』▽『森地茂・川嶋弘尚・奥野卓司著『ITSとは何か』(2000・岩波書店)』▽『山田浩之編『交通混雑の経済分析』(2001・勁草書房)』▽『古代交通研究会編『日本古代道路事典』(2004・八木書店)』▽『上岡直見著『市民のための道路学』(2004・緑風出版)』▽『姫野賢治・赤木寛一・武市靖・竹内康・村井貞規著『道路工学』(2005・理工図書)』▽『關哲雄・庭田文近編著『ロード・プライシング――理論と政策』(2007・勁草書房)』▽『川嶋弘尚監修、日経コンストラクション編『ITS新時代――スマートウェイがつくる世界最先端の道路交通社会』(2007・日経BP社、日経BP出版センター発売)』▽『近江俊秀著『道路誕生――考古学からみた道づくり』(2008・青木書店)』▽『武藤博己著『行政学叢書 道路行政』(2008・東京大学出版会)』▽『国土交通省道路局監修『道路統計年報』各年版(全国道路利用者会議)』▽『道路法令研究会編『道路法令総覧』各年版(ぎょうせい)』
人や自動車などの通行の用に供される交通施設のこと。ここでは主として20世紀以降の現代の道路について扱うので,それ以前の道路については〈道〉の項目を参照されたい。
1908年のフォードT型自動車の登場や第1次大戦での自動車の活躍を契機に,自動車時代が始まった。ドイツではヒトラーが政権につくや,高速道路(アウトバーン)建設計画を発表し,42年までに3859kmを完成させた。第2次大戦後の東西分割によって西ドイツには2110kmが残されたが,連邦長距離道路法,鉱油税等の一部を特定財源化した交通財政法などに基づいてその整備が進み,高速道路は7500kmにまで達して,戦後の西ドイツ経済の成長を支えた。
アメリカでは1920年のパークウェー,37年のペンシルベニア・ターンパイクの着工を皮切りに,有料道路建設時代にはいった。56年にはインターステート・ハイウェー4万1000マイル(6万5600km)の建設が定められ,また燃料税等を財源とする連邦道路信託基金が設立され,壮大な道路網が形成された。イギリスは1907年に世界最初の道路基金をつくり,道路の舗装率100%という道路先進国ぶりを誇ったが,高速道路は遅れて57年から整備を進めた。しかしアメリカ,イギリスとも近年の財政難から,その道路網の荒廃が憂うべき状態となっている。フランス,イタリアは1955年前後から有料道路制を中心に高速道路の整備を本格的に進めていった。
馬車交通の発展しなかった日本では,明治初期に徒歩の時代から鉄道の時代へと突入し,政府は鉄道中心の陸上交通政策をとった。自動車保有台数が20万台となった1938年にも舗装率は国道16%,府県道2.6%という状態であった。第2次大戦後の復興も交通面では再び鉄道中心で始められたが,産業構造の変化や工業の内陸への立地にともなってトラック輸送の重要性が増し,自動車保有台数の増加と相まって,道路整備への要求が高まった。本格的な道路整備は,1954年度を初年度とする第1次道路整備五ヵ年計画が策定され,またそのための国費の財源に揮発油税収入を充てることが定められたことによって始まった。当時の日本の道路状況は,56年に来日したアメリカのワトキンズ調査団をして,〈日本の道路は信じ難いほど悪い〉と嘆ぜしめた。調査団は,それが日本経済に重いコストを課し,国際競争力を弱めていると指摘し,GNPの2%を道路整備に充てること,東京~神戸間に高速道路を建設すべきことなどを勧告した。
このころから道路整備は急速に進み,1954年にGNPの0.78%であった道路支出は,67年に2.2%と増え,73年には2.7%のピークに達した。五ヵ年計画は改訂を重ねて第9次に至り,舗装,改築,拡幅,バイパス建設などによって,幹線道路から地先道路に至るまで,かなりの程度に整備が進んだ。高速道路は1956年以来有料道路として日本道路公団により全国的に整備が進められ,また首都,阪神をはじめとする大都市地域で,都市高速道路の整備も進んでいる。このような道路整備は急速に発展したモータリゼーションを支え,戦後の人口,産業の三大都市圏への極端な集中が問題化した60年代前半からは,産業の地方分散,人口の地方定着,経済の高度成長などを支える主役となった。
しかし馬車時代を経験しなかった狭苦しい都市づくり,人口の都市集中,本格的な道路整備の出発の遅れなどから,日本の道路は規格,幅員,ネットワークの強さなどにおいてまだ不十分な点が多く,欧米道路先進国の5~6割の整備水準だといわれている。
→自動車
道路法(1952公布)上では道路は高速自動車国道,一般国道,都道府県道,市町村道に分類される(3条)。管理主体に対応した分類であるが,ほぼ道路の機能上の分類ともなっている。
高速自動車国道は,人口10万以上の地方中心都市や主要工業地域などを結び,全国どの地域からもこの高速自動車国道へは2時間以内で到達できるような,国土縦貫および横断道路からなっている。出入制限,立体交差,往復分離,その他の高度な設計基準によって,高速,ノンストップ,大型,長距離の自動車走行を可能とし,国土の骨格となるものである。
一般国道は高速道路を補完して全国幹線道路網を構成し,都道府県庁所在地,重要都市,人口10万以上の市,重要な港湾,空港,国際観光地等を相互に結ぶ国土の基盤施設である。
都道府県道は地方的な幹線道路網を形成し,市または人口5000以上の町,重要港湾,地方港湾,第2・3種漁港,地方空港,主要鉄道駅,主要観光地などを相互に結ぶものである。原則として自動車交通が可能なものとする。そのなかから建設大臣が主要なものを指定し,国がより多くの補助を与えてその整備を促進する場合は,主要地方道と呼ばれる。
市町村道は全道路延長の85%を占める。地域におけるコミュニティ相互を結びつけ,居住や都市のための空間を構成し,学校,病院,社会施設,工業団地,商店街などの地域生活に欠かせない施設へのアクセスを可能とする。つまり人間のすべての営みの場に網の目のように及んでいる基礎的な道路である。
都市高速道路は,交通の集中する都市地域において,その幹線交通を効率的に処理するために設けられる自動車専用道路網で,首都,阪神,名古屋,福岡・北九州の諸地域において建設・供用中である。道路法上では都道府県道または市道に属しており,有料道路として専門の公共法人によって管理される。
そのほかに日本道路公団,地方道路公社,地方公共団体が管理し,国道,都道府県道,市町村道の一部を構成する有料道路がある。また,本州と四国を橋で結ぶ一般国道としての本州四国連絡道路(有料制)がある。
道路をその機能面から考えると,自動車,二・三輪車,自転車,歩行者のそれぞれの通行を可能とすることのほかに,貴重な公共空間を提供する役割がある。すなわち都市における街区の形成,防災,緑化などの空間の役割,さらに電気・電信用ケーブル,上下水,ガス管,地下鉄などの公共施設の埋設空間の役割である。自動車交通のみについても長距離幹線交通,地域内幹線交通,集散交通,アクセス交通の各種交通を担うため,それぞれの目的にふさわしい機能分化した道路を整備し,その相互を連結する必要があり,あわせてそれ以外の多様な空間機能を果たすべく,よりゆったりとした道幅の確保も必要とされる。
道路行政の基本は道路法で,路線の指定・認定,管理,構造,費用の分担等を定めている。管理には新設,改築,災害復旧,維持・修繕,占用許可,沿道制限,道路標識の設定等が含まれている。道路管理者は原則として高速自動車国道と一般国道の指定区間は建設大臣,それ以外の一般国道は都道府県または指定市の長,都道府県道は都道府県または指定市,市町村道は市町村である。
道路運送法に基づき民間企業が所有するごく限られた有料道路および私道を除いて,すべての道路は国,地方公共団体および日本道路公団などの公団,地方道路公社がその建設,管理を担当している。建設省は農道と林道を除くそれらの道路について,みずからがその管理者であるか,助成,監督の任に当たるかしている。その直轄事業の遂行には全国に設けられた8地方建設局(ただし北海道,沖縄については北海道開発局,沖縄総合事務局)が当たっている。公団と地方道路公社は,国または地方公共団体が管理者である道路の一部を有料道路として建設,管理している。
1953年の道路整備費の財源等に関する臨時措置法に基づいて54年に第1次道路整備五ヵ年計画が発足し,その後第9次まで五ヵ年計画が積み重ねられている。第9次道路整備五ヵ年計画(1983-87年度)の規模は38兆2000億円である。五ヵ年計画の背後にはいくつかのより長期的な計画がある。最新のものは第9次計画の背後にある〈道路整備の長期計画(1983年度~21世紀初頭)〉で,82年度価格で300兆円の投資規模をうたっている。処理すべき交通の性格に対応して,高速道路から端末のアクセス道路に至るまで,道路を機能分化しつつ体系的に整備すること,道路の空間機能を充実させること,後世に残す遺産としての道路資産をりっぱに維持保全し,またその適切な運営によって交通の安全を確保すること,などをその基本方針としている。
国は一般国道の指定区間の新設・改築費用の2/3,その維持管理費用の1/2を負担し,指定区間以外の一般国道については原則としてその新設・改築費用の1/2を負担する。都道府県は,一般国道の指定区間の新設・改築費用の1/3,指定区間以外の一般国道の新設・改築費用,指定区間の維持管理費用のそれぞれ1/2,指定区間以外の一般国道の維持管理費用の全額を負担する。高速自動車国道については,それにかかわる費用の全額を国が負担することになっているが,実際には日本道路公団が代行している。また建設大臣は,その指定する主要な都道府県道または市道およびその他必要と認める道路の新設・改築の費用1/2以内を,予算の範囲内で道路管理者に対して補助することができる。以上の道路法に基づく費用負担原則に対する特例が,道路整備の緊急性,地域開発の必要性などに応じて,多くの法律によって設けられている。例えば離島振興法,沖縄振興開発特別措置法などにおいて,国のより多い負担が定められている。そのほか国は道路4公団に対する出資金,日本道路公団に対する利子補給金,地方公共団体と地方道路公社に対する無利子貸付金を支出している。
道路整備事業の財源としては国費,地方費,財政投融資資金等がある。国費のうち純粋の一般財源は1%に満たず,法定の特定財源である揮発油税と行政取決めによってその6割が国の準道路財源とされている自動車重量税が,そのほとんど全額を賄っている。地方費の約45%は特定財源で,国税として徴収され地方公共団体に譲与される地方道路譲与税,石油ガス譲与税,自動車重量譲与税と,地方税である軽油引取税,自動車取得税からなっている。地方費の残りの財源は起債収入を含む一般財源である。国費は主として幹線道路系のために支出されるので,その主たる利用者である自動車利用者は,その利用量や車両重量に応じて道路費用の大部分を負担しているわけで,受益者負担原理が貫かれている。また地方費は地方的幹線のほかに,地域社会の存立基盤であり,歩行者,自転車の利用も多く,またその空間機能も大きい生活道路的なものをもその対象としているので,後者の費用は地方の一般財源で負担することが当然である。したがって財源に関する現在の制度はかなりの合理性を有するといえよう。
有料道路は1952年の旧道路整備特別措置法によってその建設,管理が認められ,56年の日本道路公団設立以来本格化した。これらの措置は,借入れや道路債券の発行などを通して財政投融資資金,民間資金を道路建設に導入することによって,道路の特定財源制度とともに,日本の道路の急速な近代化を可能にした。また費用の利用者負担原則は,負担の公平化と投資の経済性の確保を容易にした。
日本の道路の近代化は急速に進んだが,高度化した経済と市民生活のニーズにこたえるには不十分で,欧米先進国と比べてもかなり低い水準である。高速道路延長はアメリカの6万6000km,西ドイツの7500km,フランス,イタリアの5000~6000kmに比べて3300kmと短く,人口および自動車保有台数当り延長では上記の国の1/3~1/11にすぎない(1982。以下同)。全自動車交通量(台キロ)に対する高速道路の分担率はアメリカ19%,西ドイツ24%,フランス15%,イギリス10%に対して,日本は6%で道路の機能分化が不十分である。また最大幹線の東名,名神両高速道路はすでに過重な交通と若干の老朽化に悩み始めている。一般国道(4万6275km)の舗装率(簡易舗装を除く)は81%,整備率(改良済みでかつ混雑していない区間の率)は61%である。都道府県道(12万6229km)では舗装率39%,整備率45%である。
国道の幅員では,バスなどの大型車が楽にすれ違いできる幅員7(アメリカは7.3)m以上ある区間の割合は,アメリカ(州道),西ドイツ,フランスでは66~81%であるのに対して,日本では24%にすぎず,幅員13m以上(4車線以上)となると8%にとどまる。都道府県道と国道を合わせた幹線道路約17万kmが全自動車交通量の74%を負担しているが,その半分弱の7万5000kmの区間の幅員は車がやっとすれ違える5.5mに満たない。また幹線における交通量の約半分は交通容量を超えた混雑区間を走っている。国道,都道府県道,幹線市町村道の約14万2000kmの区間でバスの定期運行がなされているが,そのうちバスのすれ違い困難な区間が5万2000kmある。
都市部の道路も問題を抱えており,都市計画街路のうち改良・新設済みは3.7%にすぎず,都市の道路面積は,一応の理想とされる20%(パリ市の水準)を大幅に下回っている。例えばその率が12~13%である東京都の周辺区部では,消防活動困難区域が地区面積の3~5割を占めている。またとくに幹線街路が貧弱なために,都市の大小を問わず交通混雑が慢性化しており,バスは運行速度が低下してその魅力を失い,歩行者,自転車の事故が多く,居住地の細道に通過交通がはいり込んで,その環境を乱している。歩道は市町村道まで含めて7万3000km設置されているが,これは交通安全のため緊急に設置すべきだとされた道路10万kmの73%である。
日本のように都市高速道路をネットワークとしてもつ国は比較的少ない。現在,首都圏では158km,阪神圏で124kmが供用中であり,圏内交通の処理に大きな役割を果たしている。しかし,すでに交通量はその容量限界を超え,慢性渋滞が生じている。大都市圏での環状自動車道路の欠如も問題である。通過交通を町中から取り除くバイパスや環状道路が必要な都市630のうち,完成した市は60,一部完成した市が230にすぎない。例えば首都圏では,首都に向けて集中する6本の高速道路を相互に連結して通過交通をさばき,流入交通の分散導入をはかるべき外郭環状道路がないために渋滞が生じており,周辺の核都市相互の交通も妨げられている。成長しつつある地方中心都市も環状道路の欠如のために,都市のスプロールと交通混雑に悩んでいる。
災害への対抗力も十分でない。豪雨,豪雪などの異常気象時に通行が規制される道路は全国の国道,都道府県道で2万2000km,落石,崩壊のおそれのある危険個所が7万7000ヵ所ある。また老朽橋など早急に整備を要する橋梁が約3万9000ヵ所ある。幹線道路ネットワークの容量と密度が不十分なため,災害の場合に迂回路をとることが容易でなく,麻痺がネットワークにまで広がりがちである。
マイクロエレクトロニクス等を中心とする技術革新は,産業構造を大きく変え,輸送ニーズを変化させるであろう。製品の軽薄短小化,製品と資材・部品の多様化,在庫削減をねらう小口・高頻度輸送の増加,工場の内陸部への展開などのために,輸送の主体はそのようなニーズに適合する輸送手段に移るであろう。また第3次産業の拡大・発展,情報産業化が進むにつれて,密度の高い情報交流のための人間の移動も盛んになり,また女性の社会参加が進んで女性による自動車の保有と利用が増えるであろう。労働生産性の向上にともなって時間の価値が上昇するので,交通における高速化と時間の正確性とをいっそう求めるようになる。また自由時間の増大によってレクリエーションにおける人々の移動性向が増えるであろう。以上のことから,いつ,どこへでも,戸口から戸口へ,量の大小を問わず輸送を行うことのできる道路輸送へのニーズが高まるとともに,高速化,安全性と信頼性の向上などがいっそう要求されよう。
高齢化社会の到来によって,福祉の負担が高まる前にできるだけ国土の資本装備を高めておく意味で,道路の近代化と充実を21世紀初頭までに進めておく必要があろう。
第9次道路整備五ヵ年計画(1983-87年度)の基礎となっている,21世紀初頭をめざした長期計画においては,道路整備目標を次のように定めている。まず国土の骨格となる幹線道路については,高速道路を中心とする高規格道路網1万kmの建設,国道の4割区間の4車線化,都道府県道の改善,本州四国連絡橋の完成などをはかること。これによって日本の大部分の地域から高規格道路網へ1時間以内に到達でき,また幹線道路の混雑は大幅に減少し,都市間交通の効率は大いに改善される。また地方部ではこれによって住民の日常行動圏が広がって都市的・文化的サービスの享受が容易となり,産業立地条件の改善と相まって,地域の開発が進むであろう。
国道等のバイパス,環状道路は,完成都市数を540に増やし,一部完成都市数を90にして未完成都市をなくすこと。これによって通過交通の域内交通や居住地からの分離がほぼ完了する。次に大都市圏では首都,阪神および指定都市の都市高速道路を現在の2.5倍の770kmに延ばすこと(首都,阪神圏ではそれが圏内自動車交通量の約25%を分担するであろう)。そのほか東京湾岸,外郭,東京湾横断,首都圏中央連絡,北関東横断,大阪湾岸,第2京阪,名古屋環状2号などの自動車専用道路を整備すること。これによって大都市圏での道路交通の効率化と住民の通過交通からの保護がはかられるであろう。
全国都市の市街地について,幹線道路を約3.5km/km2の水準に整備し,道路面積を20%に近づけること。これによって幹線交通,域内交通,歩行者等の効率的な相互分離と,都市空間の確保がはかられる。また広幅員の歩道を現在の約7倍の約23万km,大規模自転車道1万5000km,人と車の共存するコミュニティ道路7000kmをそれぞれ整備完了すること。そのほか災害,豪雪などに強い道路づくり,港湾,空港へのアクセス道路の改良,沿道の緑化,道路情報の改善などを進めること。
以上の計画のためには約300兆円の予算が必要とされる。このような計画目標は,高度化した経済と生活を支える効率的な道路交通を可能とし,また快適な都市生活,恵まれた地方生活などを可能とするに十分だと思われる。しかし,この目標を現実に達成するためには,必要財源の確保,沿道住民の納得という二つの大きな困難な問題にこたえる必要がある。それには道路の必要性についての国民の理解の確保,費用の節約,道路建設と沿道の環境の向上とを合わせて実現するようなくふうと技術進歩の実現,民間資金の活用などについて,多くの努力が必要とされるであろう。
執筆者:武田 文夫
日本の道路には,公行政主体が一般の交通の用に供するために設置・管理する公道と,私人が自己の物権的支配権に基づいて設置・管理し,本来の目的としてあるいは事実上一般の交通の用に供されている私道とがある。この区別は,道路の設置・管理の法的権原に着目したものであり,住民による利用については同様の法的規律を受けることが多い。例えば,道路交通法は一般の用に供されている道路の利用に関して,公道と私道との区別なく適用される。公行政主体による道路の設置・管理に関する法律には,その一般法として道路法がある。道路法3条は道路を高速自動車国道,一般国道,都道府県道,市町村道の4種類に分類している。高速自動車国道および一般国道については政令による指定により,都道府県道および市町村道については各道路管理者の認定によりその路線が確定される。
道路整備を合理的,効率的に遂行するためには,種々の事前の情報の収集と計画が不可欠である。建設大臣は,道路の設置・管理のために必要な調査を行うことができる(道路法77,66,67条)。内容上,計画調査と実施調査とに,目的上,経済調査,交通調査および測量調査とに分類されるといわれるが,環境保護に関する調査も重要である。道路整備に関する計画は,高速自動車国道整備計画(高速自動車国道法5条),国土開発幹線自動車道基本計画(国土開発幹線自動車道建設法5条),道路整備五ヵ年計画(道路整備緊急措置法2条)など,法律の根拠を有するものだけでも相当数にのぼる。これらは,行政上の計画として,多くの問題をはらんでいる。
道路の概括的な計画路線を定める路線の指定または認定の後に,道路管理者は具体的な道路区域を決定する。この道路区域の決定があると,当該区域内にある土地,工作物等の所有者等は一定の行為を制限される(道路法91条)。道路区域の決定後,道路管理者は,当該区域内の土地に関して道路を建設するために必要な権原を取得しなければならない。通常は任意買収または収用により所有権が取得される。この権原の取得後に行われる道路の建設工事は,原則的に道路管理者が行う。第2次大戦前は道路工事も権力的な行政行為と理解されたが,今日では道路工事自体は事実上の行為とされている。したがって,民事訴訟手続による建設の差止請求も適法である。
道路としての実体が形成された後に,道路を一般の交通の用に供するという意思が表示されることによって,道路は道路法上の道路としての法的性格を有することになる。この意思表示を供用開始行為という。供用開始行為の法的性質をめぐっては学説上争いがあったが,今日では行政行為としての一般処分と理解されている。供用開始によって,交通の種類が特定されることもある。今日しばしば見られる歩行者専用区域が,部分的供用廃止と考えられるべきなのか,交通警察による利用規制と考えられるべきなのか,法的には興味深い問題を提示している。道路を一般の交通の用に供する必要がなくなった場合などにおいて,当該道路を一般の交通の用に供することを廃止する意思の表示が供用廃止行為である。
道路の利用関係は,自由使用,許可使用,特許使用の3種類に分類される。自由使用とは,通常の道路での通行などの使用のように,他人の使用を妨げない範囲においてその用法に従い,許可等の行政の事前の同意を要せずになされる使用をいう。許可使用とは,道路上で集団示威行進や祭礼行事を行う,あるいは道路において工事を行うなどの使用をいう。これらは,道路における危険の防止および交通の安全という目的から,その種の使用が一般的に禁止されており,その禁止が解除される(行政法上の許可)ことによって適法に行われるものである。特許使用とは,道路に電気・ガス等の供給施設を設置する,軌道を設けるなどのように,一般人には認められていない使用権が,特定人に道路管理者によって認められてなされる使用をいう。
従来,道路の使用(とくに自由使用)は,住民にとっては権利ではなく,反射的利益であり,したがって,道路の位置の変更,その供用廃止あるいはその利用妨害に対しても,裁判的救済を求めることができないと考えられてきた。しかし,道路は住民の通行さらには住民生活全体にとって大きな意味をもっており,上の場合にも,被る不利益が著しい場合には裁判的救済の道が認められることもある。
道路の設置・管理に瑕疵(かし)があったために住民が損害を被った場合には,国家賠償法2条および3条により,その設置管理者および費用負担者のいずれに対しても,賠償を請求することができる。道路上の交通による騒音,大気汚染等の環境被害がある場合には,損害賠償のほか,民事訴訟による差止めの請求も許容されることがある。
執筆者:磯村 篤範
道路は国土全域を細かい網の目状におおい,道路網を形成している。これらの道路網は日本の場合,道路法の区分によれば幹線道路網を形成する高速自動車国道および一般国道と,これらと連係して生活,生産のための中間部分と毛細部分の道路網をつくる都道府県道,市町村道より成り立っている。現在の道路網はもちろん,1本1本の個々の道路も長い歴史的過程を経て形成されてきたものであり,経済・生活事情の向上により道路網を改善したり道路の改良あるいは新設を計画するときは,これらの状況を考慮して現在の問題点の解決ばかりでなく,将来の土地利用と交通需要に見合い,かつ沿道の生活環境の向上をはかるなど,広い視野から計画を立てる必要がある。このため地図,航空写真を利用した地形等の測量調査,交通量調査,土地利用調査,地質調査,財政についての調査を行い,おおむね20年先の交通量に見合う道路規模を決め,地形,地質,沿道の土地利用,交通の安全性,道路の維持管理のしやすさ,沿道環境に与える影響等を考えた経済的な構造を目標とする。
設計の基準となる構造規格では,一般に道路の種類と地形により道路を分類して規格を定めている。日本の道路構造令では,道路を道路の種類と地域(都市部,地方部)により大きく1種より4種に区分し,さらに平地部や山地部などの地形,大都市都心部と市街地の別,計画交通量や道路の種類に応じてそれぞれ2ないし5の級に区分しており,表に示したようにこれらの種と級ごとに道路を設計する際に基礎とする自動車の速度(これを設計速度という)を定めている。道路の設計に必要な規準はこれらの種,級と設計速度に基づいて規定されている。
おおむね20年後の交通量を目途として設定される設計交通量は,現在の交通量のほかに改良により他の道路より転換してくる交通量,供用期間中の増加交通量および沿道の開発により新たに発生する交通量を合わせたもので,1時間当りのあるいは1日当りの通過台数で表される。道路のある地点を1時間に通過しうる自動車の台数を道路の交通容量といい,これは道路幅,視距(見通し距離),トラックの混合割合,走行速度などの条件によって大きく変化するが,理想的な状態で自動車が1.5秒間隔で連続走行する場合を2500台/hとし,実用的には道路種別により1000~2000台/hを基準としている。交差点では容量が著しく小さくなり,信号のある交差点の交通容量は緑信号1時間当り,流入部で最大1800台である。道路の大きさを表すのに一般に車線という表現が使われる。1車線は自動車が1列に前後に並んで走行するときに必要な道路幅で,一般的な自動車の最大幅2.5mに走行するための余裕幅を加え,道路の区分により2.75mから3.5mを基準としている。道路の車線数は目標とする設計交通量と計画道路の1車線当りの交通容量により決められる。
道路交通は歩行者,自転車,各種の自動車等,速さ,大きさ,重さの異なる交通機関が同じ路面を利用するので,相互に接触したり衝突したりして事故を起こした場合,歩行者,自転車の順に被害が大きい。このため歩道を設けたり自動車専用道路とするなど交通の分離を行い,交通の円滑化と安全性を高める必要がある。車道の両側に自転車用の通路をとったり,歩道に自転車の通行を認める方法がとられ,さらには自転車,歩行者のための道路も考えられ,つくられ始めてきた。今後は自転車と歩行者の分離,歩道の整備,駅前広場と駅周辺道路の接続部分の歩行者および自転車の処理のほか,自転車駐車場の設置について十分な考慮を払う必要がある。
道路の形状を設計するにあたっては,自動車の走行を安全かつ快適にするように曲線半径,視距,縦断こう配(道路の長さ方向のこう配)等を決める。地形・地質に応じた形状をとり,曲線部は緩やかに曲がり,坂も緩やかにするのが自動車の走行上は望ましいが,前述のように建設費,維持管理,土地利用,環境などの面から制約を受ける場合も多い。
(1)曲線半径と片こう配 自動車は曲線部では遠心力により外側に押し出される力を受ける。タイヤと路面の間の摩擦力や路面を内側に傾けて(これを片こう配という)これを防ぐが,このときの設計速度vd(m/s),曲線半径R(m),片こう配iの間の関係は,で表される。ただしfはタイヤと路面の間に許される横すべり摩擦係数である。fを大きくとると設計速度で走行したとき外側に押しつけられる力が強くなりすぎ,またiを大きくすると低速走行時や停止時に内側に引き込む力が大きくなる。このため,fについては快適性,安全性を考慮して,ふつう0.1~0.15とする。iは0.06~0.10(1mの距離で6~10cm上がるこう配)くらいが妥当であり,道路構造令ではi=0.06に対応するRの値を最小曲線半径の規定値としているが,地形その他特別の理由がある場合はi=0.1を用いている。このようにして求められる最小曲線半径は,設計速度で走行した場合の安全性と快適性を保証する最低の値であって,実際にはこれより大きい値を採用することが望ましい。直線部と曲線部,あるいは半径の異なる二つの曲線部がつながる場合など,曲線の半径が変化する部分では,半径が徐々に変化するような曲線部を設ける。この曲線を緩和曲線といい,クロソイド曲線を用いる場合が最も多い。なお,曲線部では自動車の後輪が前輪より内側を走るので(内輪差),急な曲線部や交差点の左折車線等では車線幅を広げる(1車線について2m以下の拡幅)。交差点の形は処理すべき交通量に応じていろいろあるが,一般に交通量が少ないときはごく普通の平面交差とし,交通量が多くなると交通島を設けて左右折車を分けたり,信号をつけたり,立体交差方式をとる。
(2)視距 運転席から前方どこまでの路面が見通せるかを視距という。厳密には車線または車道の中心線上1.2mの高さから,その車線の中心線上にある高さ10cmの物体の頂点を見通せる距離と定義される。急な曲線部や地下道で路面上にある障害物や自動車を発見して制動停止する場合(制動停止視距)や,低速の自動車を追い越す場合(追越し視距)など,十分安全な距離を前方に見通しうることが必要で,視距は道路の幾何学的構造を決定する重要な要素となっている。必要とされる視距は,運転者の反応挙動,タイヤと路面の摩擦,走行車両と対向車両の速度により決まる。制動停止視距D(m)は,自動車の速度をv(km/h),タイヤと路面の縦すべり摩擦係数をf′,重力加速度をg,運転者が障害物を発見してから実際にブレーキがきき始めるまでの時間をtとして,で表される。この場合,vは設計速度vdの85%(vd=120~80km/h),90%(Vd=60~40km/h),100%(vd=30~20km/h)とし,f′は湿潤状態の値を採用する。一方,追越し視距は,追越し可能と判断し加速しながら対向車線へ移行する直前までの走行距離d1,追越し開始から完了までの間に対向車線を走行する距離d2,完了時における追越し車と対向車との距離d3,追越しを完了するまでに対向車が走行する距離d4の4段階に分け,d1+d2+d3+d4を全追越し視距,2/3d2+d3+d4を最小必要追越し視距という(図1)。なお,曲線部などそのままでは必要な視距が確保できない場合は,内側の用地幅を広くとったり切土をする必要がある。
(3)縦断こう配 自動車がトップギヤで楽に上り下りできるこう配の限度は3%(100mにつき3m上がるこう配)までであるが,建設費をおさえるため,ギヤの入換えをするとして許される最急こう配は,設計速度毎時60kmの場合一般に5%以下である。設計速度が低い道路では最急こう配は大きくなるが,牛馬車,荷車の能力も考えに入れると10%以下が望ましい。こう配の変化するところでは見通しの確保などのため,一般にこう配が徐々に変化するような曲線部を設ける。この曲線を縦断曲線といい,放物線を用いるのがふつうである。また急な上りこう配がある程度続くと,荷を積んだトラック等は速度の低下が著しく,後続する自動車の円滑な走行を妨げるので,トラック専用の車線(登坂車線)を余分に設ける場合もある。
道路の構造には横断形状と力学的構造とがある。
(1)横断形状 道路の横断面の形状を横断形状といい,地方道路と街路とで,また一般道路と高速道路とでも機能的にいくぶん異なっている(図2)。地方道路の場合,横断形状は一般に車道路面,路肩,排水側溝,切取りのり(法)面あるいは盛土のり面などからなっている。車道路面はふつう2車線以上で,自動車が安全快適に走行できるように通常は舗装される。また雨水を路側に排除するため舗装路面では2%以下,未舗装路面では5%以下の横断こう配をつける。車道の両側に設けられる路肩は自動車が乗り入れても安全な構造とし,車道路面の保護,見通しの確保とともに故障車が待避する場所としての機能をもつ。最小幅は50cm,できれば2~3mあるのが望ましい。都市内の街路では一般に路肩を省略して歩道を設ける。歩道での歩行者の占有幅は1人当り75cm,自転車は1台当り1mを基準としている。歩道,自転車道は縁石,柵,ガードレール等によって車道と分離されるが,さらにこれらと植樹帯を併用したり歩道と自転車道を分離することが望ましい。なお,積雪地域では冬季交通確保のため除雪,堆雪,排雪用に路肩を広くするなどの対策を講じている。
幹線街路ではこのほか中央分離帯を設けたり,路側に路上施設帯や緑地帯を設け,沿道の環境の向上に役だてる。高速道路では地域の交通のため別に側道を設け,さらに沿道環境保全のため必要に応じて植樹帯や遮音壁を含む環境施設帯を設ける。都市内では高架式や半地下式あるいは掘割り方式とし,必要に応じて沿道に環境対策を講ずる。中央分離帯は往復の交通を分離して円滑で安全な交通を確保し,道路標識や信号を設けたり植樹等を行い,また横断する歩行者の便に供するばかりでなく,右折車線を設けたり対向してくる車のヘッドライトの防眩に役だつなど交通安全に有効である。中央分離帯の最小幅はガードレールを設置する場合で1m,植樹や右折車線をとるときは3mとし,一般には路面より高くなっているが,高速道路などで十分の幅があるときは路面より低くして植樹する場合がある。
自動車や歩行者の安全な通行を確保するために,電柱,信号機,樹木等が道路上にはいってはいけない空間を定めている。これを建築限界といい,高さについては,車道の場合,自動車の走行中の揺れと積荷の形,道路の補修による舗装の厚さの増加を考慮して4.5mと規定され,歩道では2.5mが一般的である(図3)。
橋,トンネル等の構造物は道路の一部としてこれと一体となって効果を発揮するように設計する。とくに道路の取付け部分は幅員の変化を徐々につけ,路面の凹凸のないようにし,またトンネルでは明るさが徐々に変化するようなくふうが必要である。
(2)力学的構造 図4に道路を構成する各部分の名称を示す。このうち路床とは舗装下面のほぼ均一な土の部分(厚さ約1m)をいい,また路体とは盛土部において路床以外の部分をいう。道路は上を通る自動車等の重量を支え,つねに安定した路面を保持する必要がある。自動車の重みは路面から地面に伝えられ下にいくにしたがって広く分布されるので,路体は上を強いもので,下を弱いもので構成し,変質することがなくかつ取得しやすい安価な材料が用いられる。一般に路体を構成する土は水を含むと強度が小さくなるので,路面や周辺から水が路体内にはいらないように路面をかまぼこ型にするとともに,排水溝等を整備することが重要である。また平たん部であっても路面は周辺の地盤より高くする必要がある。
路体に利用する土や基礎地盤の支持力は,電気探査,ボーリング,土質試験などにより調査される。工費の節減をはかるためには,できるだけ土の運搬量を少なくすることが望ましいが,沿道の土地利用の状況と地盤の強さから高架構造とすることもある。また軟弱な基礎地盤に対しては地盤改良が施される場合も多い。
切取りのり面のこう配は1:1(45°)が標準であるが,土質がよくない場合は1:2(高さ1に対し水平距離2のこう配)よりも緩やかにすることがあり,盛土のり面では1:1.5~1:2を標準とする。このほか切土,盛土部ののり面を植栽で保護するなど,維持の容易な構造とすることが肝要である。
道路交通の円滑化と事故防止のため道路にはいろいろな施設が設けられる。すれ違いのできない道路には待避所が,交通量の多い道路には必要により横断歩道橋,横断地下道が設置される。自動車が道路外に出ないように,また歩行者の保護のためガードレール,ガードケーブル,フェンス等を設ける。交差点や都市部では照明をする。夜間や積雪時に運転者に前方の道路の形状を予知させるための誘導標,屈曲部につける反射鏡も有効である。道路標識,道路情報板,非常電話等の情報サービス,ラジオによる道路情報の提供のほか,トンネル内での受信可能設備や,特殊放送施設も実用化され,さらに路側からの地域情報や目的地までの経路を自動車に指示する研究も進められている。駐車場,バス停,休憩施設等のサービス施設,落石防止・防波施設,トンネル内の換気施設,地下埋設物を一括収用する共同溝等も設けられる。交差点などでは安全島,交通島を設けて交通を方向別に分離するとともに,分岐を示す分岐点滅灯を設ける。また大都市では交通管制センターを設け,交差点の信号機を地域内で連動させて,交通量に応じて最大交通量を流すようにする交通管制システムが導入されている。
自動車交通量の増加と自動車の大型化にともなって,騒音,大気汚染等による公害が大きな問題となっている。自動車本体から発生する騒音を減らす対策として,1971年より道路運送車両の保安基準により新車について騒音規制を行い,さらに中古車に対する規制も行われている。また排出ガスについても1966年より一酸化炭素の濃度規制に始まり,炭化水素,窒素酸化物の規制が行われ,効果をあげている。道路の構造上の対策としては,集中する交通を分散するバイパスと環状道路の整備を推進するとともに,環境施設帯,遮音壁等沿道環境の保全をはかるための道路構造の採用,植樹帯の設置,良好な路面の保持をはかってきた。これらの施策をまとめるとともに,さらに一歩を進めるため,80年には幹線道路の沿道の整備に関する法律が制定され,必要に応じて沿道の土地の買上げ,防音のための緩衝建築物の促進,既存住宅の防音工事の助成が行われるなど,沿道地域の広範な環境改善策がようやく緒につき始めた。このほか振動,テレビ障害,低周波騒音に対する対策なども講じられているが,全般的にみればまだ不十分な面が多い。
→道路公害
執筆者:石戸 明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 リフォーム ホームプロリフォーム用語集について 情報
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[土木工学の誕生]
土木技術は,技術が一般にそうであるように経験を非常に重んじてきたが,近世以降その理論面も逐次整備され,土木工学として体系化されるようになった。その背景には,築城術,軍用道路の建設など,近世国家の重要な基盤であった軍事技術のかなりの部分が土木技術に負うところが大きかったことがあげられる。フランスでは工兵士官養成や軍事技術の研究のために1747年土木工学校が,さらに,94年にはエコール・ポリテクニクが創立され,土木技術の組織的な教育が始まった。…
※「道路」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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