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ラン らんorchid

翻訳|orchid

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ラン(蘭)
らん / 蘭
orchid

ラン科Orchidaceae植物の総称。[唐澤耕司]

分類と生態

3亜科700属2万5000種からなる大きな科を構成する。園芸界では、東洋ランと洋ランに分けることがあるが、日本や、中国大陸中・南部など主として温帯原産で、日本で古くから栽培されてきたものを東洋ラン、熱帯から亜熱帯原産で、主として欧米で改良され、明治時代に導入された花色の美しいものを洋ランとよんでいる。
 東洋ランはシンビジウム属が中心で、シュンラン、カンラン、イトランなどがある。ほかにデンドロビウム属のセッコク、フウラン属のフウランなどがある。洋ランにはカトレア、パフィオペジラム、バンダなど多くの属があり、ほとんどが着生種。色彩が豊富で大形の交雑種が多数つくられている。
 一般に栽培されるランは複茎性と単茎性の2型に大別される。複茎性のパフィオペジラム、カトレア、デンドロビウム、シンビジウムやエビネなどでは、新しい芽が前年完成した茎(多くは肥厚して偽鱗茎(ぎりんけい)とよばれる)の基部から生じ、匍匐(ほふく)茎で連なり、1年で生育が完成する。こうして年々新しい茎を生じ株立ちとなる。日本での栽培では、複茎性のランは春に新芽が生育を始め、秋に完成する。この間、秋までに一人前の大きさまで育て上げないと花をつけないことになる。
 単茎性のバンダ、ファレノプシスやナゴランなどでは1本の茎が葉を左右に互生し、先端は止まることなく生育を続け、年々上方へと伸長を続ける。
 花茎の発生部位は種によって異なり、パフィオペジラムやカトレアなどでは茎の頂部から生じ、シンビジウムでは偽鱗茎基部の節(葉腋(ようえき))から、デンドロビウムでは茎の頂部あるいは上半部の節から生ずる。匍匐茎の節から生ずる種もみられる。単茎性の種では花茎は葉腋から生ずる。花茎は一般に、地生ランでは直立、着生ランの多くでは下垂する。
 花序は基本的には総状、花茎が分枝する場合は円錐(えんすい)状、なかには散形状に花をつける種もみられる。
 ラン科植物は熱帯から亜寒帯まで、湿地から乾燥地、また低地から高山までとあらゆる環境のもとで自生がみられ、それぞれの環境にみごとに適応した性状がみられる。
 地中に根を張って生育するものを地生ランとよび、これらは熱帯から亜寒帯まで広い範囲に分布している。一方、温度と湿度の高い地域には岩上や樹幹に根を広げて生育するものがみられるが、これらは着生ランとよび、熱帯地方に多く分布し、緯度が高くなるにしたがい種類と個体数は少なくなる。
 ランは生活様式がさまざまで、乾期に葉を落としたり、寒い季節に地上部が枯れる種があり、これらは常緑性に対して落葉性のランとよばれる。また、なかには葉がない無葉ラン、葉緑体を欠き地中の腐葉を養分として生きる腐生ラン、あるいは一生を地中で過ごす種さえみられる。[唐澤耕司]

形態

ランの花の形は多種多様で変化に富んでいる。これは虫媒花であるためで、花粉媒介をする昆虫の形や行動にあわせて変化し、特殊化したものと考えられている。花は花弁3枚、萼片(がくへん)3枚からなり、3枚の花弁のうち1枚は形を変えて唇弁となる。この唇弁は花粉媒介をする昆虫の目印となるため、形ばかりでなく他の弁と色彩も異なっている。また、唇弁の基部は長く伸び距(きょ)を形成する仲間もある。蕊柱(ずいちゅう)先端には葯(やく)があり、中の花粉は粉質から粒質さらに花粉塊(8~2個)へと進化し、一度に大量の花粉が運ばれるように変化してきている。花粉塊は基部に粘着体があって、昆虫の頭部や背胸部に付着して運ばれる。柱頭は蕊柱の下面にあり、ラン亜科では粘液を分泌して花粉塊がつきやすく(受粉しやすく)なっている。
 カトレアやデンドロビウムなどの着生ランは一般に葉や茎が多肉化して水を蓄え、乾燥に耐えることができるようになっている。多肉化した茎は偽鱗茎(プセウドバルブ、単にバルブとも)といい、新しい葉のあるバルブをリードバルブ、古いものをバックバルブとよぶ。また、地生ランのウチョウランやサギソウなどでは根が肥大して塊根を形成し、休眠する。着生ランの根はとくに太く、空中に裸出し、気根とよばれる。これは、本来の根の外側がベラーメン層というスポンジ状の厚い組織に覆われているためで、根を保護し、水分や養分を蓄える役目を果たしている。
 生育形態は大別して2型あり、茎が1年で生育を完了し、新しい芽は茎の基部から毎年生じ、株立ちとなる複茎性のラン(カトレア、シンビジウムなど)と、1本の茎の先端が成長し続ける単茎性のラン(バンダ、ファレノプシスなど)とがある。[唐澤耕司]

特性

ランの種子は種子植物中もっとも小さく、長さ1ミリメートル以下のものが多い。内部には未発達な細胞塊があるだけで、胚(はい)の分化もなく、発芽のための養分となる胚乳も備えていない。自然ではラン菌とよばれるカビ類がランの種子の細胞内に共生し、生育を助けることによってのみ発芽生育することができる。1果実中の種子数はきわめて多く、たとえばカトレアでは鶏卵大の果実中に100万粒を超える種子が入っている。この微細な種子はわずかな微風、上昇気流にのって、岩上や樹上に散布されるのには都合がよい。しかし雨に流されることもあり、樹幹に落ち着くものは数少なく、そこでうまくラン菌に巡り会えた種子だけが育つことになる。
 一部のランにおける光合成様式はサボテンや多肉植物と同じであることがわかっている。植物は通常昼間に気孔を開き、二酸化炭素を取り込み、根から吸収した水と太陽エネルギーを使って炭水化物をつくりだす。これに対し、ファレノプシス、カトレア、レリアやデンドロビウムの一部など肉厚の葉をもつランでは、夜間に気孔を開いて二酸化炭素を吸収し、これをいったんリンゴ酸に合成して蓄え、昼間は気孔を閉じ、蓄えていたリンゴ酸を分解して二酸化炭素を発生させ、この二酸化炭素を利用して炭水化物を合成している。この光合成様式をもつ植物はCAM(キャム)植物とよばれている。[唐澤耕司]

栽培


植え方
着生ランは根が新鮮な空気を好むので、普通ミズゴケで排水をよくして植える。鉢は乾きやすい、やや小さめな素焼鉢を用いる。地生ランは、アズキからダイズ大の軽石や山砂を用い、やや堅い鉢に植える。腐葉土や樹皮チップを加えてもよい。
 植え替えは生育開始直前がよく、普通3月中旬から5月上旬に行う。しかし、夏期の高温に弱いミルトニア、オドントグロッサム、マスデバリアなどは涼しくなり始める9月中・下旬に行うのが無難である。一般に植え替えは2~3年に1回行う。また、着生種はヘゴ板につけてもよい。[唐澤耕司]
肥料
ランは1年間の生育量の少ない植物で、多量の肥料を必要としない。したがって与えすぎないようにする。施肥は生育期の4~6月に1~2回、少量の油かすと骨粉を混合したものを置く。また、薄く溶かした液肥を春と秋に月2~3回与えてもよい。普通、夏と冬には施肥は行わない。[唐澤耕司]
温度
ラン栽培では冬の温度管理がもっとも重要である。熱帯から亜熱帯原産の、一般に洋ランとよばれる仲間は、冬期間、温室やワーディアン・ケースなどの加温設備のある室内に収容保護する必要がある。生育適温はそれぞれの種によって異なるので、それにあった管理が必要となる。冬期の最低温度はおよそ低温、中温、高温性の3段階に分けて管理することができる。ここに示す温度は冬期この程度の温度を保てば枯れないで越冬できる目安で、よりよく生育させるにはさらに2~3℃高いことが望ましい。以下に各段階のおもな種類を示す。
(1)低温性(最低7~8℃)はシンビジウム、デンドロビウム(ノビル系)、レリア、ソフロニティス、ツニア、ファイウス、ディサなど。
(2)中温性(最低10~13℃)はカトレア、オンシジウム、パフィオペジラム、リカステなど多くの種類がある。
(3)高温性(最低15℃以上)はバンダ、ファレノプシス、デンドロビウム(ファレノプシス系)、エリデス、レナンセラ、アングレカムなど、熱帯低地産の種類がある。
 一方、熱帯高地産のオドントグロッサム、コクリオーダ、ミルトニアやマスデバリアなどは日中の最高が30℃以下、25~26℃に保つのが好ましい。日本の低地では冷房するか、よほど涼しく、通風のよい場所が必要である。なお、これらの仲間は冬期は最低10~13℃に保つ。冬期に十分な温度のない場合は、できるだけ乾かしぎみに保つ。[唐澤耕司]
日照
デンドロビウム、シンビジウム、レリアの岩生種(ロックレリア)、バンダのテレス系(棒状葉の種)、レナンセラなどは強光でよく育つが、夏の間だけ30%程度遮光し、葉焼けを防ぐ。他方、ファレノプシス、パフィオペジラム、アネクトキルスなどは年じゅう半日陰で管理する。その他の多くのランは春・秋30%、夏50~60%の遮光下で管理する。[唐澤耕司]
灌水
ランは根がつねに湿った状態は好ましくない。日常の水やりは、植え込み材料の表面が乾いてから灌水(かんすい)することを原則とし、過湿にしてはいけない。ただし、春から秋の生育期には多少多めに与え、冬の低温期や休眠期には乾きぎみに保つ。
 灌水するときは鉢底から十分流れ出るまでたっぷり与える。これは単に水の補給だけでなく、鉢内の古い空気を新鮮な空気と交換し、余分な肥料などを洗い流すためでもある。[唐澤耕司]
湿度
自生地では定期的な降雨や霧の発生によって空中湿度が高く保たれている。栽培にあたっては湿度を70~80%に保つよう心がけ、乾きやすいときは葉水(はみず)を与えるか、株の周辺、通路などに打ち水をして湿度を高める。[唐澤耕司]
通風
ランは新鮮な空気のもとでよく育つ。夏期はとくに通風をよくし、葉面温度を下げ、涼しくする。また冬期閉め切った室内では適当に換気を行い、新鮮な空気と入れ替え、室内の空気を攪拌(かくはん)して温度の平均化を図ることも必要である。[唐澤耕司]
病虫害
ウイルス病は致命的である。感染すると生育が悪く、奇形を生じたり、黄色斑(はん)のモザイクを生じ、組織を壊死(えし)させる。感染すると治すことができず、他の株への伝染源となるので焼却処分する以外方法がない。ウイルスは、アブラムシなどの吸汁害虫や植え替え時の器具、古い鉢や病株を扱った手などから伝染する。予防として、害虫の防除、器具の消毒、植え替えには一鉢ごとに手を洗うなどが必要である。また、鋏(はさみ)、ナイフなどの器具は炎で焼くか、第三リン酸ナトリウムの3%溶液に浸(つ)けて消毒するとよい。
 黒斑病、炭疽(たんそ)病などカビによる病気は「ダイセン」水和剤や「オーソサイド」水和剤、「ベンレート」水和剤などの殺菌剤を散布する。軟腐病のような細菌性の病気はボルドー液か「ヒトマイシン」や「アグレプト」などの抗生物質製剤を用いる。薬品は指定の濃度で用い、罹病(りびょう)してからでは遅いので、春から秋の間は月1、2回定期的に散布して予防に努める。
 アブラムシやカイガラムシなどの害虫には「オルトラン」水和剤や「スミチオン」乳剤を、ハダニには「ケルセン」乳剤などを散布する。ナメクジは殺ナメクジ剤を夕方打ち水したあと、鉢周辺に置いて誘殺するか、夜間8~10時に見回って捕殺する。[唐澤耕司]

繁殖

複茎性のカトレア、シンビジウム、デンドロビウムなどは株分けする。花をつけるためにはバルブを3、4個ずつに分け、あまり小分けはしない。その際、葉のないバッグバルブも基部に芽があれば、根をミズゴケで包んで植えておけば苗が得られる。デンドロビウム(ノビル系)やエピデンドルム(ラジカンス系)、ツニアなどは茎を2、3節に切ってミズゴケに挿しておけば苗が得られる。また、これらはときに茎の上部の節より高芽が出ることがあり、根が数ミリメートル伸びれば切り離して植える。
 ラン科植物は、種間はもちろん、近縁な属間においても交雑が可能である。属間交雑によって、それぞれの属の備える特徴を取り入れて、より美しい実用品種の作出に成功し、園芸化が大きく発展してきている。また近年、多くのランでは人工養分で発芽させ(無菌培養)、多量の苗を得ることができるようになった。ほかに、優れた個体を急速に増殖するためのメリクロン(成長点培養)も行われている。新しく作出された交雑種はイギリス王立園芸協会に登録されており、すべての交雑種の系統を原種までさかのぼって知ることができる。[唐澤耕司]

文化史

花が観賞栽培される近代以前、ランは実用品であった。古代のギリシアではハクサンチドリOrchis属、オフリスOphrys属の球根を催淫(さいいん)剤として食用した(ディオスコリデス『薬物について』)。Orchisはギリシア語の睾丸(こうがん)の意味で、薬効は球根が似ることからの連想である。中国ではセッコク(石斛)類が古代から薬用にされ、『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』に載る。日本ではセッコクは古くは少彦薬根(すくなひこのくすね)あるいは石薬(いわぐすり)とよばれ、石斛の名は『出雲国風土記(いずものくにふどき)』に神門(かむど)郡の産物としてあがる。現代もセッコクは漢方に使われ、中国雲南省の黒節章Dendrobium candidumWall. ex Lindl. からつくる龍頭鳳尾(りゅうとうほうび)は中国でもっとも高価な薬用飲料の一つである。台湾のツォウ族はキバナセッコクを神聖視し、首狩りの儀式に使った。ニューギニアではセッコク属の茎から生活用品を編む繊維をとる。バニラはスペインの侵入前から、メキシコなどで香料にされていた。
 古代中国の「蘭」の字はフジバカマをさし、現在の蘭と置き換わるのは宋(960~1279)以降で、唐代(618~907)にはまだ混乱がある。宋の趙時庚(ちょうじこう)の『金蘭譜(きんしょうらんぷ)』(1233)では21の品種、王貴学の『王子蘭譜』(1247)では約50の品種が扱われ、特徴の解説と栽培法が記述された。南宋で東洋ランの栽培が流行したとみられる。中国ではランは香りが好まれ、その香りは「香祖」「国香」「天下第一香」と称される。
 日本のラン栽培は江戸時代にフラウン、セッコク、ミヤマウズラが流行し、後2種は天保(てんぽう)時代(1830~44)にブームが頂点に達し、セッコクは55品種(秋尾亭主人『長年草』)、ミヤマウズラは111品種(帆兮亭(はんけいてい)『錦蘭品さだめ』)の名が記載されている。
 欧米のラン栽培は中国、日本よりはるかに遅く、19世紀前半にブラジルから、カトレア属、中米からレリア属などの美しいランが相次いでイギリスやフランスに導入され、関心を集めた。1835年ごろイギリスで着生ラン栽培の技術が確立され、ランブームがおこり、ルクセンブルクのジャン・リンデンは1835年から10年かけて中南米を探索し、1200種近くのランをもたらし、上流階級のランブームに拍車をかけた。ランの人工交配は1852年イギリスでシペリペジウム属の種間で最初に成功した。
 日本の洋ラン栽培は第二次世界大戦後の室内暖房の普及とメリクロンの栽培技術によって大衆化した。1962年(昭和37)日本洋ラン市場が開設され、昭和40年代のメリクロンの採用で大量生産が確立し、近年は東洋ランをはるかにしのぐ勢いで栽培が普及している。
 ランを国花とするのはグアテマラ、コスタリカ、パナマ、ベネズエラ、コロンビア、ブラジル、エクアドル、シンガポールの8か国である。[湯浅浩史]

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