(読み)アト

デジタル大辞泉 「跡」の意味・読み・例文・類語

あと【跡/痕/×迹/×址】

《「」の意》
何かが通っていったしるし。「靴の―」「船の通った―」「ほおを伝う涙の―」「犯人の―を追う」
(傷には多く「痕」と書く)以前に何かが行われたしるし。痕跡形跡。「消しゴムで消した―」「手術の―」「苦心の―が見受けられる」「水茎みずくきの―」
(建築物には多く「址」と書く)以前に何かが存在したしるし。「太古の海の―」「寺院の―」
家の跡目。家督。「父の―を継ぐ」
先人手本先例。「古人の―にならう」
足のあたり。足もと。
太神宮御方を、御―にせさせ給ふこと、いかが」〈徒然・一三三〉
[下接語]足跡雨跡家跡かま・刈り跡・傷痕靴跡城跡り跡爪痕つめあと鳥の跡波跡み跡人跡筆の跡ふな水茎の跡焼け跡
[類語]痕跡形跡跡形/(4跡目跡式家督

せき【跡】[漢字項目]

常用漢字] [音]セキ(漢) シャク(呉) [訓]あと
セキ
足あと。「人跡足跡追跡
物事の行われたあとかた。「遺跡奇跡軌跡旧跡行跡形跡痕跡こんせき史跡事跡手跡証跡戦跡筆跡墨跡
あとめ。「名跡みょうせき門跡もんぜき
[補説]「」「」と通用
〈あと〉「跡形跡地足跡疵跡

と【跡】

あと。足あと。「跡とだえる」「跡見とみ」など、複合語の形で用いられる。

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精選版 日本国語大辞典 「跡」の意味・読み・例文・類語

あと【跡】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 足。また、足もと。足のあたり。⇔
    1. [初出の実例]「阿都(アト)取り 端(つま)取りして 〈略〉 妹(いも)が手を 我に枕(ま)かしめ」(出典:日本書紀(720)継体七年九月・歌謡)
    2. 「父母(ちちはは)は 枕の方に 妻子(めこ)どもは 足(あと)の方に」(出典:万葉集(8C後)五・八九二)
  3. 特に、獣のうしろ足。
    1. [初出の実例]「馬は足のとどかざる処にては竿立に立ってあとばかりにて渡る」(出典:大友記(17C前)豊州勢高城を責事)
  4. 足を下ろした所に残る形。足跡(そくせき)
    1. (イ) あしがた。あしあと。
      1. [初出の実例]「丈夫の進み先立ち踏める阿止(アト)を見つつ偲はむ直に逢ふまでに正に逢ふまでに」(出典:仏足石歌(753頃))
    2. (ロ) 人が行き来した足あと。歩いた形跡。往来
      1. [初出の実例]「黒谷とかいふ方よりありく法師のあとのみ、まれまれは見ゆるを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)手習)
  5. 去って行った道や方向。行方。
    1. [初出の実例]「きみがゆくこしのしら山しらねども雪のまにまにあとはたづねん〈藤原兼輔〉」(出典:古今和歌集(905‐914)離別・三九一)
  6. 過ぎてしまった現象や、事件、事物のことがうかがわれるしるし。痕跡(こんせき)。遺跡。
    1. [初出の実例]「世の中を河に譬へむ朝びらき漕ぎいにし舟の跡(あと)なきごとし」(出典:万葉集(8C後)三・三五一)
    2. 「夏草や兵(つはもの)どもが夢の跡」(出典:俳諧・奥の細道(1693‐94頃)平泉)
  7. 手本とすべき過去の事柄。先例。故実。ためし。しきたり。
    1. [初出の実例]「是歳、百済の調賦(みつきもの)、常の例(アト)に益れり」(出典:日本書紀(720)雄略二三年四月(前田本訓))
  8. 筆跡。筆のあと。
    1. [初出の実例]「今の浅はかなるも、昔のあとに恥なく賑ははしく」(出典:源氏物語(1001‐14頃)絵合)
  9. 家の名跡。また、家の名跡をつぐ者。家督。遺産。遺領。遺産相続人。跡式(あとしき)
    1. [初出の実例]「人の後(つき)を為す者は、能く先(おや)の軌(アト)を負荷(にな)ひ」(出典:日本書紀(720)欽明二年七月(寛文版訓))
    2. 「此親仁〈略〉頓死の枕に残る男子一人して、此の跡(アト)を丸どりにして」(出典:浮世草子・日本永代蔵(1688)一)
  10. 取引所で売買取引の終わったあと。引け跡。

跡の補助注記

ア(足)ト(処)が原義。上代には、足の方、足を踏んだ所、広がって、過ぎ去ったものの痕跡をいう。


せき【跡】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 正投影法で、直線と画面との交点、また平面と画面との交線。水平跡・直立跡・側跡の三つがある。
  3. 数学で、正方行列における主対角線上の要素の和。

と【跡・迹】

  1. 〘 名詞 〙 あと。足あと。「とだえる(跡絶)」「とみ(跡見)」のように、複合語の一部として用いられる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

普及版 字通 「跡」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 13画

(異体字)迹
10画

[字音] セキ
[字訓] あと・あしあと・ふむ・たずねる

[説文解字]

[字形] 形声
正字は〔説文〕二下に迹(せき)の重文としてあげる。迹・跡はその俗字。〔説文〕に「迹はむ處なり」と歩迹の意とする。字の初形の形義によっていえば、朿(せき)は神聖な表木で征服支配、貝はその地より徴する賦貢、その徴する織物を績、農穀を積という。その支配の遂行を成蹟という。亦は朿の譌形。本来は政治的意味をもつ字であるが、のち、あしあとの意に用いる。

[訓義]
1. あと、あしあと、あしうらのあと。
2. ふむ。
3. あとづける、たずねる。

[古辞書の訓]
〔名義抄〕跡 アトツク・タヅヌ 〔字鏡〕跡 フム・タヅヌ・アト 〔字鏡集〕跡 ツク・ヒヅメ・ヌキアシ・クルマノアト・アト・ムマノアト・フム・ハヤル

[語系]
跡・迹はtzyakの俗字。また、・債tzhek、積tziek、績tzyekも声近く、もと一系をなす語で、賦貢の意をもつ字であった。*語彙は迹字条参照。下接語のみ、慣用の例のあるものをあげる。

[下接語]
遺跡・玩跡・奇跡・軌跡・旧跡・古跡・口跡・行跡・航跡・痕跡・罪跡・史跡・事跡・失跡・手跡・獣跡・書跡・勝跡・証跡・蹤跡・心跡・真跡・人跡・尋跡・塵跡・垂跡・聖跡・占跡・戦跡・踪跡・足跡・鳥跡・追跡・轍跡・犯跡・秘跡・筆跡・斧跡・墨跡・名跡・門跡

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【義太夫節】より

…なお,初段の口は大序と称し,18世紀半ばまでは紋下の役場であったが,以後は初心者の修業の場と変じた。また,切場のあとに短い独立場面の落合(おちあい)(跡(あと))がつくこともある。以上の各場は作曲,演奏の上でやはり区別される。…

※「跡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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