去る(読み)サル

デジタル大辞泉 「去る」の意味・読み・例文・類語

さ・る【去る】

[動ラ五(四)]
本来は移動する意で、古くは、遠ざかる意にも近づく意にもいう》
㋐ある場所から離れる。そこを離れてどこかへ行ってしまう。遠ざかる。「故郷を―・る」「この世を―・る」「片時念頭を―・らない」
地位職業などを退く。「王位を―・る」「舞台を―・る」
㋒時が過ぎる。ある季節・時期が遠のく。「冬が―・る」「青春は―・った」
㋓時間的、空間的に隔たる。離れている。「今を―・る七年前」「東京を―・ること二〇〇キロ」
㋔今まであった状態が薄らいだり、なくなったりする。消える。「痛みが―・る」「危険が―・る」

㋐離して遠くへやる。遠ざける。離縁する。「妻を―・る」
㋑除いてなくす。消す。「雑念を―・る」「虚飾を―・る」
(動詞の連用形に付いて)すっかり…する、…しつくすの意を表す。「忘れ―・る」「葬り―・る」
時・季節などが近づく。巡ってくる。
「秋―・らば黄葉もみちの時に」〈・三九九三〉
[可能]される
[類語](1㋐)遠ざかる遠のく離れる立ち去る引き払う引き上げる辞去する退去する退散するせる退下がる退立ち退く引き下がる引き取る引っ込むあとにする/(1㋑)退しりぞめる離れる退抜ける離脱する脱退する引退する辞任する離任する手を引く身を退く骸骨を乞う退会退団退部脱会脱党離党杯を返す/(1㋒)過ぎる過ぎ去る過ぎ行く

さる【去る】

[連体]《動詞「さ(去)る」の連体形から》過ぎ去った。「去る四月八日」⇔きた

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「去る」の意味・読み・例文・類語

さ・る【去】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 ラ行五(四) 〙 ( 移動する意で、古くは近づく場合にも遠ざかる場合にもいう )
    1. ( 季節や時を表わす語のあとに付けて ) その時、季節になる。中古以後は、多く「夕されば」、まれに「春されば」の形が用いられる。
      1. [初出の実例]「畝火山 昼は雲とゐ 夕佐礼(サレ)ば 風吹かむとそ 木の葉さやげる」(出典古事記(712)中・歌謡)
      2. 「ゆふされば衣手さむしみよしののよしのの山にみゆき降るらし〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)冬・三一七)
    2. ある場所、ある人から離れて行く。
      1. [初出の実例]「直(ただ)にあはず在(あ)らくも多く敷𣑥(しきたへ)の枕佐良(サラ)ずて夢にし見えむ」(出典:万葉集(8C後)五・八〇九)
      2. 「不知、うまれ死る人、いづかたよりきたりていづかたへか去る」(出典:方丈記(1212))
    3. 身を置いているある状態から退き離れる。「社長のいすを去る」
      1. [初出の実例]「御位をさらせ給ふといふばかりにこそあれ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)賢木)
    4. 時が経過する。また、物事が移り変わる。
      1. [初出の実例]「たとひ時うつり、事さり、たのしびかなしびゆきかふとも」(出典:古今和歌集(905‐914)仮名序)
    5. 時間や距離などが隔たる。ある状態を他と比べたときの隔たりについても用いることがある。
      1. [初出の実例]「燈籠に火ともしたる、二間ばかりさりて、簾高うあげて、女房二人ばかり」(出典:枕草子(10C終)一九三)
      2. 「イマヲ saru(サル) コト ジュウ ネン」(出典:和英語林集成(初版)(1867))
    6. 薄くなったり消えたりする。
      1. [初出の実例]「雨ふれば色さりやすき花ざくらうすき心も我思はなくに」(出典:歌仙本貫之集(945頃)五)
      2. 「イタミガ satta(サッタ)」(出典:和英語林集成(初版)(1867))
    7. ( 多く「世をさる」の形で ) 死ぬ。
      1. [初出の実例]「うちつづき世をさらむきざみ心くるしく」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜上)
    8. ( 動詞の連用形に付けて、補助動詞のように用いる ) すっかり…する。…してしまう。
      1. [初出の実例]「双手に唾して防具を握り殆んど将に打(だ)し去らんとして視一視すれば」(出典:花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉二)
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 ラ行五(四) 〙
    1. ある場所からしりぞける。遠ざける。
      1. [初出の実例]「さきのやうにくやしきこともこそあれ。なほしばし身をさりなんと思ひたちて」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
    2. 手放す。離縁する。多く、夫が妻を一方的に離別するのにいう。
      1. [初出の実例]「よき装束きたる女のゐたるを見ければ、我さりにしふるき妻なりけり」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)四)
    3. とり除く。なくなす。
      1. [初出の実例]「人の聞きおぼさむ事の罪さらむかたなきに」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕霧)
      2. 「ネツヲ saru(サル)」(出典:ロドリゲス日本大文典(1604‐08))
    4. 距離をおく。特に、連歌連句で、句を隔てる。
      1. [初出の実例]「旅、神祇、釈教、述懐等、同じ物五句さる」(出典:連歌初心抄(1480頃))

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