動物分類学上、一つの門Arthropodaとしてまとめられる動物群。エビやカニなどの甲殻類、クモやダニなどのクモ形類、膨大な種数の昆虫類などからなる大きな群で、脊椎(せきつい)動物と並んで地球上のあらゆる環境に広く分布して栄えている。全動物門のなかでもっとも種類が多く、全動物の4分の3で80万種以上といわれている。生活力も繁殖力も強く、個体数も著しく多い。
[武田正倫]
体は左右相称の体節からなり、各節に付属肢が1対ずつつくのが原則である。多数の体節からなる点はミミズやゴカイなどを含む環形動物門と類縁が深いが、環形動物ではほぼ同じ構造の体節が並んでいるのに対し(同規的体節制)、節足動物では体の部位によって体節の構造や機能が異なる(異規的体節制)。体は、頭、胸、腹の3部に分かれていることが多いが、頭胸部と腹部あるいは前腹部と後腹部などに分化する。体表にキチン質と、これに主として炭酸カルシウムを含んだ外骨格が発達している。体の屈伸を自由にするために、各体節は軟らかい節間膜でつながっている。体節数は8~180の幅があるが、体節の癒合がしばしばおこり、極端な例として、2節ずつ癒合して見かけ上1節から2対の歩脚が出ている倍脚類(ヤスデ類)があげられる。頭部は理論上6節からなる。第1節は付属肢を欠き、背面に目をもつ。第2節の付属肢は触角、第3節の付属肢は甲殻類に限って第2触角となるが、昆虫類や唇脚類(ムカデ類)、倍脚類などでは退化し、クモ形類(クモ類)でははさみ状の鋏角(きょうかく)となる。第4節の付属肢は、クモ形類は脚鬚(きゃくしゅ)、ほかはすべて大あごに分化し、食物をかみ砕く役目をする。第5、第6節の付属肢は一般に摂餌(せつじ)の補助をする第1、第2小あごであるが、クモ形類では第1、第2歩脚となる。
頭部にある目は単眼と複眼で、共存することもある。単眼は正中線上に1個、あるいは正中線の左右に対(つい)をなして存在し、主として明暗を感受する。節足動物固有の構造である複眼は一般によく発達するが、特殊な生態をもつものでは二次的に退化している。複眼は1対で、頭部側面に位置する。多数の個眼の集合からなり、モザイク像を結ぶが、物の動きにはとくに敏感で、高等な動物群では色覚もあり、方向や距離の認識もできることが実験的に確認されている。
胴部付属肢の数および形態は動物群ごとに多様に変化する。それらは基本的には運動器官であるが、昆虫類ではつねに3対、クモ形類では4対、倍脚類では各節2対ずつである。昆虫類やクモ形類の腹部は無肢であるが、胚(はい)期には痕跡(こんせき)がみられ、また昆虫類の生殖器、クモ形類の紡錘器は付属肢の変形と考えられる。甲殻類の付属肢は二叉(にさ)型で、付属肢の原型をとどめているが、二叉型は歩行よりも遊泳に適した形態である。
体表を覆う外皮あるいは外骨格からは、棘(とげ)、突起、剛毛、柔毛などが発達して身を守るが、昆虫類では体壁の伸長に由来する2対のはねがあり、特異な運動器官となっている。
[武田正倫]
消化管は口に始まり、肛門(こうもん)に終わるが、口は上唇、大あご、下唇、小あご、あるいは鋏角や顎脚(がっきゃく)など付属肢に由来する口器に囲まれている。口に続いて胃臼(いきゅう)、砂嚢(さのう)、幽門胃を経て中腸に続くが、胃臼には内壁に歯状体があり、機械的消化を助ける。中腸には盲嚢が付属しており、複雑に分枝して消化、吸収、栄養分の貯蔵の役をするため、とくに肝膵臓(かんすいぞう)とよばれる。中腸に続く後腸もしばしば拡張部や付属腺(せん)を備える。筋肉はよく発達し、ほとんどは瞬発的な運動機能に適した横紋筋であるが、腸管と血管のみは持続性に優れた平滑筋層に囲まれている。
呼吸器官は、水中生活種ではえら、陸上生活種は気管またはその分化した書肺である。えらは体壁に由来し、糸状、葉状、根状に分枝して表面積を広げている。昆虫類にみられる気管は、体壁が管状に陥入したものが網目状に分枝して体内諸器官の間に広がったもので、主管は体節ごとに気門によって外界に通じている。書肺はクモ形類に特有の構造で、腹面の陥入部に薄葉構造が積み重なったものである。
開放血管系で、血管の発達はよくない。一般に体節ごとに心門を備える管状の心臓は高等なものほど短縮し、心門は1、2対になってしまう。血管の末梢(まっしょう)部は組織間隙(かんげき)に通じているが、そこを通過した静脈血はえらに流れて動脈血になって心臓を包む囲心腔(こう)に帰り、あるいは気管に流入する空気との間に直接ガス交換を行う。呼吸血素は一般にヘモシアニンである。
排出器官は環形動物の体節器官の変形で、その数は1、2対に減っている。甲殻類の触角腺や小あご腺がこれにあたる。節足動物固有の排出器官は昆虫類とクモ形類の中腸と後腸の境に発達するマルピーギ管である。
神経系も環形動物の梯(てい)状神経に起源をもつことは明らかであるが、体制が複雑になるとともに左右の神経節が密着し、また前後の集中化もおこってくる。一般に神経系の発達はよく、知覚や運動をつかさどる中枢神経系のほか、交感神経系も発達している。
[武田正倫]
一般に雌雄異体で、体の大きさ、体色、付属肢の形などに二次性徴が発達する。着生生活や寄生生活をするものには雌雄同体もあり、また性転換や単為生殖をするものもみられる。両性生殖と単為生殖の交代は昆虫類と甲殻類に存在し、ときには雄がまれであるために単為生殖が普通であるものもある。
交尾器が発達するものでは性本能が著しく発達していることがあり、交尾完了までに求愛そのほか複雑な過程を経ることがある。通常、卵生で、幼虫、幼生の形で孵化(ふか)し、変態して成体形になる。卵は多くの場合、卵黄が中心にある心黄卵で、表割により発生が進行する。卵胎生や胎生もみられ、幼生生殖、幼体成熟、多胚現象の例もみられる。保育には段階があり、放卵にすぎない場合から、孵化幼虫がすぐ食物を得ることができるように準備がなされる場合までいろいろである。母体がある程度保護することもあり、社会性昆虫類では生殖不能の雌が幼虫のために食物を蓄えて与える。
[武田正倫]
節足動物の古い形のものは三葉虫類として古生代カンブリア紀にすでに出現しているが、昆虫類は古生代デボン紀になって出現し、中生代から新生代にかけて陸地の増加と植物の進化とともに栄えてきた。節足動物門は、現在、次の10綱に分類されている。
(1)三葉虫綱Trilobita 化石のみ。(2)ウミグモ綱Pycnogonida 皆脚綱Pantopodaともよばれる。(3)剣尾綱Xiphosura 節口綱Merostomataともよばれる。カブトガニ類で、現生するのは4種のみ。(4)クモ形綱Arachnida クモ、サソリ、ダニなど。(5)甲殻綱Crustacea ミジンコ、フナムシ、エビ、カニなど。(6)結合綱Symphyla ナミコムカデに代表される小群。(7)少脚綱Paulopoda ニワヤスデモドキに代表される小群。(8)倍脚綱Diplopoda ヤスデ類。(9)唇脚綱Chilopoda ムカデ、ゲジなど。(10)昆虫綱Insecta トンボ、バッタ、チョウ、ハチ、甲虫類などからなる大群。
[武田正倫]
極地から熱帯、深海から高山まで地球上のあらゆる環境に、それぞれ巧みに適応した節足動物が生息している。環境の多様性は、歩く、走る、はう、跳ぶ、飛ぶ、泳ぐ、など運動の多様性をもたらし、また食性や生活様式の多様化も驚くほどである。攻撃や防御の方法もよく発達し、保護色や警告色、擬態や擬死などの習性のほか、付属肢がはさみとなる甲殻類、毒腺や毒針で攻撃するクモ形類、昆虫類などは注目に値する。また、昆虫類にみられる社会性の発達は、ほかの無脊椎動物にはみられない生態的特性である。
[武田正倫]
動物分類学上,節足動物門Arthropodaを構成する動物群で,エビやカニ,昆虫,クモなどを含む。全動物門の中でもっとも種類が多く,100万種を超えるといわれる全動物のうちの3/4を占める。極地から熱帯,陸地,海洋を問わず,湿地,砂漠,高山,雪原,森林,原野,田畑,一時的な水たまり,湖沼,河川,土壌中,地下水にすみ,空中高く飛翔(ひしよう)し,人家に入り,動物の皮膚,体内に侵入したりもする。地球上のあらゆる環境に,それぞれに適応した節足動物を見ることができる。
系統的にはミミズ,ゴカイなどの環形動物に類縁関係をもつが,環形動物が同規的(同じような構造の)体節制(等体節homonomous metamere)をもつのに対し,節足動物の体節は異規的に配列している(不等体節heteronomous metamere)。すなわち,前後に並ぶ体節が形態や機能を異にしており,これが結局は節足動物の分化,繁栄をもたらしていると考えられる。それぞれの種が好む生息場所は呼吸器,運動用付属肢,口器および感覚器の発達と密接な関連がある。走行,歩行,匍匐(ほふく),跳躍,飛翔,掘削,潜入などの運動方法,肉食,草食,雑食などの食性,かむ,吸う,なめるなどの摂餌(せつじ)方法,自由移動,一時的あるいは恒常的な固着,潜伏,共生や内部・外部寄生などの生活様式などに関して著しい変異が見られる。生殖時期を除いては一般に単独生活をするが,摂餌や生殖の目的のために一時的に群集をつくることがあり,アリやミツバチなどではこのような生活形態が発達して個体間に有機的なつながりが分化して社会性をもつようになり,それに伴って個体の多型現象や合目的性が見られるようになる。攻撃の方法もよく発達し,甲殻類では付属肢がはさみに変形して武器に,蛛形(ちゆけい)類や昆虫類では毒腺や毒針によって積極的に身を守り,攻撃する。その他,単なる逃避潜伏から,棲管(せいかん)の分泌,特殊な営巣,保護色,擬態,擬死など積極的あるいは消極的な防衛手段は変化に富んでいる。
一般に雌雄異体で,外形,体色,付属肢の形態などに二次性徴がよく発達しているが,固着生活をするものには雌雄同体もあり,また性転換するものや単為生殖をするものも見られる。生殖,保育の習性は多様で,交尾器が発達するものでは性本能の発達が著しく,交尾行為は複雑である。保育の段階もいろいろで,多くの海産種のように単なる放卵にすぎないものから,孵化(ふか)幼虫が直ちに食物を得られるような場所へ産卵するもの,幼生が孵化するまで母体に卵を保護するものなどあるが,社会性昆虫類では生殖不能の雌が幼虫のために食物を貯蔵し,また食物を与える。
節足動物は左右相称の体節からなり,原則として付属肢が1対ずつつく。体は頭,胸,腹の3部あるいは頭胸部,腹部,または胸部,前腹部,後腹部からなり,体表面にはキチン質とこれに石灰分を含んだ外骨格が発達している。体節数は8~180で,体節の融合がしばしば起こる。呼吸器官は水中生活者ではえら,陸上生活者では気管またはその分化した書肺である。血管の発達は悪く,開放循環系で,血漿(けつしよう)中の呼吸色素はヘモグロビンまたはヘモシアニン。排出器は甲殻類では触角腺,小顎腺,昆虫類,蛛形類ではマルピーギ管である。神経系は起源的にははしご状系であるが,体制の高度化につれて左右,前後に集中化が起こる。感覚器で発達が著しいのは視器で,単眼と複眼がある。複眼は1対で,多数の個眼が集合しモザイク像を結ぶ。
節足動物は三葉虫類が古生代カンブリア紀にすでに出現しているが,古生代デボン紀になって昆虫類が出現し,中生代から新生代にかけて植物の進化を含めて環境の多様性が増したので栄えてきた。現生種は次の9綱に分類される。(1)海蜘蛛(うみぐも)綱Pycnogonida ウミグモ類で皆脚(かいきやく)綱Pantopodaとも呼ばれる。(2)剣尾綱Xiphosura カブトガニ類で現生種は2属4種のみ。節口綱Merostomataとも呼ばれる。(3)蛛形綱Arachnida クモ,サソリ,ダニなど。(4)甲殻綱Crustacea ミジンコ,エビ,カニ,ヤドカリ,フジツボなど。(5)結合綱Symphyla コムカデ類。(6)少脚綱Pauropoda ヤスデモドキ類。(7)倍脚綱Diplopoda ヤスデ類。(8)唇脚綱Chilopoda ムカデ,ゲジなど。(9)昆虫綱Insecta トンボ,バッタ,セミ,チョウ,コガネムシ,ハチなど。
執筆者:武田 正倫
もっとも古い節足動物化石は,約7億年前の先カンブリア時代末期(あるいは始カンブリア紀Eocambrianと呼ばれることもある)からすでに知られているが,キチン質や石灰質など硬組織をもつようになったのは,約6億年前のカンブリア紀初期からであり,三葉虫類や三葉形類が代表的である。古生代には,三葉虫類をはじめ,やはり絶滅節足動物である広翼類Eurypteridaや古型貝形虫類であるレペルディシア類Leperditiidaやパレオコパ類Palaeocopaなどが全盛をきわめ,多くの示準化石を輩出している。広翼類はシルル紀からデボン紀にかけておおいに栄え,体長2mを超えるものも出て史上最大の節足動物になった。
1982年にスウェーデンのカンブリア紀後期の地層中から,微小ではあるが付属肢等軟体部が保存された原始的三葉虫である少節型の代表と考えられているアグノスツス類が発見され,多くの多節型三葉虫の付属肢とはかけ離れた分岐形式をもつことが判明した。このことにより,少なくともAgnostus pisiformis帯からでるアグノスツスは,三葉虫というよりはむしろ別個の甲殻類近縁のものと考えられるようになり,今後の節足動物の系統論に大きな論議を呼び起こすものと思われる。また,このスウェーデンの化石動物群中には,ノープリウス期の化石が含まれ,さらに旧来知られていなかった種々の微小節足動物も検出されている。
化石節足動物の系統論には,現生生物と見合った精度の解剖学的所見を必要とするが,化石資料の保存度は一般にそれをはるかに下回り,外部形態に依存することが多い。しかし,最近では超軟X線写真技術が進歩し,三葉虫など各種絶滅生物の各部位付属肢をはじめ,筋の配列・構造,神経系なども解析できるようになってきたので,系統論の精度は高められつつある。また,背甲や付属肢がケイ(珪)化したものを母岩から溶解して分離摘出する技法も進んだので,さらに情報は増加してきている。
執筆者:浜田 隆士
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… 動物の化石は先カンブリア時代末期からも発見されているが,それらはきわめて不完全である。しかしカンブリア紀になると,原生動物の有孔虫や放散虫,海綿動物のフツウカイメン(普通海綿),腔腸動物(刺胞動物)のクラゲ,棘皮(きよくひ)動物のウミユリ,星口(ほしくち)動物,軟体動物,環形動物の多毛類,節足動物の三葉虫,鋏角(きようかく)類および甲殻類など,形態的にはっきり異なった門が突然現れるので,各門の間の系統的な関係を化石をたどって確かめることはほとんど不可能である。したがって門の間の系統関係(図)は,形態や発生から推定するほかない。…
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