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ポーランド文学 ポーランドぶんがくPolish literature

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

ポーランド文学
ポーランドぶんがく
Polish literature

ポーランド語で書かれた文学作品の総称。幾世紀にもわたって常に国家の存亡という最も重大な問題をかかえてきた民族にあっては,文学もまた絶えずこの問題にかかわらざるをえなかった。そのために唯美主義や教養主義,あるいは心理小説や短編小説,芸術至上主義など,いわば国家の長期安定が発達や洗練の必須条件であるものに関しては,発展が遅れたともみられている。ラテン語による最古の文献は 12世紀にさかのぼるが,ポーランド語で書かれたものが登場したのは 14~15世紀と遅く,国内の混乱や破壊的な侵略に刺激されてのことであった。現存する記録もほとんどない。文字で記述された最古の詩は,13世紀に書かれた可能性もあるが,1407年のものとされている。
16世紀になってポーランド文学は黄金時代を迎えた。イタリア・ルネサンスの影響を受け,他国と密接に接触し,比較的平和で安定した時期であったため,多様で自信に満ちた表現が生れた。「ポーランド文学の父」 M.レイが,それまでの唯一の文学言語ラテン語に代えて,ポーランド語で『貴族と村長と主任司祭の短い談合』を著わしたのが 1543年であり,これは N.コペルニクスが地動説を述べた論文『天体の回転について』を発表した年でもあった。レイと同時代に活躍した詩人の J.コハノフスキは,真のルネサンス人であり,初期の傑出したポーランド作家である。 17世紀初頭から始るポーランドのバロック文学は,宗教論争と戦争に苦しめられたこの時代の様相が,J.A.モルシュティンの宮廷詩,Z.モルシュティンの宗教詩,S.トファルドフスキの歴史的叙事詩,J.C.パセクの回顧録に反映されている。 18世紀前半は衰退期であったが,その後ポーランド最後の国王スタニスワフ2世アウグスト・ポニャトフスキの治世に訪れた啓蒙主義の時代に,ポーランドの文化,政治,知性のあらゆる分野が精力的に復活した。文学,ジャーナリズム,出版,政治・教育改革,国立劇場の設立 (1765) に,この時代の進歩的な気概が表われ,I.クラシツキをはじめ,F.カルピンスキと F.D.クニャリジニンの詩,W.ボグスワフスキと F.ボホモレツの戯曲,J.U.ニェムツェーウィチの著作が 18世紀のポーランド文学を代表する。
19世紀にヨーロッパのいたるところでみられたロマン主義の興奮と熱狂も,ポーランドではそれを追払うような現実が襲った。 1830年の反乱の失敗後,ポーランドのロマン主義には,抑圧され殉教した国の罪と悲劇的な悲しみの様相が加わった。亡命先で書かれた A.ミツケーウィチのプロメテウスの苦悩とメサイアの幻想を描いた吟唱詩人風の作品や,J.スウォワツキと Z.クラシンスキの作品は,国民精神を表現したものであった。自己アイデンティティの探求と,個人の自由,歴史への疑問を扱ったこれらの作家の主要作品は,ポーランドの意識に永遠に刻まれている。 63年の蜂起の失敗でロマン主義の夢は終り,苦い敗北の結末として,現実の努力と社会的政治的リアリズムを強調した新しい実証主義に取って代られた。 H.シェンケーウィチ,B.プルス,E.オジェシュコーワの小説が,19世紀後半の文学の主流を占めたが,実証主義の制約に反発した「若きポーランド」運動 (1890~1918) がまもなく興った。初期にはヨーロッパ的で挑発的なほどモダニスト風の情熱的な宣言を行なったこの運動は,非常に幅広い流れと形式を含んでいた。代表的な作家としては,詩では K.テトマイエル,象徴派演劇では S.ウィスピャンスキ,小説では S.ジェロムスキがあげられる。
独立を回復した大戦間の短い期間 (1918~39) には,新鮮で多彩な文学が生れた。 B.レシミャンや L.スタフといった年配の作家とは別に,この時期には T.パイペルや J.プシボシの前衛詩,スカマンデル派の詩人の自信に満ちた楽観主義が現れた。散文では M.ドンブロフスカ,W.ゴンブローウィチ,J.アンジェイエフスキ,B.シュルツら,現代ポーランドを代表する作家が登場した。演劇では,J.シャニャフスキと,革新的なシュルレアリスム作品を書いた S.I.ウィトキェーウィチの戯曲が代表的である。ナチスによる占領,第2次世界大戦,ソ連の侵入を通じてポーランドが失った知識人人口は莫大なものであり,文学のみならず文化のあらゆる面で治癒しがたい傷となった。また,戦後成立した社会主義政権は文学にとってはことに大きな試練であったが,戦争と占領の経験から新しい題材を得た作品が発表され,とりわけ 1956年のスターリン批判以後その傾向が強い。戦争の悲劇を純化する場合も,現代ポーランドのトラウマを描き出す場合もあるが,どちらも現代のポーランドの状況を反映している。代表的な作家に Z.ヘルベルト,T.コンウィツキ,T.ルジェーウィチ,S.ムロジェク,S.レム,C.ミウォシュがいる。

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世界大百科事典 第2版の解説

ポーランドぶんがく【ポーランド文学】

10世紀末キリスト教を受け入れたポーランドでは,まずラテン語の文学が成立し,ルネサンスまで続いた。ガル・アノニム,W.カドウベクの年代記,ドウゴシュの《ポーランド編年史》,聖人伝など宮廷と教会の必要に応える実用的性格をもった作品を残した。ポーランド語による口承文学は,キリスト教以前からあったことが知られるが,記述されたものとしては,14世紀以後の宗教的な文献が最初で,それらはポーランド語が礼拝や祈禱に入るにつれて現れたものである(最古の作品は賛美歌《ボグロジツァ(神の母)》)。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ポーランド文学
ぽーらんどぶんがく

16世紀の政治的黄金時代にポーランドは、レイとコハノフスキを生んで文化的にも黄金時代を迎えた。レイは「ポーランド文学の父」とよばれ、またコハノフスキは中世スラブ最大の詩人である。第二の黄金時代は19世紀の前半に訪れた。この最大の黄金時代にはミツキェビッチ、スウォワツキ、クラシンスキらの偉大なロマン派詩人が登場する。彼らは亡命先にあって、分割され独立を失った祖国への愛を詩に結晶させた。ロマン主義はノルビッドを最後に「実証主義」にとってかわられる。19世紀中葉に始まった「実証主義」は国民経済の振興と教育の普及をスローガンにし、19世紀後半に至ってシェンキェビッチ、オジェシュコバ、プルスらを輩出して理想主義的写実主義の全盛時代を迎える。しかし彼らの文学的創造の基礎にあったものはやはり独立回復への祈念であった。
 19世紀末から第一次世界大戦直前にかけてクラクフ市を中心に新しい文学運動「若きポーランド」が展開される。西欧文学の影響のもとに、この運動は自然主義、象徴主義、印象主義など、さまざまな形をとったが、しかし芸術の自律性と個人の復権を一致して主張したのだった。詩のカスプロビッチ、スタフ、レシミャン、戯曲のウィスピヤンスキ、小説のジェロムスキ、レイモントらがその代表である。とくにジェロムスキの作品はこれまでにない社会性を示した。大戦間期には雑多な流派が入り乱れ、詩では未来派、前衛派、グループ「スカマンデル」などがあった。とくにグループ「スカマンデル」は穏健だが自由な詩風を導入し、トゥービム、スウォニムスキ、イワシュキェビッチらの優れた詩人を多く生んだ。小説では一方でビトキェビッチ、シュルツ、ゴンブロビッチら前衛的文学の奇才を生みながらも、ドンブロフスカ、ナウコフスカら伝統的リアリズムが主流を占めた。
 周知のように1939~45年までのナチスによる占領でポーランドは大ぜいの知識人、文化人を失った。戦後生き残った人々による戦争体験の芸術的形象化は、ボロフスキ、アンジェイエフスキらの新進を含む全作家が真っ先に取り組んだ問題であった。しかしやがて、いわゆる「スターリン体制」の強化による暗黒の時代は作家たちを統制したが、彼らの自由を追求するペンを完全に折るには至らず、その壁はすこしずつ破られ、1957年以降に大幅に文学は息を吹き返した。社会主義リアリズムは形骸(けいがい)化したものの、権力との対立はさまざまな形で火を吹いた。そのなかにあっても小説のブランディス、コンビツキ、詩のルジェビッチ、ヘルベルト、シンボルスカらの活躍は目覚ましく、テーマやスタイルでも他の社会主義国にみられない多様性を示した。戯曲で現代を鋭く風刺したムロジェク、世界的なSF作家として評価高いレム、詩人バランチャクらが国を離れた。しかし全国的な盛り上がりをみせ、国際的な注目を集めた「連帯」運動から戒厳令、自由民主主義体制への移行(1989)までの激動期のあと、沈滞した文化活動全般に新たな芽吹きが期待されている。[吉上昭三・長谷見一雄]

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