有・在(読み)あり

精選版 日本国語大辞典の解説

あり【有・在】

〘名〙 (動詞「ある(有)」の連用形の名詞化) あること。あるもの。存在。現実。多く「の」を伴って「ありの…」の形で用いられる。

あ・り【有・在】

〘自ラ変〙 ⇒ある(有)

あ・る【有・在】

〘自ラ五〙 あ・り 〘自ラ変〙
[一] 物事や生物などの存在が認められる。
① 存在する。
(イ) 人、動物の場合。いる。
※古事記(712)上・歌謡「遠々し 高志(こし)の国に 賢(さか)し女(め)を 阿理(アリ)と聞かして」
※竹取(9C末‐10C初)「今は昔、たけとりの翁といふもの有けり」
(ロ) 無生物、物事などの場合。
※古事記(712)下・歌謡「大猪子(おほゐこ)が 腹に阿流(アル) 肝向かふ 心をだにか 相思はずあらむ」
※万葉(8C後)一七・四〇〇八「天ざかる 鄙(ひな)にはあれど わが背子を 見つつしをれば 思ひやる 事も安利(アリ)しを」
※平家(13C前)三「日本国に、平家の庄園ならぬ所やある」
② この世に生きている。生き長らえる。生存する。
※古事記(712)下・歌謡「鏡なす 吾(あ)が思ふ妻 阿理(アリ)と 言はばこそよ」
※平家(13C前)六「小督(こがう)があらんかぎりは世中よかるまじ」
③ ある場所にとどまっている。また、住む。暮らす。
※万葉(8C後)一五・三五九四「潮待つと安里(アリ)ける船を知らずしてくやしく妹を別れ来にけり」
※徒然草(1331頃)五八「家にあり、人に交はるとも後世を願はんに難かるべきかは」
④ ちょうどその場にいる。居合わせる。
※竹取(9C末‐10C初)「もち月の明かさを十合せたるばかりにて、ある人の毛の穴さへ見ゆる程なり」
⑤ あるものに所属して存在する。所有されている。
※竹取(9C末‐10C初)「たつのくびに五色の光ある玉あなり」
※方丈記(1212)「財あればおそれ多く、貧しければうらみ切なり」
⑥ 目立つ状態で存在する。
(イ) (「世にあり」の形で) 繁栄して過ごす。はなやかに暮らす。
※平家(13C前)一〇「維盛こそ〈略〉むなしうなるとも、このごろは世にある人こそ多けれ」
(ロ) すぐれている。すぐれたところを持つ。
※竹取(9C末‐10C初)「くらもちの御子は心たばかりある人にて」
※保元(1220頃か)中「弓矢取っても打物取っても、我こそあらめ」
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉下「腕に芸のあるのが〈略〉一番安心」
⑦ (言葉が存在するの意から、多く「…とある」の形で)
(イ) 口に出す。文字に書かれている。「言う」「書く」より間接的な表現なので、敬意がこもる場合が多い。
※古今(905‐914)夏・一六一・詞書「めして郭公まつ歌よめとありければよめる」
(ロ) 「ある」が「口に出す」の意を失って形式的に用いられる場合。
※破戒(1906)〈島崎藤村〉一「飯山病院へ入院の為とあって」
⑧ (多く動作が付随している物事を表わす名詞の下にきて) 行なわれる。起こる。
※竹取(9C末‐10C初)「玉の取りがたかりし事を知り給へればなんかんだうあらじとて参りつると申す」
※平家(13C前)六「改元あって寿永と号す」
⑨ (間に時があるの意から) 時間がたつ。経過する。
※竹取(9C末‐10C初)「三日ばかりありて、漕ぎかへり給ひぬ」
※枕(10C終)一〇四「いくばくもあらで明けぬ」
[二] 補助動詞として用いられる。
① (断定の助動詞「なり」「たり」「だ」の連用形「に」「と」「で」に付いて) 指定の意を表わす。間に助詞がはいる場合が多い。
(イ) 「に」に付く場合。
※古事記(712)中・歌謡「一つ松 人に阿理(アリ)せば 太刀佩(は)けましを」
※万葉(8C後)五・八九三「世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にし安良(アラ)ねば」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「いとやむごとなき際(きは)にはあらぬが」
(ロ) 「と」に付く場合。
※万葉(8C後)三・三四三「なかなかに人と有(あら)ずは酒壺になりにてしかも酒にしみなむ」
※方丈記(1212)「人の友とあるものは」
(ハ) 「で」に付く場合。
※歌舞伎・今源氏六十帖(1695)二「乙女は〈略〉後々は幾代之介と夫婦にする筈である」
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「過日(このごろ)も或儒先生〈略〉髦髪(かみのけ)までが長いであると、見て来た様なる国字解」
② (種々の語に付いて) そういう状態である意を表わす。間に係助詞のはいる場合が多い。
(イ) 形容詞、形容動詞の連用形に付く場合。
※古事記(712)上・歌謡「赤玉は 緒さへ光れど 白玉の 君が装(よそひ)し たふとく阿理(アリ)けり」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「かくこまかにはあらで」
(ロ) 打消の助動詞「ず」、推量の助動詞「べし」の連用形に付く場合。
※古事記(712)下・歌謡「置目(おきめ)もや 淡海の置目 あすよりは み山隠りて 見えずかも阿良(アラ)む」
※枕(10C終)三五「おのづからあるべきことはなほすべくもあらじものを」
(ハ) 副詞「かく」「しか」「さ」などに付く場合。
※万葉(8C後)五・八一九「世の中は恋繁しゑやかくし阿良(アラ)ば梅の花にもならましものを」
(ニ) 係助詞「こそ」を受けて「…は…あれ」の形の場合。「…については…こそがそうである」の意。
※枕(10C終)二六八「男こそ、なほいとありがたくあやしき心地したるものはあれ」
③ (動詞の連用形、あるいはそれに助詞「て」「つつ」を添えた形に付いて) 動作、作用、状態の進行、継続や、完了した作用の結果が残っていることを表わす。間に係助詞のはいる場合もある。
(イ) 動詞の連用形に助詞「て」を添えた形に付く場合。
※万葉(8C後)一五・三六八六「旅なれば思ひ絶えても安里(アリ)つれど家にある妹し思ひがなしも」
※竹取(9C末‐10C初)「かくさしこめてありとも」
※洒落本・郭中奇譚(1769)弄芲巵言「物の入ってある長持と間夫のない女郎とはないものだ」
(ロ) 助詞「つつ」に付く場合。
※万葉(8C後)八・一五二〇「かくのみや 息づきをらむ かくのみや 恋ひつつ安良(アラ)む」
(ハ) 動詞の連用形に付く場合。
※西洋道中膝栗毛(1874‐76)〈総生寛〉一二「大砲千挺余も据つけあり」
④ (動詞、形容詞の連用形に、助詞「て」を添えた形に付いて) そのままの状態で過ごす。それで済ますの意を表わす。
※後撰(951‐953頃)恋三・七二五「なき名ぞと人にはいひて有ぬべし心のとはばいかがこたへん〈よみ人しらず〉」
※徒然草(1331頃)六「子といふものなくてありなん」
⑤ (動作性の漢語名詞、または動詞の連用形に付いて) その動作をする人に対する尊敬の意を表わす。
(イ) 敬意を含んだ動作性の漢語名詞(接頭語「御」によって敬意を添えるものもある)に付く場合。
※平家(13C前)一「正月五日、主上御元服あって」
※浄瑠璃・今宮心中(1711頃)中「是御覧あれ」
(ロ) 動詞の連用形に、敬意の「御」をのせた形に付く場合。
※太平記(14C後)三「少し御まどろみ有ける御夢に」
※浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)上「お気遣あられな」
(ハ) 敬意を含まない動作性漢語名詞や動詞の連用形に付く場合で、(イ)(ロ)よりは敬意が薄い。
※平家(13C前)一「中納言兼雅卿も所望あり」
※玉塵抄(1563)三七「ちとねうすと思ふほどにそなたは先づ帰りあれぞ」
[語誌](1)鎌倉時代以前には、人か物事かに関わらず、存在を表わすために「あり」が用いられた。敬語形としては、尊敬語の「おはす」「いますがり」「ござる」、謙譲語の「はべり」「候」等が用いられ、時代・文献によって変遷がある。
(2)江戸時代以後、特定の時間・場所を占める存在の意味ではもっぱら「いる」が用いられるようになった。しかし現代語でも抽象的な存在を表わす場合や漠然と有無を問題にする場合には、人間を主語とする場合でも「ある」が用いられる。「相手のあることだけに」「兄弟が三人ある」など。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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