〘形口〙 うす・し 〘形ク〙
※万葉(8C後)六・九七九「わが背子(せこ)が著(け)る衣(きぬ)薄(うすし)佐保風はいたくな吹きそ家に至るまで」
① 物や、人の群がる密度が少ない。まばらである。
※書紀(720)舒明即位前・歌謡「
畝傍山(うねびやま) 木立于須家苔
(ウスケど) 頼みかも」
※
浄瑠璃・心中天の網島(1720)上「人足うすく成にけり」
② 気体、液体の密度、濃度が少ない。濃くない。淡い。
※源氏(1001‐14頃)薄雲「雲のうすく渡れるが鈍(にび)色なるを」
※
徒然草(1331頃)四九「この世の濁りもうすく」
※古今(905‐914)秋下・二六七「さほ山のははその色はうすけれど秋はふかくもなりにけるかな〈
坂上是則〉」
※風雅(1346‐49頃)夏・四四二「鳴く声も高き梢のせみのはのうすき日影に秋ぞちかづく〈伏見院〉」
④ 物の匂いや味わいなどが淡い。濃くない。
※後拾遺(1086)恋三・七五六「移り香のうすく成り行くたき物のくゆる思ひに消えぬべきかな〈
清原元輔〉」
[三] 心、考え、経験などが深くない。浅い。
① 愛情、徳、恵み、その他の感情が深くない。薄情である。
※万葉(8C後)二〇・四四七八「
佐保川に凍り渡れる薄氷
(うすらび)の宇須伎
(ウスキ)心をわが思はなくに」
※夫木(1310頃)三三「世のすゑの習ときけとあさ布のうすく成り行くたみもいとほし〈公朝〉」
② 思慮、知識などが乏しい。浅い。浅薄である。浅学である。
※大唐三蔵玄奘法師表啓平安初期点(850頃)「朕い学浅(ウすク)心拙ければ」
③ 洗練されていない。野暮ったい。
※浮世草子・
傾城禁短気(1711)五「こちは一分
(ぶん)睟
(すい)のやうに思へど、そなた達の目からは、まだ薄
(ウス)う見へるかして」
④ 知能程度が低い。おろかである。
※古活字二巻本日本書紀抄(16C前)二「貧なれば智恵もうすうなるぞ」
[四] 物事が豊かでない。乏しい。十分でない。
① 効果、利益、収入などが少ない。
※紫式部日記(1010頃か)寛弘五年九月
一一日「
阿闍梨(あざり)の験
(げん)のうすきにあらず」
※京大二十冊本毛詩抄(1535頃)一七「年貢をもうすう取て」
② 幸運、才能に恵まれない。
※海道記(1223頃)序「身運は本より薄ければ」
※浄瑠璃・曾我扇八景(1711頃)紋尽し「こよひ見へぬはうんの
うすいお人やと」
③ 財産が乏しい。たくわえが少ない。
※仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)一「うすき身上(しんしゃう)の者なれども」
※浮世草子・傾城禁短気(1711)二「すこし身躰(しんだい)薄(ウス)く成ては」
※浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油屋「お前は、ても薄(ウス)いお姿で」
[五] 物事の程度が強くない。弱い。軽い。かすかである。
① 病、傷、痛み、苦難などが軽い。
※御湯殿上日記‐文明一六年(1484)一〇月二二日「うすく御おこりあり」
② 勢いが弱い。力が弱い。存在感が乏しい。
※足利本論語抄(16C)季氏第十六「少秊の時は〈略〉血気薄いほとに」
※浄瑠璃・
心中重井筒(1707)中「ヤアこたつの火がうすひ」
③ 関係などが浅い。
※吾輩は猫である(1905‐06)〈
夏目漱石〉一〇「関係の薄い所には同情も自
(おのづ)から薄い訳である」
④ 物事に対する気持の程度や感じ方の程度が弱い。
※滑稽本・七偏人(1857‐63)三「追剥の親方が
抜衣紋に成て居ちゃア恐怖
(こは)みが薄い」
⑤ 視力が弱い。目がよく見えない。
※鳥羽家の子供(1932)〈
田畑修一郎〉「視力の薄い眼で」
⑥ はっきりしない。かすかである。
※冬の宿(1936)〈
阿部知二〉五「薄い笑ひを浮べてゆくのであった」
[六] 特殊な分野で用いる。
① 囲碁で、石の形(布石)がしっかりしていない。
② 芸人仲間で、客の入りが悪い、また、ふところぐあいがさびしい。
※洒落本・風俗八色談(1756)五「よい客は見限て来ず自然と客もうすく成なり」
うす‐さ
〘名〙