日本大百科全書(ニッポニカ) 「鐘(マードックの小説)」の意味・わかりやすい解説
鐘(マードックの小説)
かね
The Bell
イギリスの女流作家J・I・マードックの長編小説。1958年刊。湖畔の修道院の沈鐘伝説をもとに、その鐘を引き上げ、新たに据え付けようとする修養会のグループ内部に繰り広げられる愛の可能性あるいは不可能性の物語。無知だが奔放で愛すべき女ドーラが愛した対象は、実は男しか愛することのできないマイクルだった。一方、マイクルをめぐって、かつての「恋人」ニックとその双生児の妹が関係し、やがて破局が訪れる。善意をもちながらも、その性情ゆえに引き裂かれる、現代における男女の愛の不毛を、鋭く哀切にしかもユーモアを込めて描いている。
[出淵 博]
『丸谷才一訳『鐘』(集英社文庫)』
[参照項目] |