物理探査とは、地層あるいは岩石のもつ物理的性質から生じる物理現象を、陸上、空中、海上あるいは地中から測定したデータに対し、まず電子計算機などを用いて処理した結果に解釈を加え、地下の構造形態およびその構造内にどういう物性値をもった媒質が賦存するかを解明し、その結果として石油・天然ガス、石炭、各種金属、地熱、などの地下資源や、断層の存否などの情報を得るための基礎データを与える総合技術である。坑井や坑道が、地下構造や物性値を直接的に採取することにより、調査地点における一次元あるいは点としてのデータを与えるのに対して、物理探査では、物理定数を介して間接的にデータを取得することにより、二次元、三次元あるいは線、面的な情報を与える点が根本的に相違する。
当初、アメリカや日本で石油や金属資源鉱床の調査に用いられたため、物理探鉱とよばれたが、その後、土木・環境・防災分野などへの適用範囲の拡大および人工衛星データの処理、解析などの探査手法の多様化により、物理探査ということが多くなった。物理探査技術は、未知の地下構造に対し探査を実施し、そこから得た現場データを電子計算機で処理してS/N(信号/雑音)比の向上した記録断面を得る「順問題」と、記録断面に処理と解釈を加え、分解能の向上した地下構造を再構築する「逆問題」に分類される。物理探査には、利用する物理現象により各種の方法があり、また探査対象も、資源、土木・建設、環境、防災などと多岐にわたる。調査場所も、陸上はもちろんのこと、人工衛星での超高度、航空機やヘリコプターによる空中、専用の物理探査船による海上、坑井を用いた地中にまで及ぶ。対象深度も大気圏、地表、地下数キロメートルにまで達する。
物理探査にあたっては、次の点に留意しなければならない。
(1)用いる探査手法の決定のために探査対象の物性値を把握すること
(2)調査仕様の決定のために探査対象の物理的スケールを把握すること
(3)用いる探査手法を正しく理解しその限界を把握すること
(4)探査結果の精度向上のために複数の探査手法を用いて総合解釈を行うこと
またエレクトロニクス分野の技術革新に支えられて、物理探査技術の進歩には著しいものがある。その主要な動向として次のようなものがあげられる。
(1)三次元調査の普遍化
(2)S波地震探査の導入
(3)会話形式による処理、解釈
(4)各種探査技術の有機的結合
(5)物性解釈・総合解釈
(6)四次元調査(モニタリング)の導入
(7)バーチャルリアリティ(仮想現実)技術の普及
(8)新しい物理・数学的概念の導入
以下に各探査法とそれに利用される探査技術、探査対象などについて個別に述べる。
[芦田 讓]
人工的に発生させた弾性波動の地中での伝播(でんぱ)現象を利用して地下構造およびその物性値を探査する方法。弾性波が、伝播速度と密度の積である音響インピーダンスの異なる境界面に入射すると、そこでスネルの法則により反射、屈折する。臨界屈折角で屈折し、地表に戻ってくる屈折波を利用するのが屈折法で、とくに土木分野で浅部構造と弾性波伝播速度を推定するのに用いられる。地層境界で反射して地表に戻ってくる反射波を利用するのが反射法であり、数キロメートルにまで及ぶ地下深部構造を探査し、主として石油・天然ガスなどの資源の探査に用いられる。弾性波としては伝播速度がもっとも速く、初動として現れるP波を用いるが、S波も併用してポアソン比などを求めることも行われている。
[芦田 讓]
地下の密度分布の相違を用いて地下構造を探査する方法。地球上の標準的な重力値は、地球による引力と地球が自転していることにより生じる遠心力との合力であるが、地表で測点する重力値は、地球が完全な球でないこと、地球の自転による遠心力が緯度により異なること、さらに測定点の標高、周辺の地形、地下の地質構造の変化によって重力異常を示す。地表で測定した重力値に対し、海洋潮汐補正、緯度補正、地形補正、標高補正、平均海水面と測定点までの地層の影響の補正を行い、地下の密度分布の影響による平均海水面上の重力異常値から地下構造を推定する。
[芦田 讓]
地下の磁性体の分布の相違を利用して、地下の磁気的構造を調べる方法。地球自体が一つの大きな磁石(地球磁場)と考えられ、磁石に近づけた鉄粉がそれ自体磁石になるのと同じ原理で、地下にある磁鉄鉱のような強磁性の岩石も磁化している。これを誘導磁化という。また、火成岩も固結するときに地球磁場のなかで冷却するために残留磁化を得る。地表あるいは空中で磁界(磁場)の大きさを測定し、地球磁場の影響を補正した地磁気異常値から地下構造を推定する。
[芦田 讓]
地下構造の主として比抵抗としての電気的性質の分布の相違を利用して地下構造を調べる方法。人工的あるいは自然に発生している電界(電場)による電位や電流などの諸量を地表で測定し、比抵抗異常分布や分極異常分布を解析し、地下構造を推定する。たとえば、電気探査の一つの手法である比抵抗法では、地中に直流電流を流し、地層のもつ比抵抗値により生じる電圧値を測定し、地下の比抵抗分布から地下構造を推定する。
[芦田 讓]
電流と磁気との相互作用を利用し、地中を流れる電流によって生じる磁界(磁場)を測定して、地下の電気的構造を推定する方法。コイルに交流電流を通じ一次磁場を発生させて地中に流すと、その交流磁場を妨げるように二次的な渦電流が流れる。渦電流の大きさや形状は地下の比抵抗分布に依存する。この渦電流はそれ自体、磁場(二次磁場)を発生している。一次磁場と二次磁場を測定し、解析により地下の比抵抗分布を推定する。電磁探査には、自然の電磁場を用いるか人工の電磁場を用いるか、水平探査か垂直探査を目的とするか、時間領域か周波数領域かなどにより各種の手法が提案されている。電磁探査の一つの手法である地中レーダーは、アンテナで発生させた電磁波を地表から地中へ入射し、誘電率の異なる地層境界からの反射波をアンテナで受信し、地下構造を決定する。また、MT(地磁気・地電流)法では、太陽風の作用による地磁気脈動や遠方の雷放電による空電などの自然の平面電磁波を信号源とし、地表で測定される電場とそれに直交する磁場から大地の比抵抗を求める。MT法では自然の信号源ではなく、人工信号源を用いて地下浅部の探査を行う方法もある。
[芦田 讓]
地下構造内に含まれる天然放射性鉱物(放射能鉱物)から放出される放射線(主としてγ線)を地表あるいは空中から測定する探査。直接的に放射性鉱床を探査したり、断層や地すべり地層に放射性鉱物が含まれる場合には間接的に断層や地すべりの状態が解釈される。
[芦田 讓]
人工衛星に搭載された各種センサーにより、地表からの電磁波の反射、散乱、輻射(ふくしゃ)(放射)などの現象を利用する探査。人工衛星の回帰性を利用して、地表の状態変化をモニタリングする探査手法としても用いられる。
[芦田 讓]
ジオトモグラフィとはさまざまな方法で地下を調査することにより、その内部構造を高精度に可視化する技術である。医療診断分野で顕著な効果をあげているCTスキャンの考え方を用いて地下構造を推定する方法をいう。発震点と受振点あるいは電流電極と電位電極とで囲まれた調査断面内の物性値の二次元分布を、伝播(でんぱ)方向の異なる多数の点で観測することにより、多くの方向の投影データの一次元分布を求め、それを用いて調査断面内の物性値の二次元分布を再構成する技術である。
[芦田 讓]
『アメリカ合衆国航空宇宙局編、黒田泰弘訳『リモートセンシング 人工衛星写真 地球資源探査の解析と応用』(1977・朝倉書店)』▽『早川正巳著『物理探査 資源開発から自然認識へ』(1982・日本放送出版協会)』▽『土と基礎の物理探査編集委員会編『土と基礎の物理探査』(1985・地盤工学会)』▽『落合敏郎著『地下水・温泉の放射能探査法』(1996・リーベル出版)』▽『落合敏郎著『活断層のガンマ線探査』(1997・リーベル出版)』▽『伊藤芳朗・楠見晴重・竹内篤雄編『斜面調査のための物理探査――地すべり・地下水・岩盤評価』(1998・吉井書店)』▽『災害科学研究所トンネル調査研究会編『地盤の可視化と探査技術――比抵抗高密度探査法の実際』(2001・鹿島出版会)』
直接目に見ることのできない地下のようすを,さまざまの物理現象を利用して調べること。地球物理探査の略称。その学問・技術体系は地球物理学に基礎を置くが,物理探査では地下資源の開発や土木工事といった人間生活に関連した地殻上部をおもな対象としている。地下の物質はそれを構成している岩石の性質や岩石のすき間に存在する水溶液の性質,およびそれらが置かれている温度,圧力といった物理状態によって規定される固有の物理・化学的性質を有している。こうした地下物質の性質は,しばしば地上で観測される物理量に反映している。例えば,固結度が低く密度の小さい堆積層中に貫入した密度の高い火成岩が存在するような場合,密度の差が地表の地球重力値の異常として観測される。この重力値の異常(重力異常という)を解析することにより,地下の物質の密度分布を知ることができる。この例では,地下物質の性質が自然の状態で地表の物理量に反映されている。このような自然の物理現象を利用した探査を受動的探査と呼ぶことがある。一方,これとは逆に,地下物質の性質が自然の状態では地表の物理量に反映されがたい場合がある。しかし,このような場合でも,人間がなんらかの物理的な場を地下に作り出してやると,それに地下物質が応答し,結果として地表にいながら地下の物理状態を知ることが可能となることがある。一般には岩石は絶縁体であるが,水溶液が存在する場合には地下物質は導電性を示す。したがって,地下の電気伝導度は地熱や地下水の探査の効果的な物理量であるが,これを調べるために地下に電流を送り出し人工電場を形成する。この電場には地下の電気伝導度の分布が反映されているので,観測・解析により地下の電気的状態を知ることができる。このような人工的物理現象を利用する探査を受動的探査に対比して能動的探査と呼ぶことがある。
物理探査は利用する物理現象により,地震探査(弾性波探査),電気探査,磁気探査,重力探査,放射能探査,地温探査などのさまざまな探査法に分類される。このほかに,坑井内の物理量を観測する方法として物理検層法がある。また,使用するセンサーの場所により,地表,空中,海上,海底,坑道内,坑井内物理探査などの呼名がある。探査対象も多岐にわたり,石油,金属,非金属,石炭,ウラン,地熱,地下水,温泉といった地下資源のほかに,土木,建築,防災といったさまざまの分野で利用されている。
物理探査はこのように地表から地下のようすを遠隔的に調べるものであり,遠隔的なため一定の限界がある。さらに近年,開発対象とする地下資源が急速に地殻深部へと移っているように,探査する地下がより深くなる傾向にある。一方,近年のハードウェア,ソフトウェア技術の目ざましい革新に伴い,物理探査は急速に情報工学的色彩を濃くしつつあり,遠隔的とはいえ,地下深部のようすをかなり精密に認識しうる技術となりつつあるといえる。
執筆者:小川 克郎
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…地殻の構造発達史を明らかにする純学術的な目的や,各種の土木工事の地盤調査,石油その他の有用地下資源の探鉱,開発のための調査などの実践的目的そのほか,地質調査の目的はさまざまである。目的の多様性に応じて,調査の方法と,野外における地表地質調査をはじめとして,物理探査やボーリングなどの特殊な地質調査から,航空機や人工衛星による地質調査や調査船を用いて行う海底地質調査など大がかりなものまで,さまざまである。それらは互いに相補的であり,目的によってはいろいろな方法が複合的に用いられる。…
※「物理探査」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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