(読み)おとこ

精選版 日本国語大辞典 「男」の意味・読み・例文・類語

おと‐こ をと‥【男】

〘名〙 人間のうち、精子をつくる器官をそなえている方。
① 若々しく生命力の盛んな男子。⇔少女(おとめ)
(イ) 青年の男。成年に達した男性。
古事記(712)上「麗(うるは)しき壮夫(ヲトコ)に成りて出で遊行(あそ)びき〈壮夫を訓みて袁等古(ヲトコ)と云ふ〉」
書紀(720)神代上「憙哉(あなうれしゑや)可美(うまし)少男(ヲトコ)に遇ひぬること〈少男、此をば烏等孤(ヲトコ)と云ふ〉」
(ロ) 元服して一人前となった男子。→男になす男になる
老幼に関係なく、男性。男子。⇔女(おんな)
万葉(8C後)二〇・四三一七「秋野には今こそ行かめもののふの乎等古(ヲトコ)(をみな)の花にほひ見に」
※土左(935頃)発端「をとこもすなる日記といふものを、女(をむな)もしてみんとてするなり」
③ 夫婦関係、男女関係での男性。
(イ) 夫。良人。妻に対する配偶者。
古今(905‐914)雑下・九七三・左注「昔おとこありけるをうなの、おとこ訪はずなりにければ」
(ロ) 情人。情夫。
※続春夏秋冬(1906‐07)〈河東碧梧桐選〉冬「妓は皆舸夫を情夫(ヲトコ)や小夜千鳥〈六花〉」
④ 出家していない男性。在俗の男性。
※成尋母集(1073頃)「法師なるも、おとこなるも、おとづれつとして」
召使いの男性。下男。奉公人。
源氏(1001‐14頃)若紫「おとこどもぞ御簾(みす)のとにありける」
浮世草子・傾城歌三味線(1732)二「是非なく男になりまして、此東後屋(とうごや)へ料理人にありつき」
⑥ 男性としての特質。また、その特質を持った男性。
(イ) 男らしい男子。雄々しい男子。りっぱな男子。
曾我物語(南北朝頃)五「弓矢を取るも、取らざるも、おとこと首をきざまるる程の者が」
(ロ) 男子としての面目。名誉。男子の意地
浄瑠璃曾根崎心中(1703)「あいつもおとこ磨くやつ、をれが難儀(なんぎ)も知ってゐる」
(ハ) 男ぶり。男前。男子の容貌
※浮世草子・好色一代男(1682)四「あたまつき、人に替り、男(オトコ)も勝れて、女のすくべき風(ふう)也」
⑦ 雄性のもの。おす。「男犬」「男柱」等の熟語形で用いることが多い。
⑧ 対になったもののうち、大きい、けわしいなどの性質をそなえている方。「男坂」「男山」など。
[語誌](1)「ひこ(彦)」「ひめ(姫)」などと同様、「こ」「め」を男女の対立を示す形態素として、「をとめ」に対する語として成立した。「をと」は、「をち(復)」「をつ(復)」と同語源とみられ、若、未熟を意味する。
(2)本来、若い青年男子(とりもなおさず結婚適齢期にあることを意味する)を指したが、上代からすでに「をみな(をむな・をんな)」と対の関係が成立して、年代・世代を問わず男性(一般)を指す語となった。

だん【男】

〘名〙
① おとこ。男子。男性。〔易経‐繋辞上〕
② むすこ。せがれ。子息。〔易経‐説卦
③ わかもの。元気さかんな者。壮丁
五等爵の第五位。旧華族制度でいう。ヨーロッパの貴族の階級についても用いる。男爵。
※号外(1906)〈国木田独歩〉「『加ト男(ダン)』とは『加藤男爵』の略称」 〔礼記‐王制〕

なん【男】

〘名〙
① おとこ。おのこ。男性。だん。
※妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)五「また、これ男(ナン)(〈注〉ヲトコ)、これ女(にょ)と分別せされ」
② 息子。せがれ。だん。
※太平記(14C後)一二「君は何の処の人、誰が家の男(ナン)にて御坐(おはします)ぞ」

おとこ‐をとこ‥【男】

〘形シク〙 いかにも男という感じである。男らしい。⇔女し
※浮世草子・古今堪忍記(1708)三「いまより男しきふるまひなせそ、いづかたにも似つかはしき方に縁もこそあれ」

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デジタル大辞泉 「男」の意味・読み・例文・類語

おと‐こ〔をと‐〕【男】

《「おと」は、動詞「お(復)つ」と同語源で、若々しいの意。「おとめ」に対する語》

㋐人間の性別で、子を産ませる能力と器官をもつほう。男性。男子。⇔
㋑人以外の動植物で雄性のもの。おす。「馬」
成熟した男性。子供を産ませる力を持つようになった男性。また、一人前の男子。「になる」
強いとかたくましいとか、一般に1が備えていると考えられる性質をもっている人。「たるもの初志を貫徹せよ」
男子としての面目、体面。また、男ぶり。「が立つ」「をあげる」
情夫。情人。愛人。「ができる」
男子の奉公人。下男。「を何人も使って商売をやる」
(接頭語的に名詞の上に付いて)一対のもののうち、大きいほうのもの、険しいほうのものなどを表す。「坂」
(上代、少女おとめに対して)未婚の若い男子。
「あなにやし、え―を」〈・上〉
夫婦関係にある男子。夫。
「乳母なる人は、―なども無くなして」〈更級
10 出家していない男子。
「西行法師―なりける時」〈十訓抄・八〉
11 元服した男子。
「汝七歳にならば―になして」〈平家・二〉
12 男色。若道にゃくどう
「順礼にはあらぬ―修行の君」〈浮・三代男・二〉
[類語](1㋐)、(2)(3男性男子野郎(特に(2)(3)の意で)男児おのこ壮丁そうてい壮夫ますらお丈夫じょうふ紳士殿方ジェントルマン/(5情夫間夫間男色男男妾若い燕愛人恋人情人いろ彼氏彼女いい人思い人思い者情婦手掛け二号側室側女そばめ愛妾囲い者思い者内妻色女手つき一夜妻ボーイフレンドガールフレンドラバーフィアンセダーリンハニーパートナーアモーレ

だん【男】[漢字項目]

[音]ダン(漢) ナン(呉) [訓]おとこ
学習漢字]1年
〈ダン〉
おとこ。「男子男児男女男性男装男優
五等爵の第五位。「男爵
〈ナン〉
おとこ。「男色下男げなん美男善男善女ぜんなんぜんにょ
むすこ。「次男嫡男長男・一男一女」
〈おとこ〉「男前作男さくおとこ間男まおとこ雪男
[名のり]お・おと
[難読]男郎花おとこえし益荒男ますらお

お〔を〕【男/夫】

《「」と同語源。「」に対する語》
おとこ。男子。
「吾が大国主こそは―にいませば」〈・上・歌謡〉
おっと。
はもよにしあれば、て―はなし」〈・上・歌謡〉
(「雄」「牡」とも書く)他の語の上または下に付いて複合語をつくる。
㋐男性、または動植物のおすを表す。「―牛」「―花」「益荒ますら―」
㋑一対の物のうち、大きいもの、または男性的と思われるほうのものを表す。「―岳」「―竹」
㋒おおしい、勇ましい意を表す。「―たけび」「―心」

なん【男】[漢字項目]

だん

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【性】より

…〈性〉ということばにはさまざまな意味がある。まず〈性〉は生物の多くの種にみられる二つの表現形態の区別で,ヒトであれば男性―女性,動植物であれば雄性(雄)―雌性(雌)の区別を意味する。次に,この二つの性が存在するところから生じる行動,現象も一般に〈性〉といわれる。…

※「男」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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