デジタル大辞泉
「立つ」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
立つ
たつ
足(下肢)で躯幹(くかん)を支えることをいう。つまり、重力の方向と平行に身体を長軸として支持することであり、直立姿勢とは、人間特有なものである。人間は、両足で躯幹を支えるが、ときには片足で支えることもある(片足立ち)。ほかに一時的なものとして「逆立ち(倒立)」「膝(ひざ)立ち」がある。逆立ちは、足のかわりに手(上肢)を使って躯幹を支え、膝立ちは、膝を曲げ膝頭(ひざがしら)(大腿(だいたい))で躯幹を支えることである。
[森 義明]
人間の体位の基本動作としては、立つ(立位)・座る(座位)・横たわる(横臥(おうが)位)の三つに分けられる。横たわることは、躯幹、四肢ばかりでなく、気持ちまでも休息の状態となるが、これに対して立つことは、歩く・走る・跳ねるなどのための前提であり、いいかえると、動くための基本型である。立つ肢位とは、足底(蹠(あしうら))を床面につけ、股(こ)関節と膝(しつ)関節を伸ばし、その上に骨盤が連なり、さらに躯幹、頭部がのり、これらの平衡感覚を中脳・小脳などが支配し、下肢を立て躯幹を支えるわけである。その場合、上肢は、バランスをとることに関与している。
立つ姿勢としては、二本の足を用いるのが基本型であるが、休息のために杖(つえ)を用いたり、何かに寄りかかる際に一本の足に体重をかけて立ったりすることもある。乳児期や下肢筋の弱い場合には、四つんばい(高這(ば)い)となり両手を使って尻(しり)を高くあげ、二本足立ちの前段階にあたる四つ足立ちなどがある。
[森 義明]
立つ場合、足の底(蹠)全体を床面につける「蹠立」が基本となる。ほかに前足部を浮かしたかかとでの立ち方、足底の内縁を浮かし内反足ぎみに外縁だけでの立ち方、背伸びの場合には、尖足(せんそく)位となり、つまさき立ちの「趾立」がある。一般には趾(あしゆび)を曲げて趾の蹠部で立つが、バレリーナでは、趾を伸ばし趾の先端で立つ「蹄立(ていりつ)」の立ち方などがある。
[森 義明]
人間が直立二足歩行をするようになった原因については諸説がある。上肢を手として使うようになったために、下肢で躯幹を支えるようになったという説や、樹上生活で枝にぶら下がって移動するブラキエーションbrachiation(腕渡り)が直立姿勢をもたらし、やがて下肢(後ろ足)で移動できるようになったとする説などである。
いずれにせよ、直立姿勢は上肢(手)を歩行器としての役割から解放した。こうして、手がつかまり立ちや立つ場合のバランスをとるのに用いられるなど、下肢筋の補助的な役割を果たすようになり、さらに肩の運動や手を自由に使ったりすることで道具作りや道具の使用、そのための行為が脳を刺激し、さらに言語を生み出すに至ったと考えられている。
[森 義明]
普段なにげなく立ったり座ったりしているが、立ち方について、すこし詳しくみてみよう。
[森 義明]
生後7~9か月に入ると股関節、膝関節を曲げ首をあげて座ることができる。そして足底が床面に触れると、足を伸ばし立とうとする支柱反射supporting spinal reflexが現れる。「四つんばい」から、さらに、手を伸ばし物につかまり躯幹を引き寄せながら立つことができるようになる。
[森 義明]
無意識に行っている動作を分解してみると、正座位から趾を立て跪座(きざ)位をとり、ついで片方の足を前に出して立て、体重を前方に移し立ち上がる、そうした一連の動きがある。老人や筋力の弱い人は、手を膝に当て膝折れしないように手で支えて立つ(詳しくは項目「座る」を参照)。
[森 義明]
躯幹を前に曲げ、体重を前方に移し、膝関節を伸ばして立つ。椅子の場合でも、筋力の弱い人の立ち方は、大殿筋および大腿四頭筋筋力の低下のために、膝の上に手を当て、膝を伸ばしながら手を大腿近くへずらしながら、躯幹を押し上げるようにして起立する。これを「登攀(とうはん)性起立」climbing up his legと称し、進行性筋ジストロフィーなどにみられることがある。
[森 義明]
正しい立位とは、外見上美しく見え、機能的であり、同じ姿勢を続けても疲労感がなく、エネルギー消耗の少ない姿勢である。具体的にいうと、立位や歩行の際には、すっと背を伸ばし、自然に胸が腹より前に出ている姿勢がいい。疲労が重なると、あごが前に出、そのため肩があがり、背中が丸くなり、それに伴い代償的に腹を突き出す姿勢になる。そうなると、やがて立っていることも苦痛となり、腰を下ろし、座るか、しゃがむかせざるをえない。「気をつけ」という立ち方がある。これは意識的にとる立つ姿勢で、両かかとをそろえ、両足先の角度は約60度に開き、膝関節、腰を伸ばし、肩を後ろに引き正面を見てあごを引く。その際、両手は指先を伸ばし大腿部の横にぴたりとつける。この立位は、いかなる動き方を命じられても、すぐに対応できる立ち方であるといわれている。
楽な立ち方とは、厳密な定義はありえないが、それぞれ自分が立っていて、もっとも楽な立ち方でいい。一般に両足を30~40センチメートルに開き、つまさきは30度程度、外側に向けて開き、両下肢に均等に体重をかけ、顔を持ち上げ、前面を見て、両手は軽く後ろにあわせる。この体位が楽な立ち方である。「休め」は、「気をつけ」に対しての反対の立ち方で、両肩・両手の力を抜き、片足を斜め前に出す。いわゆる、片足に体重をかけ、片足を休ませるという立ち方である。
一本足で立つことは、先進国ではほとんどみかけることはないが、エジプトのナイル地方、イラン、インド、南アフリカに多くみられる。これらの立ち方は、遊び足を片方の膝の上に置き、はだしで行う立ち方である。遊び足の側に杖などを巻き付けている場合もあり、この姿勢は、もともとは野外休息の立ち方であったと考えられる。
[森 義明]
人間が立ったときには、二本の足の上に骨盤が床面に対して30度の、いわば前傾斜のすべり台のようになっていて、その上に脊柱(せきちゅう)・頭部というユニットがのっているとみることができる。このユニットが滑らないように働いている。前方には腹筋、後方には脊柱傍筋、殿(でん)筋があり、それに下肢筋が加わっている。しかし筋肉の助けを借りていても、立っている状態では、脊柱と骨盤が連なっている部分に絶えずストレスが加えられる。いいかえると、正しいきちんとした姿勢というものは、腰仙部ではつねに過酷な状態を強いられるため、椎間板ヘルニアなどによる腰痛が生じるおそれがある。
したがって、長時間、立って仕事を続けなければならないときには疲労を少なくするくふうが必要である。たとえば、そばに10~15センチメートルの高さの踏み台を置き、一方の足をのせることにより骨盤の前傾を少なくし、腰椎が前方に弓なりになるのを防ぐようにするなどである。ときどき、踏み台にのせる足を交替させるのもいい。腰痛のほかの弊害として内臓下垂、痔(じ)などがみられることもある。
[森 義明]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例