(読み)コシ

デジタル大辞泉 「腰」の意味・読み・例文・類語

こし【腰】

[名]
人体で、骨盤のある部分。脊椎が骨盤とつながっている部分で、上半身を屈曲・回転できるところ。腰部ようぶ。「が曲がる」「をおろす」
はかまなどの1にあたる部分。また、そのあたりに結ぶひも。
物の1に相当する部分。中ほどより少し下部。
㋐壁や建具の下部。「の高い障子」
㋑器具の下部。また、器具を支える台や脚。
㋒山の中腹より下の方。「山のを巡る道」
かぶとの下部につける帯状の金具。
和歌の第3句。「の折れた歌」
もち・粉などの粘り・弾力。
紙・布などのしなやかで破れにくい性質。
(他の語の下に付き、「…ごし」と濁って)何かをする際の姿勢・構え。「けんか」「及び
[接尾]助数詞
刀・袴など腰につけるものを数えるのに用いる。「刀ひと」「袴ひと
矢を盛ったえびらを数えるのに用いる。「矢ひと
[下接語]足腰襟腰しっしり(ごし)居合い腰浮き腰受け腰後ろ腰裏腰海老えび大腰及び腰ぎっくり腰喧嘩けんか小腰高腰中腰強腰釣り込み腰逃げ腰二枚腰粘り腰はかま跳ね腰払い腰二重ふたえ腰・り腰細腰本腰前腰丸腰物腰柳腰・弓腰・弱腰
[類語]腰部小腰

よう【腰】[漢字項目]

常用漢字] [音]ヨウ(エウ)(呉)(漢) [訓]こし
〈ヨウ〉
こし。「腰骨腰椎ようつい腰痛腰部細腰楚腰そよう蜂腰ほうよう柳腰
中ほどから下の部分。「山腰
〈こし(ごし)〉「中腰ちゅうごし本腰丸腰物腰柳腰弱腰

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精選版 日本国語大辞典 「腰」の意味・読み・例文・類語

こし【腰】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 人体で、背骨の下部、脊椎(せきつい)と骨盤の連絡する部分。からだを回したり、曲げたりできる部分。他の動物についても、これに準じて用いる場合がある。腰部(ようぶ)
      1. [初出の実例]「海が行けば 許斯(コシ)(なづ)む 大河原の 植草 海がは いさよふ」(出典:古事記(712)中・歌謡)
      2. 「引目して射ければ、狐の腰に射あててけり」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)三)
    2. 袴や裳などの腰にあたる部分。また、そのあたりで結ぶ紐。
      1. [初出の実例]「即ち御腹を鎮めたまはむと為(し)て、石を取りて御裳の腰に纏(ま)かして」(出典:古事記(712)中)
    3. 壁、障子、乗物、書物などの、中程より少し下部をいう。また、器物等の中程の部分、または台脚の部分。
      1. [初出の実例]「香炉せかい内角あつく、腰の上下に指のあと程のすじ二づつあり」(出典:松屋会記‐久政茶会記・天文一三年(1544)二月二七日)
    4. 山の麓に近い所。すそ。
      1. [初出の実例]「甲斐、信濃の源氏ども案内は知って候、富士のこしより搦手(からめで)にや廻り候ふらん」(出典:平家物語(13C前)五)
    5. (かぶと)の鉢の周縁部に巻いた帯金物。しころつけ。玉垣。たてはぎの板。
    6. 和歌の第三句の五文字をいう。また、漢詩で、第五、第六句の対、または五言の第三字、七言の第五字をいう。
      1. [初出の実例]「腰の文字づかひ、幼き也」(出典:類従本元永元年十月二日内大臣忠通歌合(1118))
    7. こしおし(腰押)」の略。
      1. [初出の実例]「ムム、聞えた、こりゃ九平太が腰ぢゃな」(出典:浄瑠璃・関取千両幟(1767)二)
    8. 屈伸したり、物をもちこたえる力。また、押し通す意気。気勢。勢い。「および腰」
      1. [初出の実例]「腰(コシ)〈略〉筆」(出典:俳諧・類船集(1676)己)
      2. 「言葉の腰がふらふらしてゐる」(出典:虞美人草(1907)〈夏目漱石〉一四)
    9. ( から転じて ) 餠や練った粉などの粘り気や、そば、うどんの弾力。
    10. 布、紙など、形がくずれにくいような弾力性、強靱さ。
      1. [初出の実例]「画用紙で結構なんですが、やはり多少とも腰があるほうがいいみたいですね」(出典:笹まくら(1966)〈丸谷才一〉二)
  2. [ 2 ] 〘 接尾語 〙
    1. 袴、刀など腰につけるものの数を数えるのに用いる。
      1. [初出の実例]「裳壱腰〈鳩染色〉」(出典:法隆寺伽藍縁起并流記資財帳‐天平一九年(747)二月一一日)
      2. 「いか物作りの太刀一腰」(出典:平治物語(1220頃か)上)
    2. 矢を盛った箙(えびら)を数えるのに用いる。
      1. [初出の実例]「船に胡録三許取り入て」(出典:今昔物語集(1120頃か)二八)
    3. 蟇目(ひきめ)の矢四筋をいう語。

腰の補助注記

[ 二 ]は「こし」と「よう」の両用の読み方があるが、「よう」項には確例だけを入れた。


ようエウ【腰】

  1. 〘 接尾語 〙(はかま)・帯・太刀など、腰のあたりにつけるものを数えるのに用いる。「こし」とよむのが普通。
    1. [初出の実例]「一腰 いちヨウ 太刀」(出典:運歩色葉集(1548))
    2. [その他の文献]〔北史‐柳裘伝〕

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改訂新版 世界大百科事典 「腰」の意味・わかりやすい解説

腰 (こし)

一般に背骨の下部,上半身を曲げたりひねったりすることのできる部位を指す語。解剖学的には腰部の範囲は狭小だが,日常語としての〈こし〉が指す部分はあいまいで広い。〈こしぼね〉には寛骨や仙椎も含まれ,〈こしをかける〉とは実は尻をかけることである。柔道で相手を臀部に乗せて回し投げる技を腰車という。武士は腰刀を側腹部に差していた。くびれた腰の線とは側腹部を後ろから見た輪郭のことである。このようなあいまいさは他の言語にもある。ラテン語lumbusに〈こし〉と尻の両意がある。フランス語lombesは腰を左右一対とみて複数形であり,また左右の腎臓reinがある部分として複数形reinsは腰を指す。〈他方,腎臓はこれと異なり尻の上で腰につく〉(ガレノス《医術について》4巻)。coxa(ラテン語)にはhanche(フランス語)やhip(英語)と同じく尻と〈こし〉の両意がある。Lende(ドイツ語)には〈こし〉と尻のほかに大腿部まで含まれる。loins(英語)もlombes(フランス語)同様複数形の腰であるが,日本人にはウェストwaistのほうがなじみがある。waistはドイツ語wachsen(成長する)と同意の古代英語weaxanに由来し,そこから人体が上下に成長したことを示す。〈ダビデおよびその後のルネサンスのヌードの実際上すべてにおいて,腰は形を造る関心の的であり,身体のその他の面はすべて腰から放散している〉(K. クラーク《ザ・ヌード》)。この考えは〈腰〉という漢字の原意と似ている。すなわち,〈要〉は〈こし〉に両手を当てた象形文字として〈こし〉を意味したが,〈こし〉が人体の枢要であることから〈かなめ〉の意が派生して後,腰が要から分かれたのであり,腰には人体の中心との意がこもっている。

 大プリニウスは,古代ローマで猪は庶民にはぜいたく品であり,大カトーがこれを告発した演説(前184)をしているにもかかわらず,猪を三つに切って真ん中の部分を〈猪の腰〉と称して食卓にのぼせるのを常としたという(《博物誌》8巻)。中央部を腰というのはその位置からの類推で,建築物の中央よりやや下部も腰といい,山の中腹から下方にかかるあたりも腰であり,和歌の第三句を〈腰の句〉という。

 ヒトの腰は前傾した骨盤の上で後ろに反ることによって,上体を直立させている。多くの類人猿で体幹の重心が骨盤より前にあるが,ヒトでは重心が骨盤内に入るので安定した立位となる。静止立位の際は最長筋,腸肋筋などの脊柱起立筋が腰部でほとんど働いていない。他方,腰の側方輪郭をつくる腹斜筋群は腹部内臓の下行を抑えるために軽く緊張している。腰は中央で弛緩し側方でやや緊張し,女性では皮下脂肪の与える弾力も加わって,ことに美しい曲面をつくる。〈ウェヌスえくぼ〉と別称される腰小窩を左右の下部に置き,幅広い骨盤と狭い胸郭とをつなぐくびれた腰となる。芸術作品に示された限りでは,古代ギリシアやローマの女性の腰は一般に太くたくましく,大きな臀部とともに多産と豊穣を暗示していて,パールバティーに代表される古代インドの女神たちの多くが細くくびれた腰をしているのと対照的である。イタリア・ルネサンス期も,ボッティチェリの《春》の三美神のように,腰はまだ太く,近代に入ってからハチのような腰となる。膨らんだ下半身の上に高くくびれた腰を強調する服飾が現れたのは18世紀からで,フランス人形のような貴婦人たちがルイ王朝の宮廷を闊歩した。S.T.vonゼンメリングが1785年,コルセットで締め上げて空前絶後のハチ腰をしたロココの全盛時代に,その害を詳細に述べているが,コルセットの流行は庶民の間に及び最近まで続いた。クールベの《泉》の少女の腰はコルセットによって締められた腰の典型である。コルセットは胸郭下部と腹部を圧迫し,肺結核を助長し,胃腸の慢性疾患を続発させた。

 日本では,江戸時代に柳腰がもてはやされた。〈腰の弱きは痿(な)へたるやうにてあしきとぞ,さりながら腰もとは柳の如くたをやかこそよけれといへり〉(《女鏡秘伝書》)。1768年(明和5),谷中の笠森稲荷前の鍵屋に給仕女として勤めたおせんは柳腰で嬌名をはせ,鈴木春信の《笠森おせん》にその姿をとどめている。

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普及版 字通 「腰」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 13画

(旧字)
13画

(異体字)
9画

[字音] ヨウ(エウ)
[字訓] こし

[字形] 形声
声符は(要)(よう)。は女子の腰骨の象形で、の初文。はその形声字。が重要の意に専用されるに及んで、の字が作られた。漢碑になおみえず、六朝期に入って作られた字であろう。

[訓義]
1. こし。
2. こしにつける、こしのあたり、こしのたかさ。
3. 要と通じ、かなめ。

[古辞書の訓]
〔和名抄〕 古之(こし)〔名義抄〕 コシ

[熟語]
腰囲・腰間・腰巾・腰金・腰頸・腰胯・腰鼓・腰斬・腰襦・腰舟・腰帯・腰痛・腰・腰纏・腰刀・腰内・腰白・腰帛・腰包・腰輿・腰領
[下接語]
弓腰・裾腰・細腰・山腰・小腰・折腰・楚腰・長腰・低腰・蜂腰・柳腰

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「腰」の意味・わかりやすい解説


こし

腰あるいは腰部についての明確な定義はないが、腰椎(ようつい)の高位と考えればよい。腰椎は胸椎の下位に5個あり、その下位には仙骨があって、仙骨は骨盤の一部となっているので、腰椎は脊柱(せきちゅう)の土台といえよう。

 腰椎は生理的に軽度の前彎(ぜんわん)を示しているが、強力な靭帯(じんたい)、筋肉によって支持されており、腰筋膜も強靭である。腰椎の運動は屈伸運動がもっともできやすく、左右屈運動もできるが捻転(ねんてん)運動は少ない。ヒトは起立位をとるため腰部にかかる負担はきわめて大きく、とくに腰椎下部に力学的負担が集中的に加わる。そのため、腰椎椎間板ヘルニアは第4―第5腰椎椎間にもっとも多く、脊椎分離症は第4腰椎と第5腰椎に多く発生し、退行性変化である変形性脊椎症も腰椎下部に好発する。これらの疾患は腰痛の原因になるが、そのほかに腰筋痛などもおこりやすい。

 このような腰痛の発生は、起立しているヒトの宿命であるともいえる。日常、座位および起立位での姿勢をよくすること、腰部体操などを行って腰部筋力の強化に努めることが必要である。

[永井 隆]

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