翼(よく 動物)(読み)よく(英語表記)wing

翻訳|wing

日本大百科全書(ニッポニカ) 「翼(よく 動物)」の意味・わかりやすい解説

翼(よく 動物)
よく
wing

脊椎(せきつい)動物の前肢飛行のために変形したもので、翼(つばさ)ともいう。翼竜やコウモリの前肢も翼(この場合は「よく」で、「つばさ」とはよばない)であるが、一般には鳥類の前肢をさす。翼が鳥の特徴であるのは、単に優れた飛行器官であるだけでなく、基本的構造がすべての鳥類に共通しているからである。すなわち、腕骨は2個を除いて掌骨と癒合して1個の腕掌骨carpometacarpusとなり、指骨は、第4指と第5指にはまったくなく、他の3指のも小さい。このような前肢の構造は鳥類独特のもので、他の脊椎動物にはみられない。翼の羽毛は、骨についている風切羽(かざきりばね)remige(飛羽(ひう)flight featherともいう)と雨覆羽(あまおおいばね)wing covertとからなる。

 風切羽は主要な飛行器官で、そのうち腕掌骨と第2・第3指骨に付着しているものを初列風切primary、尺骨に付着しているものを次列風切secondaryという。次列風切の内側の数枚は、しばしば長さや形状が異なるため、三列風切tertiaryとして区別されることがある。また、第1指骨には数枚の小翼羽(しょうよくう)alulaが付着する。初列風切は通常10~12枚、次列風切は6~32枚あり、飛行中の推力をつくるのは主として初列風切で、次列風切は浮力を生み、また小翼羽は隙間翼(げきかんよく)(スロット)の働きをすると考えられている。

 翼の形状と大きさは鳥の習性や生息環境に適応していて、一般に丸翼、細翼、長翼、広翼の4型が区別される。丸翼は、森林や低木林にすむ鳥、たとえばキジハト、多くの小鳥類などに多くみられ、比較的遅い速度で小回りに飛ぶのに適する。細翼は、高速で飛ぶのによく、アマツバメ、ハヤブサ、長距離の渡りをするシギ、チドリ類などがもっている。長翼は、海上で滑翔(かっしょう)するアホウドリミズナギドリグンカンドリなどの海鳥の翼型である。また広翼は、陸上で滑翔するタカ、ノスリハゲワシや、大形の獲物を運ぶワシフクロウの特徴である。鳥の翼は、一義的には飛行器官であるが、いろいろのディスプレーに使われたり、闘争の際の武器として用いられるのも重要な機能である。

[森岡弘之]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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